【ショートストーリー】コロナ革命後のオリンピック
「早く!もう始まるよ!」
と7歳の男の子が叫び、お母さんのスカートを引っ張る。
「じゃあ、どこで観たいの?」
とお母さんが微笑みながら聞いてみる。
「どこでもいいから、早く!!」
どう見ても、いてもたってもいられない。買い物しているお母さんから離れたり戻ったりしている。
「わかった!わかった!もう終わるから・・・じゃ、今日はアイスなしでいいよね?」
と息子をいじってみる。
「いる!!!」
一瞬、アイスのことを、なんで急いでいるのか、忘れたかのように、お母さんを手で引っ張り、冷凍庫へ連れていく。
「チョコでいい?」
「はい!」
息子が満足そうにしたと思いきや、用事を思い出す。
「あ!!ママ、早く!!」
お母さんがクスッと笑い、お店を出る。 お会計は、出口を通るとき、自動的に会計されるので、レジに並ばないで済むわけだ。
・・・
自宅に戻っている途中、息子がお母さんを向いて尋ねる
「今日誰が勝つと思う?」
「さあね~スイスかな~?」
と笑いながら、再び息子をいじってみる。
「え~ 無理!」どうやらお母さんの話を真剣に受け取ってしまったようだ。
「スイス弱いんだもん!僕はね、ケニヤのロボットがすっごくかっこいいから、勝ってほしいなあ」
「そうね~」息子の真剣な顔を観ながら、にやにやしているお母さんが頷く。
「しかし、台湾は、強いなあ。ママは、誰に勝ってほしいの?」
と突然お母さんの顔を見上げる。
「ん~日本かな~?かわいいし」
「ママはやっぱ女だね」と一瞬で息子が冷める。「うちのクラスの女子もみんな日本がいいって!」
家に着いたら、息子はリビングへ急いで入る。
「もう始まった??」
「そろそろだよ」と孫の元気な姿を見ながらおじいちゃんが返す。
孫はホログラムテレビをつけ、3Dの大きさを調整をしていると、おじいちゃんが新技術を懐かしそうに褒める
「これは何回見ても、感動するわ!昔は、こんなに便利じゃなかったんだよね。テレビは箱の中のものだったし、Wi-Fiはどこでも拾えるわけじゃなかったし、そもそも無料じゃなかったもの。今は便利なもんだな」
「ね、じいちゃん」孫がおじいちゃんの膝の上に座って聞く
「じいちゃんが、若いころ、オリンピックには人が出場してたって本当なの?」
「そうだよ」おじいちゃんが微笑む。「でも、今みたいに争うわけじゃなかったからね。何かしらのスポーツで競争していたんだよね。」
「人間が?!変なの」
「確かに」孫の反応におじいちゃんがつい笑ってしまう。「当時はね、どの国の選手がいちばんなのか、どの国が最も多いメダルを取得できるか、という感じの競争だったんだ。」
「今は、参戦するロボットを開発した研究者が、絶賛されると同じく、昔はスポーツ選手がチヤホヤされていたんだ」
「やっぱり変!」納得いかない孫がずばりいう。「じゃ、何で変わったの?」
何回も話を聞いてるのに、またまた聞いてくる孫におじいちゃんが、わざとしばらく黙り、そして語りだす。
「昔はね、ある感染しやすいと思われていた病気が流行っていて、そのせいか人はあんま外に出れなくなり、仕事を失った人がたくさんいたのね。さらに、みんなが楽しみにしていた、確か、東京オリンピックが延期となってさ。
それから、みんなの生活が大分変り始めてたころ、戦争が起きた。今は第三次世界大戦と呼ばれるやつね。そのとき、戦争は国のために行われた、ただの殺し合いに過ぎないものだった。
そして、病気で、不自由になった人が多く、世界中のみんなは、なんだかんだ、政府や政治に疲れ飽き始めていたのね。政治家は、国民から自由を奪ったあと、別の国まで手を出そうとしていたから、戦争が始まったわけだ。
しかし、疲れていた国民はインターネットを使って、「戦争やめろ!」「政治家戦え!」などと世界中に拡散し、国のために戦争で戦う人が最初のころはいても、どんどん数が減っていき、結局戦う人は一人もいなくなった。それで…」
「あ!始まった!!」孫がホログラムテレビの放送に気づき話に入ってしまう。
「レディース&ジェントルマン!」とオープニングスピーチがはじまる。
「本日をもちまして、新技術のオンパレードの日々が始まります。各国のトップ研究者が開発したロボットの競技で最新技術を楽しまない人はきっといないはずです!
昔、オリンピックは、平和の祭典とされていたのに、決してそうではありませんでした。しかし、第三次世界大戦時のコロナ革命がもたらした新しい動きにより、人間は戦争をやめ、世界中のみんなのために、努力し始めたのです。今の技術の進化は、まさにその結果です!
さて今回のオリンピックはどうなりますか?どんな新しい技術が紹介されるでしょうか?どの研究者がよりよい評価を得られるでしょうか?
私はもうわくわくしてたまらないんですが、ご覧になっている皆様はいかがでしょう?
さてと、無駄な話はさておき、今年のオリンピックはこれより開始いたします・・・」
「ママ、始まったよ~!そして、アイスほしい!!」
応援されるとベロニカは空を飛びそうになるほど喜びます。