【5話の3】連載中『Magic of Ghost』
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※この記事は【5話の2】の続きです。
「体大丈夫なの!?」
「あぁ。力入んねぇけど、さっきよりは多少入るし、なんとか大丈夫だ。……悪かったな。ここまでつき合ってもらってさ」
俺は無駄な長旅につき合わせてしまったクレアに心から謝罪をした。
「なに言ってんの急に! 優鬼が謝るなんて気持ち悪いよ! 雪でも降るかもねぇ」
「んだよてめぇ!! 人が無駄足させたと思って真剣に謝ってんのによ!!」
久しぶりにこいつの空気の読めなさ具合に呆れ返った。こいつが空気を読むことができないのは知っていたが、この瞬間改めて痛感した。
「無駄足? なんのこと?」
「俺ソルジャーになれなかっただろ。日本からこんな所まで何時間もかけて来たんだ。無駄足以外のなにがあるんだよ」
俺はクレアの神経を疑い、華道坂が飾ってくれた花を見つめて心を落ち着かせていた。
「あっそうだ! その件について急いできたんだった!」
「あ? お前なに言って……」
「優鬼ソルジャーになれたんだよ!! おめでとう!!」
満面の笑みを浮かべ言ってきたクレアの言葉を、当然俺は信じることができなかった。言葉を失うどころか、なにかを考えることさえ出来ない。体が抜け殻のようになっている感覚だけを感じていた。
先ほどまではソルジャーになれなかったと悔やんでいたが、まさか、突然ベッドの上で合格発表を知らされることになるとは考えてもいなかった。
「マ、マジ……でか?」
「うんっ! マジマジっ! 大マジだよっ!!」
俺はこの瞬間言葉が出ないほど感動した。この時、悲しくもないのに不思議と一筋の涙が零れ落ちてきた。
数日前にソルジャーのことを聞かされ、最初は入る気などさらさらなかったというのに、これほどまでソルジャーに対して憧れを持っていたことに、正直自分でも驚く。俺のなにがこれほどの感情を生んでいるのか、自分自身でもわからなかった。
俺は慌てて顔を拭った。次の瞬間、壁の脇で華道坂が姿を現した。
「もしかして、クレアさん……ですか?」
「ん? 先客がいたんだ? そうだけど」
俺は華道坂のウィンドという技で今まで存在すら感じることができなかったのだが、クレアの場合は合格発表をいち早く知らせるために、ただ単にまわりが見えていなかったのだろう。
その時、俺はクレアの名前を出していないことに気がついた。それなのに、何故華道坂がクレアのことを知っているのかが気になった。
「やっぱりそうだっ!! 私、クレアさんの大ファンなんですっ!!」
俺とクレアは無言で目を合わせ、数回瞬きをし合った。
「ファン? あ……あたしの?」
「はいっ! ソルジャーになってからずっとクレアさんのことを見てきました! 私の憧れです! トレイニーなんかがなに言ってるんだって思うかもしれません。いちトレイニーとして、いえ、トレイニー代表として、サンクチュアリに所属しているクレアさんは神様のような方なんです! 私のまわりはみんなクレアさんに憧れてるんですよっ!」
「そ、そう。ありが……とう」
いきなりの発言にクレア自身が動揺を隠せていない。こんなクレアを見るのは初めてだ。
そして俺は押され気味のこいつを見ていると、少し楽しくなっていることに気がついた。
「日本にクレアさんが行くって聞いてから少し寂しかったんですけど、こんなにも早く帰って来てくれるなんて嬉しいです! 少し雰囲気が変わった気がしますけど、日本に行ってなにかいいことでもあったんですか?」
「い、いいこと? 別にないと思うけどなぁ……」
クレアがこれほどまでに有名だとは意外だった。
「(へぇ……意外と人気あんのかこいつ。暴力ばっかで空気も読めないし)性格もキツいこんなやつが……」
「なに!? なんか言った?」
クレアが俺の方を振り返り、桜色の目を細めて見つめている。俺は思わず考えていることが口に出てしまい、なにごともなかったかのように窓の方を見つめて言った。
「べ、別に……」
「あっそ!」
あと少しで拳が飛んでくるところをなんとか回避することができた。
そして突然、華道坂が慌ててクレアに向かって言った。
「あっ!! また自己紹介を忘れていました! 私、華道坂麗奈と言います! 宜しくお願いします!」
