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ショートショート18.『将来の夢』

「ぼくの将来の夢は、お父さんをころすことです。」

潟江小学校6年2組の授業参観で、耕哉は教室にいた20名余りの生徒とその保護者の前で、堂々と将来の夢を発表した。生徒たちはもちろん、そこにいた保護者たちの中でも動揺が走り、平然としている者はいなかった。耕哉ともう一人を除いては。

「(おい耕哉…何言ってんだよ…。)」

幼馴染の亮が後ろの保護者たちを気にしながら心配そうに声をかけた。

「耕哉くん、そんなこと言ってはいけません。耕哉くんはお父さんのおかげで生まれてこられたし、そこまで大きくなれたんですよ。それを忘れてはいけません。」

担任の教師は面子を守るため、凍ってしまった教室の空気を溶かそうと次の生徒を指名したが、耕哉は続けた。

「お父さんは、ぼくのお母さんに悪い言葉を言ったり、叩いたりしました。お母さんは今日もぼくのために働いてくれています。お母さんをいじめるやつはぼくが許さない。」

耕哉は現在母親と二人で暮らしており、父親とは離婚していた。父親は毎晩のように酒に狂い、耕哉の母親に罵倒と暴力を揮っていた。そんな父親に似たのか、耕哉はよく問題を起こす子だった。学校の消火器を廊下に噴射したり、中学生に殴りかかったり。しかしそこにはちゃんとした理由があった。校内に侵入した獰猛なサルから友達を守るために近くにあった消火器で追い払った。中学生に絡まれていた亮を守るために中学生に殴りかかった。他にやりようがあったとしても、耕哉がそんな友達想いの優しい子に育ったのは母親の影響だった。耕哉の母親は、毎日耕哉に愛を伝えた。私はあなたを愛している、と。そしてあなたはあなたのことを愛してくれる友達を大切にしなさい、そしたらあなたが困ったときにきっと助けになってくれるから、と。耕哉はその言葉を素直に受け止めることのできる純粋な子だった。受け取った母親の愛を友達にも分けてあげられる優しく強い子だった。だからこそ耕哉は父親のことが許せなかった。



授業参観後、担任の教師はいつものように耕哉を職員室に呼び出した。

「耕哉、どうして君はいつも問題を起こすんだ。」

「今日は授業参観だったから、みんなの前でお父さんに宣戦布告したかったんだ。」

「だからってお前、みんなの前で言う必要なかっただろ。お前だって本気で言ってるわけじゃないだろ?」

「ぼくは本気だよ。それだけぼくはお父さんが嫌いだから。今はまだ体も小さいからお父さんには勝てない。だけどこれからもっと大きくなってスパイダーマンみたいに強くなるから。そしたらお父さんをころしに行くから。これからお母さんのことは僕が守るから。だからそのときまでこの学校で待っててね、お父さん。」

担任の教師は逞しく成長した息子の姿を、疎ましくも誇らしく感じていた。


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