見出し画像

まちを想う多様な眼差し|地域のイノベーター見聞録〈美濃加茂版〉Vol. 6 過去にインタビューしたゲストたちによる座談会

2023年より、地域想合研究室.noteでは、美濃加茂市で活躍されている様々な方にお話を聞き、それを記事として発表してきました。これらの貴重な機会は、このメディアに学びを与えてくださったと同時に、美濃加茂に住まう読者、あるいは美濃加茂以外のまちに住まう読者に、「自分のまち」について考えるきっかけをもたらすことができたと考えています。
2024年6月6日、これまで記事に登場いただいた方々をカレーショップ「らんびー」にお招きし、食事会と座談会を開催しました。彼らと共に本連載「地域のイノベーター見聞録〈美濃加茂版〉」を振り返りつつ、美濃加茂について自由に語っていただきました。本記事では、この座談会の様子をお届けします。

「らんびー」で行った座談会風景。(このほか記事内の写真撮影:編集部)

参加者

美濃加茂市は「自立持続可能性自治体」に選ばれたけれど、「住みやすい」ってなんだろう?


小野寺諒朔
(地域想合研究室.note編集部)
民間の有識者によって構成される「人口戦略会議」が2024年4月に出した令和6年・地方自治体「持続可能性」分析レポート において、美濃加茂市は「自立持続可能性自治体」に分類されました。これに分類されたのは全国の約1700の自治体のうち65のみで、岐阜県では唯一です。

篠田康雄(コクウ珈琲店主、NPO法人きそがわ日和理事長)
岐阜県で唯一? ということは岐阜県の中では大丈夫な方ってことですか。でも実際、何が大丈夫なんでしょう?

篠田康雄さん

齊藤達郎(NTTアーバンソリューションズ総合研究所)
このデータが示すのは、美濃加茂市における2050年までの20〜30代女性の人口減少率が20%未満だと予測されているということですね。

齊藤達郎さん

酒向一旭(やまのはたへ、元・美濃加茂市役所職員)
ただ、これは現在の人口と自然増減(死亡数と出生数の差)、社会増減(流出数と流入数の差)の数値を基に30年後の予想を出しているんです。今は単純に流入が多いのでこの結果になったと見ています。

篠田
住みやすいからこそ、流入しているんですか?

酒向
住みやすいからというか、職場に通いやすくてそれなりに治安が良くて、新興住宅地の開発が進んでいるから若い世代の流入があるということですね。

篠田
確かに。美濃加茂は、愛知県の犬山市など近隣の自治体に比べて土地が割安なんですよね。総合的に見ると、美濃加茂は住みやすいって言っても良い?

今中啓太(NTTアーバンソリューションズ総合研究所)
若い世代の女性の人口増減率を指標にしているので、一般的には自立持続可能性自治体に分類された自治体は、子育てがしやすいまちだと言われることが多いですね。

今中啓太さん

小野寺
となると、美濃加茂は岐阜県の中でいちばん子育てがしやすい……?

酒向
関係ないでしょうね。

一同
(笑)

篠田
そうなの?! 犬山とか一宮とか、周辺のまちで仕事をしていて、結婚して、さあ家を建てようって言った時に、美濃加茂が選択肢のひとつになりやすいということですよね? ああ、でもそれは地価が安いからか。

酒向
そうです。結局、仕事に通えて、住宅を買っても安定して住める場所かどうかであって、子育てがしやすいかどうかを見られているわけではないと思います。

篠田
でも実際、子育てしにくいところはありますか?

酒向
普通だと思いますよ。待機児童がいるわけでもないし、病院などのインフラも整っています。そのあたりは担保されていますね。

細野和子(外国籍児童が通う学童保育施設「KIDS DEVELOPMENT CENTER」主宰)
その統計には、外国人の数も含まれているんですよね。

酒向
はい、含まれていますね。

細野
美濃加茂市は、外国籍の人口が今も増え続けていますから、影響力があると思いますね。今、美濃加茂市に家を建てる海外の方が増えています。もちろん土地の価格が安いことや、就労先が多く用意されていることもありますが、それも含め、長く安心して住み続けられるまちだと海外の方に評価されているということでもあると思います。

細野和子さん

小野寺
土地価格の他に、日本・海外の方問わず美濃加茂のここがいいよな、っていう何かしらの要素があるのでしょうか?

