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春ピリカグランプリ応募作品

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2023年・春ピリカグランプリ応募作品マガジンです。
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#指

【春ピリカ】(テケテテン)せかいふぃんが~さみっと~~~(ポワンポワンポワワワ~ン)【ショートショート】

世界フィンガーサミットは煮詰まっていた。 Next Generation Finger、通称NGF。 キミも知っているだろう。 そう。我々は次世代指を決める為、ここに終結したのだッ…!! 機械指族が誇らしげに実演に入る。 腰をいわした模様だ。会場から失笑が漏れる。やはりな。機械指族は、その指に身体が付いていけないッ…!!機械指族長は左右を抱えられ、悲し気に退場した。 次は食糧指族か。初見だが、噂は予てから。 植物指族の子がステージに上がる。食糧指族長の手先のフライド

『着脱式』 1196字

ある朝 目覚まし時計を止めようと、ボタンを押したが鳴り止まない。 (壊れた?) 僕はすぐに「異変」に気が付いた。 (指が……無い!?) が、痛みや流血などは無く、断面は滑らかだ。 目の端が何か動くものを捉えた。 指だ! それは布団の上で、楽しげにジャンプしているではないか。 (おいおい、嘘だろ……) 「おい指、戻ってこい!今から出勤なんだ」 すると、指はピョーンと、あるべき場所に戻ってきた。 その後も異変は続き…… 今や全ての指が外れて、勝手に動き回るようになっ

【ショートショート】指先

 喫茶店の窓から外を眺めていた。  コーヒーはすっかり冷めてしまった。  電柱があり、女性がそのそばに立った。彼女も待ち合わせだろうか。  ふと、その手に目がいった。正確には指先、爪だ。  やたらとカラフルなのである。十本の爪ぜんぶに違った色を塗っている。  右手の親指は赤、左手の親指は黄色。  そのうち、相手らしき男性があらわれた。彼も爪に派手なマニキュアをしている。  私は自分の素の爪を眺めた。  会社の同僚、田原マチ子があらわれた。 「遅れてごめーん」 「いつものことだ

礼拝堂の天井に 【創作】

・・暑い。スマホを握りしめる手にも汗が。 空気は乾燥してるけれど、日差しが強い。日本はゴールデンウィークの時期だけど、イタリアがこんなに暑いとは。 行列に並びながら、スマホをいじる。汗が垂れて、画面に雫が落ちる。指で拭うと、汗は広がって、ますます見えなくなってしまった。 世界中からの観光客で、ふだんから2時間以上の待ちだという。 世界で一番小さな国、バチカン市国。イタリアのローマ市内にあり、カトリック教会の「総本山」として、ローマ教皇によって統治されている国家。 建

ひみつのともだち

5年生に上がり、3度目のクラス替えがあった。 まりかとひなこは家が近所同士だったこともありお互い顔を見知っていたが、同じクラスになることは一度もなかった。 それが今年、一緒になった。しかも、机も前と後ろの近所同士。ひなこが前、まりかが後ろだ。 まりかはひなこのことを心配していた。 毎日学校指定ジャージを着ているし、髪の毛は寝癖を何日も放置したようにボサボサしていて、お世辞にも身だしなみはかなり乱れていた。そのくせ振る舞いはぶりっ子じみている。あまりにも見るに堪えなくて、クラ

穏やかなプール(ホラー)

 私の通っていた中学校にも、お決まりの七不思議があった。夜中に鳴り響くピアノ、トイレの花子さん…。ただ七つ目の不思議は、なぜか校内の話ではなく学校へと続く坂道の話だった。 「逢魔が刻に、坂道で振り返ると闇に飲み込まれる」  正に逢魔が刻の坂道だなと思いながら私は学校からの坂道を下っていた。訳あって32年ぶりに訪れた学校は、意外と昔のまま変わらない姿なので気持ちが当時に戻ってしまいそうだ。 「指、忘れてますよ。」 不意に女の子の声が聞こえ、私は思わず振り返った。声の主

桜桃 / 春ピリカ応募

桜餅の香りがして顔を上げた。バカみたいに青い空に葉桜が気持ちよさそうに揺れている。 桜餅の香りは花じゃなくて葉なんだ。なんて考えながら氷の溶けたカフェオレを一口飲むとまた携帯の画面に目を落とした。 白いドレスは削除。 お色直しの桜色のドレスも削除。やっぱり私は白無垢が着たかった。彼の羽織袴姿は凛々しくて惚れ直してたと思う。まぁタキシードも悪くないけど。 結婚式の写真の次はハワイになっちゃった新婚旅行。日焼けしすぎた彼の笑顔を眺めていたら、少し息を切らせて彼がやって来た。 「ご

