[カナシミペディア]_001 <かなしみ> 悲しみ・哀しみ・愛しみ・美しみ
こちらは<悲嘆をめぐる言葉たち>を粛々と収集していくマガジンです。
初回は、悲嘆の源流とも言えるやまと言葉
<かなしみ>をとりあげます。
第1回 <かなしみ>
まずは自分の本棚から、
「悲」という文字のつく書籍をざっと背取りしてみました。
けっこうありました。
悲しみ、悲嘆、グリーフという言葉を見ると、買ってしまいます。
悲嘆本コレクターかもしれません🥺
かなしみの語源について
さて。
はじめに
<かなしみ>という日本語の語源について、
語ってみようと思います。
わたしは、通常、
「悲」「哀」という漢字をあてず、
「かなしみ」と、ひらいた表記にしています。
理由は、
悲哀だけに限らない、
「愛しみ」というニュアンスをこめたいから、です。
「愛しみ」も「かなしみ」と読みます。
「愛しみ」とはなにか。
古くから、日本には、
「かなし」という言葉があります。
かぎりなく かなしと思ひて 河内へも行かずなりにけり。
(筒井筒『伊勢物語』)
訳:(妻を)めっちゃ愛おしく思い、(愛人のいる)河内には行かなくなった。
この話、高校の古典の授業で習いました。
ざっくりいうと、
幼なじみとむずばれたモテ男の浮気エピソードです。
(その頃、父親が浮気をしていたので、勝手な話だな・・と思った覚えが🥺)
この話をはじめとして、
「愛(かな)し」の訳は、繰り返し、古典の試験問題に出てきました。
いまとは用いかたが異なるので、繰り返し問いやすかったのでしょうね。
この『伊勢物語』のお話のように、古くは、
「いとおしい」
「かわいくてたまらない」
といった意味で、「愛(かな)し」が使われていました。
さらに、万葉集や古今和歌集には、
「しみじみとこころひかれる」
「こころにしみる」
といった意味で用いられている歌があります。
もともとの意味はどこから来ているのか。
知りたくなって、いろいろな辞典を調べてみました。
その結果。
「かなし」は、
「〜しかねる」
という言葉の「かね」と同じルーツとされていることがわかりました。
ことばが追いつきかねる → かねし → かなし
つまり、
気持ちはあふれているのに、
とうてい言葉や力では追いつけないような、
いとしさ、せつなさがある。
言葉にはできないけれど、
自分のなかに響いている感情。
簡単に、言葉や行動にはできかねるような深みのある広大な思い。
そのひとだけに瞬間湧き上がっているおびただしいオリジナル。
それを<ひとこと>に込め、表しているのが、
「かなしみ」という言葉です。
追いつかない思いを表す言葉
つかもうとしても、追いつかない。
言葉に出来ない。
つかみきれない。
そんな気持ちが、かなし。
とても愛おしい表現です。
おおいなるものをみつめるときの謙虚な姿勢をかんじます。
夫を亡くしてから、
わたしは「かなしい」と口に出すことに抵抗がありました。
「こんな気持ち、<かなしい>というひとことでは表せない」
そう思っていました。
夫の死にかんして、十年以上の月日にわたり、いろいろな思いが押し寄せました。
怒りもあったし、感謝もあった。
彼が居ないことがただたださびしかった。
やり場のない、どこにも届かないだろうという気持ちにあふれる日々でした。
誰にもわかってもらえるはずがない。
自分だけで抱えていればいい。
そう思ってもいました。
それなのに、こころは誰かに語るための場を求めていました。
「かなしい」の暴走です。
かなしみがはげしく上下し、右往左往しました。
ねじ伏せるように、なんとかして言葉にしようとしていたわたしは、
いつしか、かなしみのやつの姿を追いかける、
<カナシミ探偵>になっていました。
冒頭に掲げた本は、
かなしみ捜査の手がかりが得たくて取り寄せたものです。
そうして、読んだことも忘れ、追いつくのを諦めたころ、
「もう、いいや。やつがいることだけを感じていよう」
そんな心境になりました。
詳細な言葉であらわせないからこそ、
「かなしい」というひとことに思いを託すことができる。
シンプルなひとことに託してもいいのだということ。
おそれずに、解釈をなにかにゆだねるということ。
それは祈りなのかもしれない。
いつのまにか、シンプルさをおそれていました。
今回、こうしてnoteに綴るうちに、そのような気持ちを発見しました。
この場を大事にしたいです。
そして。
かなしみのやつを追いかけていたおかげで、
いろいろな書物と出会えました。
なかでも、こちらの2冊。
この2冊には、
かなしみの語源を教えていただき、
自分のなかにあるかなしみと対峙するきっかけをいただきました。
思うに、
現代の若者言葉とされている「かわいい!」や「ぴえん」も、
「かなし」のひとつの表現なんでしょうね。
シンプルな言葉にいろいろな思いが込められている。
「古の日本からのかなし系フィーリングが受け継がれている」
しみじみとそんなことを思いました。
それもまた「かなし」です。
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