【海外生活】カナダで看護師として生きる。誰かのために頑張る人が報われる世の中になって欲しい【カナダ】
第21回目は、カナダのバンクーバーの総合病院で看護師として活躍されている小松祐子さんにお話を伺いました。小松さんは日本で助産師と看護師を経験され、一念発起してカナダで看護師になられました。今も産科で働かれており日々新しい命を繋いでいらっしゃいます。外国人がカナダで看護師になるのはとても難しいそうですが、どのように看護師になったのか、その費用や期間、そして看護師としてのリアルな報酬など、今後カナダで看護師を目指す方のために包み隠さず語ってくださいました。小松さんの生き方や想いを少しおすそ分けしてもらった記事がこちらです。
さまざまなバックグラウンドやキャリアを持つ人々が集まる町、カナダ・バンクーバー。そこで活躍する日本人の方々とこれまでのステップや将来への展望を語り合う「カナダ・バンクーバーの今を生きる日本人」。それではどうぞ!
※ビザと看護師の募集要件に関しては常時更新されていますので、最新の情報については必ず専門家にご相談ください
カナダで看護師になるまでの実体験
──小松さんは日本で助産師をされていたとお聞きしましたが、どういった経緯でカナダの産科看護師として働くことになったのですか?
私もワーホリでカナダに来て半年間トロントに行ったんです。でも姉の出産があったのでとりあえず半年間で切り上げ、日本に帰りまた働いていました。私は給料関係なくその病院で勉強したいことがあったのでその病院を選んだのですが、全国展開しているのである日奄美大島に行くことになりました。
──いきなり奄美大島ですか?!それはなかなか過酷ですね
3ヶ月程経った頃、その島に出張看護師が来ていてその中の一人に「私はカナダで看護師になりたいんだ。」っていう方がいたんです。その方はカナダにも滞在していたことがあるそうで「カナダの看護師って4日働いたら5日休みなんだよ。」って聞いたんです。5日休みなんて日本ではありえないですし私もカナダの看護師について詳細は知らなかったんですけど、4日働いて5日休みっていうがもう考えられないくらい良い環境だなと思いました。ワーホリでも行ったことがあったので、もう一度カナダに行ってみようかなと思ったのがこちらへ来たきっかけですね。
──英語は既に勉強されてたと思うんですけど、実際に来られていかがでしたか?
全然でしたね。ワーホリを経験して自分では喋れると思っていたんですけど、実際は全然できてはいなかったです。でもその5日休みのためなら頑張れるかもしれないと思いました。もしかしたら動機が安易に聞こえるかもしれませんが、そのくらいその病院で看護師として働くことが大変で過酷だったんです。結局その病院は3年ほどで辞めてお金を貯めてバンクーバーに来ました。カナダの看護師ってProvincial Nurses(州の看護師)といって公務員なんです。外国人がそこに入ることは正直難しいです。
──やはり難しいんですね
ただ、その当時は1カ所だけ予備校みたいなところがありました。海外で免許を持っている看護師のための予備校みたいなところがあって、縁があって紹介してもらいそこで勉強をすることになりました。
──その学校に入るためには推薦状が必要ですか?
いえ、全然そんなことはなく入り口は誰にでも開かれているんですが、その学校はビザのサポートや仕事先を紹介はしてくれません。本当に勉強のみのサポートでしたね。
──予備校の年間授業料は
当時で年間100万円くらいだったと思うので、今はもっと高いと思います。当時の学生ビザは働けなかったので、日本でしっかり貯めてこちらでものすごい節約しました。すごい貧乏生活を送っていたので、絶対こっちで稼いで使った分を取り戻そうっていうのもモチベーションの一部になっていましたね。
──日本では助産科にいらっしゃったわけですが、ここで看護師として働くにあたって、大学みたいに〇〇科というのを選択できるのですか?
看護師はベースとなるスキルで、例えば産科に行きたい場合は専門スキルとして追加のコースを受けなければいけません。
──海外で看護資格と実務経験があっても、カナダで看護師になるには1からカナダでの資格を取り直さなければいけないんですか?
