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小説・「塔とパイン」

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作:よわ🔎 概要:45歳、片田舎の洋菓子店のパティシエが、紆余曲折、海を渡ってドイツでバームクーヘンを焼き始めた。 ※毎週日曜日更新(予定) ※作品は全てフィクションです。著…
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2023年2月の記事一覧

小説・「塔とパイン」 #14

小説・「塔とパイン」 #14

昼休憩のささやかなひとときを終えてまた仕事場に戻る。「Konditorei Weise」は焼き菓子もさることながらケーキも焼いている。

工場で一貫生産することもできるようになっているが、この店のこだわりで、職人がひとつひとつ丁寧に作ることを心がけている。伝統を重んじてここまで来た自負もあるのだろう。

店舗を増やしてもいいし、多角的な経営をしても良かったはずだけど、この店はそういうのに興味はない

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小説・「塔とパイン」 #13

小説・「塔とパイン」 #13

ドイツの旧市街は、古い建物と舗装された道路が特徴的で、中世の雰囲気を感じさせる。狭い路地や広場には、カフェやレストラン、ショップが軒を連ね、地元の人々や観光客でにぎわっている。

喧騒の中で建物の外壁には、花や植物が飾られ、美しい彫刻や装飾も見ることができる。教会や城跡など、歴史的な建造物も多く、その風景はまるで絵画のよう。特に、夜になると、建物や広場はライトアップされ、ロマンチックな雰囲気に包ま

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小説・「塔とパイン」 #12

小説・「塔とパイン」 #12

「Hallo〜!ヘイ!ナカータ!調子はどうだい?」「いつものアレか?」

旧市街の目抜き通りから1本奥に入った十字路に、僕の勤めている菓子店「Konditorei Weise」がある。その迎えには名物女将と孫娘のパン屋、そして、もう一つの迎えには「ケバブ屋」がある。

数年前にできた新しい店だ。旧市街の落ち着いた雰囲気には似つかわしくない「Kebap」の看板が店の軒先にデカデカと掲げられれている。

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小説・「塔とパイン」 #11

小説・「塔とパイン」 #11

そろそろ昼の時間帯だ。客商売とはいえ、バックヤード担当だから、昼休みはある程度固定されている。おおよそ11:30〜13:30の間に適当に取ればいい。忙しいときはずらして昼食を取る。

他の従業員も自分の仕事のペースに合わせて各々が休んでいる。もちろん、タイミングによっては一緒になることもある。業態がそうだからか分からないけれど、昼が特段忙しいわけでもない。どちらかというと、コンスタントに切れ目なく

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