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Island(島)


始まりの時は
うっすらと青く
内界に結露した
母なる水球に
浮かぶ魚鱗のひとひら
朝霧は晴れ
かもめは飛び立ち
揺れる波間に
凛として湧き上がる島
 
もう帰ることはできない
白い灯台の立つ岬に
還って行く潮流は
大きく弧を描いて
ざんぶざんぶと洗う
沖積世の岩塊の
てっぺんに刺さる
黒い銛のうた
 
午後の白砂青松に
ふと起こる風に巻かれて
柑橘の香り立つ島
水球の極点に裂開する
空洞の寂寥から島は来る
榊の葉 甘夏蜜柑 山の幸
沖の岩礁に残された供物が
波に浸されて
夕凪の海を流れる
 
私は呼びかける
日没の朱筆に染まり
潮の巡りが帰還する島に
星蝕の夜に遊ぶ
海蛇の白い腹のぬめりに
深海の眠りの底の
透きとおった島の夢見に
 
波の間に
星が揺らめく磯を想う
私はこれから何処へ行こう
砂浜に打ち上げられた
クモヒトデを海図に這わせて
行く先を決めようか
 
月は潮流に直立して昇り
干満のたびに
銀河の滝が流れ落ちる島
灯台の黒い岩場に住まう
海の老婆が詠い伝える
千年の言葉を聴く
 
おまえ
海髪イギスを食え
海髪イギスを食え
 
 
 


 (「けんみん文化祭ひろしま❜23」にて県知事賞を
いただきました。)

月は潮流に直立して‥

*「海髪(イギス)」=潮間帯の岩礁または砂礫に付く暗紫色で毛髪状の海藻。海髪豆腐としてからし味噌等で食べる。糊の材料にもなる。

(wikiなど)
海髪(イギス)
いぎす豆腐



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