ここには厚生省と看護師の組合が混ざったような協会があって、まず自分の経歴や経験などを申請し、そこで自分が国家試験を受けられるかどうかの審査があります。審査の段階で「ポイントが足りない分は補修してください」との通知がきたり、英語の要件があったりします。
英語はIELTSでした。とりあえず看護師として試験を受けたいと思ったのですが、申し込みの書類が全て揃うまで時間がかかりますし、受験許可を得られるのは英語の試験にも受かってからです。当時はそのようなシステムになっていたので時間がかかりましたね。こちらへ来て学校に通い、IELTSの勉強もして看護師の試験を受けるまでに約1年半くらいかかりました。
──英語はどのように勉強されたんですか?
私の通っていた学校は看護師に特化した国家試験対策のみ、つまり医療英語のみだったのでIELTS用の対策準備は自分で手配しないといけませんでした。だから、ダウンタウンの良さそうな学校を見つけてそこに通っていました。IELTS専門の語学学校です。
──医療関係者の方が使われる言語は英語でしょうか
英語です。
──頭で医療知識があっても、それを英語に変換しないといけないですよね?それを続けられたモチベーションは何だったと思いますか?
私はこちらにスーツケースを2つだけ持って「よし頑張ろう」って日本を出た手前、簡単には帰らないっていう意地がありました。とりあえず目標を立ててそれに向かって頑張るしかないと思っていました。ビザも学生ビザだったし何も保証はなかったんですけど、そこは気持ちをポジティブに保っていましたね。その予備校は私立で、そこで学生ビザを出してもらっていたんですけど、期限が1年くらいしかなかったから期限付きで一旦頑張るぞという気持ちでした。
──プレッシャーになりそうですが
なりました。でも頑張ってみたかったんだと思います。
──その努力が実ったんですね
そうですね、私は本当に運が良かったのと、周りにも同じように勉強をしている仲間がいたことが大きいですね。そこには日本人もいましたし、台湾人もいたし、色々な国で元々看護師をされていた方達が同じ目標を持って一緒に頑張っていました。
──そもそもどうやってお仕事を探されたんですか?
私はリッチモンドで勉強をしていたんですけど、そこのリッチモンド総合病院には産科があって、まず病院に入るためにどうしたらいいかと考えた時に病院が募集している週1回のボランティアに参加したんです。そうすると関係者タグがもらえるので、それを使って産科に行って「すいません、履歴書です」って渡しました。そこからは直談判です。
募集してるかどうかはわからなかったですけど、とりあえず履歴書を渡そうと決めていました。14年前の当時は外国人看護師って働くのもすごく大変だったんですよ。でも、その当時私の上司だった人がオーストラリアから来た人で、私の履歴書を見て「ちょうど今人が欲しいと思ってた」と言ってくださったんです。
──運がすごいです
本当に運がよかったです。「外国人看護師がこちらで働くのがどれだけ大変なのか私はわかるからとりあえずあなたを雇ってあげる。だけどあなたが仕事できなかった場合は3ヶ月でなかったことにするわ。」と言ってくれました。
──すごくフェアな内容ですね
ただそこから一筋縄でもなく、その時は試験に受かってはいたもののまだ看護師じゃなくて、250日間のカナダで働いた実績と紹介状をもらってからライセンス申請してやっと看護師になれるんです。
だからその実働日数の250日間をどうにかしなくちゃいけなかった時に、その上司が「250日間は面倒を見てあげる。250日間あなたが成功すればそのまま雇ってあげるけど、250日間で成功しなければ縁がなかったことにしてね」と言われました。でも私は外国人だから働くにはビザが必要だと説明したらその方が人事に話してくれて、その次の日には人事から電話でビザの準備をしようと言われました。その時は私の学生ビザがあと数週間で切れるところだったので、少しヒヤヒヤしました。
──それは病院からの就労ビザですよね。それを更新しながら永住権を申請なさったんですか?