小川友美(コクウ珈琲、NPO法人きそがわ日和理事)
私は木曽川だと思いますね。犬の散歩で朝晩と堤防を歩くんですけど、国籍や年齢関係なくたくさんの人を見かけます。川はみんな好きですよ。

渡邉峻哉(みのかも文化の森/美濃加茂市民ミュージアム職員、 前年度:美濃加茂市役所秘書広報課)
自分も太田地区で生まれ育ったし、川は身近にあったから好きですよ。マラソン大会で堤防を走らされた苦い記憶もありますが……(笑)

藤原涼太郎(ミュージックバー「dominant」店主)
僕も太田地区で育ったので川は身近にありましたが、僕の場合は祖父母から「川は危ないから近寄ったらいかんよ」とよく言い聞かされていましたね。

高木健斗(カレーショップ「らんびー」店主)
川に限らず、美濃加茂の自然はいいなと思います。僕は今年32歳になりますが、以前はあまりまちについて考えたことがなかったんですよね。それって、まちが良かったからなんじゃないかとも思っていて。問題点がなかったからこそ、まちに対して何も感じていなかったんじゃないかな。でも、今こうやって改めてまちを見直してみると、どこを見渡しても山が見えるところとか、美濃加茂ってすごくいいなって思えます。

高木健斗さん

篠田
私と小川さんは愛知県出身で、濃尾平野に住んでた人間からすると、美濃加茂の山と川がある風景は新鮮でしたね。

小川
本当に。すごく新鮮ですよ。虫が多いのは嫌だけれど風景は飽きませんね。それこそ、「コクウ珈琲」が川の近くのあの場所にオープンしたのは、川の景色が決め手でした。この「風景に魅せられる」って感覚は、美濃加茂で生まれ育った人たちが持つ感覚とはけっこう違うのかなと思います。

木曽川

渡邉
住んでいる側からすると、あまり実感がないものなんですよね。

小野寺
藤原さんにインタビューした際に「美濃加茂は実用的なまちだ」って言っていましたよね。観光にものすごく力を入れるのでもなく、住む人にとってしっかり住みよいまちなんだと。

藤原
特段悪いことがないところが美濃加茂の良さでもありますね。でも、あえて言うなら交通の便はもっと良くなってほしいです。特にバスが。

まともに通勤や通学に使えるような路線がないと感じます。美濃加茂市内から市外の高校に通う時、家から駅までは自転車を使う学生が多いのですが、美濃加茂市は地形が豊かでアップダウンも多い。自転車での行き帰りはけっこう大変だと思うんですよ。名古屋の大学や専門学校に通う人は、わざわざ木曽川を渡って可児市にある名古屋鉄道日本ライン今渡駅から電車に乗ることが多い。美濃加茂市のJR美濃太田駅から名古屋を目指すより早いんですよ。だから朝の通勤・通学といった、特定の目的に特化したバスがあれば、多くの人が助かりそうなのですが。

小野寺
今の美濃加茂市のコミュニティバスには通勤特化の路線がない?

藤原
美濃加茂市のコミュニティバス「あい愛バス」は色々な目的地を経由しているので、バスを利用するとどうしても遠回りになってしまうんです。コミュニティバスなので仕方がないとは思います。もっと別の、自治体間を超えて、周辺を自由に行き来できるようなバスがあればいいですよね。そうすれば周りの市町村で人がもっと動くんじゃないかと思います。

マイカーを持っていて運転ができる世代は気にならないかもしれないですが、70〜80代になって免許を返納せざるを得なくなった時の交通手段として、もっとバス路線が必要だろうと思うんですよね。

細野
私は70代なので、もっぱらバス移動が多いですが、可児まで行きたいなと思う時にバスがないんですよね。また、隣の坂祝町まで行くバスは存在するんですけど、坂祝町民でないと乗れないのでもどかしいですよ。自治体間を超えた路線バスの運行、あるといいですね。

蜂屋・山之上・三和方面の自然に囲まれた地域を走る、あい愛バス「ほたる線」
あい愛バスの路線図。写真は市発行の『あい愛バス時刻表路線図 2024.4.1改定』pp. 1-2を撮影したもの。詳細はあい愛バスのHPより閲覧可能。

一本の川が、隣の可児市との文化的な違いを生んでいる?


細野

周辺の自治体の話が出てきて、素朴な疑問を思い出したのですが、可児市と美濃加茂市って仲が悪かったりするんですか?