「麗奈ちゃんね! 私はクレア・ローレンス。よろしくねっ!」
華道坂は自己紹介をするタイミングをよく逃すようだ。そしてクレアの方へ近づき、若干だが俯きながら発言した。
「あの、また私とお話ししてくれますか?」
「もちろんっ! ソルジャーの訓練大変だと思うけど、頑張ってね!」
「は、はいっ! ありがとうございます!!」
世の中の人間は大体のやつが偉くなると天狗のように鼻を高くする。偉そうな振る舞いや偉そうな言葉使いにはすべてにおいて反吐が出る。それに対してクレアは天狗要素が皆無だ。自分より格下のトレイニーに優しい言葉をかけることに対して、俺は少しクレアを見直した。
しかしクレアのことだから、なにも考えていないだけなのかもしれない。
「そうだっ! えっと、桐谷君? でいいんだよね?」
「あぁ」
「ソルジャー合格おめでとう! これで私と一緒のトレイニーだね! お互い頑張ろうねっ!」
華道坂の言う通り同じトレイニーではあるが、まずウィンドという技を覚えていない以上、俺はトレイニー以下と考えるのが妥当だろう。
「おう! サンキュー! 看病も助かったよ!」
「じゃあ行くね! 桐谷君! クレアさん! またお会いしましょう! じゃあ失礼しました!」
華道坂のクレアを見る目は、心からクレアに憧れているような印象を受けた。
「あっそうだ! 桐谷君っ! その花瓶に刺さってる橙色と黄色のお花、マリーゴールドって言うんだけど、私の住んでた地域での花言葉は『悪を挫く』。橙色が『予言』、黄色が『生命の輝き』っていうの。『あなたは死なない』ってこと! じゃあねっ!」
そう言うと俺に返事をする隙も与えず、病室から出ていった。
俺は花言葉というのには興味はなかったが、これだけは素晴らしい言葉だと思った。
真っ白のカーテンと一緒に遊んでいるマリーゴールドを見つめ、あんな暴走をした自分が今ここで生きていられることに感謝をした。
「行っちゃった。優鬼をずっと看病してくれてたんでしょ? 元気になったらちゃんとお礼した方がいいよ!」
「んなことお前に言われなくてもわかってるよ。……ところで、お前もウィンド使えるのか?」
当然クレアはウィンドを使えるだろうとわかってはいたが、俺はもっとあの技について詳しく知りたい。そう思った俺は自然と聞いていた。
「お前も? あの子ウィンド使ったの?」
「なんか俺がいきなり起きてびっくりして使っちゃったんだと」
「あはは。可愛いね! 私も使えるよ!」
それを聞いた俺は、教えてもらわない理由がないと思い直談判をした。
「おいクレア! 俺にウィンドを教えてくれ!」
「なに!? 優鬼が私に頼みごと? おえぇ……」
「ふざけんなっ! 真剣に頼んでんだよ!」
たまにクレアの言っていることが本気なのかふざけているのかわからなくなる時がある。
俺は華道坂のウィンドを見て、正直焦っている。トレイニーが全員使えると聞き、俺も早く覚えたいという一心だった。そしてその気持ちがプライドに勝って、クレアに頭を下げることになったのだろう。
「いいよ! ただし焼きそばパン1週間奢りね!」
「あ?」
「うそうそぉ!」
俺が大助に言った言葉をここへ来て真似るとは思ってもいなかった。ウィンドくらいすぐに覚えてやると俺は心に誓った。
「でもその前に3日前、『お偉いさん』って言ってた人が優鬼のこと呼んでるから、先にそっちに行こっ!」
俺の中で3日前のいら立ちがフツフツと蘇ってきた。文句を言うだけ言って、さらにソルジャーになってもまだなにか言いたいことがあるのかと思うと、余計に腹が立ってきた。
俺を最終的にソルジャーにしてくれたのは恐らくディヴァインの会長だろう。あんなやつらになにを言われても、こっちは堂々と言い返してやる。
そして、俺は胸を張って会いに行くことにした。
「……まぁ、どっちにしろディヴァインにいればそのうち会うことになるだろうし、しょうがねぇ。行くか!」
「うん! でも失礼なこと言ったらダメだよ? 一応偉いんだから。じゃあ行こっか! 立てる?」
「あぁ、なんとかな。さっきよりは体に力が入るから、多分大丈夫だ」
正直、ここでどんな治療を施されたのかは不明だ。先ほどまで起き上がることもできなかったというのに、短時間で相当回復した。だが、元通りになるのにはまだ時間がかかりそうだ。果たして霊力は戻っているのか、体の回復よりもそのことが気がかりで仕方がない。
