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医学生は何を学んでる?③臨床医学(PBL)


一般大学とほぼ同じ光景

 ① 一年生の一般教養→② 二年生ころの基礎医学と紹介してきました。医学生たちが学んでいるのは、専門領域が「基礎医学」というジャンルであることを除けば、大学内での光景は通常の大学と変わりないよ、ということも知っていただけたのではないでしょうか?
 医学生への「基礎医学」教育も普通の大学と同じように、「つまらない」「単位取れればいいや」状態になりかけている点も紹介できたと想います。

3-4年生は、約2年間の巨大夏休み

 では、三年生から四年生くらいでは、何をしているのでしょうか?大学にもよりますが、ここに医学生の「約2年間の夏休み」が潜んでいるのです。

 大学6年間のうち、2年間は夏休み。笑っちゃいますが、「大学生活をエンジョイし人間的に成長するにはとても良い」期間でした。ほぼ全員が部活とバイトに明け暮れる2年間でした。

「夏休み」状態を作る「PBL」というカラクリ

 この夏休み状態を作る最大のカラクリは、「一見すばらしそうにみえる」PBLという教育方法にあります。大学によっては、この時期の教育方法にPBLという方式を採用していて、僕の出身大学でも採用されていました。

 僕の出身大学のケースでいうと、このPBL方式というのは、毎週、月水金の3回だけ、30分ずつのグループ別の集会がある「だけ」でした。朝の約30分で、グループ別に決まった部屋に集まり、「症例」を提示される。その症例の中で「わからない点」「疑問に思った点」を5~10点くらい列挙し、各自が持ち帰り「宿題」にする。あとは「自分で調べる時間」です。そして、次のPBLで発表する(つまり、「あさって」まで宿題以外にやるべきことはなにもない)。
 どうでしょう。ぱっと聞けば、ものすごく自主性に任せた非常に効率の良い、素晴らしい教育システムではないでしょうか?

PBLという、教員と学生にとってWIN-WINの教育方法

 僕もこのやり方が素晴らしい、面白そうだ、と思ってワクワクしていました。確かに、「症例ベースの勉強」というのは医学において非常に重要な学び方になります。なんせ膨大な医学知識なので、丸暗記では歯が立たない。だから「症例」という「ストーリー」と紐付けることで記憶に残りやすくなります。しかも、知識は「教わる」のではなく、「自分で積極的に学ぶ」から忘れにくい。そして、忙しい教員も、座学の授業が減って「楽」。そう、学生と教員とWIN-WIN関係が成立します。

PBLは、モチベーションが維持し続けられる精鋭グループでだけ、成立する優秀な教育方法だった

 僕は自主学習についてはマジメにやっていたほうだと思います。しかし、PBLそのものは、少人数グループ生(1グループ8人くらい)なので、グループのメンバーのモチベーションで「学びの質」が容易に低下します。これは、マジメな学生にとっても非常に「面白くない」ことです。つまり「モチベーションを高く維持できる」一部の層にとっても、「PBLは質の低い学習」と感じられ、モチベーションを維持できなくなってしまう仕組みでした。グループ内に2,3人やる気まんまんの学生がいたとしても、彼らのモチベーションの方が先に下がってしまう「構造」でした。

 また、PBLに付き添ってくれる「チューター」役は、忙しい臨床の合間をぬって「30分だけ、学生のPBLに付き合ってくるわ」といって来てくれている現役のドクター達。「ちゃっちゃと終わらせたい」に決まってますよね。こうして、儀式的な教育が繰り広げられるだけの約2年間が過ぎていきます。

実は、ある意味濃厚な2年間を過ごす医学生たち

 では、この二年間は無駄で、正直「医学部は4年制で良い」と主張するべきでしょうか?実は、個人的に、そうは言いにくいです。捉え方はなかなか難しいのですが、、、、

 この2年間、① 学生はまったくなにも学んでいないわけではないこと、そして、② 特に部活動を通して「人間として」かけがえのない・貴重な経験をして、成長した期間だったと(僕は)思っているからです。そして、この②こそが大学生という時期に「なくてはならない経験だった」と思うからです。

 2年間の夏休み中に、部活動に熱中し、バイトに明け暮れ、「ある意味で、プチ社会人」体験をしています。

 特に部活動は上下関係が厳しく、体育会系のノリが強く、医師になってから必要な上下関係(「上司のいうことは絶対」的な)を学べます(賛否両論あるでしょうが、医師の社会はどちらかというと伝統的な上下関係が残っています)。またグループをまとめる、他大学と交渉する、など「小さいながらも一つの組織を運営する」経験をします。仲間とのぶつかり合い、喧嘩、仲直り、協力して何かを成し遂げる体験、やめようとしている後輩の相談に乗ったり、先輩を反面教師にしたり、、、

フツーの大学生と同じ。でもそれが「大学らしくて良い」とも思う。

 もちろん、将来「命を預けていただく」医師を目指しているという気持ちが消えてなくなることはありません。

 ただ、6年間もある大学生活。授業もなんか将来に役立ちそうにないし、スカスカだし、部活はしんどいけど楽しいし。いい人生経験になる。先輩も、「授業なんか役に立たないからサボって部活に専念しろ。上下関係のほうが大事だ。試験だけ通れば良い。最終的には、ぶっちゃけ国家試験だけ通れば良い」と言ってるし、そうやって先輩もみんな卒業していってる。「働きだしたら自由なんてないぞ、今のうちに遊んどけ」というアドバイスももらう(同意です)。

 でも、なんだかんだ卒業していった先輩たち(OB・OG)は、卒業後、しっかり勉強して、毎日激務をこなしながらもあっという間に立派な社会人になっていってる(ようにみえる)。だから自分たちはこのままで良いんだ。大学生をエンジョイしよう。

 どうでしょうか、医学生はちょっと特別なんじゃないか、特殊な人達で、特別なすごい教育を受けている、というようなイメージをお持ちの方も、「あ、ふつーの感性をもった、ふつーの大学生なんだな」「将来医師になるという志と、学生らしくエンジョイしたいという気持ちの葛藤を味わいながら成長していってるんだな」ということを知ってもらえると嬉しいです。

 また、「今まさに医学生」のみなさん。「わかるわかる」と思って読んでもらえたら嬉しいです。そして、今の自分の大学生活の過ごし方に、「もっと自信をもって」ください!大丈夫です。大学生という貴重な時期を精一杯、何でも良いから、楽しみ尽くしてください。経験はすべて決して無駄になりません。将来振り返ったときに必ず "connecting dots" という言葉の意味を噛みしめることができるでしょう。

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