最初病院から1年更新の就労ビザを4年間もらってそのまま働いていたんですが、病院の方から就労ビザがあともう1回しか更新できないから、もし永住権に興味があるんだったらサポートしてあげるとオファーをもらいました。ですから結果的に永住権は病院の方からいただきました。
──それはSkilled Workerクラスですか?
いえ、PNPです。Provincial Nominee Programというもので、専門的かつBC州に必要な職業で取得できる永住権の種類です。
──私には日本で看護師をしている友達もいるんですが、例えばその子達が学生ビザで来て、小松さんみたいに予備校に通って看護師になり永住権取得というライフプランニングも一応あるんですね
あると思います。今BC州だと、外国人看護師をもっと雇おうという方針で手続きが若干楽になったと聞きました。外国人看護師に対する要件って毎年変わってるようです。数年前、コロナの前までは人手も足りていたので外国人看護師への要件をすごく上げていたんです。ほぼ不可能なくらいに上げていたんですけど、今は可能な限り下げていますね。
それでも看護師は全く足りていないです。日本と比較して好条件であっても、皆辞めて行ってしまうんです。
──それはなぜですか?
やっぱり好条件であっても命を預かる仕事には責任があり、きついことはきつい、大変なことは大変ですから。
──ちなみに国家試験は日本での経験が5年あれば知識レベル的には問題なさそうですか?
そうですね。あとは英語ですね。ただ、ベースに日本語での知識があるから私は英語でもすごく入りやすかったし、英語で聞いていても何を聞かれているのかも大体わかりました。だから医療の知識と経験がある人は入りやすいってのはみんなが言っていたし、もう一回自分が勉強してきたことを英語でやり直すっていうのは興味がありました。もう一度勉強できて楽しかったです。
でも本当に毎日10時間は図書館に通っていたんですよ。今思えば楽しかったけど、決して楽ではなかったですね。でも不可能ではないから覚悟とお金と時間がある人は挑戦できると思います。
カナダと日本での看護師経験を経て感じること
──看護師と助産師っていう棲み分けってあるんですか?
日本でもこちらでもライセンスの違いですね。ただカナダで助産師をやるとなると一旦学校に戻らなければならないので、こっちに来た時に一番早く就職できる方法を見つけようと思ったらそれが看護師でした。
──例えば助産師さんだと産後のフォローもされているのかなと思うんですけど、看護師の方もされているんですか?
産後もしています。でも日本では産後1週間なんですが、ここだと入院が1日だけになります。私たちはピンポイントで病院にいる人しか診られないので、産後は助産師、もしくはパブリックヘルスの保健士の方がフォローアップしたり一般診療看護師(GP)やナース・プラクティショナー(NP)の方がフォローされますね。
──死にそうな思いをして出産して24時間後に退院ですか・・・。みなさん元気にお家に帰られますか?
そうですね、それなりに元気で(笑)帝王切開だと48時間です。ちなみに無痛分娩も費用はかからないです。
──小松さんは産科で働かれていますが、無痛分娩に対して何か印象はありますか?
