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1話【早春の壱乃峰で】『樹々は唄い、風に舞う』第一部~樹々の恵み編~


【あらすじ・ルビ無し294/300文字以内ver】

 実り多い天然林となったこの森の樹々に宿る、樹の精霊たち。
 彼女たちは、より豊かな森になるよう調和を保ちつつ、仲良く活きている。
 春には季節の花を愛で、樹々の恵みを味わい、宴で風に揺れる枝葉での舞いを披露して春の訪れを祝う。
 夏には唄の祭典で、葉音で奏でる唄に乗せて、健全に成長できた感謝を表す。
 秋の実りでは、動物たちへの木の実の振舞いで賑わう中、この森で唯一の〝人間によって植えられた〟スギに宿る精霊の、樹の恵みの葛藤が解消される。
 晩秋の山祭りでは、山の神様へ今季の感謝を伝えるため、樹々は唄い、風に舞う。
 やがて初雪と共に冬の眠りに就くまでを描いた、優しい世界の物語。


1話【早春の壱乃峰いちのみねで】

 おだやかな早春の日差しが、心地よい。
 谷筋たにすじ残雪ざんせつを通って吹き上げてくる冷風れいふうが ひんやりとほおをなでるけど、少し気の早い樹種じゅしゅは すでに若葉を広げる準備をして。
 空の青。 雪の白。 樹々きぎの黒。
 殺風景だった森の中にもポツポツと、木の葉の緑や 季節の花が、いろどりを。

マルバマンサクの花

 黄色い十字の花びらの中心に、紅一点こういってん
 春に まず咲くマルバマンサクの花が、ここ東谷で最も高い壱乃峰いちのみねの森に、樹々きぎたちに、春の訪れを告げていた。
 壱乃峰いちのみね中腹ちゅうふく緩斜面かんしゃめんには、樹齢じゅれい数百年と思われるホオノキの巨樹きょじゅがあり、それを中心に、様々な樹種じゅしゅ生立せいりつしている。

 カフェ『noliaノリア』。
 ホオノキ巨樹きょじゅの根元にできた大きな樹洞じゅどうを使って、内部にカウンターやテーブル席を設置した この小さなカフェは、みんなの憩いの場になっていた。
 店員の のりあは、すでに開店準備を済ませ、コーヒーのオリジナルブレンドをあれこれ試している。

「……甘めのフレーバーだから、あのたちに ぴったりね。
 とっち社長 には、芳醇ほうじゅんなアロマ系かしら?
 こっちの苦みがハッキリしてる方は、めりあ 向きだわ。
 みんな、喜んでくれると良いけど――。
 あら? 今日はあの、早いわね。」

「おはよ。 のりあ、いつものコーヒーを。」

 スラッとした立ち姿が目を引く美人が、ご来店。
 いつも通りのクールな表情、何を着せても似合ってしまうスタイルの良さ。
 めりあは、大事な仕事の前には 必ずここに立ち寄ることにしていた。
 樹洞じゅどうのいちばん奥、木漏こもれ日が差し込む窓際のテーブル席が、めりあの指定席。

「いらっしゃいませ、めりあ。 今日も、モデルのお仕事?」

「そう。 雑誌の表紙の撮影だって。」

「まぁ! すごいじゃない!!
 じゃあ今日は めりあに、高級豆のコーヒーを奮発ふんぱつしちゃおうかしら?」

「うん、頼むわ。」

「うふふ。 めりあったら、相変わらずクールビューティーね。」

 のりあは めりあに柔らかく微笑むと、くるりとターンし、カウンターへ。

 めりあは、ふわりと揺れた、のりあのメイド服に似たカフェの制服とエプロン、そして ゆるいウェーブがかかった 背中まである長い黒髪と大きな白い花がついたヘアクリップに目を奪われながら、
「……のりあも、モデルやってみればいいのに。」
と、のりあの後ろ姿に話しかける。

