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【6話の2】連載中『Magic of Ghost』

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※この記事は【6話の1】の続きです。


 俺は耳を疑った。目の前にいるこの男がディヴァインの会長だとすると、3日前に俺の目の前に立っていたやつも当然ここの会長。俺はずっと『会長のご機嫌取り』かなにかかと思っていたが、そうではなかったらしい。歳は恐らく30代半ばほど。若干のパーマがかかった銀髪のオールバックを片手でかきあげている。眼は鋭く、どう見てもキザなやつにしか見えない。銀色の瞳が俺たちを笑顔で見つめているが、そもそもクレアは『一応偉い人なんだから』と言っていた。一応どころか、ディヴァインで一番偉いということになる。俺は横にいるクレアにやっと届くほどの声で小言を叩いた。
「……お前……一応偉いじゃねぇよ。会長じゃねぇかよ……」
「あれ……一応なんて言ったっけ?」
「てめっ!」
 ニヤケ混じりでなかなかふざけたことを言ってくれるが、今はそれはいいとしよう。この男が俺を合格させてくれたことに間違いないだろう。一応礼を言うのが筋というものだ。そう思い、俺は男に向け言葉をかけた。
「……この度はありがとうございます。これからはソルジャーとして精進していきます」
「ふふ。そんなに硬くならないでください。私は君の誰にも屈しない心が気に入ったのです。君は君らしく、そのままの心でいてください」
「はぁ……ありがとうございます」
 なかなか色々な視点からものを見るようだ。上から目線になるが、さすがはディヴァインの会長といったところだろう。複雑な心境だったが、今まで通りでいいと言っているので、ある程度はこのままでいかせてもらおう。俺の思考回路がそう決断を下した。
「ところでクレアさん」
「はい!」
「2ヶ月ぶりにロスに来たんですから、彼に街を案内しながら、少し外を見てきてはどうですか?」
 思わず俺も行くのかと突っ込みを入れてしまいそうになったが、俺にはロスの街を観光する以前に、気になることがひとつだけ残っている。それを聞かないことには、楽しくロス巡りなどできる気がしない。
「あの……会長……」
「イサクでいいですよ」
「……はぁ。じゃあイサクさん」
 どうも気さく過ぎて調子がズレる。ディヴァインの会長がここまで自分の立場を上だと感じさせない人だとは思わなかった。俺はそういう人間は嫌いじゃない。それが理由か、少しだけ心を開けそうな気がする。
「さっき1階でトイレに行ったんですけど、その時一人の女性とすれ違ったんです。あの人はソルジャーですか?」
「…………」
「間違いなくクレアの方に向かっていったんですけど、クレアはそんな人見てないって言うし……。ウィンドだってクレアには効果ないし……」
 なにやら俺の話を聞いた途端、イサクさんの顔から笑顔が消えた。そして俺の目を見つめ、こう言った。
「……君には……彼女が見えていたのですね……?」
「……いや、見えたって言うか、……生きてる人でしょ?」
「そうですか……。そんなにはっきりと……」
 まるで死人のような言い方に、一瞬なにを言っているのだろうと思ったが、死人と生きている人間を見間違えるほど錆びついてはいない。
「君の言う通り彼女は生きています。ただ……」
「……ただ?」
「このままでは桐谷君……君は確実に殺されます」
「…………」
 その言葉に思わず息をのんだ。話が掴めない。何故通り過ぎただけで殺されなければいけないのか。俺は自分の口に鍵をかけたままイサクさんの次の言葉をひたすら待った。
「……できることなら、彼女にだけは会って欲しくなかった。……と言うより、会ってはいけない存在なのです。……そういう意味ではクレアさんは命拾いをしました。……これではあまりにもタイミングが悪過ぎる」
「…………」
 俺たちは言葉を失った。俺は殺されるということに。恐らくクレアは自分が見ることさえ許されなかったということにだろう。何故俺には見えてしまったのか、疑問に思うことだらけだ。
「この際ですから、彼女の通称を教えましょう」