渡邉
そんなことはありませんよ。でも、個人的には間に木曽川が一本挟まっていることの影響がかなりあると思いますね。感覚的な話なんですが、美濃加茂市って可児市と一緒に何かするよりも、川で隔てられていない山側の加茂郡や関市と何かする方が多い気がします。

藤原
僕は元々可児市でもお店をやっていました。飲食店から見ても美濃加茂と可児ではけっこうな違いがありますよ。いちばんの違いは住民が好むビールの銘柄ですね。美濃加茂はアサヒだけど、可児はキリンが多いです。かなり自信を持って断言できます。

藤原涼太郎さん

渡邉
消防団に入っていた時期があったんですけど、飲み会がある時は必ずアサヒですね。先輩から「絶対にスーパードライだからな」って教えられるんです。

高木
知らなかった……。うちは日本のビールだとサッポロとキリンを置いているんですけど、ビール変えようかな(笑)

藤原
それからウィスキーも、美濃加茂はバーボンを好む人が多いけど、可児はスコッチ派が多いですし、常連さんがお店に来る頻度も違いますね。可児は、地元のお客さんはそこまで多くなくて、可児市の外から働きにきているお客さんがよく飲みに来てくれる印象です。そういうお客さんは週に一度、決まった曜日に来ることが多いですね。

一方で、美濃加茂は地元に住んでるお客さんが多くて、毎日くらいのペースで来る人が常連さんの中でも半数くらいを占めています。あくまで僕のお店での話ですが……。

藤原さんのお店である、ミュージックバー「dominant」


小川
なるほど、参考になります。美濃加茂で商売をやるなら、常連を掴まなきゃいけないってことですね。だから美濃太田駅前にたくさんあるスナックがやっていけているのか。それぞれの店に常連がついているってことですよね。

それにしても、一本の川を隔ててそんな違いがあるとは、驚きです。

酒向
川の影響は大きいと思いますね。名古屋にはキリンの大きな工場がありますし、昔から名古屋ではキリンが強いと言われますよね。可児市は名古屋寄りですから、美濃加茂より影響を受けやすい、ということなんでしょうね。

一方、美濃加茂は木曽川があるおかげか、どちらかというと岐阜市や高山方面の文化からの影響が強いと思います。岐阜県の郷土料理として有名な「鶏ちゃん」は、元々は下呂や高山の方で食べられていたものですが、美濃加茂の人も日常的に食べますよね。でも、可児の人はそんなに食べない。食文化として根付いている感じはしないんですよ。

渡邉
美濃加茂と可児の間は「太田の渡し」と呼ばれ、中山道の三大難所のひとつに数えられています。

藤原
だから昔は簡単に行き来できなかったはずで、可児よりも、山側の地域との交流の方があったのでしょうね。

藤原
可児市ではかつて名古屋へ電車で通勤する人向けのニュータウンが開発されたこともあり、元々名古屋方面に住んでいた人が多いのかもしれませんね。だから、やはり名古屋の文化が入りやすかったんじゃないかと。

酒向
美濃加茂は、南の名古屋よりも北の加茂郡出身だって人が多いですよね。そういった住民のルーツは、違いを生む要素としてありそうですね。

人が歩いていないのは悪いこと? 賑わいのない通りだからこそ魅力に感じる


小野寺

ここで、細野さんの夫のバル(Baldomero)さんにも美濃加茂での暮らしについて聞いてみたいと思います。バルさんさんはフィリピンの出身で、日本での生活は30年ほどになります。2006年より美濃加茂に住み始め、主に派遣のお仕事をされてきました。現在は、細野さんと二人三脚でKDCの運営に携われています。

Baldomero Patrocinio(外国籍児童が通う学童保育施設「KIDS DEVELOPMENT CENTER」スタッフ)
美濃加茂は良いまちだと思いますが、人と人の交流が希薄な印象を受けますね。それは日本人同士でも、外国人同士でもコミュニティがあまりない気がしています。もっと住民同士の結束力があるといいのに。

Baldomero Patrocinioさん

自分としては、全体的に見ると、美濃加茂での生活は必ずしも裕福ではない印象です。日本人も外国人も同様です。開発が特定の地域に集中してしまっている。まち全体に目を向けると、遺棄されたテナントとか、今にも崩れそうな空き家などをよく見かけます。中山道太田宿エリアが良い例です。かつてはたくさんのサムライで賑わった、歴史ある場所です。でも、平日に行くと分かるんですが、ほとんど人が歩いていないんですよ。由緒ある場所なだけに残念に思ってしまいます。