 カウンターに戻った のりあは、コーヒーをれながら「素敵なお誘いだけど、遠慮させてもらうわ。」と。

「……前にも言ったけど、私はここで、みんなに喜んでもらえる おもてなしができるだけで、満ち足りてるの。
 それに、めりあみたいに 普段着でも目立ってしまうほど、着こなしやスタイルに自信ないから。」

 指定席で待つ めりあを眺める、のりあ。
 めりあの今朝の着こなしは、仕立ての良いシャツの ボタンを胸元でめ、すそを出し、そでまくり。
 スリムなジーンズは、8分丈ぶたけ
 そんなラフな格好で、窓際のテーブル席に座っているだけなのに、まるで映画のワンシーンか 写真集の1ページかのように、見映みばえする。

「モデルと言えば、当然その服じゃなくて、着替えて撮影するのよね?」

「うん、もちろん。 だってコレ、いつもの普段着だし。」

「私には、いつものその服だって、撮影用の衣装に見えるわよ?
 そういう着こなしができるからこそ、私には無理だって思うし、めりあにはモデルのお仕事が向いてるって思うのよ?」

 コーヒーを運びながら、いつもの調子で めりあに問いかける。
のりあの、丸顔で目尻の下がった柔らかな表情からは、優しく包容力に満ちた性格がかもし出されている。

「あ…… うん。 のりあ、いつもありがと。
 やっぱ、緊張してるのと、ちょっと自信ないの、バレバレだよね。
 でも のりあは そうやって、いつも優しく受け止めて元気をくれるから。
 ……さて、それじゃぁ今朝も、のりあのコーヒーで気合入れますか!」

「うふふ。 こちらこそ、ありがとうございます。
 ……あら? まだ茶髪のままで、撮影いくの?」

「うん、この冬は寒かったから、なかなか色が戻らなくて。」 ★1

「そうね――。
 でも、〝今しか見れない、めりあ!〟って感じで、素敵だと思うわよ?」

「……あ、ありがと。」

「はい、どうぞ。 めりあ好みのブレンドよ。
 今日も頑張ってね!」

 少し照れた めりあの様子に気付かない振りで、のりあは、特別ブレンドのブラックコーヒーを。

「このツンデレっぷりが、とっち社長の言う めりあの魅力なのかしら?」

 と つぶやき、カウンターに戻る。

 めりあ は照れ隠しに顔をそむけて外に目をやり、苦みのハッキリしたコーヒーを、ひとくち。
 いつもの自分にリセットし、モデルの仕事に向けて気合を入れ直す。


 カフェの2階の事務所から、なにやら話し声。
 りんとした大人の「~すぐ行くから、カフェで待ってて。」の声の後に、可愛らしい少女の「はい!!」の声が重なって聞こえた。

「そういえば今日は、あのたちと同じ会場だったわね。
 ステージに行く余裕あるかな?」

 と、めりあが つぶやいていると。

 どたどたと元気な足音のすぐ後に とんとんと大人しい足音がついてきて、双子のアイドル〝紅葉もみじかえで〟が、カフェへと降りてきた。

「~なんたって、この春 最初のライブなんだから!
 紅葉もみじ、気合入れてパフォーマンスしちゃうもんねっ!!」

「おねぇちゃん…… 張り切りすぎだよぅ。。。
 いま、とっち社長に『2人で合わせるよう、気を付けなさい』って言われたばかりなのに。。。」

「テヘッ☆ そうでした。
 かえで、今日も2人で 最高のライブにしようねっ!!」

 姉の紅葉もみじは、元気な足音よろしく〝パフォーマンスの紅葉もみじ〟と呼ばれる、元気娘!
 一途な性格だけど、ちょいドジっ
 活発な美少女で、今日の普段着も 好みの派手めのプリント柄。

