オーロラに駆けるサムライ(4)犬ぞりでの初遠征
(前回)捕鯨船に3年間80ドルで売られた17歳の少年ジェームス、3年間極寒の北極圏での捕鯨船での生活を強いられた。人生初めて北極圏内で犬ぞり遠征隊に加わり片道300kmを駆けぬける。どんな困難が彼をまちうけるのだろうか?
どんな人間でも犬と友達になることができるが、協調関係を築くには長い時間がかかり、互いに信頼しあい、互いに寛容であり、互いを認め合う必要がある。全ての犬が人間の仲間に向いているわけではない。また、全ての人間が犬の仲間としてふさわしいわけでもないだろう。(ハドソン・スタック大執事)
進め!マッシュ!
「マッシュ! マッシュ!」「そうだ!もう少しだ!」
犬ぞりのチームは一連の掛け声を使って編隊を組む。 進めは「マッシュ!」左折のコマンドは「ギー」、右折は「ハウ」、 止まれは「ウォア!」
「ジェームス、お前だいぶうまくなってきたな!」とハーシェル島から同行しているニューポート号船員のトーマスが声をかけた。
犬ぞりを乗りこなすには、犬とのコミュニケーションが重要だ。難しいのは、犬の気持ちを人間がくみ取ってやらないといけないところだ。相手は言葉をしゃべってくれない。そうすると、日ごろから犬たちと接することで何を伝えようとしているのかが自然と分かるようになる。
通常、北極圏向けの捕鯨船には必ず1~2匹の犬が乗っていた。ジェームスのバラエナ号にも1匹の猟犬ともう1匹はアラスカン・ハスキーが飼われていたと記録されている。また、ジェームスは船上コックとして働いていたから、毎日の餌付けで犬たちとのコミュニケーションはお手のものであっただろう。
実際にジェームスに会ったことのある初老の日系人からは、「バラエナ号で犬とのコミュニケーションを学び、犬の気持ちが手に取るように分かるようになった言っていた」と聞いている。
(諸説あるが、アラスカン・ハスキーは人の手で作られた混血犬と言われている。シベリアン・ハスキーと狼を何代も交配させたり、力の強いハスキー同士を組合わせたりと色々あるようだ。この話は、また別の機会に述べることにしよう。)
Shingle Point
「ウォア!止まれ、今日はここまでだ。」
ようやくシングル・ポイントに到着した。
ハーシェル島からシングル・ポイントまで約50km、犬ぞりは平均1日30-40kmを走るといわれているが、ジェームスたちは比較的早いペースで進んでいるといえる。これも、道案内のエスキモーのおかげだろう。天気が良かったこともある。
「トーマス、全くなんて広さなんだ!凍り付いた北極海の海岸線、そして何もない広大なツンドラをはしっているだけで、自分の存在がちっぽけに感じる。」
「なにを言っているんだ、目的地のリチャード島まであと4日もあるんだ、毎日自然条件が変化する、雪の質も変化する、気を抜くなよ!」とトーマスが叱咤激励した。
はじめてのオーロラ
ジェームスはここにきて、生まれて初めて天女の羽衣を見た。月の出ない1日の夜、北の水平線から虹のような光のような光の、広大な壁が昇り始めた。
「虹だ。いや、違う」
うねる壁は、瞬間に赤と緑に変わり、その形は一瞬の間も停まることなく千変万化を遂げてゆく。弁天様の羽衣になった。天女の羽衣になった。
「これが、バラエナ号に乗っていた時に、船員たちが時々拝んでいたキリシタンの神かもしれない」
本が読める明るさだ。ジェームスは懐から本を取り出してぺらぺらとめくり、キリシタンノカミ、アラワルとカタカナで書き記した。
「ヒュー、ヒュー」と動物か何かが鳴いている声が聞こえた。あたりを見まわしたが、なんの気配もかんじられなかった。
真っ暗な音のない世界をゆうゆうと舞っている羽衣は、数時間のうちに頭上に達して、徐々に色あせて消えていった。
気がつくと、薄明かりの中に入江で動く人影が見えた。道案内に同行していたエスキモーの青年だった。
「あれは何というんだ?」とジェームスは聞いた。
「オーロラだ。ヒュー、ヒューと口笛を吹けばオーロラは近づいてくるんだ」
ジェームスは、緑かかった大きなオーロラが渦巻く姿を見るて満足したようだった
月齢(月の満ち欠け)の影響も大きいのと、オーロラの光はそれほど強くないので、新月の方が見やすいといわれている。
(まとめ)人生初めて北極圏内の犬ぞり遠征隊に加わり片道300kmを駆けぬける。初めてのオーロラを体験し、新たなる希望を見つけた17歳のジェームス・和田。ここから北極圏の本当の厳しさを思い知ることになる。
ーつづくー
<コラム:オーロラの背景で輝く無数の星>
アラスカと言えば「オーロラ」と思う方が大変多いと思いますが、オーロラの後ろで輝く無数の星も大変魅力的だ。
オーロラの出現をずーと待つ間、夜空を見上げてみるのも気分がそうかいです。オーロラが出現する前の真っ暗な夜空で輝く星は、ひっそりとした静けさの表しているかのようで、とても神秘的です。アラスカは、空気が大変澄んでいるため、星も大変美しく見え、夜空に雲がかからなければ、季節を問わず天の川もくっきりとみえる。
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