マガジンのカバー画像

嘘日記

367
全部嘘で日記を書いています。 日記をまともに書いてこなかったので、体裁として日記になっていない部分が弱点です。 1000文字程度の短いストーリー集としてお楽しみ下さい。
運営しているクリエイター

2023年9月の記事一覧

噓日記 9/30 好きな短歌を紹介します

噓日記 9/30 好きな短歌を紹介します

好きな短歌を紹介したいと思い筆をとった。
先の短歌に出会った時、私はそれが孕んだ人生の冷たさと人間の体温が作る平熱にいたく感嘆した。
パック寿司の蓋のペラペラな材質に、開け放たれた醤油がパタパタと音を立てて溜まり、それが端の方に流れていく。
その流れをコントロールするために蓋の下にちょっとしたメモ帳なんかを挟み込んで手前に醤油を流す。
パックの端の方にある鯛の握りを割り箸で摘んで、溜まった醤油にち

もっとみる
噓日記 9/29 月がこんなに大きいから

噓日記 9/29 月がこんなに大きいから

仕事を終えた帰路、ふと見上げた空に浮かぶ月の大きさに面食らった。
満月ということもあるが、なんともまんまるで大きな月がまるで落ちてきているんじゃないかというくらいに空を占有していて、俺の心にまで沈み込んできた。
思わず立ち止まり、口を開いたまま空を見上げた。
呆然というか、圧倒というか。
今までそこにあったことに気付けないほど側にあった月が、今日は俺に語りかけてくれる。
落ちてくる月の光が体を透か

もっとみる
噓日記 9/28 昔買った漫画

噓日記 9/28 昔買った漫画

電子書籍で昔買った完結済みの漫画を読み返している。
本は改めて読み返す度に新たな発見があるというが、正しくそれを味わっている。
そう、何も覚えていないのだ。
びっくりするくらい何も覚えていない。
主人公の名前くらいしか本当に覚えていない。
俺、この漫画読んだことあるの?
最近読み返した漫画で言うとグラップラー刃牙。
誰と誰が戦ったのかさえ覚えていないし、勝ち方も覚えていないし、勝者さえも覚えていな

もっとみる
噓日記 9/27 名前で

噓日記 9/27 名前で

俺の名前で君を呼びたい。
そんなふうに思うことは贅沢だろうか。
それとも時代錯誤だろうか。
俺は、俺の苗字を名乗る誰かを待っている。
なんなら君の苗字で俺を呼んでくれ。
もう一人で生きていく自信がないの。
丁度めぞん一刻の音無響子と同じメンタリティで生きている。
そんな俺を過去ごと愛してくれる五代くんような人はいないものだろうか。
ちなみに俺に響子さんのような劇的な過去は何もない。
真緑色の部屋で

もっとみる
噓日記 9/26 しない挨拶、ごきげんよう

噓日記 9/26 しない挨拶、ごきげんよう

俺にはしたことがない挨拶がある。
俺どころかほとんどの人間がしたことがない挨拶かもしれない。
そして今後もすることがない挨拶。
それは「ごきげんよう」だ。
ちょっと女子校すぎる。
カトリック系の女子校じゃないとごきげんようなんて言わないし、言ってても多分俺は許せない。
でもピッタピタの修道服を着たシスターにはごきげんようって言われたい。
俺はごきげんようなんて小堺一機の口からしか聞いたことがないの

もっとみる
噓日記 9/25 知覚する苦しみ

噓日記 9/25 知覚する苦しみ

テレビを見れば暗いニュース。
PCを開けば暗いニュース。
スマホを触れば暗いニュース。
日常にはいつだって靄がかかっている。
暗く重たく、そしていつだって湿度を伴った悪意だけが満ち足りている。
それから逃れたくて、それでも誰かと繋がりたくて違うデバイスに逃げ込んだとしても、同じように悪意はそこにある。
誰かが盗み、誰かが盗まれ。
誰かが不貞を働いて、誰がが不貞を働かれ。
誰かが殺し、誰かが死んでゆ

もっとみる
噓日記 9/24 映画の話

噓日記 9/24 映画の話

突然だがキャストアウェイという映画を見たことがあるだろうか。
無人島に流れ着いたトムハンクスがボールにウィルソンと名付けて島から脱出する物語だ。
あらすじだけ書くと意味が分からないと思うが、私も意味が分かっていない。
だって見たことがないから。
名作だよとか面白いよとか、何度か友人に言われたことがあるのだが全然見たことがない。
だって教えてもらったあらすじが意味分からないから。
だから前述のカスみ