 対して、妹のかえでは、大人しく健気。
 持ち前の器用さで いつも姉をフォローする縁の下の力持ちだけど、ステージ上では〝歌唱力のかえで〟と呼ばれるほどの実力。
 控え目な美少女で、今日の普段着も 真面目な性格を表すような、シンプルなデザインのシャツを。

 とっち社長は、このアンバランスながらも個性が際立ちつつ、フォローし合う姉妹の魅力に惚れ込み、2人を双子のアイドルとしてデビューさせたのだった。
 どちらも低身長だけど あまり気にしてなく、逆にそれも魅力の ひとつとなって、今では親しみやすくて人気が高い、名コンビとなっている。

「あら。おはよう。 うふふ。いつも仲良しね。」

「のりあ姉さん! おはようございますっ!」

「のりあお姉さん…… おはようございます。」

「……おはよ。」

「めりあ姉さんだ~! おはようございますっ!」

「めりあお姉さん…… おはようございます。」

 紅葉もみじは、めりあを同じ事務所の先輩以上に慕っていて、憧れの存在でもあるよう。
「だって、クールな大人の女性って感じだし。
 今の紅葉もみじじゃ持てない、素敵なところがいっぱいあるから!」
 だそうだ。

 かえでも、めりあを同じように慕っているけど、
「素敵すぎて、身構えちゃいます。。。」
らしい。

 めりあは、そんな2人を妹のように思い、また、活動のジャンルは違うけど、同じ芸能事務所の後輩として、見守っていた。

「今日、同じ会場だよね。 一緒に移動して、現地で それぞれの活動して。」

「はいっ! そうです、めりあ姉さん。
 ……で、帰りも一緒だったよね? かえで。」

「はい。。。 正確には、自分たちの活動が終わり次第 とっち社長と合流して、遅く終わる方を見学。
 その後 一緒に帰る…… でした。」

「そう…… じゃ、こっちが早く終われば、紅葉もみじかえでのステージに行けるね。」

「え!? そんな展開もアリなの!!? うわ マジ 頑張らなきゃ!
 でもでも、最近あまりタイミング合わないですよね。
 今日もミニライブなんで、紅葉もみじたちの方が早いかも。
 あ! だったら、めりあ姉さんの方に見学行って、それはそれは美しい めりあお姉さまを、じっくりと……。」

「おねぇちゃん…… おかしな人に、なってるよぅ。。。」

「おはよう! みんなそろってるわね!?」

 りんとした、活力にあふれた声が響く。
 これには紅葉もみじの妄想も、現実に引き戻されざるを得ない。
 とっち社長、登場!
 それだけで、場の空気が引き締まるような緊張感があり、また、何か面白い事が起こりそうな期待感に満ちるようだった。

「めりあ、調子はどう?」

「はい! 大丈夫です!」

紅葉もみじ! 2人で合わせて、より良いコンビのパフォーマンスよ!!」

「はい! 任して下さい!」

かえで。 今日も、自信持って。 あなたのうた、楽しみにしてるから。」

「はい。。。 頑張ります!」

 朝イチの点呼と挨拶、様子うかがい。
 それらを一気に終わらせ、今日のパフォーマンスの発揮度合はっき どあいいをはかり、ミーティングで長所を伸ばして短所をアドバイスする。
 これが とっち流のトレーナー術であり、彼女が現役のアイドルの頃につちかった、ライブパフォーマンスの発揮方法の継承でもあった。

 〝何でもハイレベルに、デキる女性〟を象徴するかのように、常に自信に満ちあふれた表情で、笑顔も素敵。
 いつものスーツ姿は、アクティブなパンツスタイル。
 そして何より、後進の育成にかける情熱と、何でも楽しんで活動する姿勢こそが、とっちがみなに慕われる最大の理由だった。

「……で。 3人とも、ちゃんと頃合い良くそろったところで。
 今日のミーティングしながら、朝のティータイムと洒落込みましょうか♪
 のりあ、お願いしてたオリジナルブレンド、出来てるかしら?」

