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ショートショート12.『運び屋』

俺は運び屋。金、武器、麻薬、人身売買、俺は依頼されたものは何だって運んできた。時には命を狙われたこともあったが、なんとか生き延びてきた。俺はこの仕事に誇りを持っている。仕事で命を落とすことになったとしても本望だ。俺はこれからも闇の中で生きていく。俺には家族はいない。家族がいると情が移って仕事に支障をきたす恐れがあり、人質に取られるリスクもある。そんなことなら家族など俺には必要ない、そう思っていた…。

今にも雪が降り出しそうなある日、1件のメールが届いていた。仕事の依頼だ。今からちょうど1ヶ月後、とある民家にアタッシュケースを運んでほしいというものだった。俺は、実際に運ぶ物のことを皮肉を込めてパピー( 英語で子犬の意) と呼んでいた。闇の世界では爆弾を送りつけることによる暗殺も珍しくはない。今回のパピーは凶暴な子かもしれないと思ったが、思い込みは死に繋がる。詮索はやめておこう。俺は依頼主に連絡を取り、具体的な日時と場所、パピーの大きさと重さ、報酬、運ぶ際の条件など詳細な情報を確認した。なるほど、今回のミッションは少し厄介だ。集めた情報から移動手段やルート、時間などのプランを決めた。

決行の日の朝はかなり冷え込み、薄っすらと雪が積もっていた。冬は嫌いじゃない。物静かに降り積もる雪の冷たさが孤独な自分にどこか似ているものを感じたからかもしれない。ある駅のコインロッカーでパピーを受け取り、目的の民家に向かった。尾行の気配はない。車を4時間ほど走らせ、目的の民家に着いた。すでに辺りは暗くなっていたが、安全のため、作戦の決行は深夜と決めていた。焦りは禁物だ。

深夜の2時を回った。辺りの灯りは消え、街は眠りに落ちていた。作戦決行。事前に得ていた民家の構造図は頭に入っていた。侵入は屋根上の煙突から。ロープをかけ、ゆっくりと降りていく。暖炉からリビングに入り、廊下を進む。階段で2階へと上がり突き当たりが目的の部屋。音を立てないよう部屋に入るとターゲットが寝息を立てて寝ている。枕元にパピーを置き、痕跡を残さないよう細心の注意を払い民家を出た。作戦成功。翌朝ターゲットがどうなっていようと、俺には関係ない。物を運び届けるまでが俺の仕事だ。

数日たったある日、この日は真冬にも関わらず初春のような暖かい日だった。先日の依頼主からメールが届いた。そこには仕事の都合でどうしてもクリスマスに子供と一緒に過ごせなかった父親からの感謝の言葉と、2枚の写真が添付されていた。サンタさんからもらったプレゼントを持って嬉しそうにピースをしている子供とそれを見て微笑む父親の写真、そしてもう1枚はサンタさんへの子供からの手紙の写真。

『さんたさんへ。ぷれぜんとありがとお。おしごとがんばてね。』

俺は運び屋。
闇の世界で生きる孤独な存在。俺はこの仕事に誇りを持っている。

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