もっとみる
噓日記 9/23 秋の嘘ファッションマガジン

噓日記 9/23 秋の嘘ファッションマガジン

夏の終わりなのか、秋の始まりなのか分からない時期が丁度今だ。
暦の上ではかなり前から秋とは言うものの、最高気温が30℃を優に超える日々を過ごし、そんな日々が秋であると納得できる人間はなかなかいないだろう。
年々、四季の境界が曖昧になっていく感覚を覚えるのは私だけであろうか。
2028年、二季になる。
夏冬になる。
冗談はさておいて、苦しかった夏も終わりを迎え、秋らしさを微塵だけ感じられるようになっ

もっとみる
噓日記 9/22 赤子あやし

噓日記 9/22 赤子あやし

赤子を街で見かけるとおどけた顔をしてしまうのは私だけではないだろう。
私の場合はあやす、とまではいかないが赤子と目が合えばとりあえず寄り目をしてどうにか笑わせてやろうと画策する。
自我も芽生えぬ1歳くらいまでの赤子は大抵親に抱き抱えられて進行方向の反対を向いているから格好の的だ。
その後ろについて親の歩調を乱さないように気を付けながらも、赤子を愛でる。
愛でるついでに笑顔を貰おうとしてみるのだ。

もっとみる
噓日記 9/21 可愛いと立ち行かなさ

噓日記 9/21 可愛いと立ち行かなさ

昨今の流行キャラクター事情から、可愛いという属性に訪れた変化について考察したい。
今にして過去の人気キャラクターたちを紐解いていくと彼らの持つ可愛いという属性は酷く記号的であったように思える。
赤子のように頭部が大きなデザイン、顔の下半分にパーツの多くが配置され、各パーツのうち目などの印象的な部分が比較的大きく、口や鼻などのディティールにおけるノイズになりがちなパーツを小さくもしくは完全に廃したキ

もっとみる
噓日記 9/20 昔貰った褒め言葉

噓日記 9/20 昔貰った褒め言葉

昔貰った褒め言葉がいつまでも胸の奥でひっかかって、消えることなく残り続ける。
もしかしたら、これを誇りというのかもしれない。
忘れもしない。
これは中学3年の頃の話だ。
当時の俺は全校生徒からの投票で当選した生徒会の役員で、まぁ自分で言うのもなんだが学校の人気者だった。
同級生から後輩までいろんなジャンルの人間から好意を持たれる人間であろうとしたし、少なからず好意を持たれている自覚もあった。
だが

もっとみる
噓日記 9/19 イマジナリー彼女

噓日記 9/19 イマジナリー彼女

スマートフォンでネットを見ればパーソナライズされたマッチングアプリの広告ばかり、それに疲れてnoteを開けば何故か勧められるデートのハウツー記事。
筒抜けだ。
全部全部巨大な資本に俺の孤独が筒抜けになっている。
正直マッチングアプリをやれと親族一同から脅しのように言われているし、noteもファッションとモテ関連の記事ばかり読んでしまうから仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。
だが、こういっ

もっとみる
噓日記 9/18 回転寿司

噓日記 9/18 回転寿司

コロナ禍になって初めてだろうか、久々に回転寿司屋に足を運んでみたら寿司が一切回転していなかった。
アイデンティティを失った回転寿司業界は今何を思うのか、そう考えるとこの数年で世界は大きく変革を遂げている。
かつての回転寿司といえば皿に乗ったシャリ飯に魚の死骸を乗せた何かが無尽蔵に店内を回転し続けるという酷く非倫理的なものであったが、現在ではタッチパネルで注文し、注文したものだけが各客席に届けられる

もっとみる
噓日記 9/17 笑える偏見

噓日記 9/17 笑える偏見

笑える偏見というものに世間はもっと寛大になってもいい気がする。
もちろんこんな世の中だ、差別の温床になるような穿った見方から生まれる偏見は滅ぶべきだし、あってはならないことだと思う。
だが、親しい仲の友人同士で意味もなく偏見をぶつけ合う面白さというのもまた許されるべきだと思っている。
例えば友人の家に初めて招かれるとする。
そこで友人が拘っていそうな内装を先に予想するのだ。
それも立派な偏見である

もっとみる