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1話【早春の壱乃峰で】『樹々は唄い、風に舞う』第一部~樹々の恵み編~
【あらすじ・ルビ無し294/300文字以内ver】
実り多い天然林となったこの森の樹々に宿る、樹の精霊たち。
彼女たちは、より豊かな森になるよう調和を保ちつつ、仲良く活きている。
春には季節の花を愛で、樹々の恵みを味わい、宴で風に揺れる枝葉での舞いを披露して春の訪れを祝う。
夏には唄の祭典で、葉音で奏でる唄に乗せて、健全に成長できた感謝を表す。
秋の実りでは、動物たちへの木の実の振舞いで賑わう中、この森で唯一の〝人間によって植えられた〟スギに宿る精霊の、樹の恵みの葛藤が解消される。
晩秋の山祭りでは、山の神様へ今季の感謝を伝えるため、樹々は唄い、風に舞う。
やがて初雪と共に冬の眠りに就くまでを描いた、優しい世界の物語。
1話【早春の壱乃峰で】
穏やかな早春の日差しが、心地よい。
谷筋の残雪を通って吹き上げてくる冷風が ひんやりと頬をなでるけど、少し気の早い樹種は すでに若葉を広げる準備をして。
空の青。 雪の白。 樹々の黒。
殺風景だった森の中にもポツポツと、木の葉の緑や 季節の花が、彩りを。
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黄色い十字の花びらの中心に、紅一点。
春に まず咲くマルバマンサクの花が、ここ東谷で最も高い壱乃峰の森に、樹々たちに、春の訪れを告げていた。
壱乃峰中腹の緩斜面には、樹齢数百年と思われるホオノキの巨樹があり、それを中心に、様々な樹種が生立している。
カフェ『nolia』。
ホオノキ巨樹の根元にできた大きな樹洞を使って、内部にカウンターやテーブル席を設置した この小さなカフェは、みんなの憩いの場になっていた。
店員の のりあは、すでに開店準備を済ませ、コーヒーのオリジナルブレンドをあれこれ試している。
「……甘めのフレーバーだから、あの娘たちに ぴったりね。
とっち社長 には、芳醇なアロマ系かしら?
こっちの苦みがハッキリしてる方は、めりあ 向きだわ。
みんな、喜んでくれると良いけど――。
あら? 今日はあの娘、早いわね。」
「おはよ。 のりあ、いつものコーヒーを。」
スラッとした立ち姿が目を引く美人が、ご来店。
いつも通りのクールな表情、何を着せても似合ってしまうスタイルの良さ。
めりあは、大事な仕事の前には 必ずここに立ち寄ることにしていた。
樹洞のいちばん奥、木漏れ日が差し込む窓際のテーブル席が、めりあの指定席。
「いらっしゃいませ、めりあ。 今日も、モデルのお仕事?」
「そう。 雑誌の表紙の撮影だって。」
「まぁ! すごいじゃない!!
じゃあ今日は めりあに、高級豆のコーヒーを奮発しちゃおうかしら?」
「うん、頼むわ。」
「うふふ。 めりあったら、相変わらずクールビューティーね。」
のりあは めりあに柔らかく微笑むと、くるりとターンし、カウンターへ。
めりあは、ふわりと揺れた、のりあのメイド服に似たカフェの制服とエプロン、そして ゆるいウェーブがかかった 背中まである長い黒髪と大きな白い花がついたヘアクリップに目を奪われながら、
「……のりあも、モデルやってみればいいのに。」
と、のりあの後ろ姿に話しかける。
カウンターに戻った のりあは、コーヒーを淹れながら「素敵なお誘いだけど、遠慮させてもらうわ。」と。
「……前にも言ったけど、私はここで、みんなに喜んでもらえる おもてなしができるだけで、満ち足りてるの。
それに、めりあみたいに 普段着でも目立ってしまうほど、着こなしやスタイルに自信ないから。」
指定席で待つ めりあを眺める、のりあ。
めりあの今朝の着こなしは、仕立ての良いシャツの ボタンを胸元で留め、裾を出し、袖まくり。
スリムなジーンズは、8分丈。
そんなラフな格好で、窓際のテーブル席に座っているだけなのに、まるで映画のワンシーンか 写真集の1ページかのように、見映えする。
「モデルと言えば、当然その服じゃなくて、着替えて撮影するのよね?」
「うん、もちろん。 だってコレ、いつもの普段着だし。」
「私には、いつものその服だって、撮影用の衣装に見えるわよ?
