見出し画像

サンタさんへ こいつはあずかった 2/7

*本作品の登場人物として挙げている俳優の皆様は執筆者の頭の中で演じていただいているだけで実際の俳優の皆様とは一切関係ございません。キャラクター名もそのまま俳優様のお名前を使用させていただいております。

▼登場人物表はこちら


■蒼井家・2階 天嵩の部屋(夜)

 アクリル製のハムスターゲージの中に閉じ込められているエルフたち。マッシ、悩ましげな顔で座り込んでいる。コテッシ、アクリル壁にべたっと両手をくっつけ、不安げに外を見回しながら脂汗をかいている。ダンディ、ハムスター用回し車の上を延々歩いている。部屋にはエルフ以外誰もいない。

ダンディ「ゲッツ!!……されちゃった……」
コテッシ「あの子は……一体どこに……今のうちに……マッシ……」
マッシ「冷静になれ、コテッシ……話せばわかるはずだ。それにもしかしたらこれは願ってもないチャンスかもしれないぞ。我々の計画にはどこかで必ず人間の子どもが必要だったのだ……」
コテッシ「でも……小さい生き物を罠で捕まえて檻に閉じ込めるような少年ですよ?もっと性格の真っ直ぐな子を選ぶべきでは……」
マッシ「無邪気な子どもにすれば至極真っ当で一般的な手順だよ。彼にすれば昆虫採集のようなものだ」
コテッシ「む、無邪気?檻に閉じ込められたんですよ!?これ、無邪気ですか?邪気ですよね?立派な邪気ですよね!?……何をする気なんだか……ヒィッ!!(ゲージの反対側まで逃げる)」

 ガチャリとドアが開き、両手に盆を持った天嵩が戻ってくる。コテッシ、怖がってマッシの背後に隠れる。
 天嵩、足でドアを閉め、机に盆を置く。盆に乗せて持ってきた人形用の机、椅子3脚、紅茶カップ3組をハムスターゲージの前に整え、カップにスポイトで麦茶を注ぐ。マッシとコテッシは警戒して見ているが、ダンディはその様子を警戒というよりかなり興味津々という様子で見ている。天嵩、ゲージの出入り口を開け、エルフたちが外に出られるよう小さな階段を設置する。設置が終わり、じっとエルフを見つめる。

天嵩「あのー……(カップを指差して)ティー」

 キョトンとして天嵩の様子を見つめているエルフたち。天嵩、困っている様子。少し考えてからスマホを取り出す。

天嵩「(スマホに向かって)Siri……麦茶ってイタリア語でなんていうの?」
Siri「tè d'orzo」

 天嵩、「これだ!」という顔でエルフたちにスマホを向け「tè d'orzo」の音声を再生し、またカップを指差す。それでも固まったままでいるエルフたちを見て少しがっかりし、またスマホをいじる。

天嵩「やっぱり人間の言葉はしゃべらないのかな……」
マッシ「エルフは人間の言葉は話さない」

 突然エルフが話し出したのを聞いて飛び上がる天嵩。スマホも取り落としてしまう。マッシ、何をそんなに驚いているんだ?という顔で天嵩を見返す。

天嵩「しゃべった……」
マッシ「1つ疑問だ。なぜ英語の次にイタリア語を試したのだ?」
天嵩「えっ、なんかその人の顔がイタリア人っぽかったから(コテッシを指差す)」
コテッシ「……!?」
天嵩「……あの、ちょうどいいコップがなくて、これ、妹のおもちゃなんだけど、一応全部洗ったから、どうぞ……麦茶飲める?」
マッシ「お気遣いありがとう。だがあまりゆっくりするつもりはない。我々はできればこの家を出て外へ行きたい」

 しゃべりながら階段を上がって外へ出るマッシ。相手を窺いあう束の間の沈黙。

天嵩「まあ、まあ、まあ……(言いながら手を伸ばしてハムスターゲージの戸をゆっくり閉める)

 マッシの後を追い、不安定な階段に両手両足をかけてゆっくり登っていたダンディ、出口に身体を挟まれる。

ダンディ「はさ……はさま……イタタ!」
マッシ「顔が笑ってるのに手元ですごいことするな……」
コテッシ「邪気だ……!邪気……!」
天嵩「でさぁ(ゲージの戸を押さえながら)」
マッシ・コテッシ「"でさぁ"?」
天嵩「あの手紙はサンタさんに届けるところだったの?」
マッシ「え?あぁ、まあ……」
天嵩「じゃあ、君たちはエルフ?」

