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ひつじにからまって

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ひつじにからまっているものがたりたち
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#SF

夢持ちのいい枕

夢持ちのいい枕

それは夢持ちのいい枕であるとか。進められて買ってみたものの、どうにも信用ならなかった。そもそも店主が胡散臭い。疑ってくださいと言わんばかりに丸いサングラスをかけ、黒い帽子を被っている。

「いい夢かはわからないものの、あなたの夢に秩序が生まれるかもしれません」
「それって、いい夢って言えるのか?」
「使用した人次第で答えは変わります」

うっすらと透けて見えるサングラスの向こうには、口調の柔らかさ

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Postal code(404 Not Found)

Postal code(404 Not Found)

「あと三回、遅刻をくり返したら許さないからね」

彼女はずいぶんと譲歩してくれたと思う。あと三回。これは一回目で残りの回数を意識させ、二回目で罪悪感を抱かせる。三回目は許されないことを頭に入れておけば、おそらくまた遅刻するであろうぼくに対する脅しとしては十分に役割を果たした。

「わかってるから大丈夫。そもそもぼくは、困らせたくて遅刻しているわけじゃないんだ」
「わたしを怒らせるためでしょ?」

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シーベッド・サーバールーム

シーベッド・サーバールーム

サーバーは背の高い木のようにラックに積まれている。機体のひとつひとつがうなるような排気音を垂れ流し、まるで牛がうなっているかのような音をあげている。

その部屋が誰に用意されたのかを知る者はない。
その部屋のものが何をしているのかを知る者はない。

夜中にあげられる熱風の作用でときどき波がさざめいた。
ファンがカラカラ鳴ってみせれば、そこら中になにかがいると思わせた。

タコの影が現れて、サーバー

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廃ヒール集積場

廃ヒール集積場

ここは世界でただひとつ、折れたヒールの集積所だった。

ベルトコンベアにのせられて世界中のヒールが集まってくる。
ブーツのヒール、おろしたてのヒール、中途半端に折れたがため不格好なヒール。

流されてきたヒールは初めに水洗いされ、細かい汚れが落とされる。
次は一度ヒールを乾かす。
乾いたヒールはブラシが担当する区画に運びこまれ、さらに汚れが落とされる。

この三つの工程を越えただけであったが、ヒー

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