そういう着こなしができるからこそ、私には無理だって思うし、めりあにはモデルのお仕事が向いてるって思うのよ?」
コーヒーを運びながら、いつもの調子で めりあに問いかける。
のりあの、丸顔で目尻の下がった柔らかな表情からは、優しく包容力に満ちた性格が醸し出されている。
「あ…… うん。 のりあ、いつもありがと。
やっぱ、緊張してるのと、ちょっと自信ないの、バレバレだよね。
でも のりあは そうやって、いつも優しく受け止めて元気をくれるから。
……さて、それじゃぁ今朝も、のりあのコーヒーで気合入れますか!」
「うふふ。 こちらこそ、ありがとうございます。
……あら? まだ茶髪のままで、撮影いくの?」
「うん、この冬は寒かったから、なかなか色が戻らなくて。」 ★1
「そうね――。
でも、〝今しか見れない、めりあ!〟って感じで、素敵だと思うわよ?」
「……あ、ありがと。」
「はい、どうぞ。 めりあ好みのブレンドよ。
今日も頑張ってね!」
少し照れた めりあの様子に気付かない振りで、のりあは、特別ブレンドのブラックコーヒーを。
「このツンデレっぷりが、とっち社長の言う めりあの魅力なのかしら?」
と つぶやき、カウンターに戻る。
めりあ は照れ隠しに顔を背けて外に目をやり、苦みのハッキリしたコーヒーを、ひとくち。
いつもの自分にリセットし、モデルの仕事に向けて気合を入れ直す。
カフェの2階の事務所から、なにやら話し声。
凛とした大人の「~すぐ行くから、カフェで待ってて。」の声の後に、可愛らしい少女の「はい!!」の声が重なって聞こえた。
「そういえば今日は、あの娘たちと同じ会場だったわね。
ステージ観に行く余裕あるかな?」
と、めりあが つぶやいていると。
どたどたと元気な足音のすぐ後に とんとんと大人しい足音がついてきて、双子のアイドル〝紅葉と楓〟が、カフェへと降りてきた。
「~なんたって、この春 最初のライブなんだから!
紅葉、気合入れてパフォーマンスしちゃうもんねっ!!」
「おねぇちゃん…… 張り切りすぎだよぅ。。。
いま、とっち社長に『2人で合わせるよう、気を付けなさい』って言われたばかりなのに。。。」
「テヘッ☆ そうでした。
楓、今日も2人で 最高のライブにしようねっ!!」
姉の紅葉は、元気な足音よろしく〝パフォーマンスの紅葉〟と呼ばれる、元気娘!
一途な性格だけど、ちょいドジっ娘。
活発な美少女で、今日の普段着も 好みの派手めのプリント柄。
対して、妹の楓は、大人しく健気。
持ち前の器用さで いつも姉をフォローする縁の下の力持ちだけど、ステージ上では〝歌唱力の楓〟と呼ばれるほどの実力。
控え目な美少女で、今日の普段着も 真面目な性格を表すような、シンプルなデザインのシャツを。
とっち社長は、このアンバランスながらも個性が際立ちつつ、フォローし合う姉妹の魅力に惚れ込み、2人を双子のアイドルとしてデビューさせたのだった。
どちらも低身長だけど あまり気にしてなく、逆にそれも魅力の ひとつとなって、今では親しみやすくて人気が高い、名コンビとなっている。
「あら。おはよう。 うふふ。いつも仲良しね。」
「のりあ姉さん! おはようございますっ!」
「のりあお姉さん…… おはようございます。」
「……おはよ。」
「めりあ姉さんだ~! おはようございますっ!」
「めりあお姉さん…… おはようございます。」
紅葉は、めりあを同じ事務所の先輩以上に慕っていて、憧れの存在でもあるよう。
「だって、クールな大人の女性って感じだし。
今の紅葉じゃ持てない、素敵なところがいっぱいあるから!」
だそうだ。
楓も、めりあを同じように慕っているけど、
「素敵すぎて、身構えちゃいます。。。」
らしい。
めりあは、そんな2人を妹のように思い、また、活動のジャンルは違うけど、同じ芸能事務所の後輩として、見守っていた。
「今日、同じ会場だよね。 一緒に移動して、現地で それぞれの活動して。」
「はいっ! そうです、めりあ姉さん。
……で、帰りも一緒だったよね? 楓。」
「はい。。。 正確には、自分たちの活動が終わり次第 とっち社長と合流して、遅く終わる方を見学。
その後 一緒に帰る…… でした。」
「そう…… じゃ、こっちが早く終われば、紅葉と楓のステージ観に行けるね。」
「え!? そんな展開もアリなの!!? うわ マジ 頑張らなきゃ!
