栗原和女

ワジョと申します。小説を書くことにしました。

栗原和女

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最近の記事

【短編小説】和女食堂・ガイヤーン

妹がワーキングホリデーでオーストラリアに行くと聞いたのは昨夜のことだ。 彼女はもともと英語が得意で、大学も英文学科を卒業し、英会話学校の職員として新卒で就職した。教えるわけではないので、英会話能力はほとんど関係ない。 少しでも英語が近くにある環境で働きたいと思っての仕事選びだったが、実際に自分が進歩するわけでもなく、単なる事務作業の繰り返しに飽き飽きしたと最近は愚痴も多かった。 その愚痴をいつも聞いて励ましていたのが、兄である僕だ。妹は僕より6歳下で、二人ともずっと実家

    • 【短編小説】和女食堂・牛タンビビンバライス

      いつになったら旅に出る気になれるだろうか。パンデミックの前は、確かにわたしの趣味は旅行だった。 昔は親友と呼べる人と二人旅によく行った。ここ数年はケチケチ一人旅専門。なぜならその親友と仲違いしてしまったから。 彼女は三大商社のひとつに勤めていて、仕事ができて英語ペラペラの美人。対するわたしはフリーランスで在宅秘書やデザイナーやライターをやっているモサい女。どれも中途半端で威張れるものは何もない。 もともと遠い知り合いで、わたしが女性誌に連載していた小さなコラムを読んで気

      • 【Short story】Hip hop star

        ちょっとまた英語になっておりますが、よろしかったらお付き合いください。 日本語訳を書いたら読んでくれる人いますかね。いないかな。いたらいいのにね。願望。 Driving a bus with everyone seated is fun. We have a strong sense of mission not to let anyone fall down. "Please don’t leave your seat until the bus has comp

        • 【短編小説】和女食堂・海鮮塩焼きそば

          バンドがやめられない。やめることができたら、どんなに楽になるだろうって思うのにやめられない。 やめられないのか、やめたくないのか、やめさせてもらえないのか。どれもが正解だけど、どれだってブッちぎろうと思えばちぎれるのにね。 高1のとき、別のクラスにナルバリッチのファンの子がいるって聞いて、めちゃめちゃ嬉しかった。すぐに顔を見に行って、声をかけた。 「ナルバリッチのファンの子がいるって聞いて会いにきました! わたしもファンなのー」 「わあヤバイ! マジ好きだからわたしも

        【短編小説】和女食堂・ガイヤーン

          【短編小説】和女食堂・荏原病院

          今年の夏も彼氏はできなかった。かと言って、去年の夏にもできなかった。 そうだわ、もう恋人と呼べる人がいなくなって6年は経つ。今月末には40歳になるというのに。 一人暮らし歴、17年かあ。本当言うと何も不自由していない。自分一人の稼ぎで、自分を養うぐらいは難しくない。貯金もまあまあできた。親孝行もしている。趣味の演劇も好きなだけ見に行ける。 6年前、結婚するしないの話し合いがこじれて彼氏にフラれた。女友達にその話をすると、「それってあなたがフッたんじゃないの?」と言われる

          【短編小説】和女食堂・荏原病院

          【Short story】omelet rice

          英語でまたショートストーリーを書いてみました。次回からまた日本語に戻ります。今後も気まぐれに英語で書くことがあるかもしれないです。未定ですけど。 Omelet rice is not my favorite thing. But Ketchup House's one is special. The restaurant was located in Gaienmae and had a lot of fans. I visited there for the fir

          【Short story】omelet rice

          【短編小説】和女食堂・スペアリブの塩スープ

          日本に来て6年が経った。 僕はアメリカ北西部で生まれ育ち、いわゆるアイビーリーグと呼ばれる大学を卒業し、シリコンバレーにある世界中の誰もが知るIT企業に入社した。 大学時代からの恋人もシリコンバレーの同業他社に入社し、パワーカップルと呼ばれた。人生は順風満帆で、何も怖いものはないように思えた。 26歳で彼女と結婚、28歳でヘッドハントされて年収が2倍になった。僕と同レベルで自信満々のメンバーが集うベンチャー企業だったが、CEOが突然精神的にダウンして求心力を失い、あっと

          【短編小説】和女食堂・スペアリブの塩スープ

          【短編小説】和女食堂・チャーシュー日本蕎麦

          僕は食べることに興味がない。何を食べるか考えるのも面倒くさいし、食事する場所に行って時間をとって食べること自体に価値を見出せない。 そんな時間があったら、ゲームをしたりNetflixを見たり英語の勉強をしたりしたい。実際、コンビニやミニスーパーで適当に弁当や冷凍食品を買ってきて食べることが多い。 うちの冷蔵庫はビジネスホテルの冷蔵庫のように小さい。冷蔵庫が家にあるということに、なぜかうんざりする。だから買い置きも最小限。ときどき何も食べるものがなくなる。そんなときは寝てし

