54字の物語(18)『予期せぬ別れ』(ショートストーリー付き)
☆『予期せぬ別れ』/Roco☆
いつでも会えると 高を括っていた。
「そのうち帰るよ。」を口癖にしていた私。
誰よりも大切な母が もういないなんて。
納涼の候、暑い日が続きますが、
お変わりなくお過ごしでしょうか?
そんな便りを出したくなるような、
京都の晩夏。
賀茂川、夕涼み、かき氷。
「おかえり。おむすび作ったろか。」
母の声が聞こえる。
「秋になったら、トロッコ列車でも
乗りに行こか。そん時、保津川下りも
しいひん?」そんなことを言ったりして、
母にはいつも、ぬか喜びばかりさせていた。
「ほんま?楽しみやわぁ。」
と母は嬉しそうだった。
それなのに、
「かんにんな、親不孝な娘で。」
後悔先に立たずと言うけれど、
そんなことは、自分には関係のない言葉
として、いつも上滑りしていた。
何を言ってももう母には、
何も届かないのかもしれない。
母と一緒に、保津川下りをしたかった。
トロッコ列車にも乗りたかった。
母の握った、ふっくらおむすびが食べたい。
寂しくて、悲しくて、
それなのに涙は出なかった。
例えようのない心細さに襲われていた。(了)
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