サンショウウオ-tile

小さき黒の"救世主"

ーオレとアチキの西方漫遊記(24)

面河渓(おもごけい、愛媛県久万高原町)にある虎が滝。その手前にある淵で川遊びを楽しんだ。岩場から飛び込んだり水に潜ったり。底まで透けて見える青く美しい"仁淀ブルー"を満喫した。一方、気がかりなのは奥さんだ。やけに大人しい。そんな様子に、楽しめているかが気になった。ただ、それは杞憂になる。心配して声をかける前に、小さな黒い生き物が"救世主"になってくれた。実にありがたい。

前回のお話:「"現場百遍"」/これまでのお話:「INDEX

ラストチャンス

"溺死体ごっこ"

今回の旅行では、これが仁淀ブルーを堪能する最後の機会だ。どうにか川遊びにまでこぎつけたのは良かったが、奥さんが仁淀ブルーを十分に満喫しているように見えなかった。全身の力を抜いて水面を漂う"溺死体ごっこ"というお気に入りプレイも封印。前日の水晶淵(高知県仁淀川町)のときと違い、がっつり遊んでいるように見えない。

確かに、幾らか注意が必要な状況だった。周囲にまったく人がおらず、助けを呼ぶにも呼べない。水も冷たく、足元を掬うには十分なほどの流れ。突然、深くなったり浅くなったりする川底に加え、後背には滝がある。奥さんによると、がっつり遊ばなかった理由の一つには「そうした状況もあった」という。自分なりに判断し、あまりはしゃがずにいたらしい。

久万高原町立美川中学校

そんなことはつゆ知らず、いつものようにはしゃがないことに違和感を覚えながらも、そろそろ引き返す時間になる。そんなとき、斜面の岩壁にある水が溜まった細い溝に、黒っぽいイモリに似た小さな生き物を見つけた。体長2、3cmほどだろうか。アタマが妙に平べったい。サンショウウオかもしれない。ふとそう思い、急いで奥さんを呼び寄せた。

サンショウウオは清流にしか住まないとされている。そうだとしたら、自然の中で生体を見るのは、これが初めての経験になるかもしれない。さらに、国が指定する天然記念物のオオサンショウウオであれば、ちょっとした発見とも言える。それを奥さんに伝えると、すっかり驚き、この渕で川遊びして以降、初めてはしゃいだ。

興奮のあまり、その生き物を撮影できなかったことが残念。ただ、ここで奥さんがはしゃぐ姿を見られたおかげで、虎が滝を楽しめたかどうかについての気がかりがなくなった。この黒い小さな生き物「様様」、いわば「救世主」である。仁淀ブルーを満喫するラストチャンスをものにし、終わり良ければすべて良し。意気揚々と面河渓の遊歩道を降った。

遊歩道_奥さん撮影004

決定事項

後日談。サンショウウオについてインターネットで調べると、面河山岳博物館のブログ(5月にフェイススブックに移転)の過去記事に、面河渓にサンショウウオが生息している記載がある。面河渓でサンショウウオを見つけたという個人ブログも複数見つけた。見つけた生き物の記憶と画像を照合すると、サイズこそ違えど、サンショウウオにほぼそっくりに見える。

ウィキペディアによると「サンショウウオは、8月下旬から9月にオスが産卵巣にメスを誘い、400ー500個の数珠状の卵を産む。卵は約50日で孵化する」という。わが夫婦が面河渓・虎が滝を訪れた時期から逆算すると、サイズの小ささにも説明がつく。見つけた生き物はサンショウウオの幼生と見てよさそうだが、事実は神のみぞ知るといったところか。

もっとも、奥さんの中では、それがすでに決定事項になっている。

(写真〈上から順に〉:奥さんのはしゃぎにつながった小さき黒の"救世主"〈イメージ〉=写真ACの素材を元に作成、奥さんのお気に入りプレイ"溺死体ごっこ"=写真ACの素材などを基にりす作成、見つけた生き物はサンショウウオの幼生か。よく似た画像を発見=久万高原町立美川中学校のホームページ、草花に溢れる面河渓の遊歩道=奥さん)

関連リンク(前回の話):

「オレとアチキの西方漫遊記」シリーズ:


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