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熱気球試乗会

 

 1


森林公園の広場に
熱気球が繋がれている

カラフルなパターン模様に
アルファベットのロゴマーク
ビジュアル系の巨大坊主だ

家族連れの長い行列が
ゴンドラの前から
私とみーちゃんのいるこちらへと続き
試乗の順番が来るのを待っている
 
子ども達は風船で遊んだり
追いかけっこをしたり
紙ヒコーキを飛ばしたり
風ぐるまを回して走ったり
おとなしく待っていられない
 
シャボン玉のひと群れが
青空に散らばって‥‥


 
 2


のるのいや!
のるのいや!
い! や!

ええーーっ!?

あんなに楽しみにしていたのに
早起きして並んでいるのに
そういうことを言い出すのか?
 
風が熱気球のゴンドラを揺らし
乗っていた子ども達とお母さんが
悲鳴を上げたのを見てしまったのだ

やっぱり女の子 怖くなったのか
でも せっかくの熱気球試乗会
「料金の  元を取るまで  帰らない」
どうやって乗せてやろうか

やがて私達の順番が来た
皆の笑いを背後に感じながら
ひたすら拝むように説得して
地上に降りて来たゴンドラに
半ば無理やり押し込んだ
 
スタッフのお兄さんが
繋留ロープを解く

その瞬間
あらふしぎ
ゴンドラが足元から
ふわ~っと浮かんだ
 
「熱気球  ふわりみーちゃんが  笑った」
 
俳句もどきをひねり出しながら
ホッとしている秋の日曜日



 3


ゴォーッ!
ゴォーッ!
頭上でいきなり音がした
見上げる私とみーちゃん
 
バーナー噴射の青とオレンジ色の炎
球皮の内部に熱が送り込まれ
熱気球が青空に向かって
ゆっくりと上昇して行く
 
地上から男の子が歓声を上げながら
ゴンドラの私達に手を振ってくる
その横ではお母さんが額に手を翳して
眩しそうに見上げている
 
ゴンドラの高度が
樹々のてっぺんを超えて
いま 森の向こう側が見えた
遥か遠くに薄色の山々
見上げると陽光を
内部に透かした球皮が
青空をまあるく隠している
 
さあ みーちゃん
オーイ! 
オーイ!

地上のみんなに手を振ろう
ヤッホー! 
ヤッホー!

遠くの空にも
「熱気球  きのうの空に  手を振って」

向こうの空にも
「熱気球  あしたの空へ  流れ着け」

遠いあしたの空の下で
きみは何処かに
旅立って行くのかも知れないけれど
きょうは一緒に

しばらくの間
私達は空を漂っていた



 


 4(追記)

「ゴンドラの  高度はたった  8メートル」(ロープ付き)


ネット詩誌『MY DEAR』318号<今月の詩>に加えていただきました。




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