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月刊「読んでみましたアジア本」

日本で出版されたアジア関連書籍の感想。時には映画などの書籍以外の表現方法を取り上げます。わたし自身の中華圏での経験も折り込んでご紹介。2018年までメルマガ「ぶんぶくちゃいな」(…
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#劉慈欣

【読んでみましたアジア本】画一的な中国観・中国人観を打ち破るには最適の一冊/ケン・リュウ選『金色昔日:現代中国SFアンソロジー』(ハヤカワ文庫SF)

劉慈欣『三体』のNetflix版ドラマの配信開始で、再び視野に入ってきた中国SF。

Netflixドラマは主要登場人物の人種や性別が原作と大きく違うことで、中国のみならず、同じ東アジアの日本でもファンの間で違和感を唱える声も上がっているときく。しかし、逆にわたしのような「中国屋」の目から見て、ゴテゴテの中国っぽい「しがらみ」を出発点にしたあの作品を、西洋人やインド系、黒人に置き換えても立派に成り

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【読んでみましたアジア本】劉慈欣・著/大森望、光吉さくら、ワン・チャイ・訳『超新星紀元』(早川書房)

中国関連本の世界では超快進撃を続けていると言ってよいSF作家、劉慈欣氏の最新翻訳書を手に取った。紹介によると、大ヒット作『三体』シリーズを含め、劉慈欣の日本語翻訳作は9作目になるという(その他、短編が別の中国SFアンソロジーに収録されているが、それは数に入っていない)。翻訳、というだけで嫌がられる日本において、特に中国の小説本としては、過去にない大ヒット作家になってしまった。

この「読んでみまし

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【読んでみましたアジア本】2022年に読んだおすすめアジア本5選

さてさて、年の瀬恒例の「今年のおすすめアジア本」となった。

今年は、コロナの香港パンデミック(運悪く香港入りしていた…汗)や、予想もしなかった上海2カ月ロックダウンという「事実は小説よりも奇なり」を地で行く大事件が続き、今もまたコロナ措置は緩和されたけれども「!!」という状況で、この1年を振り返ろうとしても自分が何を読んできたのか、すっかり思い出せなかった。その分、資料としてたくさんたくさん、コ

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【読んでみましたアジア本】『三体』に絶望した人も、これから読み始めるといい/劉慈欣『円 劉慈欣短編集』(早川書房)

日本でも大ヒットしたSF小説『三体』の作者、劉慈欣のデビュー作を含む13篇の短編SF集。うーん、これは面白かった。もうその一言。

ネット検索してもものすごい数の感想と高評価が並ぶ『三体』だが、わたしの周囲には「SFは嫌いじゃないが…読み続けられなかった」という人もチラリ。わたしもズラズラズラとならぶ、物理や天文学的な単語をしっかりと読もうとしてめまいを感じた一人である。そこで挫折した人も多かった

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【読んでみましたアジア本】自粛生活の窓の外に広がる風景を楽しむために/ケン・リュウ(編)『月の光 現代中国SFアンソロジー』(早川書房)

「SF小説よりも現実は奇なり」を地で行く非常事態下のみなさま、いかがお過ごしですか?

「三密」とか「ソーシャル・ディスタンシング」(「ディスタンス」は間違い)とか「医療崩壊」とか、もう聞き飽きたーーーーーー!という人が増えている。一応、頭では理解して通知を守り、それなりに運動もしているけれど、はっきり言って自粛生活に耐えきれなくなっている人は多いはず。

そこにゴールデンウィークと言われても、実

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【読んでみましたアジア本】壮大なスケール。あなたの想像空間メモリはついていけるか?:劉慈欣『三体』(早川書房)

今年のアジア本でトップを争う人気本となった中国SF小説『三体』。もう今さら小出しにしてもしょうがないので、さっさとご紹介すると、著者の劉慈欣氏は1966年生まれで、1990年代に中国でSF作家として頭角を表した。本職はコンピューターエンジニアで、現在は山西省娘子関という、万里の長城の旧関所近くに勤務している。つまるところ、きっと星がキレイな、相当など田舎である。せせこましくない、文字通り広大な物語

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【読んでみました中国本】 「政治的分析はお控えください」――でもやっぱり比較してしまう面白さ:ケン・リュウ(編)「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(早川書房)

◎ケン・リュウ(編)「折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー」(早川書房)

正直な話、この本を読むまで中国作家のSF作品がこんなに面白いとはこれまでまったく知らなかった。

この「読んでみました中国本」で何度も書いてきたとおり、わたしは大人になってからほとんど小説を読まなくなった。なので大人になってから暮らすようになった香港や中国でも、あまり当地の小説には関心を払ってこなかった。

だいたい、

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