中山道太田宿の街並み

小川
バルさんの言う通り、平日は人通りが少ないですよね。コクウ珈琲のお客さんも少ないです。

篠田
人が歩いていないのは悪いことなんですかね? 我々は、人が歩いていないのが魅力だって考えちゃっているので。

小川
それで商売ができているからそう思えている部分もあるかもしれませんね。実際、もっと人通りがあった頃に戻したいという意見はありますね。でも私たちとしては、人が増えすぎちゃうのもどうかなと思っています。

小川友美さん

篠田
仮に観光業か何かで火がついてしまい、毎日何百人と人が歩いていたら、店をたたむかもしれませんね。

結局、我々がなんとか商売を続けてこられたのはSNSのおかげだと思ってます。私の世代(50代)より上の世代は、広告宣伝の媒体が紙しかなかった。個人で無料で世界中に向けて発信できることで、商売の範囲が広がっているんですよ。ただ、それだと土日にしか集客ができなくて、平日は苦労しているのも事実ですが、その分はコーヒー豆の卸しなどで賄えるようにしています。必ずしもエリアに訪れる人の数をどっと増やさずとも、商売が成り立つ時代になったなと思います。美濃加茂のような小さな地方都市では特にそうです。

小川
中山道で商売されている人たちの集まりでも、もっと観光地らしくしたい人もいれば、今の感じが好きだって人もいて、意見が割れているようです。

藤原
僕も短い期間ですが、中山道でお店をやっていたことがありますが、考え方は本当にお店ごとにそれぞれなんですよね。自分のペースで商売したいって人もけっこう多いです。通りをピカピカに真新しくしたいとか、そういう雰囲気ではないですね。でも、美濃加茂市としては、もっと盛り上げたいんですかね? 実際に中で商売やっている人と、世間のギャップはあるような気がします。

渡邉
仕事柄、観光について話すことがありますが、市としても中山道を観光の主軸にという考え方は、今はあまり持っていませんね。ただ、これは中山道に限った話ではありません。確かに、観光にもっと力を入れたいと思う人たちもいらっしゃいます。そうした人たちの考え方も分かりますし、その背景もちゃんとあるのですが、それだけに役所が流されているわけではないですね。このエリアだけを特別視しているわけではなく、どの地域も一緒だという考えです。

渡邉峻哉さん

藤原
僕としては、まちのリニューアルというか、何か大々的にやるんだったらJR美濃太田駅前とか、今現在廃屋が目立つところでやるべきだと思ってます。駅前には老朽化で使われていないビルがけっこうありますし、テナントが足りていません。駅前ならもっと開発が入ってもいいと思うし、中山道みたいに自分のペースでやりたいお店が並んでいるところはそのままで良いというか、外から無理やり動かしていく必要はないのかなと思いますね。色々な考えを持つ人がいるっていうのを念頭に置いて開発されていくべきなんだろうなと自分は思います。

酒向
僕は中山道が好きだし、自分が住んでいる山の方も好きです。どうして好きなんだろうって考えた時に、ひとつ思いつくのが「地域コミュニティ」があるということです。

今は、SNSのおかげで目的をひとつに絞ったコミュニティがたくさん存在しますよね。例えば飲食店だってコミュニティのひとつですし、音楽好き同士のコミュニティもあります。そうしたコミュニティでは趣味も話題も合うし、みんな同じ方向を向いているから、互いに気を遣わなくていい。居心地が良いし、楽なんですよね。集合住宅も比較的年代が近くて所得も近い人たちが集まるので、ある意味同じでしょう。

でも、地域コミュニティはそうではないんです。中山道を見るとお店をやっている人もいるし、住んでいる人もいるし、所得が高い人も低い人もいる。たくさん儲けたい人もいればそうではない人もいる。すごく多様性があります。一見、コミュニティがないようだけど、みんなが適度な距離を保ちながら、なんとなく空気を読んで付き合っているんです。

酒向一旭さん

酒向
一方で私が住んでいる山の方の地域も同じで、やはり色々な人が住んでいます。移住者ばかりが集まるような集落でもなく、じいちゃんも、ばあちゃんも、若い人もいる。農薬をばんばん使うようなところもあれば、僕みたいに無農薬でやっている人もいます。それでも仲が悪いわけではなくて、地縁のコミュニティだから付き合っていくという高度なコミュニティ形成をしているんです。これってすごいことだと思っています。

これから持続可能な社会を考えた時に、SNSでどれだけ趣味の合う人たちと繋がったとしても、やはり地域に住み、生きることに変わりはないはずです。たとえば飲食店に行けば地域の人たちに会わざるを得ないわけですが、自分と気が合うかはわからないけれど、それでも付き合っていくという選択をするのは大事なことだと思っています。この付き合い方、コミュニティが中山道にあるのが魅力だと思います。

今中
篠田さんは、中山道の距離感は気楽だという実感はありますか?