日本だと、総合病院か個人病院によってどのくらい患者を受け入れるかが一応決まっているとは思うんですけど、病院自体がビジネス化しているので患者を受ければ受けるほど病院は儲かるから、看護師がどのくらいの患者を持てるかという規則に対して本当に忠実に守っている病院がどのくらいあるのかなと疑問に思います。利益優先で受け入れるだけ受け入れて、忙しくなって手が回らないとかも当時はよく聞きました。
やっぱり無痛分娩って薬を使うし処置なので、やらなくてはいけないこと、観察しないといけないことが凄くたくさんあって患者をそのまま放っておくわけにはいかないんです。だからその分私たちは忙しくなります。日本の医療だとそれをカバーするほどのマンパワーが無いです。
──経営サイドの思惑と現場がすごく乖離しているんでしょうね。
はい、合ってないです。カナダって看護師の組合がすごく強いんですよ。なのでそういう違法なことを病院が看護師にさせると、組合が違法だって声を上げて「これはできない。あれはできない」ってちゃんと私たちから言える。
今の職場の先輩看護師に「私たちも働く環境がすごく悪かった。だけど皆で声を上げて自分達で変えていったの」とよく言われていました。だから20年くらい前に看護師みんなでストライキを起こしたそうです。私たちはこんなに価値のある職業なんだよっていうのを皆に理解してもらって、世間が納得したから給料が上がるようになって、給料が上がっていって待遇が改善されていったそうです。
だからこそ、日本の看護師も我慢しているんじゃなくて、声を上げて自分たちはこんなにも価値のある仕事をしているんだっていうのを言っていかないとと思います。変えてもらうのを待つのではなく、海外の人たちのように強く自分達はこんなに仕事をしているんだ、こんな価値があるんだよっていうのを発信して欲しいので、ぜひこっちで働いている専門家たちの声を聞いて、日本の看護師のみなさんが感化してもらえると良いですよね。日本の状況が少しでも改善してくれたらいいなと私も本当に思っています。
──私の周りから聞く限りなんですけど、カナダではで看護師という職業で頑張っている人たちの待遇や生活が保証されている、人間としての生活が保証されているのをお聞きしたことがあります。カナダでは看護師へのサポートはしっかりしているんですか?
福利厚生が充実しているって言う部分と、給料の面でもこっちはすごくいいと思います。流石にドクターの方が稼いではいますけど、私たちは日本のドクターや勤務医くらいは稼いでます。ここだと今は初任給が大体700万くらいじゃないかと思います。私たちは時給で働いているんですが、フルタイムで働いていると4日働いて5日休みっていうサイクルが確保されていて、1年間を通して時給と働いた日数で年収計算ができます。
──ちなみに初任給700万って高いんでしょうか安いんでしょうか?
日本だと、400から500万円くらいかな。地域差もあります。
──でも命を扱うわけですから、貰って下さいって私は正直思うんですけど。
看護師の組合が行政と5年ごとに給料を見直してくれたりとか、福利厚生を見直してくれていて、今まさに報酬額が決まろうとしているところです。今はコロナの影響で生活が辛くなっているのでそれも考慮して一応何%かの賃上げ交渉をしています。組合の人たちも元々は看護師で、今は看護師のために働いてくださっています。
昇給は1年目、2年目という感じで経験年数に比例して10段階あって、その上は管理職だったりします。
──管理職になると?
また、プラスいくらで全然変わってきます。でもボーナスはないです。その代わり、病院で働いていると、働いていない日の1日分の給料をもらえたりします。月に1回くらい働いていないのに給料が出る日があります。有給とも違うんですよね。看護師の勤務先にも地域コミュニティなど選択肢がありますが、病院で働いている人は若干給料が高い気がします。
──日本とカナダで看護師の職務内容に違いは感じましたか?
全然違いますね。そもそもカナダだと産科看護師になるためには専門コースに行って、看護師の試験をとります。私は日本で助産師をやっていたので、マネージャーが単位をくれて運よく産科で働けることになったんですが、こっちだとまず勤務人数の割り振りが違うんですよ。日勤と夜勤があってどちらも同じ人数です。日本だと日勤が多めで夜勤が少なめです。
あとは、日本だと看護以外のこともやらなければいけないんです。例えば患者さんの輸送をしたり、採血をしたりお掃除を手伝ったりなど。でもそういうのは一切ないです。本当に自分の看護という仕事だけに集中できて、採血や患者の輸送もしません。お掃除はお掃除専門の方が24時間いらっしゃいますから。
──役割分担がしっかりと組織としてされて、各々の専門分野をきちんと活かせるように100%そこに注ぎこめるような体制がきちんとできているんですね。
はい。あと、4日働いて5日休みっていうのは本当でした。1日は12時間勤務です。
──12時間人の命を扱うわけなので、それを聞くと5日休みも多くないと思います。
リカバリーが必要なので多くないです。特に夜勤明けなどは2、3日リカバリーをしなければいけないですからね。でも日本は朝から来て、例えば8時に勤務開始だったら30分前には行かなければ仕事を開始できないし、その30分はサービス残業で5時に終わったとしても5時以降に記録業務が残っていたりとか、5時以降まで残っていて看護師コールがなれば自分の勤務が終わっていても取らなければいけなかったりだとかあります。当時は暗黙の了解でずるずると働いていたけど、そういうのは今の職場では一切ないですね。
──しっかりあなたの仕事はここからここまで、時間もここまでと決まっているのは凄いことですよね。きっとご自身のお仕事と私生活のバランスを取りやすいのではないですか?
