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本気の汁をすすり、京の夜は更けていく

切っても切り離せない、日本人とみそ汁。
幼い頃から親しんだみそ汁からはなかなか離れられない。
もうすっかり舌に身体に染みついているのだ。

みそには、米みそ、麦みそ、豆みそなどがあり、地域性がある。
昔何かで目にしたみその分布図では、九州+山口+愛媛が麦みそ、愛知が豆みそ、その他は米みそが優勢とあった。
兵庫生まれ、兵庫育ちである僕は米みそ文化ということになる。

大学生活は京都だったが、せっかくだから京都らしいバイトをしたいと思い、南禅寺塔頭の料理屋でひたすら豆腐田楽を炙る仕事をした。
1月だったため、昼のまかないは雑煮だった。
京の白みそ、初めましてだった。
白みそも米みその一つだ。

神戸で親しんだ米みそよりやけに白いなとは思った。
思ったが、とくに気にも留めなかった。
そして飲んでみて…もう少しで吐き出すところだった。
僕が生来大の苦手とするホットミルクを思い出してしまったからだ。
もちろん白みそには何の罪もない。

こんなにどろっと甘いみそ汁があるなんて…
これはムリ、ちょっと飲めないと思った。
いくら大人になってもムリって…そのときは…そう…思っていた。

***

京の町の真ん中に、汁の店がある。
加茂川の西、河原町の東――〈志る幸(しるこう)〉だ。

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創業は昭和7年というから今年で92年になる。
ふつうなら十分老舗の域だが、京都ではひよっこにも見える。

建物は、幕末の勤王志士・古高俊太郎が潜伏した枡屋だったとされる。
狭い店内は一風変わった雰囲気。

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能舞台を模したという小上がりの座敷は店員のエリアで、その縁がカウンター席になっている。

さらにそのカウンターをぐるりと取り囲むように、三条大橋に見立てた欄干のついた席が壁際に配される。

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客は全員横並びになって店の中心を見守るような配置。

汁が出るまではお酒の時間。
お供に生麩、たこ甘露煮、新香。

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お酒が進む、いや止まらない。

汁は白みそ、赤みそ、すましから選ぶことができる。
そらぁもちろん京の汁といえば白みそしかないでしょ…え? 何か?

基本の具は豆腐だが、追加料金を払えば替えることができる。
三つ上の写真で、たい、くしら(くじら)、はまくり(はまぐり)…と並んだ黒い札が具のメニューだ。

そしてついに来た、汁。
なめこの白みそ、名物のかやくご飯とともに。

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椀のフタを外すと、ふわぁっとダシが香る。

そしてずずっと汁をすすると…なんだこの極上の優しい甘み。
こんなに一杯の汁に向き合い味わったことがあるだろうか。

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幕末の緊迫した空気も残っているのだろうか、少し背筋をピンと伸ばしながら、本気の汁をすすり、京の夜は更けていく。
これだから白みそはやめられない…え? 何か?

(2022/7/26記)

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