篠田
中山道のご年配の方々は抜群に素晴らしいですよ。我々も全く嫌われることなくコクウ珈琲を続けてこられましたから。

小川
もしかすると裏にはよく思わない人もいるのかもしれませんが、会ったことがないので分かりませんね。表に出てくる人はみなウェルカムな感じで接してくれますね。

篠田
我々の世代だろうと、その下の世代だろうと、よそ者を排除するって感覚が全くないので、非常に居心地が良いです。

コクウ珈琲の建物(写真中央左)がある旧中山道と、奥に木曽川、鳩吹山を望む。

酒向
美濃加茂の良いところは、今まで方向性をつけてこなかったことなんだろうと思っています。たとえば、美濃加茂市が産業振興みたいな文脈でがんがん中山道を活性化させようとして、人を呼び込んでいたら、おそらくコクウ珈琲のような結果的に地域に根ざして長く商売をやるようなお店は生まれていなかっただろうし、それに続く比較的新しいお店たちも存在しなかったと思うんですよ。

藤原
景観条例もわりと緩いんですよね。

酒向
そうなんですよね。観光地としての宿場町として売ってこなかった、あるいは売れなかったというのは、ある意味で良い結果をもたらしています。

藤原
どんな商売が入ってきてもいいし、ファサードも和風にせずともある程度自由にやって良いけれど、建物は古いものをリノベしながら使い続けていけば、結果としてエリアとしてのまとまりは上手く保たれるんじゃないかなと思います。いちばん困るというか、もったいないのは、築100年を超える建物なんかを、古いからと壊してしまうことです。

一方で、先ほどバルさんが言ったように、廃れて見えるというのも分かります。草が生え放題の空き地や、壊れかけた建物なんかは数が少なくとも目立ってしまいます。初めて訪れる人からするとなおさらその印象が強くなるはず。そこは最低限綺麗にしてあるといいですよね。

酒向
綺麗に整えるべきかどうかは、難しいですよね。こんなちょっと廃れた宿場町に、コーヒー屋さんが、ギャラリーが、服屋がある、普通に洗濯しているばあちゃんもいる、みたいなギャップが面白かったりもするんですけどね。生活と一体になっていて、全てが共存しているというのが。

もうみんな気づいている。大事なのは、いかに人口の取り合いをせずに生き残れるか


今中

仕事で色々な自治体さんからお話を聞くことが多いのですが、人口を少しでも増やして税収を上げてインフラをできるだけ整備して、できるだけ便利で若い人がもっと住みたくなるようなまちにしたいと考える自治体さんが多いですよ。そんな中、前回渡邉さんと酒向さんにインタビューしに美濃加茂を訪れた時に伺ったことですが、市としてはがんがん人口を増やそうというわけではないと聞いて、正直驚いたんですよね。

酒向
冒頭の自立持続可能性自治体の話で、美濃加茂は比較的人口減少が30年後も少ないまちだとありましたけど、減りはするんですよ。人口は日本全国で減っていきますし、経済規模も縮小します。

私は今、山や自然と共存する暮らしを人々に知ってもらうための「やまのはたへ」という活動をしていますし、元々山育ちです。つまり低密度で生きてきたわけで、人口が少なくなった時の暮らしを知っています。結局、低密度でどう暮らしていけるかを、まち全体で考えないことには持続可能な暮らしは作れませんよ。人口の取り合いをして密度を確保しても、それはどこかの地域をつぶすことが前提ですから意味がありません。今は、これ以上人口を増やさずに低密度でどれだけ地域を持続させられるかを考えるフェーズにきていて、役所の人間はそれに気づいていますよね。

渡邉
それは役所にいて感じますね。人口を増やそうっていう感覚ではもうないんですよ。自立持続可能性自治体に分類されたからといって、「イェーイ」って喜べるわけでもない。その先のこと、人口を増やさずにいかに生き残れるかを考えていかないといけないですよね。

