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【6話の1】連載中『Magic of Ghost』

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※この記事は【5話の3】の続きです。


 ~脅威~

「なぁクレア」
「なに?」
「まだ着かねぇのかよ」
 かれこれ病室を出てから20分以上は経ったはずだ。先ほど病室で感じていた清々しい外の風を浴びながら、一体いつになったらそのお偉いさんの場所まで辿り着くのかを、少し憂鬱になりながら聞いてみることにした。
「もう着くよ! あそこに白い建物が見えるでしょ? あそこはディヴァインの幹部の人たちしか入れないところなんだけど、今日は特別に入ることが許されたんだよ!」
「へぇ」
 クレアは黄金色の長い髪を風に遊ばせながら振り返るとそう言った。クレアの指差す方に視点を移すと、そこには真っ白の長細い塔がそびえ立っている。遠くから見てもその高さが伺えるほど高い。俺の見ている方向からだと窓が一切ないというのが気になったが、入ればどんなところかわかることなので、敢えて聞くことでもなかった。
 すると、今度は先ほどの風が、あの白い塔へと誘かのように背中から俺の体を少しだけ前に押した。俺はその風を感じながら、目を覚ましてからずっとトイレに行きたかったことを思い出してしまったのだ。
「……クレア」
「んー?」
「トイレはどこだ?」
 まったくの未知の場所。トイレの場所さえわからないのは仕方がない。
「あぁ……白い建物の中にあるよ」
「そうか。……急ぐぞ!」
 場所を知った途端無性に我慢ができなくなり、俺は初めてクレアの前に出て、急ぎ足で白い建物へ向かった。
「ところであの建物ってみんななんて呼んでんだ? 白い建物って言ってんの?」
「スピリット・ワールドだよ! これはソルジャーの間で言ってることだから、正式名称はわからないなぁ。多分ないんじゃない?」
 雑談をしながら足早に歩いていたからか、あっという間にそのスピリット・ワールドなる場所まで辿り着いた。
 いざ目の前にするとさすがに巨大だ。遠くからは細長く見えていたが、近くで見ると巨大な円柱が視界を遮っている。やっとのことで『トイレ』ではなく、スピリット・ワールドに着いたところで、クレアが口を開いた。
「さぁ、入ろっ!」
 横顔が何故か緊張しているように見える。滅多に汗などかかないクレアが、一筋の汗を流している。
 汗を流している姿を見たのは初めてかもしれない。しかし俺も今、ある意味で汗を流していた。さりげなく隠してはいるが、そろそろ限界が近づいていたのだ。
「お、おい待て。ここどうやって入るんだ?」
「まぁ見てて」
 コンクリートから生えているこの巨大な真っ白の壁。その壁に向かって、クレアが目を瞑り、左手をかざした。左肘から掌にかけて、白い靄のようなものがうっすらと出始める。そして、肉眼ではっきり見えるほどにまで白さが際立ってきた。恐らくこいつの霊力だろう。気の集中が終わったのか、目を開き一言だけ発言した。
「ラルガ!」
 すると扉1枚分ほどの真っ白な壁が、まるで重くて硬いものを引きずるかのような不気味な音と共に、地面に沈んで俺たちを招いてくれた。
「……ふぅ。準備はいい?」
「……あぁ。いつでも出せるぜ」
「……バカじゃないの」
 冗談を取り入れたところで、この時の気分はそう、まるでロールプレイングゲームをやっていて、最後のボスが待ち構えている扉の前に立たされている時の心境と一緒だった。
 心の準備もさることながら、まずはトイレを探すためにクレアより先に中に入り、まわりを見渡した。その瞬間、俺は自分の目を疑うことになる。真っ白な外壁とは裏腹に、まるで真逆の色があたりを覆っていた。
「お、おい。なんだここ……。一面真っ黒の壁じゃねぇかよ……」
「……ここに入るのは二度目だけど、気味悪いねぇいつ来ても」
 いくつもの照明がその不気味さを和らげるように、一生懸命白く照らしてはいる。しかしさすがにこのセンスには勝てないのだろう。照明は自身のみを照らし、あたりは暗闇に満ちていた。目を凝らせば内装も見ることはできるだろうが、ある程度見えるようになるまでは少しばかり辛抱が必要のようだ。
「お、おいクレア……トイレ。……もう限界」
 この不気味さに一瞬心が引き込まれたが、それ以上に俺の尿意が心を現実へと呼び戻した。
「あぁ……確かそこの螺旋階段の下を潜っていけばすぐ目の前にあったと思うよ」
「よし! そうか! サンキュー!!」
 その言葉だけを置いて、俺は螺旋階段の下まで猛スピードで走っていった。
「あたしはここで待ってるからねーっ!」
 クレアの言葉が遠くから聞こえたが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
 その時、一人の女とすれ違った。しかし暗闇に満ちているこの場所で姿を見ることはほとんど不可能。俺は一瞬振り返りはしたが、目の前のトイレまでそのまま駆け込んだ。
 トイレの中だけはしっかりと明かりが灯っている。中は相変わらず豪華な造りだ。あのジェット機は、もしかしたらディヴァインが契約者に提供しているものかもしれない。トイレの造りがどことなく似ている。この時、華道坂が『DJ.01』を日本と言っていたことを思いだした。当然、他にも同じようなジェット機があっても不思議ではない。そんなことを考えながら用を足し、まるで生まれ変わったかのような落ち着きを取り戻した。
「よし! 戻るか」
 俺は手を洗い終えると鏡の前の自分にそう言った。