「はい! お先に、めりあに試してもらってます。」

「あぁ……。 この特別ブレンド、そういうコトだったのね。
 私好わたしごのみの、苦みのハッキリした、それでいて優しい味。」

「さすが、のりあね。
 んじゃ、のりあ。 私と、紅葉もみじかえでのも、お願い!
 あと、パンケーキも4人分つけてね!
 今朝のトッピングは……? 楽しみだわぁ~♪」

「……なんか、いつも とっち社長には、かなわないよね…… かえで。」

「そうだね…… おねぇちゃん。。。」

 のりあが あれこれ試していたオリジナルブレンドは、とっち社長が事前に仕込んでいたもの。

「いつも新しい刺激を受けてないと。
 で、受けられなければ、自分から仕掛けていかないと!
 イベンターやパフォーマーの、職業病みたいなもんね♪」

 ……と、たのしげに話す、とっち社長。
 いろんな人を巻き込んで、みなで楽しむ姿を見せることで めりあ達にも刺激を与え、何かを感じ取って成長してほしいと、常日頃から願っているのだった。

「はい、お待たせ。
 みんな、喜んでくれると良いですけど。。。」

 パンケーキと一緒にテーブルに並べられる、それぞれのオリジナルブレンド。
 甘めのフレーバーにしたハーブティーは、紅葉もみじかえでに。
 芳醇ほうじゅんなアロマ系のブレンドコーヒーは、とっちに。
 めりあには、彼女好かのじょごのみのブレンドを、もう一杯。

 どれも、期待以上の味わい!
 さらに、木の実たっぷりのパンケーキで、エネルギーを充填じゅうてん!!
 今日の撮影とミニライブのミーティングにも熱が入り、心身ともに準備完了!!!

「~それじゃ、みんな! 今日の流れは、入ったわね!?
 ここで、別件なんだけど、もうひとつ大事な お話が…… あ! 来た来た♪
 み~ずき! こっちこっち!!」

 瑞貴みずきと呼ばれた女性が、小さな女の子と手をつないで、ご来店。
 その すらりと背が高く、優雅な立居振舞たちいふるまいからは、大らかさと まるで高位の巫女のような、高貴な雰囲気が。
 いつもの柔らかな微笑みからは、森の調和を第一に考える 優しい性格が。
 お気に入りのフレームレスの眼鏡からは、豊富な森林知識を持つ 彼女の知性が、うかがえる。

みなさん、おはようございます。
 今日は、新たに壱乃峰いちのみねの森の仲間となるをお連れしましたので、ご紹介にまいりました。
 さぁ、こなたさん、自己紹介をどうぞ。」

「こなられす! みなさん、おはようございます!
 どぉぞよろしくおねがいしますっ!
 わたしは、この秋に はじめてドングリをつけるので、今日は そのごあいさつにきました!」

 こなたは、瑞貴みずきとは対照的に、まだまだ小さな女の子。
 でもでも、その元気で丁寧な口調からは、こなたの持ち前の健気な性格がうかがえ、また 目尻の下がった明るい笑顔は、幼い可愛さで満ち満ちている。

「まぁ! 可愛らしい!!
 こちらこそ、よろしくお願いしますね、こならちゃん。
 私は、のりあ。 このカフェをやっています。
 ところで、お飲み物は、何がお好き?
 甘ぁ~いハチミツ入りの、お花のハーブティーなんて いかがかしら?」

「はい、よろしく。 めりあよ。」
(……可愛くて健気そうで、良いね。 思わず頭を なでなでしたくなっちゃう。。。)

「うん、よろしくね。 こならちゃん!
 私は、紅葉もみじ。 こっちは、双子の妹のかえで。 2人でアイドルやってるの!」
(か…… 可愛いいぃぃ。。。 むむむ…… 強力なライバル出現!?
 このロリ可愛さは、紅葉もみじと同等…… いや、むしろ上を行く!!?
 思わず抱きしめて、アタマをナデナデして、ほおずりずりまで しちゃいたくなるような……。)