酒向
農業をやっていて思うのですが、食料やエネルギーのことを考えれば、人が減った方がよっぽど持続可能性があります。

今中
一方で、首長は選挙で選ばれるじゃないですか。その首長が「うちのまちは人口を減らします」って言っても、おそらく有権者に受け入れられないですよね。むしろ人を増やしたいと思って投票する人の方が多いんじゃないですかね。
この前、とある人口1400人程度の自治体の職員さんとお話する機会がありました。そこは町役場の建て替えを行いたいけれど、お金もないのでどうしようかと悩まれているということでした。例えば廃校に少しだけ増築を行って庁舎にし、人口の減少と共に減築していくことにして、その分バスなどソフト面にお金を使った方がいいんじゃないか、ということを雑談の中で話したのですが、やはり自治体の人もそうした施策の必要性は理解されていた一方で、こういう案を具体的に言葉にして市民に訴えることの難しさも話されていました。

篠田
美濃加茂市も今、ちょうど新庁舎をどこに移転するかという問題が盛んに議論されていますね。

藤原
これからは色々な仕事が自動化されていく時代ですよね。だから現在と同じ規模の庁舎をもう一度建てても、維持管理費がネックになりそうです。建物をコンパクトにつくるっていうのは、飲食店もそういう時代になっていると僕は思ってます。従業員を10人雇うお店よりも、ひとりかふたりで回せるような小さな店舗が人気なんです。

小川
そういうものばかりになっても、飽きてきちゃう気もしますよね。

篠田
美濃加茂にも、かつては大規模な個人店がけっこうあったようですが、今はそもそも、たくさん人を雇うような商売ができないですよ。バブルの時のような売り上げは決して見込めないから、小規模な商売しか選択肢がない。
庁舎も同じで、選択肢は限られていると思うんですけどね。でも、特に年配の方なんかは「あそこの市より小さいやないか、みっともない」とかって盛んに言うんですよ。そういう声ほど大きいですから、きっとその折り合いをつけるのが非常に大変なんでしょうね。今の市長がこれからどう主導していくのか、興味があります。

1961年竣工の美濃加茂市庁舎

外国人が多いという特徴を、もっとまちの強みに変えていける環境づくりが必要


細野

庁舎の移転問題は盛り上がっているようですが、私自身はそれよりも外国人児童の現状の問題、たとえば不登校などの問題に市としてしっかりと向き合ってお金の使い道を決めてほしいなというのが正直なところです。
私は市政のことはあまりわかりませんが、外国人児童の教育に関わってきた身からしますと、もっと小学校に入る前の日本語教育に力を入れるべきだと思いますし、そこにお金を使っていただきたいです。小学校に入った後はそれなりに充実していると思うのですが、入る前の幼児教育の段階でやれることがまだまだあると思うんです。

小野寺
細野さんにインタビューした際に熱く語っていただいたことですね。確かに、細野さんはその想いで認可外保育所としてKIDS DEVELOPMENT CENTERを開所されました。現在は、保育所としては休業し、学童保育施設としてやられています。確か、渡邉さんのお子さんも、夏休み期間中だけKDCに通われていたとか?

渡邉
細野さんがやられている学童では、外国人のお子さんたちと同じ目線で話しができますし、なにより子ども同士での教え合いが活発で、学校の学童ではやらないことを多くされています。バルさんお手製のフィリピン料理を食べさせていただいたり。私の子どもも2年前の夏休みにお世話になったことがありましたが、ひと夏で子どもたちの成長をすごく感じられましたね。

KIDS DEVELOPMENT CENTERの学習風景

小野寺
今の美濃加茂の子どもたちは、昔と比べて海外の子どもとのコミュニケーションは柔軟に行えているのでしょうか?

渡邉
地域差もあるんじゃないかなと思います。太田地区や古井地区など南部は外国籍の方が多いので、異文化コミュニケーションは当たり前になってますよね。自分が小学生の時からすでにクラスに1〜2人は外国籍の子がいました。山之上地区や三和地区など北部は外国籍の方の数が少ないので、そうしたことだけでも感覚は違ってくるんじゃないかと思いますね。

太田地区や古井地区は、幼稚園・保育園の段階から外国籍児童の多い環境ですから、そこまで壁はないと思います。細野さんからすると、また違う見え方なのかもしれませんが。

細野
そうですね。やはり言語が壁になって、外国籍の子どもたちが自分らしさを発揮できない状況はまだまだあると思います。できれば学校とKDCのような学童が協力し合いながら、一緒に子どもを育てていけるような関係を、この先築いていきたいです。