でもでも、最近あまりタイミング合わないですよね。
今日もミニライブなんで、紅葉たちの方が早いかも。
あ! だったら、めりあ姉さんの方に見学行って、それはそれは美しい めりあお姉さまを、じっくりと……。」
「おねぇちゃん…… おかしな人に、なってるよぅ。。。」
「おはよう! 皆、揃ってるわね!?」
凛とした、活力に溢れた声が響く。
これには紅葉の妄想も、現実に引き戻されざるを得ない。
とっち社長、登場!
それだけで、場の空気が引き締まるような緊張感があり、また、何か面白い事が起こりそうな期待感に満ちるようだった。
「めりあ、調子はどう?」
「はい! 大丈夫です!」
「紅葉! 2人で合わせて、より良いコンビのパフォーマンスよ!!」
「はい! 任して下さい!」
「楓。 今日も、自信持って。 あなたの唄、楽しみにしてるから。」
「はい。。。 頑張ります!」
朝イチの点呼と挨拶、様子うかがい。
それらを一気に終わらせ、今日のパフォーマンスの発揮度合いをはかり、ミーティングで長所を伸ばして短所をアドバイスする。
これが とっち流のトレーナー術であり、彼女が現役のアイドルの頃に培った、ライブパフォーマンスの発揮方法の継承でもあった。
〝何でもハイレベルに、デキる女性〟を象徴するかのように、常に自信に満ちあふれた表情で、笑顔も素敵。
いつものスーツ姿は、アクティブなパンツスタイル。
そして何より、後進の育成にかける情熱と、何でも楽しんで活動する姿勢こそが、とっちが皆に慕われる最大の理由だった。
「……で。 3人とも、ちゃんと頃合い良く揃ったところで。
今日のミーティングしながら、朝のティータイムと洒落込みましょうか♪
のりあ、お願いしてたオリジナルブレンド、出来てるかしら?」
「はい! お先に、めりあに試してもらってます。」
「あぁ……。 この特別ブレンド、そういうコトだったのね。
私好みの、苦みのハッキリした、それでいて優しい味。」
「さすが、のりあね。
んじゃ、のりあ。 私と、紅葉と楓のも、お願い!
あと、パンケーキも4人分つけてね!
今朝のトッピングは……? 楽しみだわぁ~♪」
「……なんか、いつも とっち社長には、敵わないよね…… 楓。」
「そうだね…… おねぇちゃん。。。」
のりあが あれこれ試していたオリジナルブレンドは、とっち社長が事前に仕込んでいたもの。
「いつも新しい刺激を受けてないと。
で、受けられなければ、自分から仕掛けていかないと!
イベンターやパフォーマーの、職業病みたいなもんね♪」
……と、愉しげに話す、とっち社長。
いろんな人を巻き込んで、皆で楽しむ姿を見せることで めりあ達にも刺激を与え、何かを感じ取って成長してほしいと、常日頃から願っているのだった。
「はい、お待たせ。
みんな、喜んでくれると良いですけど。。。」
パンケーキと一緒にテーブルに並べられる、それぞれのオリジナルブレンド。
甘めのフレーバーにしたハーブティーは、紅葉と楓に。
芳醇なアロマ系のブレンドコーヒーは、とっちに。
めりあには、彼女好みのブレンドを、もう一杯。
どれも、期待以上の味わい!
さらに、木の実たっぷりのパンケーキで、エネルギーを充填!!
今日の撮影とミニライブのミーティングにも熱が入り、心身ともに準備完了!!!
「~それじゃ、皆! 今日の流れは、入ったわね!?
