浮き彫りバッカスは葡萄を見つめる
初めに異変に気がついたのは、ガラスの大皿が割れたときだったと思う。その厚手の透明ガラスの皿を父方の祖母から譲り受けたのは20年ほど前だが、彼女の嫁入り道具の一つだったのかもしれない。少年の姿のバッカスが手にした葡萄の房を見つめるレリーフが裏面から彫り込まれていて、今同じものを手に入れようとしたら相当な金額になると思われる、手の込んだ作りだった。このような大皿は我が家にはこの一枚しかなく、ずいぶん重宝していたのだ。
ところがある日、真っ二つに割れてしまった。焼きたての丸パンの