 組んでいた手で口元を隠していたイサクさんが、重々しくこちらを見つめながら言った。
 当然可愛らしい通称ではないことは、言われる前に理解している。
「……Death(デス)……。日本では死や、死神という意味になります」
「……死神……」
「彼女の姿を見た者は、数日間の違いはあるにしろ、約1ヶ月後に確実に殺されています。どうやったらあんな状態になるのか……彼女を見た者は全員体の原形を留めることなく発見されています。例えそれがクレアさんと同じ、クラスBのソルジャーだったとしても……」
 クレアと同等の階級を持つソルジャーですら無残に殺されている。俺はソルジャーになったばかりで、そしてその1ヶ月後には殺される運命。どう考えても信じられない。と言うより、信じたくない気持ちでいっぱいだった。
「ど、どうすれば生き残ることができるんですか?」
「……わかりません。なにしろ生き残った者がいないので……」
 再びイサクさんの表情が両手の中に隠れていった。
 俺は、なんとしてでもあいつから生き残って見せる、もうそのことしか頭にはなかった。
「イサクさん! あいつは何者なんですか!? 死神っていっても人間なんでしょ!?」
「……えぇ。説明した方がよさそうですね。……実は、君たちが来る少し前まで彼女はここにいました」
 イサクさんはその言葉と共に床を指差した。何故この人は殺されないのだろうか。俺にもなにか方法があるはずだ。その方法をいち早く知りたかった。しかし、その気持ちを押し殺して話を聞くことにした。そしてイサクさんは続けた。
「彼女はソルジャーではありません。かといって敵というわけでもありません。混乱するとは思いますが、よく聞いてください。彼女はディヴァインとはまったく関係のない方です。ディヴァインは、トレイニーを合わせれば2,000人以上はいます。しかし、彼女のいる組織はたったの7人で構成されています。その組織の名は、『Eyes of the devil(アイズ・オブ・ザ・デビル)』です。日本語で言えば悪魔の眼といったところでしょう」
「…………(アイズ・オブ・ザ・デビル)」
 一体どんな組織なのか。そもそもスピリッツ・ワールドはソルジャーでさえ入れない場所のはず。それなのに何故ディヴァインに関係のないやつが入れるのか、俺の中の疑問が一気に膨れ上がった。
「エビル・スピリッツを退治するディヴァインとは違って、自分たちにとって邪魔になる者はエビル・スピリッツでも人間でも、容赦なく消すというのを生業にしている闇組織の住人です」
 その言葉を聞き、校長が以前エビル・スピリッツは悪霊のことだと言っていたのを思い出した。同じような組織があると聞いてはいたが、どうやらディヴァイン系の組織とはまったく別物のようだ。残忍な人間7人が集まってできたと思ってまず間違いはないだろう。
「彼女が殺そうと思えば恐らく私でも敵わないでしょう。私が殺されないのは、別に私が強いからというわけではありません。アイズ・オブ・ザ・デビル……この組織を知っている人間は全員『アイズ』と呼んでいます。先ほどの女性とディヴァインの長である私が契約を結んでいるのです」
「……契約?」
 俺はイサクさんから目を逸らすことができず、告げられた言葉の意味を必死に理解しようとしていた。
「……はい。契約の内容は、ディヴァインに力を貸す代わりに、ディヴァインのソルジャーだとしても狙った者は殺すという内容です」
「……は? おい、それどういう意味だよ」
 いきなりなにを言い出すのかと思えば、この男は理解しがたいことを口にした。自分の組織の連中が殺されてもいいというようにしか聞こえず、俺は思わず口調が荒くなった。
「それだけディヴァインにとってアイズの力は絶大なのです。しかし、私とてここの人間が殺されるのを許したわけではありません。ソルジャーたちにはアイズに殺されることのないように強くなって欲しい。それもあり過酷な試練も与えているのです」
「なに言ってんだよあんた!! クラスBでも敵わないんだろ? そもそも会長のあんただって殺されるんだろ? そんなやつ相手に1,800人のトレイニーは当然、ここの連中全員敵うわけねぇだろっ!」
