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【5話の2】連載中『Magic of Ghost』

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※この記事は【5話の1】の続きです。


「な、なんだこの霊圧は!? (さっきまでの桐谷君とはまるで別人……。一体彼の中でなにが変化したというのだ)」
 生み出した強風は止むどころかたちまち滑走路の遥か遠くに生えていた木々をも荒れさせる。
 目を開きあたりが蒼く見え、その時ため込んでいたエネルギーを一気に爆発させた。
 そして、上空を覆っていた大雲が、立ち上った霊圧によってすべて掻き消された。
「ぅぉおおおあああああああっ!!」
「(す、凄い霊圧だ)わかった!! もういい桐谷君!! 今すぐ霊力を抑えるんだ!!」
「うぉおぁああああああ!!」
 近くにいるはずのこの男の声はすでに届かず、俺は爆発しそうだった怒りと共に完全に制御不能となってしまった。
「なんなんだこの子は! (地響きまで。このままではマズい)誰か止められる者はいないのですか!!」
「私が行きます!!」
「クレアさん!!」
 この時の俺は、まったく記憶がなかった。自分の力を制御できずに霊力を放出させ続けてしまったのだ。
 あれほどの大騒ぎになっていたことは、後にクレアから聞かされるまで知らなかった。
「優鬼!! それ以上はダメ!! 体が崩壊しちゃうよ!! もう止めて!! 優鬼ぃっ!!」
「あああぁあ!! ぅをぁあああぁぁああ!!」
「もう、止めてぇーーーーーっ!!」
 この時一瞬だったがクレアの声が聞こえてきた。その呼びかけに応えるべく、必死で意識を取り戻そうとした。
「あぁあ……。ああぁぁ!!」
 意識が朦朧とする中、俺は徐々に正気を取り戻し始めた。
「優鬼っ! 優鬼っ!! 私を見て。もう大丈夫だから。ねっ?」
「はぁ、はぁ。ごほっげほっ。俺は……」
 気がつくと、横で俺の体を支えてくれているクレアがいた。
「優鬼、大丈夫?」
「おぅ。……久しぶり」
 この時、冗談を言ったのは、きっとクレアに心配をかけたくなかったからだろう。
「なにバカなこと言ってんの! 体大丈夫なの?」
「あぁ。まったく問題……ない……」
「ちょっと! 優鬼!? ねぇってばぁ!」

