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寂しいならば、お話ししましょう
この窓を通して、ずっと向こうでこちらを見ている。そんな気がしてならなかった。静かで遠い、ぼやけた向こう側。
「こちらは寒いよ。あなたはどうかしら。しっかりあたたかくしてね」
「うん」
声が聞こえたような気がして、わたしは返事をした。
これが呪いであったなら、このまま魂なんかを抜かれてしまうだろう。そしたら体はここにいて、もしかしたら次にこうしてわたしのように返事をする人を待つのかもしれない。
ポケットにいっぱいの
どこから吹いているのかもわからない風が首筋を撫でる。定間隔に置かれた椅子とライトは、いつも変わらずにと手入れをされている。
「わたしはこうなの。最も適した形状をしているはずよ」
背もたれを調整できない席がかたる。あえて不満を漏らす輩もいないが、素晴らしいと讃える人もいない。
「でも、ぼくはわりと好きだなあ」
「ね、意外とわたしも好きかもしれない。まあ、家にはいらないけどね」
わずかに灯りが
まるい世界の歩きかた
まるい世界の歩きかた。題名は内容を語る。
本を手に取り、想像できない内容に心躍らせる。彼女がいるのはまるい世界ではなかった。だからこそ、理解できたらとねがった。
碁盤のように細かく張られた網に吊り下げられた家と街。人は糸を伝って生活し、命が尽きれば網から落ちていく。それが当たり前となっていた。
網の底になにがあるかを人は知らない。戻ってこれた者もない。人々は世界が網で構成され、先にも後にもそれ