「……確かにそうです。最近はまったくと言っていいほど、ソルジャーを狙うということはありませんでした。彼女たちが狙うのはソルジャーはソルジャーでも、自分たちにとって将来恐ろしい敵になり得る可能性を秘めた者だけなのです。ですので、現段階でソルジャーが狙われることはほとんどありません。ターゲット以外には姿を現しませんし。そういう意味では桐谷君は彼女たちにとって末恐ろしいということなのです」
 将来末恐ろしい可能性を秘めている。俺に対するそんな小言はどうだってよかった。この男が今まで何人のソルジャーを犠牲にしてきたか、そう思うと俺は腹の底から怒りが込み上がってきた。
「……ところであんた、自分も殺されるって言ってたよな?」
「……えぇ……場合によっては恐らく……」
「あんた階級あんのか?」
 俺はこの男にソルジャーとしての階級があろうとなかろうとどうだってよかった。俺が知りたいのはこの男の実力だ。
「階級はありません……。なにしろ私が皆さんの階級をつけているので。……ただ敢えて階級をつけるのなら、私はクラスAの中位と言ったところでしょう」
「……あんたクラスSじゃねぇのか。そもそもクラスAなら暴走した時の俺を止められたんじゃねぇのか?」
「クラスSのディエティに関しては私も正直会ったことがありません。私がつけられる階級はクラスAまでです。昔、先代からクラスSの方がこのディヴァインにいたとは聞きましたが、今はその存在を知る者はいません。それと、あの時の君を私が止めれたと言いましたね? それは不可能です。今の私は事情があり、階級で言えばクラスCの下位まで落ちています。あの時の君は間違いなくそれ以上はありました。ただ、普通の霊圧とはなにかが違っていて、あの場で階級をつけるということはできませんでした」
 実力がクラスAでも場合によっては敵わないかもしれない。俺は早速とんでもないやつに目をつけられたらしい。
 今この男のしてきたことに文句を言っても始まらない。これから1ヶ月間どうしていくかが鍵となっていた。
「クレア……ウィンドなんかより、俺に稽古をつけてくれ……」
「……いいけど……どうするつもり?」
「決まってんだろ! あの女をぶっ倒すんだよ!!」
 俺はなんの根拠もない自信をつけざるを得なかった。とにかく強くなるしか道は残されていない。それでダメなら潔く諦めるしかない。その時は確実に死が待っているだろう。俺は覚悟を決めた。
「アイザック。あんたのやったことは許せない。ただ、今は俺を狙ってるんだろ? じゃあ他の連中は狙われないってことだよな?」
「……断言はできませんが、今まで複数のターゲットを同時に狙ったことはないので、恐らく今のターゲットは桐谷君一人でしょう」
「……上等」
 これで他の連中は狙われないことがわかった。あとは俺がどれだけ強くなるかが問題になってくる。ここでのんびりしている暇などは一切ない。早速クレアに稽古をつけてもらい、一日でも早く基礎霊圧を高める必要があった。
「よしクレア! すぐ稽古だ!!」
「……わかった」
 俺たちが会長室から立ち去ろうとした時、アイザックの口が開いた。
「訓練をするのならここの地下を使ってください。ここは地下5階まであるのですが、部屋のすべてがベースボール場ほどの広さがあります。そこで訓練をするといいでしょう」
「……どうも」
 そして、俺たちはエレベーターのボタンを押した。先ほど降りた時のまま動いていないのですぐに開いた。そして、入る寸前に最後の質問をアイザックに投げかけた。
「俺を狙ってるさっきの女……あいつ名前なんて言うんだ? 死神は通称だろ」
「……えぇ。7人それぞれ名前はあります」
「これから戦うっていうのに名前も知らないやつに殺されるかもしれないなんてごめんなんでな。知ってんなら教えてくれ」
 これが気になっていた最後の質問だ。
「君が1階ですれ違った女性の名は……」
「んだよっ! 閉まるから早く言えよっ!」
 もったいぶっていたのか言いたくなかったのか、扉が閉まる瞬間、やっとアイザックの口が動き出した。
「……華道坂麗夢(かどうざかれむ)」
「…………マジかよ」


【7話の1】へつづく……


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