かえでです……。 よろしくお願いします。。。」
(おねぇちゃん…… またまた、おかしな人になってるよぅ。。。
 でもでも…… ほんとに可愛らしいよね。。。
 こならちゃんみたいな…… 妹が いたらなぁ~。。。)

「よろしく、こなたちゃん。 私は、とっち。
 瑞貴みずきから、もう聞いたかもしれないけど。
 元アイドルで、今は このたちの、所属事務所の社長やってます!」
(ふむ。 良いポテンシャル持ってるわね。
 でも短絡的たんらくてきに人前に出しちゃうより、そばに置いてじっくり成長させたいタイプかしら。
 何か、やりたい事も あるみたいだし…… ここはひとつ お声掛けして、何か手伝ってもらいながら、ポテンシャルとスキルを伸ばして……。
 ……可愛がって、可愛がって…… でへへ。。。)

(とっち社長まで、おかしな人になっちゃったよぅ。。。
 瑞貴みずきさぁん…… 助けてぇ・・・。。。)

 こなたの可愛さにメロメロになってしまったみなを尻目に、かえで瑞貴みずきにアイコンタクト。
 瑞貴みずきは、ふぅ…… と軽くため息をついてから、パンパンと大きめに手を鳴らして、
「ハイハイ、みなさん! この前お話しした、『初結実はつけつじつ』 ●1 の事は、ご存知ですよね!!?」
と、夢の世界に行ってしまったみなを、現実に引き戻す。

「……と、その前に。
 こなたさん、もう一度、お名前をどうぞ。」

「はい。 こならは、『こ な ら』なのれす!」

みなさん。
 聞いた通り、こんなに可愛い お話しの仕方だから『こなら』ちゃんに聞こえてしまいますが、彼女の お名前は『こなた』さんですから。
 よく覚えておいて下さいね。
 でも、こなたさんにとっては、どちらの呼び方でも構わない、で良かったかしら?」

「はい、瑞貴みずきさん。
 みなさんも、わたしは どっちでも かまわないのれす!」

「はぁ~い!!!!! 分かりました、瑞貴みずき先生!!!!!」

「はい、よろしい。
 ……でも、いつも言ってますが、〝先生〟はして下さいね。
 何だか恥ずかしいわ。」

(気持ちを切換えて…… と。)

「まず先に、こなたさん、みなの質問に お答えしましょうか。
 のりあさん お薦めの、ハチミツ入り お花のハーブティーで、よろしいかしら?」

「はい! だいすきれす! ご注文は、それで おねがいします。」

「はい、かしこまりました。 少々お待ち下さいね?」

「めりあさんは…… 何て言うのかしら、いつもクールで こんな感じですけど、根は優しくて面倒見の良いですから。
 こなたさん、そんなには遠慮しなくても結構ですよ。」

「はい! こならにも、分かるのれす!
 やさしい おねえさんだってことは、伝わってくるのれす。」

 めりあは、こなたの明るい笑顔に思わずゆるんでしまった表情を元に戻し、口角が上がった口元を そっと手で隠しながら、
「あ…… ありがと。」
と、いつもの照れ隠し。

「めりあさん、モデルのお仕事をしているのよ。
 今日は、そちらの紅葉もみじさんとかえでさんとも ご一緒に……。
 ……あら? とっち、まだ出発しなくても大丈夫かしら?」

「んー。 壱乃峰いちのみねの森のはしっこにある高台たかだいまで結構あるから…… あんまりのんびりは、出来ないわねー。
 こなたちゃん、さっき こちらの紅葉もみじが言ったように、紅葉もみじかえでは双子のアイドルで、今日は これからミニライブがあってね。
 そこに、めりあも一緒に行って、別会場でモデルのお仕事なのよ。
 ……でも もうすぐお出かけしなきゃだから、詳しくは また今度じっくりとね。
 私も こなたちゃんと、もっとお話ししたいし。」