 マッシ、一瞬答えるか迷う。

マッシ「そうだ」
天嵩「ほんとにいるんだね!エルフも!サンタも!」

 感激した天嵩、手に力が入る。さらに圧迫されて悲鳴をあげるダンディ。ダンディの様子を見て恐れ慄くマッシとコテッシ。

マッシ「ああ、いるさ、そりゃあ……ところで蒼井天嵩、そろそろ仲間を……(心配そうにダンディを見やる)」
天嵩「僕の名前知ってるの?」
マッシ「管轄内の子どもの情報は把握している必要がある。君の名前も当然把握している」
天嵩「どうやって?魔法使うと、顔の上に名前が見えるとか?」

 天嵩、ゲージの戸から手を放す。青くなっていた顔が元に戻り、ホッと安堵するダンディ。

マッシ「エルフは管轄内のすべての子どもについて、生まれる瞬間からずっと見ている。蒼井天嵩のことも8年前から見ている。8年も見ていれば名前は覚える」
天嵩「ずっと?全然気づかなかった……普段は透明なの?」
マッシ「透明にならなくても人間に気づかれないようにする方法はいろいろある。我々は人間に擬態できるし、目に止まらぬほどの速さで移動すればーーー」
天嵩「ギタイって?」
マッシ「あー……変身できるということだ」
天嵩「変身……!(目をキラキラさせる)あっ、そういえばオレ見た。みんなが人間の大きさのところ。すっごい目立ってたけど、普段よくバレないね」
マッシ「今日のことは反省している。計画に夢中になっていた……」

 「しまった」という顔をするマッシ。コテッシ、ギョッとしてマッシを見る。天嵩、聞こえた言葉は特に気にならなかったようで、ダンディに目を移す。

天嵩「エルフはお菓子食べられる?」

 天嵩、ダンディにチョコを差し出す。コテッシ、天嵩が近づくとゲージの隅までまた後ずさりする。ダンディ、気になっていたお菓子を勧められて顔を輝かせる。

マッシ「必要はないがーーー」
ダンディ「どうもありがとう(素直に受け取る)」
コテッシ「待ちなさい、ダンティ!(ダンディに駆け寄り、渡されたお菓子を調べる)」
天嵩「ダンディって名前なの?」
マッシ「そうだ。ダンディにコテッシ(2人を順に指さす)、私はマッシ」
コテッシ「(小枝のパッケージを見て)なんだこれは!蒼井天嵩、どういうつもりだ!エルフは枝など食べない!」
天嵩「え?ああ、これ、枝じゃないよ……まあ確かに"小枝"って名前だけど、チョコレートなんだよ。美味しいよ」
ダンディ「(すでに食べている)ん〜!」
コテッシ「チョコレートだと?そうやってまた我々を弄ぼうという魂胆だろうがそうはいかな(ダンディ、小枝をもう1本もらってコテッシの口に押し込む)うまぁぁぁい!!なんらこれは?えらじゃらいのか?おいひいえらだ」
天嵩「まだあるよ」

 天嵩、いくつかお菓子を人形テーブルの上に出してやる。誘われてテーブルにつき、お菓子に夢中で食らいつくコテッシとダンディ。逃げる隙を伺っていたマッシも諦めてテーブルにつくが、なお警戒し天嵩をじとっと見つめたまま猫背でお茶をすすり始める。

天嵩「エルフはどうして子どもを見てるの?」
マッシ「査定のためだ」
天嵩「査定って何?」
マッシ「その子の行動を観察して、評価するということだ。その……良い子か、悪いかを」
天嵩「それで良い子ならプレゼントがもらえるってことか!」
マッシ「……そうだ」

 ため息をつくマッシ。

マッシ「悪いが、あまりいろいろ聞かないでくれないか。エルフには秘密が多いのだ」
天嵩「……聞いちゃうよ。気になるもん。でもそっちは本当のこと言わないで、適当に誤魔化せばいいんじゃないの?」
マッシ「ダメだ。エルフは嘘がつけない。こういうことになるから子どもに姿を見せてはいけないのだ。子どもは皆好奇心旺盛で、我々に会えば必ずいろいろと質問する。エルフは全て正直に答えなければならなくなる」
天嵩「なんで嘘をついちゃいけないの?」
マッシ「最初の蒼井天嵩の質問に対する答えにつながる」
天嵩「……オレ質問したっけ?」
マッシ「したじゃないか。"人間の言葉はしゃべらないのかな"と」
天嵩「あぁ、それか」
マッシ「我々は人間の言葉はしゃべらない。私は今もこうしてエルフの言葉を話しているが、エルフ語を話さない君にも私の言葉は通じている。君と異なる言語を話す人間でも同じように私の言葉を理解する。言葉を知らない赤ん坊でも理解する。人間だけじゃなくあらゆる生き物が理解するだろう。それはエルフが嘘をつくことがないからだ」
天嵩「へえ……嘘をつくとどうなるの?」