 トイレに入る時とは別人のように堂々と、そして優雅にクレアが待つエントランスの入口へ向かった。
「待たせたな! 準備オーケーだ!」
「さっきまで焦ってたくせに随分元気になったねぇ」
「まぁな! ……ところでさ」
 俺は先ほどすれ違った女性についてクレアに質問をした。
「お前確かソルジャーってここには入れないって言ったよな?」
「うん。入れないよ!」
「さっき俺とすれ違ったやつがこっちに来たはずなんだけど、あいつはソルジャーじゃないのか?」
 もしソルジャーだとしたら、あいつも俺と一緒でお偉いさんに呼ばれたのかもしれない。
「……ん? なんのこと?」
「いや……だからさ、俺がトイレに向かった時すれ違った女だよ! 脇道とかなかったからこっちに来てるはずだぞ」
「……あたしずっとそっち見てたけど、女の子なんかいなかったよ?」
 暗くてよくクレアの表情が見えなかったが、声色から察するに『なに言ってんの?』という表情をしているのが伺える。しかしそんなはずはない。確かに俺はすれ違いざまに女を見た。ほとんどシルエット程度しか見えなかったが、膝よりも下まである髪をなびかせて歩いていて小柄な女。頭上には自分の頭と同等サイズのリボンのようなものをつけているのもわかった。その程度しかわからないが、間違いなくあれは生きている人間だ。
「幽霊でも見たんじゃないのぉ?」
「馬鹿かっ! あれは間違いなく人間だった」
 通路は一ヶ所。その先にはクレアがいる。そんな状況で、クレアに気づかれず姿を消す人間。ただ者ではないと確信した。
 俺は動揺を隠すため『こうであって欲しい』という感情でボソッと口を開いた。
「ウ、ウィンド使ったのかな……」
「そんなはずないよ。ウィンドだったらあたしには効かないし」
「……だよな……」
 微かな希望も一瞬で潰えた。クラスBのクレアが気づかないほどの能力者。恐ろしくて横を通り過ぎたという事実を信じたくなかった。
「……さっ! そんなことより先を急ごうっ!」
「……おう」
 あの女のことはあまり考えないようにして、クレアの言葉に賛同した。
 エントランスの螺旋階段を上り2階へ向かう。どうやら2階からでないとエレベーターがないらしい。階段を上りきり、エレベーターのボタンを押した。
 あと少しだけ照明たちには頑張って欲しいものだ。暗闇で頭がおかしくなりそうな場所。できることならばすぐにでも外に出たい。そう思った。
「遅せぇな……」
「んー。何階もあるからしょうがないよ」
 唯一、クレアの普段と変わらない喋りが俺の気を紛らわせてくれた。
 エレベーターの階数を表すライトが徐々に下がって来て、やっとのことで2階にライトが灯った。そして、到着音と共に扉が開き中へ入った。その途端予想通りの『真っ黒』が俺たちを迎えてくれた。
「……ところでお偉いさんは何階にいるんだ?」
「最上階!」
 俺は階数のボタンを見て驚いた。上は50階から下は地下5階まである。俺はこんなにも高い建物に入ったことなどない。そしてあの偉そうにしていたやつが最上階で待っていることを考えると、無性に腹が立った。
 恐らく会長かなにかにゴマでも擦って役職をもらったのだろう。心の中で沸々と涌き出てくる怒りが俺を支配しそうになった時、エレベーターの到着音が鳴った。クレアよりも先に出てやろうと思った俺は、手をかけていた扉を強く握っていたことに気づいた。
「優鬼落ち着いて!」
 その捨て台詞を残し、クレアが俺を抑え先に降りていく。
 押し戻された俺は、閉まりそうになる扉を手で押さえ無理矢理エレベーターから出た。
「おい待て! お前今押し戻したろ俺のこと!! あと少しでドア閉まるとこだったじゃねぇかよ!!」
「しっ!! 静かに!」
「……あ?」
 俺はあたりを見渡した。気づけば、ここには真っ黒の壁はなにひとつなかった。俺たちの横には高さ1メートルはあろうかというほど値が張りそうな壺が置かれている。そして少し離れたところに室内用の滝が流れていた。マイナスイオンが好物なのだろうか。そうだとしても、そこまでしなくてもいいだろう。俺には部屋に滝を設置するという発想が理解できない。床一面に敷き詰められたアイボリー色の大理石の先には数段の階段があり、さらにその先には、先ほどまではないと思っていた窓があった。しかもその窓は壁一面あり、まるで巨大水槽を見ているかのような感覚になった。空の雲が少し近く感じられたのは、ここが高層ビルの最上階だからだろう。
「なんだここ……部屋に滝って……」
「優鬼。そんなことより、あそこにいるのが優鬼が言ってた『お偉いさん』だよ」
「ん? どこだ?」
 俺は壁一面の窓と手前の階段の間にピントを合わせた。窓の巨大さで目に入っていなかったが、そこには長方形の木製机があり、龍と虎が深く彫られている。
 そこの椅子には、両手を自分の前で組み、座ったままこちらを見つめているやつがいた。しかし逆行で容姿などはあまり見えない。
「3日ぶりですね桐谷君。そんなところにいないで、二人とももっとこっちに来たらどうですか?」
「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけねぇんだよ! 大体なんでてめぇがそこの椅子に……」
 その瞬間久しぶりにクレアの打撃を喰らい、意識を失いそうになったが後悔はしない。
 俺は、クレアの一撃によって負傷した頬を抑えながら、クレアに腕を引っ張られてやつの前までいった。
「ようこそ。改めまして、私がディヴァイン・ジャッジメントの会長、アイザックです。イサクとでも呼んでください」
「……え?」


【6話の2】へつづく……



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