「んじゃ、瑞貴みずき。 本題に入っちゃって。」

「はい。 こなたさん、初結実はつけつじつを迎えたので、こうしてみなに ご紹介しているの。
 そしてみなも、何となく分かってるかもしれないけど、私達で こなたさんがもっと大きく育つことができる場所を、ご用意したのよ。」

「わぁ~い! みなさん、ほんとうに ありがとぉございます!
 こならは、はやく大っきくなって、ドングリをいっぱい つけるのれす!!」

「こならちゃん、初結実はつけつじつおめでとう!!!」

「私からも、おめでとう!
 今日は ご挨拶だけになってしまって申し訳ないけど、またみんなで楽しく お話ししましょ?
 それじゃ……  めりあ、紅葉もみじかえで! そろそろ行くわよ!?」

「はい!!! こならちゃん、またね!!!」

「はい! また お話ししたいのれす!」

「じゃ、瑞貴みずき。 またね。」

「はい、とっち。 またね。」

 とっちは瑞貴みずきに軽く目配せすると、めりあ・紅葉もみじかえでを連れて、今日の お仕事へ。

 大風おおかぜんだ後の森の中のように、普段の静けさに戻った店内では、瑞貴みずきが とっちから託された〝もうひとつの本題〟に移ろうとしていた。

「のりあさん、このハーブティー、とっても おいしいのれす!」

「まぁ!良かった! 他にもいろいろと お出ししてるから、また試してみてね?
 ……ところで、瑞貴みずきさん。 今日は本を お持ちじゃないんですね?
 それは…… スケッチブックかしら?」

 のりあがれてくれた野草茶を味わいながら、瑞貴みずきは、こなたに
「お見せしても良いかしら?」
と、確認を。
 こなたは、モジモジと恥ずかしそうにしながら「……うん。」と、うなづいた。

「のりあさん。 実は、今日の〝もうひとつの本題〟なのですけれど。
 こなたさんの、特技を ご披露しようと思いまして。
 とっちは もう気付いていた様子でしたが、貴女あなたは?」

「うふふ。 何となくですけれど。
 もしかして、ベレー帽ですか?」

「さすが、のりあさんね。
 では、問題。 ベレー帽の こなたさんと、スケッチブック、そして、特技。
 これから導き出される、答えは……?」

「お絵描きが、上手! ……かしら?」

「大正解!!
 私も大変驚いたのですけど、こなたさんは本当に お絵描きが上手で。
 今の壱乃峰いちのみねには あまり無い才能だと思ったから、お試しに、私を描いてもらったのですよ。」

 ゆっくりとスケッチブックを開くと、そこには、森の中で切り株に腰掛けて花をでている、瑞貴みずきのイラスト。

こなたが描いた瑞貴みずきのイラスト

「まぁ! 本当に素敵!!」

「でしょう? そこで、のりあさんに、お願いが。
 新しい才能の誕生! ということで、この店内に こなたさんが描いた絵を、飾らせては頂けないでしょうか?」

「もちろん、大歓迎ですよ?
 このお店、木漏こもれ日や森の景色は綺麗だけど、絵などは無かったから、少しさみしいな…… と思っていたの。
 きっと みんなも、気に入ってくれるわ!」

「のりあさん……。 あ…… ありがとぉございます、なのれす。。。」

「こなたさん、貴女あなたの才能が、認められたのですよ?
 もっと自信持って。 そして、壱乃峰いちのみねみなを、どんどん描いてね?」

「……はい! ありがとぉございます!!」

「さて。 今日は この辺りで、失礼させて頂こうと思います。
 こなたさんの ご紹介だけと思っていましたけど…… とっちが絡むと、いつも大騒ぎになってしまいますね。」

