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サバイバーの祈り

サバイバーの祈り

わたしはわたしのための遊園地に連れて行ってもらったことがなくても
こどものためにこどもの好きそうな こどもの喜びそうな遊園地に行きます
わたしはわたしのための旅行に連れて行ってもらったことがなくても
こどものためにこどもの好きそうな場所に こどもの喜びそうな土地に旅行に行きます

わたしは殴られ打たれ怒鳴られてとても嫌でしたので
こどもには決してそれらをしません
わたしは締め出され閉じ込められ放り

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オンライン・マザーズ

オンライン・マザーズ

わたしがまだ血だらけの母で
我が子が赤子だった頃
恐る恐る 乳を含ませ
噛まれる痛みと吸われる不快は感じながらも捨て置いて
目を瞑り ちいさな口を懸命に動かす生き物の温もりに
この子を 守らなくてはならないと 一層強く 腹を決め
体から ごくごくと 力が抜けて行くことに慄き
守れるだろうか 育てられるだろうかと
泣きそうな焦りに 身をやつしていた

その頃スマホがあったなら
わたしは片腕に赤子をの

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明日への招待状

明日への招待状

わたしにとっては 風景の一部で
気にも留めたことがなかった電車の走行の様子を
動画サイトに載せてくれた知らない人たち ありがとう

わたしにとっては 関心の外で
識別さえしたことのなかった工事車両の名前と働きを
絵本にしてくれた知らない人たち ありがとう

わたしにとっては 理解の範疇を超えていて
知ろうと試みることもなかった自動車技術の最前線を
モーターショーで見せてくれた知らない人たち ありが

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ある自死のあと

ある自死のあと

携帯充電器の充電中に 青いライトが4回点る
明滅 明滅 明滅 明滅 暗闇.
明滅 明滅 明滅 明滅 暗闇.
そのリズムを知っていることは
わたしの中で完結する
わたしがこの世にいようがいまいが
青いライトは点って消えて
わずかに長い暗黒がある

真っ暗な夜に 嗚咽を堪え
震えを抑え 顔を押さえて
涙で霞む部屋の隅に
青いライトの輪郭を見る

明滅 明滅 明滅 明滅 暗闇.
明滅 明滅 明滅 明滅 

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残飯の果てに

残飯の果てに

この子は ステーキの食卓が好きです
スーパーで買った3割引のステーキ肉に
フォークで無数の穴をあけ
ごうごう熱くしたフライパンに
スーパーでもらったラードをしいて
強火で2分
裏返して4分
それを 銀紙に包んでまな板で寝かし
少し置いたのを ぼわんと開き
包丁をスッスッと通して薄く切り
お皿に見目よく盛り付けたのを 見ながら
白いご飯だけを食べるのが この子は好きです

この子は お子様ランチのあ

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気をつけて気をつけて

気をつけて気をつけて

速い車に気をつけて
はねとばしたりしてくるから

バイク飛ばすの気をつけて
転ぶと首をやられるから

ラグビー スクラムに気をつけて
意外と人の身体は重い

ねえ気をつけて気をつけて
落ちてくる岩に気をつけて
降ってくる看板に気をつけて
滑る雨上がりに気をつけて
台風の夜に気をつけて

不慮の事故にも病気にも
気をつけ気をつけ
生きていても
空からサメが降るようなことで
人はいきなり 死んだりする

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悼みのとき

悼みのとき

医療機関 火事の報
驚愕のほかの感情を抱く猶予もゆるされず
すぐに電話がいつもより鳴り
メールがいつもより舞い込む

ニュースご覧になりましたか? こわいですねえ
どうしたら避けられたと思います?
おたくもあのようなことにならないと言い切れます?
弊社の製品は危険なお仕事に従事する皆様をお守りする為に云々。

恐怖と 苦痛の ときを経て
亡くなることを余儀なくされた人々に
また 彼らを救おうとして

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フラワー・ガーデン

フラワー・ガーデン

ときどき顔を合わせる近所の家の
じょうろを持った奥さんは
優しくわたしにあいさつし
息するようにダメ出しをする

あらあら お母さん そんなぼろぼろの靴じゃ恥ずかしいわよ
お子さんのためにも きれいな格好してあげて
お洋服も もっと考えないと
そんな真っ黒じゃなくて
ベージュとかクリーム色とかグレージュなんかが好かれるわ
もしスカート履くならロングでね
短いのはみっともないから
でもズボンのほうが

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かたわ許さぬ島掟

かたわ許さぬ島掟

事件のこと。

子どものこと。

わたしは健常の子の親です
さいしょは それはそれは難しい子でした
眠らず食まず己が手を使わず
一日のうち二十時間以上
虚空を見据えて大きくのけぞり泣き続けるので
わたしに限らず 我が子に関わる人の多くが 障害を疑いました
発達障害かも知れない、知的障害かも知れない、
なにかの後遺症かも知れない、大きなケガをしたことはない?
たくさんの検査を いくつもの医療機関で 

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【詩】生を享く

【詩】生を享く

春の陽差しに顔を向ければ

熱いくらいに暖かな光が まぶたを通り抜けてくる

水面はきらきら輝いて 無数の波紋で葉を揺らす

夏の大きな入道雲も 秋の寂しい夕暮れも

冬の寒さも 舞い散る雪の美しさも

ずっとずっと昔からこの星にあって

わたしが死んだ後もずっとずっと

厳しく優しく巡り続ける

じぶんという人間が この世に生を享けた日から

じぶんの体の大きさのぶんだけ わたしはこの世を占めて

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