 そして俺は意識を失った。

 目が覚めると、俺はベッドに横たわっていた。どうやらどこかの部屋に運ばれてきたらしい。
 10畳ほどの少し大きめの部屋に白いベッドが配置され、俺の右横には出窓があった。アメリカの少し暖かい風が、真っ白のカーテンを揺らしている。
 その出窓には、花瓶に生けられた何色もの花が風に揺られて咲いていた。
 ふと窓の外を見るととても天気がよく、今すぐにでも外に出てこの暖かい風を全身で感じたかった。
 そして何気なくベッドから起き上がろうとしたその時だった。
「あれ? (……力が入んねぇ)」
 俺は自分の体の異変に気がつき、意識が飛ぶ前のことを鮮明に思い出そうと、口に出して順を追った。
「ディヴァインに着いて、そっから試験ですとかなんとかで。確か俺経文唱えたら霊力が暴走して……駄目だ。そこからが思い出せねぇ。ディヴァインに到着した時は確か昼の1時前後だったな。今は三時頃と考えても、2時間くらい意識がなかったのか」
「……3日後のね」
「だ、誰だっ!!」
 咄嗟に声のする方向へ振り向く。すると、出入り口側の壁に背を任せながら、こちらを見ている女がいた。腰にまで届くほどの長く真っすぐな黒髪と、優しそうな顔立ちは、どこから見ても日本人だった。花の模様をあしらった白いシャツと、膝丈ほどのヒラヒラとしたスカートが窓から入ってくる風になびかれている。その純白のスカートはいかにも清楚な人間だということを俺に教えてくれていた。
 突然、自然な日本語で話しかけられたためか、ここがアメリカだということを一瞬忘れそうになった。
「あなた、3日間も寝てたよ。そしてここはディヴァイン内の個室病棟」
「み、3日間!? 嘘だろ。……個室病棟?」
「そっ! ソルジャー専用の病棟で、戦闘中に重度の怪我を負った瀕死状態の人たちが運ばれてくるところなの。個室なのは空気感染するウィルスなんかをまわりに広げないためらしいよ」
 俺はウィルスに感染しているわけでもなかったが、うるさいところよりは個室の方が助かると思い納得した。
 しかし、それよりも気なることがあった。この女は一体いつからいて、どこから入ってきたのだろうか。俺が目を覚ましあたりを見回した時には確実にいなかった。
「そこのお花ね、私が育てたんだよ。綺麗でしょっ」
 そう言うと出窓を指差し微笑んでいた。その方向に沿うように視線を向けると、先ほどの花のことを言っていたのがわかった。俺にはなんの花だかさっぱりわからなかったが、鮮やかな色が一ヶ所に敷き詰まっている。
「あぁ。綺麗だな。ありがとう。ところで君は……」
「あっ! 自己紹介が遅れちゃったね! 私は華道坂麗奈(かどうざかれいな)。あなたと同じ日本人だよ。宜しくね!」
「そっか。俺は桐谷優鬼。宜しく」
 やはり俺と同じ日本人のようだ。ディヴァインで日本人は俺だけだと思っていたが、どうやらもう一人いたらしい。
「華道坂か……随分と珍しい名前だな」
「うん、よく言われるそれ。私の家って代々お花屋さんをやってるんだけど、苗字の由来はむかぁしからお花屋さんをやっていたからかな。よく名前が『生け花とかをやる華道だね』って言われるから、最近は先に由来を言うようにしてるの!」
 とりあえずこの華道坂という女は悪意があってきたわけではなさそうだ。それにしても一体いつ入ってきたのか、ということが気になって仕方がなかった。
「……ところで君、どうやって入ってきたんだ? 俺が目を覚ました時には確実にいなかったけど」
「え? ずっといたよ? ただ、いきなりあなたが起きたからびっくりして気配消しちゃったけど」
 俺は耳を疑った。姿そのものがなかったことに対して『気配を消していた』という答えでは俺の質問の答えにはなっていなかったからだ。華道坂の言う『気配を消す』が『姿を消す』ということなのだとしたら合点がいく。しかし、そうなるとこいつは本当に人間なのだろうかと疑ってしまう。質問をしたはずが、余計に頭が混乱していた。
「そっか。あなたソルジャーじゃないんだっけ。ディヴァインにジェット機で来るなんて最近は滅多にないから、珍しくて自分の部屋から見てたんだ。そしたら、少ししていきなり地響きがして、凄い霊圧を感じたから急いで見にいったの。そして着いた頃にはあなたは既に意識を失ってたんだよ」
「…………」
「ジェット機に『DJ.01』って書かれてたでしょ? 01っていう数字は日本を意味してるの。私はあなたと同じ日本人だから、状態が安定してからの看病を私が任されたってわけ」
 諦めはつかないが受け入れるしかない現実だ。やはり俺はソルジャーにはなれなかった。クレアと校長には悪いことをしてしまったなと、深く反省をした。
「そうか。面倒かけちまったな。もう大丈夫だ。サンキューな」
「……あなた、ソルジャーになるためにここへ来たの?」
「まぁな。でもどうやら受からなかったらしい」
 こいつも、ディヴァインにいるということは、恐らくソルジャーなのだろう。
「前にも1回『DJ.01』で試験を受けに来た人がいたの。その人も受からなくて日本に帰っていったけど」
「そうか。ところでさっき俺に『ソルジャーじゃないんだっけ』って言ってたよな? あれはどういう意味だ?」
 あれはまるで、ソルジャーなら誰でもできるといった口振りだった。混乱した分、どうしても答えを知りたい。俺はそう思った。
「あぁ。ウィンドのことね」
「ウィンド?」
「そうウィンド。自分の姿を風と同化させて、ウィンドを覚えていない人や霊とかから姿を隠す技だよ。ウィンドを習得してる人には効かないんだけどね。さっきはソルジャーじゃないってわかってたけど、とっさに使っちゃったんだ。驚かせてごめんね」
 やはりソルジャー特有の技だった。それを知ったと同時に、こいつもクレアのように階級を持っていると確信した。
「君は、クラスいくつだ?」
「えっ!? な、なに言ってるの? クラス? 私がっ!?」
 別に隠すことなどないと思ったが、華道坂はいきなり動揺をし始めた。
「そうだよ。なに驚いてんだお前。持ってんだろ? 階級」
「も、持ってるわけないじゃない! いきなりなに言い出すのよ」
 俺はまたしても耳を疑った。こいつが嘘を言っていないことを『悟り』が伝えてきたからだ。しかしそうなるとトレイニーということになる。どちらにしてもトレイニーでウィンドとかいう凄い技を使えるのだから、階級者に近いトレイニーなのだろうと考えた。
「お前トレイニーか? あんなすげぇ技使えるんだから、次の試験辺あたりでクラスCに入れるかもな! 頑張れよ!」
「いや……ウィンドは、多分トレイニーならみんな使えるよ?」
 俺は突然の華道坂の言葉に驚きを隠せなかった。しかしこいつの心は俺に真実だと伝えている。俺自身がどれほど未熟でどれほど弱いのかを思い知らされた瞬間だった。
「優鬼っ!!」
 突然凄まじい勢いで扉が開いた。激しい音と共に病室へ入ってきたのはクレアだった。


【5話の3】へつづく……


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