「うふふ。 全く同感です。
 まぁ、これが楽しいんですけどね。」

「本当に、その通りね。
 では、こなたさんも。 ご一緒に、次の所へ ご挨拶に、まいりましょう。」

初結実はつけつじつについてや、森の詳しい お話は、また今度。
 みなと一緒に、ゆっくりと お話しすると致しましょう。。。」


【1話 注釈】

★1 〝スギのに宿る精霊せいれいめりあ〟の髪色: 
 スギの葉は、冬に茶色になることがあります。
 冷気による葉の中の水分の凍結を防ぐため、凍りにくい物質を葉の中に蓄えるので、緑色の葉が茶色に見えるそうです。
 もし凍結してしまったら、細胞や葉緑体が損傷して光合成がしづらくなるため、このような防御方法をとっていると言われています。

●1 〝初結実はつけつじつ〟 
 樹々きぎに宿る精霊せいれいが、初めて木の実をつけること。
 樹種じゅしゅによっては、結実けつじつした木の実を振舞ふるまい、森の恵みに大きく関わることになります。


【特典 未公開画像『舞台設定・第一部の壱乃峰いちのみねMAP』】

樹々きぎうたい、風に舞う』第一部 ~樹々きぎの恵み編~
1話【早春の壱乃峰いちのみねで】

 最後までお読み頂き、ありがとうございました!
 特典としまして、これまで未公開だった『舞台設定のために作者が描いた、手描きの壱乃峰いちのみねMAP』を、ここで大公開っ!
 文章表現だけでは分かりづらい、地形や配置、樹々きぎに宿る精霊せいれいたちの居所いどころなど、この物語を読み進めて頂く際の、参考となれば幸いです。

第一部の壱乃峰いちのみねMAP

【追加特典 これまで字数制限などで公開できなかった、『あらすじ完全版』を、ご覧下さいっ!】

 実り豊かな天然林てんねんりんとなった、壱乃峰いちのみねの森の樹々きぎに宿る、精霊せいれいたち。
 彼女たちは、この森や樹々きぎからの恵みをたのしみ、振舞ふるまい、健全で より豊かな森になることを目標に森の調和を保ちながら、仲良くきている。

 春には季節の花をで、樹々きぎの恵みを味わい、春のうたげ〝桜の舞い〟では、風に揺れる枝葉えだはでの舞いを披露して、春の訪れを祝う。

 夏には〝うたの祭典 夏祭り〟で、葉音はおとかなでる『樹々きぎうた』に乗せて、森や樹々きぎからの恵みや、樹々きぎが健全に成長できたことへの、感謝を表す。

 秋の実りでは、動物たちへの木の実の振舞ふるまいでにぎわう中、この森で唯一の〝人間ニンゲンによって植えられた〟スギに宿る精霊せいれいの、樹々きぎの恵みへの葛藤かっとうが解消される。

 晩秋の〝山祭り祭典〟では、選抜されたうたい手と舞い手による『樹々きぎうた』と『木の葉の舞い』が披露され、の巫女による奉納舞ほうのうまいと みなうたう『森のうた』によって、山の神様へ今季こんきも無事に生命活動を終えられた感謝の想いが伝えられる。
 続く〝山祭り神事〟では、の巫女をかいして、山の神様から『森の調和を乱す存在の出現を防いだ、ねぎらいのこと』が、樹々きぎに宿る精霊せいれいたちへと伝えられる。

 やがて初雪が舞う中、の巫女にいざなわれた精霊せいれいたちは冬の眠りにいて、暖かな春を待つ。

 『樹々きぎうたい、風に舞う。』
 それは、四季の移ろいとともに 樹々きぎりなす、1年間の生命活動と優しい世界を描いた、物語。


 2話【春の芽吹めぶきと、森の恵みと……】に、続きます。。。


【URL 2~12話】


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