 ガハハ、と笑い出すコテッシとダンディ。

コテッシ「おもしろいですね……エルフが、嘘をつくと、どうなるか……嘘をついたらエルフじゃないじゃないか!」
天嵩「……オレ笑うようなこと言った?」
マッシ「前提としてズレているということだ。エルフは嘘をつけないから、嘘をついたら、そいつはエルフじゃない。ブチ模様がなく全身真っ黒なパンダがいたらなんと呼ぶ?」
天嵩「……クマ、かな」

 空になったポテトチップスの缶を逆さにしてくわえているダンディ、中身が空になっていることに気づく。コテッシも、小枝の箱が空になってしまってしょんぼりする。

ダンディ「なくなった」
コテッシ「なくなった……」
天嵩「……キッチンにまだあるけど。母ちゃんが夕飯の準備してるから、終わるまで持って来られないよ……」
ダンディ「キッチン?どれどれ」

 ダンディ、どこからか望遠鏡のようなものを取り出し、階下の方へ向ける。
×   ×   ×
(望遠鏡の向こう・1階キッチン)
 料理をする優。カレーをかき混ぜながら、ソファーの上で飛び跳ねる妃璃愛を注意する様子が見える。

天嵩「……床に何かあるの?」
コテッシ「キッチンを見ているのです!」
天嵩「ここからキッチンが見えるの!?」
ダンディ「……見っけ!天嵩、お菓子食べたいよね?」
天嵩「え?食べるよ」

 天嵩が言い終わらないうちにさっと風が吹き、ダンディがいなくなる。部屋のドアが開いている。天嵩が目をパチクリさせているほんの数秒のうちに、また風が吹き、ダンディが大きな袋を抱えて元の場所に戻っている。袋を逆さにしてお菓子をバサバサと振ると、袋の大きさからは考えられない量のお菓子が出てくる。

天嵩「スッゲェ!」

 もじもじしながら天嵩を見つめるコテッシとダンディ。

天嵩「……あ、……食べたら?」
ダンディ・コテッシ「どうもありがとう!!」

 またお菓子にかじりつく2人。渋い顔でお茶を飲み続けるマッシ。
 開いたドアから妃璃愛の泣き声が聞こえる。ダンディが足元に投げっぱなしていた望遠鏡のようなものを指でつまむ天嵩。爪楊枝ほどの大きさだったそれは、天嵩の手に乗った瞬間クラリネット大までぐんっと大きくなる。1階へ望遠鏡を向ける天嵩。妃璃愛が悲鳴を上げながら抱っこをせがみ、料理中の優を困らせているのが見える。仕方なく抱っこして、重そうに顔をしかめながら料理を続ける優。天嵩、むすっとして顔を上げ、望遠鏡から目を離す。

天嵩「オレ、欲しいものがあるんだ」
マッシ「(少し目が泳ぐ)……あー、プレゼントの要望なら手紙を書いて……」
天嵩「去年、サンタさんへの手紙にオフロードカーのラジコンって書いたんだ。それで、届いたのは確かにオフロードカーだったけど、オレが欲しいメーカーのじゃなかった。今年は絶対間違って欲しくないんだ……絶対に」

 迫るようにエルフたちを見つめる天嵩。視線に気づき、お菓子を食べる手を止めるエルフたち。ゴクリと唾を飲み込むコテッシ。


■河川敷・サッカーコート

 サッカースクールの練習試合のため集まった児童と保護者たち。各チーム20名程度の児童、天嵩のチームは青いゼッケン、相手チームは赤いゼッケンを着ている。応援の保護者の中には優、正人、妃璃愛の姿もある。
 試合前のアップのため列に並ぶ児童たち。天嵩、最後尾に並ぶ。人が見ていないことを確認して、胸元のポケットから目元だけ顔を出すマッシとコテッシ。小声で何やら話している。