取りやすいですよ。例えば私の同僚も、日本だと長期の休みが1週間くらいで休暇後は「お休みありがとうございました。」と挨拶をしていましたが、そんなのは一切ないです。みんな休暇を取って当たり前だし、休暇を楽しむために仕事をしているという感覚なんでしょうね。みんないろんなところに行くし「久しぶりだね。どこ行ってたの?」とか「休暇どうだった?」っていう感じで、誰も「お休みありがとうございます」とは言わないですね。
──プロである以前の人としての生活が保証されていますね。
5日間の休みに加えて有給が6週間あります。
──ブリティッシュコロンビア州の労働法だと、勤続年数に比例して取得できる有給が増えますが、それと同じですか?
そうです。私は14年間働いているので休暇の時間が多くなって、今は年間6週間です。30年クラスの人は2ヶ月以上有給があります。あとは福利厚生にマッサージがついているので、無料で利用できるため私も夜勤の後は体を整えるために必ずマッサージに行っています。
──本当にすごく思っていたのが、学校の先生であったり医療従事者、介護に従事してらっしゃる人って第一線でやってるのに、その人たちをケアするシステムが日本には少ないなと言う印象があったんです。でも休みは当然取得できて、マッサージだったり肉体的にもケアする仕組みが整っているのはすごくいいところですよね。
本当にそうですよね。あとは子供が調子悪い時とか、日本だとものすごく休みが取りづらかったりしたんですが、今は「いいよ、休んで。」と家族が一番です。仕事も大事だけど家族が一番。家族に事情があって休む時は全然問題なく休めます。
──看護師ライセンスは更新が必要ですか?
そうですね、毎年更新されます。Practrice(勤務中) かNon-practice(離職中)になるので、もし勉強に行く場合はNon-practiceでそのまま免許はキープできます。出張看護師としてカナダを離れてアメリカに行く人もいます。こっちだとどこの国でも看護師として働いていたという証明があればPracticeと見なされるんですけど、こっちで看護師をするためには厚生省に700ドルくらいの更新料がかかります。Non-practiceの更新だと多分60から70ドルとかで良いんですけど、Non-practiceからPracticeに変えるためには、期間にもよって手続きや費用がかかりますし、課題もあったりすると思います。
──カナダ国外で医療のライセンスがある人はそれだけではカナダでの医療行為はできず、カナダが発行した証明かライセンスが必要ですよね。出張看護師というのは何でしょうか?
出張看護師っていうのはアメリカでもし行きたければ、出張看護師として働けるんですが、アメリカで働くにはライセンスや要件を満たしていないと働けないです。カナダの北部だとすごく医療従事者が少ないので、出張看護師という形で短期で行って帰ってくる人が多いですね。
──そもそもカナダでの看護師ライセンスは、国ですか?州ごとですか?
