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ブックガイド

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読んだ本のまとめ
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記事一覧

2024/07/22ブックガイド 生きのびるための事務

生きのびるための事務
坂口恭平

自分で作品をクリエイトしてる人は必読。筆者の坂口恭平が、心の中の事務マン、ジムと『好きなことだけをして生きて行く』ための事務を超超超超具体的に設定。将来の夢を持つためには、将来の現実の生活を思い描くことが必要。円グラフを書いて、現実の生活とすり合わせ、行動に移せば、誰でもすぐに成功!すぐに海外で活躍!合言葉は、どうせ最後は上手くいく!いやそんなわけねーだろ!って思

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2024/07/20ブックガイド 一輪

一輪
佐伯一麦

三島由紀夫賞受賞のアルースボーイがめちゃくちゃ良かったんだけど、その続編のような本作。トレンディドラマがそのまま文学になっている。自伝的な側面が強く、やっぱり他人のうまくいかなかった恋愛の話はなんぼあってもええな、と思いながらサクサク読めた。喫茶店で時間を忘れて話し込むなんてリアルっぽいけど、まるっきりフィクション。現実は話すことなさすぎて気まずいだけ。いや、俺の経験が少ないだけ

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2024/07/16ブックガイド 眼ある花々

眼ある花々
開高健

タイトル、装丁、薄さ、すべてが良すぎる。常に携帯しておきたいほどクール。文体や言い回しが瀟洒で軽妙洒脱。開高健になりたい人生だった。この紀行文には全てが詰まっている。花、酒、釣り、戦争、歴史、料理、地理、ソバ、茸、宿、季節、神話、人々、言語、植物、知識。たった128ページ。至高の一冊。人目につく場所でポケットから取り出したい本ランキング1位。ただ解説はまじでよくわかんなかった

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2024/07/10ブックガイド 素粒子

素粒子
ミシェル・ウエルベック

ウエルベックを一躍スターダムにのし上げた本作。ミシェルとブリュノという異父兄妹のクソ長い人生記。を何者かが語るという構図。虚構と現実。2人が見つけた天竺。でも幸福は過ぎていく。乱行パーティーやらNTRばっかだけどこれは紛れもなく愛の物語。生物学者のミシェルは自分の人生を生き、未来に何を残したのか。SF的な話の飛躍で終盤は一気に駆け抜けていく。本書は人間に捧げられる

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2024/07/07ブックガイド セミ

セミ
ショーン・タン

我々読書家にとって最高の相棒とは?そう聞かれたら答えは一つ、絵本だ。体感40秒で読み終わるセミの一生。「セミ おはなし する。よい おはなし。かんたんな おはなし。ニンゲンにも わかる おはなし。」セミって思ってたよりもシニカルなんだな。このセミはチキショウ…とは泣かない。トゥク トゥク トゥク!

2024/06/30ブックガイド おだやかに生きたい

おだやかに生きたい
毎日、深呼吸(みこ)

タイトルがすこぶるいい日記本。超個人的な記録なのに共感の嵐。本当に生きるのはしんどい。それも毎日って訳じゃなくて、もちろん楽しい日もある。けどその楽しいブーストもほんの些細な事で崩れたりする。この日記はその上がりと半端じゃない下がりの記録が役一年間毎日書かれている。喧嘩して落ち込んでポテトを食べる。ぬいぐるみをつくって猫と戯れ、推し活をしてポテトを食べる

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2024/06/25ブックガイド 無分別

無分別
オラシオ・カステジャーノス・モヤ

おれの精神は正常ではない、の一文から始まる本書。主人公は、千百枚に及ぶ大量虐殺の報告書の校閲という仕事に従事するなかでバッコリ精神を病んでいく。想像力はさかりのついた犬だ、の言葉通り、妄想が妄想を呼び分別を失っていく。それは勘繰りすぎじゃないか?というこちらの気持ちを完全に無視して暴走する姿にシリアスな笑いを感じた。夜勤明けでしんどい時の気持ちとフィール

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2024/06/19ブックガイド ここはすべての夜明けまえ

ここはすべての夜明けまえ
間宮改衣

第十一回ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞作。融合手術を受け、老いる事のない身体になった主人公。まわりの人間はどんどん死んでいき、家族史を書き始める。ひらがながしゅ体の文しょうでよみにくい。おれじしんかんじがにが手で、ふだんこんなによみずらい文しょうをかいているのかと反せい。こう半にすすむにつれていろんなことがわかってきてせつない。施川ユウキの銀河の死なない子ど

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2024/06/18ブックガイド ブンバップ

ブンバップ
川村有史

これほどストリートのフレイバァがムンムンと薫る歌集はいまだかつてなかったのではないだろうか。当たり前のように韻が踏まれていたり、スケートボードやヒップホップなど作者のバックボーンが感じられる言葉が連なっている。すごく直感的というか、遊びの延長に短歌があるような身近さ、ページ数も丁度いい短さ。短歌の枠組が広がるような新感覚。そもそも閉じられてもいなかったのか。『ぼくは貧乏ぼく

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2024/06/17ブックガイド 沼の夢

沼の夢
工藤吉生

歌人、工藤吉生の最高傑作と帯に書かれている歌集。ユーモアがほとばしりすぎている。普通に笑える。いまだかつてこんなに「オレ」が出てくる歌はなかったんじゃないかと思うほどに前面にオレが出てきている。結局世界の中心はオレであって、そこで見たり聞いたり考えたことが作品になる。オレはオレなんだよ。前作の「世界で1番素晴らしい俺」も読んでみたい。『水曜日はウェドネスデイと覚えてもよいと小声

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2024/06/17ブックガイド オールアラウンドユー

オールアラウンドユー
木下龍也

木下龍也の第3歌集。これはマスターピースと言っても過言じゃないほど素晴らしい。スピンが2本付いていて痺れた。これは2人でひとつずつ好きな歌に挟んでおくという、超リア充専用システムかもしれない。『終わりだけ記念日となる戦争が馬鹿だからまた始まっちまう』『読み終えてややふっくらとした本にあなたの日々が挟まれている』『詩の神に所在を問えばねむそうに答えるAll arou

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2024/06/16ブックガイド ##NAME##

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児玉雨子

芥川賞の候補作になった本作。ジュニアアイドルとして活動していた主人公の雪那。友達の、美砂乃ちゃんに「みさ」「ゆき」と呼び合おうと提案されるもしっくりこず。全編を通してチクチクする嫌な雰囲気が続く。被害者と加害者が逆転するシーンの自分勝手な心情と、それに対するアンサーが痛快。ジュニアアイドル時代の活動が児童ポルノと揶揄され、過去の栄光が一転して闇になる。大人になって初め

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2024/06/11ブックガイド クエーサーと13番目の柱

jgバラードのクラッシュからインスパイアを受けているとされている本書。作中でも言及されている。ネットでの評判は散々だが普通に面白かった。久保帯人ばりのライブ感とドライブ感。細かいことはいいんだよ!不思議なタイトルも最後まで読むと納得できる。終わり方がクソ純文学っぽくて余韻が残る。ラストの引用はRadioheadのAirbag。エンディングに相応しい。

2024/06/09ブックガイド モナドの領域

モナドの領域
筒井康隆

筆者曰く最後の長編。河川敷で女性の方腕が発見されて、その後パン屋さんで、美大生が女性の腕を模したパンを焼き上げ販売される。ミステリーっぽい導入から雲行きが怪しくなり、SFになって哲学に着地して時をかける。終盤はかなり小難しいが、展開自体は最後までワクワクさせられて流石筒井康隆と言わざるを得ない。すげー面白かった。