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ショートショートまとめ

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ショートショート20.『赤と黒』

ショートショート20.『赤と黒』

「おばあちゃん、誕生日おめでとう!」

タエ子は88歳を迎え、娘家族から米寿の祝いを受けていた。

「ありがとうね。おじいさんも天国で祝ってくれているかしらね。」

赤いちゃんちゃんこを着たタエ子は、黒縁の遺影の中でほほ笑む利次郎を膝の上に乗せ、なんとも幸せそうに笑っていた。

〜60年ほど前〜

「結婚おめでとう!タエ子さんとっても奇麗だね!」

タエ子は幼馴染であった利次郎と一緒に大きなケーキ

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ショートショート19.『うまい棒スピード味』

ショートショート19.『うまい棒スピード味』

モテる、に繋がる要素としては、顔、性格、清潔感、社会的地位など様々あるわけだが、ときに小学生においては、足の速さが上位にランクインする。足の速い個を魅力的に感じるようDNA に刻まれているということになるのだが、その理由はわかっていない。神様と対話できる機会があれば、なぜそうしたのか、ぜひ理由を聞いてみたいものだ。

小学生の間で、ある駄菓子が流行した。その駄菓子を食べると足が速くなるという噂が広

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ショートショート18.『将来の夢』

ショートショート18.『将来の夢』

「ぼくの将来の夢は、お父さんをころすことです。」

潟江小学校6年2組の授業参観で、耕哉は教室にいた20名余りの生徒とその保護者の前で、堂々と将来の夢を発表した。生徒たちはもちろん、そこにいた保護者たちの中でも動揺が走り、平然としている者はいなかった。耕哉ともう一人を除いては。

「(おい耕哉…何言ってんだよ…。)」

幼馴染の亮が後ろの保護者たちを気にしながら心配そうに声をかけた。

「耕哉くん

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ショートショート17.『ブラック企業』

ショートショート17.『ブラック企業』

「有給とらせてください」

「ダメだ」

「何でですか!もう50年近く休まず働いてきたじゃないですか!他の連中は休んだりしてるじゃないですか!」

「そうだな。でもお前はダメだ。お前は休んではいけない運命なんだ。これからも休まず働いてくれ。」

「…なんだよこのブラック企業。…もういい。やめてやる。」

「おい待て!早まるな!」

小さな村のある民家でお葬式が開かれていた。

「まだ50歳なのに、

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ショートショート16.『窓』

ショートショート16.『窓』

私は窓が好きだった。私にとって窓はアートそのものだった。個性的な窓のフレームと繊細なディティール、ガラスを作る際にできたであろうわずかなガラスのくもり、そしてそこから見える景色。窓はそれらが合わさってできたひとつの作品なのだ。私は何時間でも窓を見ていられた。窓には、物語がある。

ある日のこと、私は東京で窓の個展が開かれることを雑誌で知った。その個展はパリの有名なアーティストが来日して開催するもの

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ショートショート15.『HOPE』

ショートショート15.『HOPE』

「まいどあり!大事なのは、HOPE やで!」

『八百屋の田中』のヒデおじさんは野菜を買った私に、酒焼けしたガラガラ声でいつもそう言った。ヒデおじさんのその変な決まり文句は、やけに耳に残った。HOPE …希望。希望をもって生きろと私に言っているのだろうか。私ってそんなに希望を持ってなさそう…? たしかに私は自分の人生に意味を見い出せていない。私は何のために生きているのだろう。何をするために生まれて

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ショートショート14.『つぎ、降ります』

ショートショート14.『つぎ、降ります』

バスを運転していた藤澤は思った。なんでこうなった…と。

その時バスには乗客はいなかった。フロントの表示を『貸し切り』にしていた。にも関わらず、藤澤は大通りの道端で二人の男を乗せた。いや、乗せざるをえなかった。乗り込むなり小柄な方の男が声を上げる。