州ごとですね。だから私はブリティッシュコロンビア州に所属する看護師です。給料も州ごとに違っていて、州の中でも管轄地域ごとに規則が違うのでその中でもまた変わりますね。
あと、州を跨いで仕事をしたいのであれば、州の規則に従ってライセンスを変更しなければいけないです。でもそのシステムで良いのは、カナダやアメリカっていうのはやっぱり知識を持って、即戦力で働ける人の採用に繋がります。日本だと10年20年遠ざかっても、あなた看護師のライセンス持ってるから働きなさいよってすぐに働けるんです。
──医療従事者の質が担保されているということでしょうか
日本の技術が劣っているということではなく、北米では曖昧なラインが少ない気がします。例えば産休で働けなかったというのも全然良いんですけど、ちゃんと自分は看護師の免許を持って今年はこんなことをしました、このくらいの実務経験をしましたっていうのを報告してそれで継続して働ける働けないが決まりますし、もし現場や臨床からしばらく離れている人が看護師に戻りたいって言えば、こういう研修を受けてください、こういうトレーニングを受けてくださいっていう課題を与えられてから現場に戻っていく形になります。
誰かのために頑張る人が報われる世の中になって欲しい
──バンクーバーを知らない方に説明するとしたらどんな風にご説明されますか?
バンクーバーはいろんな人種がいて、日本語訛りの英語を喋っていても皆受け入れてくれる、そんな街ですね。外国人に対してものすごく寛容ですし。
──バンクーバーはお好きですか?
そうですねぇ・・・
──正直に言っていただいて大丈夫ですよ
良いところも悪いところも半々なんですけど、でもまあ今家族もここにいるし仕事もあるし、スーツケース二つで来たんですけど、一応自分の基盤が全てここで整ったのでここが家なのかなとは最近思うようになりました。
──人によってはバンクーバーってやることがない、物足りない、都会じゃないですよね。少なくとも私たちが思う都会とはまた違うじゃないですか。だから合う合わないはある街なのかなという風に思っていて
でも私、20代は東京にいて十分東京は楽しんだのでもういいのかなって思っています。だから今はそんなに都会すぎず、ほどほどな都会が一番ちょうどいいかなと感じますね。
──ご主人は元々こちらの生まれ育ちですか?
いや、普通にバンクーバーで出会いました。元々はスイスで生まれ育ってこっちに来た感じなんですけど、でも育ったのはバンクーバーです。
──子育て環境でもっとこうなったらいいなという部分はありますか?
学校に休みが多すぎるのが困ります。あと、日本だと給食があるけど、ここでは給食がないとか、送り迎えをしなければいけないこととかですかね。EAって知ってますか?
──すみません、存じ上げないです
Education assistantといって日本にあるかわからないんですけど、先生ではなく子供の休み時間を見てあげたりとかする役割の方です。休み時間ってこっちの先生働かないんですよ。休み時間は先生の休みでもあるから先生は働かない。で、そのEA、Assistant Teacher、Educational Assistantっていう人たちが子供たちの休み時間とかを見てくれるんです。
こっちも先生は先生の仕事しかしないんです。休み時間の仕事っていうのは先生の仕事ではなくて、先生も休まなくちゃいけないから。それを他の人が補充している感じです。日本の学校の先生もすごく大変って聞きます。朝7時から夜の9時とかまで働かれてますよね。それもここではあまり聞かないかな。
──部活の顧問ってあるんですか?
無いです。
──ずっと疑問だったんですが、部活は子供からしたら楽しいからいいんですけど、先生からしたら無料残業なんですかね。お金が全てではないですけど。
その先生がやりたければいいと思うんですけどね。今の日本の構造だと医療や教育も日本人の良心の上に乗っかっている印象があります。日本人の謙虚や辛抱強さなどの良い特性の上に乗っかってシステムができあがっちゃってる部分があるから、無理をして頑張ってしまう方がたくさんいるんだろうなと思います。
──言葉を選ばずに言うと犠牲になってしまってるんですよね。誰かを育てるために、その人はもう後回しになってしまう。しかもそれは現場に立っている人なんですよね。悲しいことに。
たまにカナダの人たちには犠牲や献身という言葉が必要だろうなと思うこともあるんですけど(笑)もう少し根本的に日本の働き方が変わったら良いのになと思います。
今後はさらなるキャリアの可能性拡大も視野に
──先生との連携はどうですか?
