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【8話の3】連載中『Magic of Ghost』

※【途中から有料になります(平均4,000~6,000文字前後で100円)】購入していただいた際の利益は、すべて出版へ向けての費用にさせていただきます。今後とも優鬼、クレアともども、和道をよろしくお願いいたします。


※この記事は【8話の2】の続きです。



 華道坂の反応を見る限り、やはり麗夢とは関係があるようだ。
「てめぇ!!」
 俺は思わず、すぐ後ろにいたその男の胸ぐらを掴んだ。この広過ぎるほどのバイキング会場の空気を一気に飲み込み、すべての視線が俺たちに向けられた。
「なんだ? やんのか? 来いよ。相手になってやる」
「……上等だてめぇ。表出ろ!!」
 この時の俺に勝敗などは関係なかった。華道坂のあの表情、恐らく麗夢はあいつの血縁者だ。この男はそれを知っていて言ったのだろうか。例え知らなかったとしてもそんなことはどうだっていい。今はこいつに『天誅を下す』、俺の頭にはその言葉しかなかった。
 その時、知っている声が怒りに満ちた俺の耳に入ってきた。クレアだった。
「やめな」
 一瞬だが、こいつの声に反応して、俺の怒りがクレアにも向けられた。
「あ!? こいつがなんて言ったかわかってんのかよてめぇ!!」
「わかってるよ。だからこそ、そんな男の相手なんかするより麗奈ちゃんの気持ちが優先でしょ」
 どうやらクレアも華道坂と麗夢の関係性を瞬時に把握したようだ。
「……くそったれっ!!」
 俺はこいつをぶっ飛ばしてやりたかったが、今はクレアの言う通り、華道坂の心境が最優先だ。掴んでいた男の服から手を放し、今の怒りをすべて込めて、一言だけ言葉を捨てた。
「クソ野郎」
「…………? おいおい聞いたかよ! クソ野郎だってよ俺! あっはっはっは!!」
 この男とテーブルを共にしていた残りの男2人が一斉に笑い出した。こいつも含め、いかにもゲスな笑い方をする。
「あぁ面白れぇ……。久しぶりにクソ野郎なんて言われたわ! お前あれか? ウケ狙ってたのか? あっはっは!! 駄目だ止まんねぇよ!! お前も笑ってないで助けてくれよノアぁ」
 腐ったセリフを吐き散らしながら、俺の肩に手を置き高笑いをした。俺はこの瞬間、我慢の限界を通り越した。
「……んのやろ……」
 条件反射でこの男の顔面に向かって殴りかかっていた。思いきり振り被った俺の拳が当たる瞬間、再びクレアの声が耳に入った。
「優鬼っ!!」
 俺は、こいつの髪が風圧で揺れるほどの距離で拳を止めた。
「……行くよ。……ほら、麗奈ちゃんも行くよ。さぁ立って」
 先ほどまで立っていたはずだった華道坂が、気づくと再び椅子に座り込んでいる。どこを見ているのか、一点を見つめて放心状態になっている。
 確かにこのクズのような男の相手をしている暇などなさそうだ。俺は華道坂の傍に行き、場所を移動するということを伝えた。
「おい。大丈夫か? 状況は後で全部説明する。だから今は立て。……な?」
 俺の言葉が聞こえたのか、呆然としながら立ち上がった。
「あれぇ? もう帰っちゃうんですかぁ?」
 どこにでもこういうクズ野郎はいる。学生生活にも、おそらく社会人の世界にもだ。俺たちに向かって吐く言葉、耳障りでならない。場所を移動するのは華道坂のためでもあったが、自分のためでもあった。これ以上ここにいたら、次はクレアの言葉すら耳に入ることなく確実に殴る。
 俺たちが立ち去ろうとしてテーブルを離れた時、やつのターゲットはクレアへと向けられた。クレアが華道坂を支えながら歩こうとしている時だった。
「君可愛いねぇ! 君だけはこっちのテーブルに招待するよ! どう? 一緒に遊ばない?」
 俺たちが完全に無視を決め込んで歩き出したのにも関わらず、こいつらは3人ともついてくる。会場全体の視線も俺たちの後を追ってきていた。
「…………」
 それでも俺たちは無言を続けた。
「ねぇねぇ! いいじゃんちょっとくらい! 遊ぼうよぉ!」
 その時、華道坂を支えながら歩いていたクレアの足が止まった。
「お! やっと止まってくれた! じゃあ決まりだね!」
「……悪いけど、うるさい男に興味ないの。あと弱い男にもね」
 クレアの横にいた男の表情が一変して、クレアに牙を剥いた。
「なんだと? 俺たちが弱いだと!? こいつ頭どうかしてんじゃねぇのか!? 俺たちはクラスCのトランクウィルだぞ!! ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃねぇぞてめぇ!!」
「……クラスC……階級持ちなんだあんた。最近の会長はなに考えてんだか……」
 クレアが深いため息をつき、俺がやっと聞き取れるほどの声でアイザックの愚痴を言っていた。
「あ!? なんだって!? 聞こえねぇよ!! お前部屋何階だ!? 今から行ってやるよ!!」
 恐らくこういうやつの性質上、本当についてくるだろう。そうなれば当然面倒なことになる。やはりここで沈めておく必要がある。そんなことを思っていた矢先だった。
 ゆっくりとその言葉にクレアが返答をした。
「……93階。来れるもんなら来てみろよ『クズ野郎』」
「……っ!!」

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