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春の日に


あなたが
残して行ったもの

俳句を連ねた
小さなノート
若山牧水の
歌集
漱石の
虞美人草
表紙がぼろぼろの
新約聖書と
古い写真の中の
やわらかな微笑み

かつてあなたが
夫を見送った夜
持鈴を鳴らしながら
歌った歌が
いま一度
あなたを見送る
私の耳に聴こえて来る

  あなたに伝えたいことがあります
  かつて私が
  黙って本棚から持ち去った新約聖書
  その栞にあなたが記していた主の祈りを
  今も暗唱できます

呼び掛けても
もう届くことのない
春の日に

澄んだ響きの
巡礼歌を歌っている
あなたは
いま
何処にいるのですか


   

     *巡礼歌=御詠歌
     *ネット詩誌 MY DEAR 310号
     <今月の詩>の一つに選んでいただきました。
                   

巡礼06

   (四国八十八ヶ所遍路)


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