「動くな!今からこのバスをジャックする!外部に連絡したやつは…、おい誰もいねえぞ。」

小柄な男はバッグから取り出したスタンガンでバチバチと音を鳴ら

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ショートショート13.『台風のメ』

ショートショート13.『台風のメ』

『太平洋で発達した熱帯低気圧が台風19号となり関東で猛威を振るっています。関東在住の方は外出を控え、身の安全に備えてください。』

テレビのニュースから窓の外に目を移すと、雨が強風により真横に降っていた。今回の台風による被害が尋常でないことは容易に想像できた。Youtuber の安志は、最近動画にするネタがなく、チャンネル登録者数も減少傾向にあり生活に困窮していた。

(行くしかない…。関東の現状

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ショートショート12.『運び屋』

ショートショート12.『運び屋』

俺は運び屋。金、武器、麻薬、人身売買、俺は依頼されたものは何だって運んできた。時には命を狙われたこともあったが、なんとか生き延びてきた。俺はこの仕事に誇りを持っている。仕事で命を落とすことになったとしても本望だ。俺はこれからも闇の中で生きていく。俺には家族はいない。家族がいると情が移って仕事に支障をきたす恐れがあり、人質に取られるリスクもある。そんなことなら家族など俺には必要ない、そう思っていた…

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ショートショート11.『ゾンビダイエット』

ショートショート11.『ゾンビダイエット』

あぁ、なんて醜いのだろう…。

裕子は鏡の前に立ち自分の身体を見ながらそう思った。痩せたい。痩せたい。痩せたい。
将来、綺麗なウェディングドレスを着て結婚式を挙げるというのが裕子の夢だった。その夢のために、裕子はこれまで様々なダイエットに挑戦してきたが、長続きせず成功した試しがなかった。
そんな裕子がインターネットで次のダイエット方法を探していると、ある広告が出てきた。

『ゾンビダイエットで激痩

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ショートショート10.『心臓』

ショートショート10.『心臓』

私の心臓は今、Wi-Fi で動いているらしい–––。

私が運転していた車に大型トラックがぶつかってきたのは1ヶ月も前のこと。買い物をして家に帰っているところまでは覚えているが、その次からの記憶が病院の集中治療室だった。全身が痛い。どうして?ここはどこなの?拓海に会いたい–––。

医師によると、私は交通事故に遭い、救急車で病院に運ばれすぐに手術をされた。事故の衝撃で胸を強く打っていたため、私の心

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ショートショート9.『天使と悪魔』

ショートショート9.『天使と悪魔』

母ちゃんが亡くなって1年が過ぎた。家族もようやく母ちゃんなしでの生活に慣れてきたころだった。俺は父ちゃんに買い出しを頼まれてスーパーに向かっていた。人通りの少ない細道を歩いていると先の方に何かが落ちているのを見つけた。財布だ。周りを見渡したが人気はなかった。俺は財布を拾い中身を見ると、免許証やポイントカード類、そして現金が10万円程度入っていた。辺りを見回したが、やはり人はいない。こんな時誰もが一

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ショートショート8.『第二の人生』

ショートショート8.『第二の人生』

(誰かに見られている気がする…。)

哲夫がそう思い始めたのは、コンビニのバイトから歩いて帰っている時だった。

(男もストーカーされるのか…物騒な時代になったもんだ。)

哲夫は昔精神疾患を患っていた影響で、40歳になった今でも安定した職に就くことができていなかった。そんな哲夫にとっては、襲われたところで何も奪われるものがないのだ、とこんな状況でもかなり楽観的だった。しかし哲夫はこのとき、昼にテ

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ショートショート.7『はちみつ』

ショートショート.7『はちみつ』

妹「お母さん、お兄ちゃんが一人で変なこと言ってたからコッソリ録音しちゃったwちょっと聞いてみてww」

兄『––––コロナのクソ野郎が…まじふざけんなよ。俺の人生をぶち壊しやがって…。政府もなんもしねぇし。支援金10万もらったところで何の意味もねぇんだよクソが…。何が「3密を避けましょう」だ。密閉・密集・密接?何うまいこと言ったみてぇな感じで流行らせようとしてんだ。くだらねぇ。コロナが明けた暁には

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