俺は自分の体に纏っているオーラを探り、左手に集中した。
「霊力は……まだか」
普段なら気をためた部分が暖かくなるのだが、今はそれがほとんど感じられない。霊力の回復にはまだまだ時間がかかるようだ。
そして二人で病室を出た。病院の廊下を歩きながら、一体ここでなにをされたらここまで驚異的に回復ができるのか、クレアに聞いてみることにした。
「なぁ、俺がここに運ばれてどんな治療を受けたかわかるか?」
俺は記憶がない間に自分になにをされたのか少し不安に思ったが、クレアが発した言葉は体にメスを入れたとか、そういう内容ではなかった。
「んとね、普通ここは敵との戦闘で瀕死になって、意識がまったくない人しか運ばれてこないんだけど、優鬼は自分で制御しきれないほどの霊力を出して意識を失っただけだし、別に治療とかはされてないよ。一般病棟じゃなく個室病棟に運ばれた理由は、人の出入りが激しい一般病棟と比べて、個室病棟の方が人は少ないでしょ? 限られた人しか入れないし。ソルジャーじゃなかった優鬼をディヴァインに入れることはできないから、存在を隠すためにそういうやり方を取ったのかもね。その後ちゃんとソルジャーになれたけどねっ! でもこっちに来て正解だと思うよ!」
「正解?」
「うん! ここは一般病棟と違って、院内全域に『リカバリー・ミスト』っていう特殊な粒子が充満してるの。かなり重度の傷を負ったとしても、そのミストが充満してるから傷の治りも相当早く完治するってわけ」
クレアの説明で、俺は納得がいった。先ほどまで動けなかった体がここまで早く動けるようになったのは、どうやらそのリカバリー・ミストのお陰らしい。
「でも3日間もここのミストを吸ってたのに、さっきまで力入んなかったんでしょ? 変なのぉ」
「どういう意味だ?」
「敵と戦った後の邪念が残る傷じゃなくて、単純な怪我だったらそれが全治1ヶ月だとしても2日前後で完全に治るのに。もしかしたら本当に瀕死だったのかもね」
平気な顔をして恐ろしいことを言ってくれるが、今になってやっと自分のしたことが危険なことだったと痛感できた。だが、そうだとしたら、ソルジャーでもない俺がここに搬送されてきたことは例のない緊急事態だったということなのだろうか。
「なぁ。ここはソルジャーが戦闘で負傷して運ばれる所なんだろ? さっき言ってたけど、単純な怪我の人間がここに入れるのか?」
「いや、入れないよ。……特例であったんだ。昔に」
「特例……そっか」
それ以上の答えを追求するのは止めた。昔になにかがあったということは、クレアのセリフを聞いて想像がついた。
「あのさ優鬼」
「ん?」
「あたしの階級さ……校長室で優鬼に聞かれた時答えなかったでしょ……?」
どうやら先ほど華道坂がクレアより先に自分の階級を言ってしまったことについて話そうとしているのだろう。
「あぁ別にいいよ知ってたし」
「えっ!?」
「昨日……じゃない。……4日前の夜か。『DJ.01』でお前が風呂入ってる時に校長から聞いたんだよ。あの時はショックで夜一睡もできなかったんだぞ」
俺は少しクレアをからかうことにした。
「……え。……ごめん」
クレアは立ち止まり目線を地面へと向けた。
「嘘に決まってんだろ。(寝れなかったのは本当だけど理由が違う)」
「優鬼最低っ!」
そう言うとクレアは俺を置いて歩いていった。
「ちょ、おい! 俺道わかんねぇんだから置いて行くなよ!」
クレアをからかった時からさらに十数分は歩いていただろうか。ふと気づくとここはまだ病棟内の通路だった。個室病棟は抜けたものの、未だに病院独特の匂いや、白い白衣を着た医者もいる。
「おい……ここってまだ病院だよな?」
「うん。広いでしょ、ここ」
ペースがもの凄く遅いわけではなかった。病室から出て何人も追い越していた。どちらかと言えば俺たちは歩くペースが速い方だ。
まさかディヴァインの内部がここまで広いとは思ってもいなかった。病棟だけでこの広さ。一体ディヴァインがどれだけ広いというのだろうか。
どうやら俺はとんでもない組織に入ってしまったらしい。
【6話の1】へつづく……
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