マッシ「安元直哉は今日も休みか…」
コテッシ「試合の日は必ずお腹壊しちゃうんですよねぇ……」
天嵩「もしかして、みんなのこと知ってるの?」
マッシ「ほとんど我々の管轄内の子どもだ」
コテッシ「しかし平井つむぎ、上手くなりましたねぇ」
マッシ「うん。よく練習頑張ってるからな」
天嵩「もっとうまいやついるだろ。女だからって応援かよ、おじさん」
コテッシ「何を言う!同級生の女の子たちがどんどんどんどん辞めてピアノだのダンスだの習い始めていく中で、取り残されたような寂しさは年々強くなっていく、でもサッカーが好きだし、そんなことを気にするような時代じゃないよね?あぁ、でも!……その葛藤の中で、それでも6年生まで続けてきたんですよ。応援するでしょう!中学生になっても続けてくれるといいですけどねぇ……」
天嵩「ふーん……」

 少し暗い顔になり、自分の右耳を落ち着きなく触る天嵩。

天嵩「どうせオレは人の気持ちわかんないよ」

 天嵩を見つめるマッシ。

マッシ「で、蒼井天嵩、君が欲しいものというのは一体何なんだ。スパイクか?うわっ」

 順番が回ってきて、走り始める天嵩。終わるとまた列の最後尾につく。

天嵩「後で教えるってば。しつこいよ」
マッシ「こっちは仲間を人質にされてるんだ。焦ってるんだよ、わかるだろ」

×   ×   ×
 天嵩の部屋。机の上のハムスターゲージはヒモでぐるぐる巻きにされ、ゲージの上には重しとして図鑑や辞典が10冊ほど積み上げられている。
 ダンディ、ゲージの中に閉じ込められてはいるが、十分なお菓子とジュースを与えられ、お手玉をクッションにして寝っ転がり、天嵩のタブレットでアニメ「聖夜に成敗!プリティサンタ」をダラダラと見て幸せそうな顔をしている。
アニメ音声・精霊「プリティサンタ!やっぱり来てくれた!」
アニメ音声・プリティサンタ「雪原を駆けるプリティサンタにアイスビームなんか効かないんだもん♪…聖夜に成敗!ヨイコハット!」
アニメ音声・敵「やめろおおお!……ハッ!私は今まで一体何を……」
×   ×   ×

マッシ「あと走る時はもう少し腿を上げろ」
天嵩「上がってない?」
マッシ「ああ」
コテッシ「(小声)どうしましょう?(天嵩を見上げる)」
マッシ「うーん……」
コーチ「集合!」

 集まっていく児童たち。

正人「天嵩頑張れよ!」
妃璃愛「てん兄ちゃーん!」

 応援に一瞥で応じる天嵩。

正人「キザ〜」
優「カッコつけ〜」

■河川敷・サッカーコート(試合中)

 試合開始のホイッスルが鳴るとともにボルテージが上がる子どもたちと応援席。懸命にボールに集中する天嵩。

マッシ「いけいけ!ほら!もっと攻めろ蒼井天嵩!岡村健太はそんなに速度はないぞ!」
コテッシ「マッシ、あまり大声を出しては……」
マッシ「どうした!ボールは食らいついて奪うものだ!お前の情熱はそんなものか!?」
天嵩「ちょっとうるさいなぁっ!集中してんだから!」
コテッシ「すいませんね……マッシはちょっと、勝負事には少々、アツくなりすぎるところがあって……」
天嵩「オレはディフェンダーなの!もっと器用な奴らが点を取りに行くんだから」

 応援席、天嵩を見つめる蒼井家。

優「……?あの子なんかしゃべってる」
正人「誰と?」
優「1人で……」
正人「え?」

 コート内、迷惑そうな顔で足をブラブラ振る天嵩。目だけはボールから離さない。

天嵩「ほら、あいつ、みなとだよ、うちのチームはほとんどあいつが点を入れるの。それに今日は相手が格上なんだ。オレはやることないんだよ」
マッシ「確かに真田湊は器用だし状況を見極める冷静さが強みだがーーー」
コテッシ「マッシ!それじゃないですか!?」
マッシ「ん?何が」
コテッシ「(小声)欲しいもの!」

 マッシ、コテッシの顔を見て怪訝な顔をしていたが、やがて笑みに変わっていく。ニカッと笑って天嵩に振り向く。

マッシ「ははーん、それで試合に連れてきたわけか……」
天嵩「え?何?」
マッシ「(相手ゴールに向き直って)任せておけ、蒼井天嵩!」

 横で同じく相手ゴールを熱い眼差しで見つめるコテッシ。

▼続きはこちら


この記事が参加している募集

#舞台感想

5,928件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?