藤原
学校以外のクラブ活動が糸口になるかもしれません。僕はクラブチームで野球をやっていたんですが、チームメイトにブラジルの子がいました。外国人の子どもが入部するのは彼が初めてだったのかな。最初はお互い不安なところはあったんですけど、結果的に6年生まで、チームの主軸として活躍していました。彼は野球を通して日本語や日本のマナーを身につけていましたね。学校の勉強についてチーム内で話すこともあったので、支えになっていた部分はあったはず。だから、クラブ活動にかかわらず、学校以外の居場所があると、学校では補えない部分を補ってくれる学びの場になりそうです。

渡邉
細野さんのKDCはまさに、その学校以外の居場所になっていると思いますね。

小野寺
KDCに子どもを預ける保護者へのアンケートで「日本人の友人はいますか?」という項目があるのですが、ほとんどの方が「いない」と回答されていると、先日のインタビューで細野さんからお話がありました。これが自分としてはかなり衝撃的でした。自分が幼少期を海外で過ごした経験を振り返ると、子どもである私を通じて親同士の交流は少なからずあった記憶があるんですよね。「何か困った時に頼れるアメリカ人の同級生のお母さん」みたいな人がいました。もちろん外国籍の子どもたちが日本の学校で輝くには言語という壁を乗り越える必要があると思いますが、大人同士では言語に関係なく互いに歩み寄る気持ちだったり、それを醸成させる環境づくりがより求められるのだろうと感じています。

ぎふ清流里山公園で行われたイベントで合唱を披露するKDCの子どもたち

地域のイノベーター見聞録〈美濃加茂版〉を振り返って


小野寺

色々な話題が出ましたが、そろそろお時間も迫って参りました。最後にみなさんから一言ずついただきたいと思います。それぞれ個別にインタビューをさせていただいたメンバーが一堂に会し、カレーを食べ、こうして輪になって座談会を行ってきたわけですが、この地域想合研究室.noteに関わってみていかがでしたか?

藤原
僕は普段バーの仕事なので、お酒が入った勢いでワイワイやる会話の方が慣れているんですが、今日のこの場はお酒を飲まれた方でも軽く一杯くらい。真剣に美濃加茂のまちについて考えて、意見を交わし合うというのがすごく新鮮でした。自分が今後商売を続けていくなかで、ヒントとなることがたくさんありました。

酒向
僕は美濃加茂の山の方で活動しています。普段は農業体験や自然体験など、自分の活動に参加してくださるような、自分のやっていることに理解がある方と関わることが多いです。今日は初めてお会いする方もいて、すごく視野が広がったなと感じました。趣味趣向だけの繋がりではない、新しいコミュニティが拓けた気がして嬉しいです。

渡邉
自分は、今年の3月に秘書広報課からみのかも文化の森/美濃加茂市民ミュージアムに異動したばかりなんです。実は、新しい環境に慣れるのがなかなか大変で、まちのことを考える余裕もなくしていたかもしれません。でも、今日みなさんとお話できて、その感覚を取り戻せました。我々自治体職員は、まちのことを常に考えて動いていくことが仕事ですが、役所の人間かどうかにかかわらず、皆さんまちに対する熱い想いがあるのだと知れたのが大きな収穫でした。

小川
正直なところ、こんなに真面目な話をする会だと思っていませんでした(笑)。真剣にトークするのも楽しいですね。この場を借りて宣伝したいのですが、8/23(金)〜9/3(火)にかけて、この「地域のイノベーター見聞録〈美濃加茂版〉」の内容の紹介や、小野寺くんがプライベートで撮った写真を展示するイベントを、我々がやっているNPO法人きそがわ日和が運営するギャラリー「empty space」で開催予定です。web上だけに留めておくのはもったいないなと思いまして。また、美濃加茂市市制施行70周年の記念事業の一環として、市から後援もいただいています。この記事をお読みのみなさん、是非お越しくださいね。

篠田
今日は楽しかったです。インタビューされた時も話しましたが、私たちとしては、あとは背中を見せるだけかなと思ってます。ここで私が高木さんや酒向さんに「こうしたほうがいいぞ」なんて言えば、きっと老害になってしまいます。今の少し尖った商売のスタイルで、この場所であと15年、20年と頑張っていきたいと、改めて思えました。

細野
今まで以上に、美濃加茂は特殊なまちだと感じました。私はやはり、美濃加茂の特徴のひとつでもある外国人の多さを、もっと良いイメージと結びつけられるよう、外国籍児童の教育をこれからも頑張ります。自分の想いを、初対面のみなさんにぶつけることができて良かったです。