ドクターも看護師の意見を積極的に聞いてくれます。だから、自然分娩は私たちもやらなければいけないんですけど、誘発分娩などコントロールできない部分に関しては、医者と看護師がお互い話し合ってできるできないを決めてやっている感じです。
──上下ではなくて役割が分担されている感じですね
そうですね。看護師の数が足りないからオペがキャンセルとかも凄くよくあります。ドクターとの兼ね合いでいえば、電話をするときに指示をもらうのではなく、ドクターから「どう思う?」って聞かれるんですよ。だから、自分もちゃんと知識と経験に基づいたビジョンを持っていないと対等に話ができないです。
──本人のスキルに基づいて裁量があるのかなと思うのですが、反面で責任も伴うと思います。小松さんはそう言った環境下に働きづらさは感じませんか?おそらく人によっては裁量で動くよりも指示をもらって動く方がストレスなく働けるという方もいると思うので
私は今の環境の方が合っているかなと思います。でも仰るようにある程度の強さがないと難しいかもしれませんね。
──今ではご自身のキャリアという意味でもすごく充実されてるのかなと思うのですが今からやりたいことはありますか?
今の病院では14年くらいになるので、そろそろ次の目標にも行きたいなと思っています。目標としてはNPをしたいと思っています。
──NPとは何でしょうか?
Nurse Practitionerといって、看護師の観点から診断をして治療ができるんです。こっちだと大体ファミリードクターみたいな役割で働いていたりします。お友達にNPの方がいらっしゃって、お話を聞いて「ああ、やってみたいな。」と思いました。将来、もし子供が大きくなってまだ勉強する余裕があったらやってみたいなとは思っています。
──NPに向けてこれから具体的にどういうことをされていくんですか?
NPのためには2つ学校があって、UBCかもう1つはオンラインの学校があるんですけど、それを受けるためにまたIETLSをやり直さなければいけない。その要件は永住権があっても関係ないですから。
──学校は4年ですか?
2年です。UBCだったら2年なんですけど仕事を辞めて行かなければいけないです。もう1つの方はオンラインで、自分のペースでできると思います。
──安定をしている生活基盤と仕事があって、さらにそこから変わろうとするそのモチベーションは何でしょうか?
なんですかね〜。でもカナダに住んでいる方って何歳になっても学校に戻っていませんか?新卒って感覚はなくて、自分のやりたい職業を見つけるためにいくらでも学校に入り直せるし、年齢関係なくまた再就職もできるからその部分はものすごく良いのかなと思います。年だからできないっていう言い訳をする必要がありません。
自分のやりたいことを見つけて、今以上に可能性を広げることをみんな当たり前にやっているから私も挑戦してみたいという気持ちがあって、自身の専門的な知識をこれからもっと突き詰めてみたいと思っています。
編集後記
私は日本で看護師として頑張っている友人も多いので、看護師という仕事はやりがいがあると同時に、看護師さん自身にとって負担の多い職業であるというのは表面的に理解していました。まず人の命に直接的に関わるということの重圧、夜勤があるので生活リズムが不規則になりがちということ、暗黙の了解で残業があること、職場の人間関係。そんな環境でも、その方達がいるからこそ私たちの生活が成り立っているわけだから感謝ですよね、と思っていました。でも小松さんのお話を聞いて、日本の看護師さんが置かれている状況というのは私が思っているよりもずっと深刻なのでは?と考えるきっかけになりました。日本の看護師さんの業務範囲というのはとても広いと思います。私も含め多くの人はそれが”普通”だと思っているかもしれませんが、彼らはすごいことを日常業務として行なっています。もちろんやりがいを持ってその職務を全うしてくださっていると思いますが、彼らはスーパーマン・スーパーウーマンではありません。「ありがとう」の一言で蓄積された肉体的・精神的な疲労が消えるわけではないのです。だからこそ、彼ら自身のケアを本人たちに任せるだけでなく、医療現場のシステムとして改善していかないと優秀な看護師さんは福利厚生が整っており、報酬もさらに良い海外にどんどん流出してしまいます。議論自体はあるはずですから、それを進めていくことが必要だと思いました。
末筆ではありますが、この度インタビューを快諾してくださった小松さん、本当にありがとうございました。
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