右親指くんと兄弟たち【春ピリカ応募】

僕は10人兄弟の長男坊。 と言っても僕は双子。 双子が5組の10人兄弟だ。 僕は右親指くんと言われている。 僕たち親指は、誰よりも力が強くて働き者だ。 他の兄弟たちとはちょっと離れたところにいて、みんなを助けてるんだ。 下の兄弟たちは、ぼく達のことを チビとか、太ってるとか、関節が一個少ないとかって、意地悪を言う。 あんまり腹が立ったから、僕はボイコットをした。 もう何もしないぞ! 他の右兄弟たちは、お前なんていなくても、4人で力を合わせれば大丈夫さ、と言った。

あなたの魔法 #ショートショート(1200字)

『20XX年5月10日。世界は白い光に包まれ、人類は滅びるであろう。』 大昔の有名な占い師が予言したという『終わりの日』が近付いてきた今。世間は隕石が落下するとか、核兵器が暴発するとかの話題で持ちきりだ。 「ねぇ、本当に世界は終わっちゃうと思う?」 星空の下、幼なじみのハルが僕に尋ねる。 現在5月9日23時50分。終わりの日になるまであと10分を切った。 「夜中に呼び出してきたと思ったら……。それかよ」 僕がため息をつくと、ハルが大きな声で提案してきた。 「あのさ

短編小説 『あい色の春を紡ぐ』 #春ピリカ

 休日の昼下がり。お揃いのカップを手にソファーに並んで腰かける。 私はカフェオレ 彼はブラックコーヒー。 中身は違っても手の平に伝わってくる温かさはきっと同じで、それを愛しい人と共有できる、このひとときが好きだった。 ふぅと息を吹きかけてから啜る。隣に座る朔ちゃんは急いで飲もうとしたのか、声を上げる。 「熱っ!」 「大丈夫?」 「ん、あのさ……」 ぎこちなくカップをテーブルに置くと躊躇いがちに口を開いた。 「紬」 いつになく真剣な声色に胸が高鳴る。 「僕と……

ゆびきり【ショートショート】

「おおい、ちょっと。誰か、おいちょっと!」 休日の朝のまどろみは、義父の呼び声でいきなり遮断された。 隣に寝る夫を見れば、深く眠っているふりをしているのか、または単なる無視なのか。どちらにしても動く気など1ミリもないその背中に、わざと大きなため息をつき、カーディガンを羽織って部屋を出る。 「お義父さん、どうしました?」 「今朝は随分と寒くないか?かなり冷え込んでるぞ。」 「ストーブ点けますね。」 お義父さんが自分でも点けられるストーブをねと、漏れそうな言葉を何とか押しとどめ

#195 母への憧憬|#春ピリカ応募

北村靖江。病室の入り口にその名を見つける。 幾度となく夢に見、想像を膨らませてきた。 病床の老女の前に、長男の涼介を突き出すようにして近づいていく。 三月の肌寒い日に、身震いする思いでここに来た隆の顔が、その意思とは裏腹に紅潮するのを感じた。 今年で40歳になる斉藤隆は、人生に迷っていた。 どんな仕事に就いても長続きしない。 子どもの頃から辛抱強く何かを成し遂げることができない。 家族の愛し方がわからない。 なぜ物事が思い通りにならないかといえば、どうしたって自分の原点を

私のコテージ 【春ピリカ】

湖でひとり、雨蛙のように水を掻く。波紋が生まれ、自分の体から静けさが広がってゆく。 岸に着き、濡れたままの体でヒタヒタ丘を駆け上がると、私のコテージが見えてきた。 可愛い木のテーブルに椅子、青い敷物。陶器の水差しには黄色い夏の花が挿してある。 ○ 昼休みを告げるチャイムが鳴っても、美園さんは微動だにしない。顔の前でカンチョーみたいに手を組み、ピンと立てた2本の人差し指を見つめ寄り目になっている。 私は今日こそ、勇気を出して美園さんに話しかけようと思う。 5月にこの高

『その指に恋をして』 #春ピリカ応募

「私、今日の帰り柊ちゃんに告白する」  唐突な私の宣言に、教室で一緒に昼食を食べていた友人たちは好物のおかずもそっちのけで身を乗り出した。 「萌音、ついに柊哉先輩のこと好きって認めたね!」  「うちらが幾ら好きだね~って言っても頑なに抵抗してたのに!」 「『私は柊ちゃんの指が! 好きなの!』」  友人たちが声を揃えていつもの私の台詞を真似てみせる。 「ゆ・び・が!」と強調するところまで忠実だ。 「あんた柊哉先輩の指が好きすぎて、2,3年の先輩にソロ譲ってくれって頭下げ