Baldomero
まずはじめに、美味しいカレーとこの場所を提供してくれたらんびーさんに感謝したいです。日本語がわからないので、全部の内容を理解できたわけではありませんが、あい愛バスの話題は良かったですね。やはり車の運転をしない身として、コミュニティバスだけでは移動の幅がまだまだ制限されていると感じます。
それから、中山道の話も大きなトピックでしたね。私は、15年前くらいに中山道のお祭りで刀を差して、サムライの格好をして、「姫行列」のパレードに参加したことがあります。馬がいて、火縄銃のパフォーマンスもあって、すごく楽しかった。でもそれ以降は年を重ねるごとに、馬がいなくなって、火縄銃がなくなって……。すごく寂しく、がっかりしました。今日は、中山道について色々な意見があることを知りましたが、私としては多くの外国人が訪れる場所になってほしいという想いです。

齊藤
小野寺さんが美濃加茂を題材にした企画をやりたいと言われた時に、「外部から来た人が果たしてどれくらいまちの人から受け入れられるんだろう?」というのがけっこう気になりまして、面白そうだと思ったんですよね。正直、全然受け入れられない可能性だってありましたし、これだけのメンバーが集まって座談会ができたのは想定外でした(笑)。日々、まちづくりの仕事に携わっていると、合理性を求めがちになりがちです。篠田さんの「人が歩いていないのが良い」という発言には驚かされましたが、そうした想いも含めて、多様な意見に耳を傾けることの大切さを再確認できました。

今中
webミーティング上ではなく、実際にみなさんとお会いして、この場の熱感だったり、笑いも含めて感じられたのは非常に良かったです。ここに集まった皆さんのやられていることや考え方は、もしかすると美濃加茂市の中では少数派に属するのかもしれませんが、皆さんのような存在が確実にまちの魅力を作っているんだと思います。「見守る」みたいな偉そうな意味ではなく、この企画をきっかけに私にとって美濃加茂が「ずっと見ていきたい」まちになったなと思っています。

高木
「地域のイノベーター見聞録〈美濃加茂版〉」の最初の記事が出たのが2023年の7月で、それからもう1年になります。最初はインタビューを受ける側で、2回目以降は僕も聞き手に回りました。最近自分を取り上げてもらった記事を読み返したんですけど、これからインタビューする人たちを最後に集めてカレーを食べる会を開催したいと書いてありました。実現できてよかったです。また、empty spaceで展示が開催されますが、この企画を始めた時には想像もしていなかったことです。振り返ると、今までまちについて考えることってあまりなかったんですけど、今では自然と考えるようになりました。この企画をやってきてよかったなと思っています。

小野寺
みなさん、企画にご参加いただきありがとうございました。私は妻の転勤がきっかけで美濃加茂に住み始めました。最初はgoogle map上で見て「駅、スーパー、コンビニ、薬局が近くにあるから生活には困らないだろうな」くらいの気持ちで、何か特別な期待を抱くわけでもなく、たまたま美濃太田駅周辺を住む場所に決めました。

越してきた翌日、中山道太田宿エリア周辺を散策してらんびー、コクウ珈琲をはじめとする場所があることを知ったものの、「サービスを提供する彼らと、それを受け取る私」以上の何かを想像することはありませんでした。そんな状態のスタートだったのに、数週間も暮らしてみると「自分が越してきたこの全く知らない場所についてもっと知りたい!」という欲が湧いてきます。美濃加茂で精力的に活動する彼らに話を聞いてみたくなり、ありがたいことに取材を受け入れてもらえました。ひとりインタビューすると、美濃加茂への視野が広がり、また別の方にお話を聞きたくなる……それを重ね、本日の座談会開催にまで至ったことに、人と人との繋がりに、とても感謝しています。

個人のアクションが人と人の繋がりを生み、その繋がりが小さくとも何かしらの影響をまちにもたらしているという実感が、美濃加茂での暮らしにはありました。これは取材を経るにつれて感じたことです。きっとこの感覚は、知っている人には当たり前のことでしょう。ですが、これまで自分の住む場所に特段興味を持ってこなかった自分には、とても新鮮でかけがえのない体験でした。この感覚を、この先どこに行こうとも、私は大切にしていくつもりです。本日はありがとうございました。

(2024年6月6日収録)


構成・編集:小野寺諒朔
編集補助:福田晃司、春口滉平
デザイン:綱島卓也


この記事が参加している募集