          【短編小説】和女食堂・チャーシュー日本蕎麦

          【短編小説】和女食堂・いしり味の唐揚げ

          お誕生日なのに誰にもおめでとうを言われなかった。 そもそも友だちが少ないし、SNSもやってない。一人暮らしを始めてから、家族からのお祝いもなくなった。彼氏もいないし、親友なんて呼べる人もいない。 人のいる場所が苦手なわたしは、2年半前から始まった在宅勤務がとても快適で助かっている。 今はオフィスに行っても行かなくても自由ということになっているけれど、わたしは一度も行ってない。可能な限り、ずっと行きたくない。 これだけ人との接触を避けていると、自ずと予定は何もなくなるし

          【短編小説】和女食堂・いしり味の唐揚げ

          【短編小説】和女食堂・すき焼きプレート

          大学を卒業して渋谷のデザイン会社に就職したときからずっと、わたしは最寄りが渋谷駅のエリアに住み続けた。 会社を辞めてフリーランスのデザイナーになり、結婚して子供を産み、引っ越し回数は計4回。渋谷区東、神宮前、桜丘町、神宮前をグルグル。 結局、神宮前が一番快適で好きだった。アパレルメーカーの本社で働く夫も徒歩で通勤できたし、子どもたちを取り巻く環境も何かと安心できる。わたしの仕事関係の相手先も近場に多く、お互い便利だった。 その生活を、とてもとても気に入っていたのに、夫が

          【短編小説】和女食堂・すき焼きプレート

          【短編小説】和女食堂・しらすネギのせペペロンチーノ

          友だちとケンカした。ビーチに遊びに行くのに、わたしがこんなプヨプヨじゃ一緒にいて恥ずかしいって。 164cmで60キロは、そりゃあ彼女と比べればプヨプヨですよ。でも海に行けば、そんなにモデルみたいに痩せてる人ばかりじゃないのに。 あの子はスレンダーなギャル仲間と、お揃いの白い水着のデザイン違いをズラッと着て目立ちたいのよ。去年そうやって、雑誌やテレビに取材してもらったのがよっぽど嬉しかったんだろうね。 そのときのわたしは、今より5キロ痩せていた。かろうじてギャルの仲間入

          【短編小説】和女食堂・しらすネギのせペペロンチーノ

          【短編小説】和女食堂・鶏チャーシュー

          わたしは料理を作れない。正確に言うと、作ったことがない。 それを知られると、「どんだけお嬢様育ちなの?」と必ず聞かれるが、ごく庶民的な一般家庭だ。父は家電メーカーの総務系部署に所属、母は給食センターでパート勤務。 独身時代から母は一貫して調理の仕事をしており、調理師免許も持っている。じゃあ母の料理はものすごく美味しいのかというと、正直言って微妙。70%の確率でまあ普通に美味しくて、30%は美味しくない。 わたしが5歳ぐらいのとき、母がおかずに茄子味噌炒めを出して、それが

          【短編小説】和女食堂・鶏チャーシュー

          【短編小説】和女食堂・明太クリームパスタ

          まさか自分が双子を産むとは思わなかった。26歳ぐらいで結婚して、30歳までに2人ぐらい子どもが産まれたらと漠然と思い描いていたのだけれど。 現実は違った。新卒で上場企業に入社し、会社の上司と不倫して、彼が離婚をして、わたしも奥さんに慰謝料を払い、やっと一緒になれたのは30歳のとき。 わたしは会社を辞めて、すぐにでも子どもを産んで育てたかったのに、なかなかできずに33歳を迎え、念のためにと病院に行ったら不妊体質と言われた。 それから不妊治療を始めて、幸いなことに2度目のチ

          【短編小説】和女食堂・明太クリームパスタ

          【短編小説】和女食堂・豚キュウリのそうめん

          食欲がない。夏バテだから? そうかもしれない。でも最大の原因は、実家のワンコの具合が悪いから。 シーズーのリリカは、わたしが中1のとき我が家にやってきた。家を新築すると同時に、母の夢だった犬を飼うことを実現した形で。 母の親友が茶色いシーズーを飼っていて、飼うなら絶対に茶色いシーズーがいいと決めていたらしい。リリカはそのお友だちの知り合いのペット仲間から譲り受けた子。 母の溺愛ぶりもさることながら、負けじとわたしもどんどん夢中になっていった。学校にいるときも、友だちと遊

          【短編小説】和女食堂・豚キュウリのそうめん

          【Short story 】In the pool

          今回は英語で小説を書いてみました。 よかったらお読みください。 また次回から日本語に戻ります。 ─────────── My mon used to be a model and my dad is still an actor. Mom retired from her job when I was born. Most Japanese people over 40 know her but people under 30 don’t. Dad is a fa

          【Short story 】In the pool

          【短編小説】和女食堂・海老のトマトクリームパスタ

          僕は料理を全くしない。できればいいのにとも思わない。 自分の時間給とのバランスや、体力と時間の効率を考えたら、どう考えても外食のほうがリーズナブルだし。実際、ほぼ毎日外食をしている。 「栄養が偏るのでは?」なんて絡んでくるやつもたまにいるが、何も毎日ラーメンや牛丼を食べているわけではない。 そういった早飯タイプの店に行くことは稀で、前菜、主菜、副菜があり、気遣いも行き届いたレストランに行くことが多い。高級店に限らず、探せばそういう店はあるものだ。 本当の意味での名店は

          【短編小説】和女食堂・海老のトマトクリームパスタ