ここで、別件なんだけど、もうひとつ大事な お話が…… あ! 来た来た♪
み~ずき! こっちこっち!!」
瑞貴と呼ばれた女性が、小さな女の子と手をつないで、ご来店。
その すらりと背が高く、優雅な立居振舞からは、大らかさと まるで高位の巫女のような、高貴な雰囲気が。
いつもの柔らかな微笑みからは、森の調和を第一に考える 優しい性格が。
お気に入りのフレームレスの眼鏡からは、豊富な森林知識を持つ 彼女の知性が、うかがえる。
「皆さん、おはようございます。
今日は、新たに壱乃峰の森の仲間となる娘をお連れしましたので、ご紹介に参りました。
さぁ、こなたさん、自己紹介をどうぞ。」
「こなられす! みなさん、おはようございます!
どぉぞよろしくおねがいしますっ!
わたしは、この秋に はじめてドングリをつけるので、今日は そのごあいさつにきました!」
こなたは、瑞貴とは対照的に、まだまだ小さな女の子。
でもでも、その元気で丁寧な口調からは、こなたの持ち前の健気な性格がうかがえ、また 目尻の下がった明るい笑顔は、幼い可愛さで満ち満ちている。
「まぁ! 可愛らしい娘!!
こちらこそ、よろしくお願いしますね、こならちゃん。
私は、のりあ。 このカフェをやっています。
ところで、お飲み物は、何がお好き?
甘ぁ~いハチミツ入りの、お花のハーブティーなんて いかがかしら?」
「はい、よろしく。 めりあよ。」
(……可愛くて健気そうで、良い娘ね。 思わず頭を なでなでしたくなっちゃう。。。)
「うん、よろしくね。 こならちゃん!
私は、紅葉。 こっちは、双子の妹の楓。 2人でアイドルやってるの!」
(か…… 可愛いいぃぃ。。。 むむむ…… 強力なライバル出現!?
このロリ可愛さは、紅葉と同等…… いや、むしろ上を行く!!?
思わず抱きしめて、アタマをナデナデして、頬ずりずりまで しちゃいたくなるような……。)
「楓です……。 よろしくお願いします。。。」
(おねぇちゃん…… またまた、おかしな人になってるよぅ。。。
でもでも…… ほんとに可愛らしいよね。。。
こならちゃんみたいな…… 妹が いたらなぁ~。。。)
「よろしく、こなたちゃん。 私は、とっち。
瑞貴から、もう聞いたかもしれないけど。
元アイドルで、今は この娘たちの、所属事務所の社長やってます!」
(ふむ。 良いポテンシャル持ってるわね。
でも短絡的に人前に出しちゃうより、そばに置いてじっくり成長させたいタイプかしら。
何か、やりたい事も あるみたいだし…… ここはひとつ お声掛けして、何か手伝ってもらいながら、ポテンシャルとスキルを伸ばして……。
……可愛がって、可愛がって…… でへへ。。。)
(とっち社長まで、おかしな人になっちゃったよぅ。。。
瑞貴さぁん…… 助けてぇ・・・。。。)
こなたの可愛さにメロメロになってしまった皆を尻目に、楓は瑞貴にアイコンタクト。
瑞貴は、ふぅ…… と軽くため息をついてから、パンパンと大きめに手を鳴らして、
「ハイハイ、皆さん! この前お話しした、『初結実』 ●1 の事は、ご存知ですよね!!?」
と、夢の世界に行ってしまった皆を、現実に引き戻す。
「……と、その前に。
こなたさん、もう一度、お名前をどうぞ。」
「はい。 こならは、『こ な ら』なのれす!」
「皆さん。
聞いた通り、こんなに可愛い お話しの仕方だから『こなら』ちゃんに聞こえてしまいますが、彼女の お名前は『こなた』さんですから。
よく覚えておいて下さいね。
でも、こなたさんにとっては、どちらの呼び方でも構わない、で良かったかしら?」
「はい、瑞貴さん。
みなさんも、わたしは どっちでも かまわないのれす!」
「はぁ~い!!!!! 分かりました、瑞貴先生!!!!!」
「はい、よろしい。
……でも、いつも言ってますが、〝先生〟は止して下さいね。
何だか恥ずかしいわ。」
(気持ちを切換えて…… と。)
「まず先に、こなたさん、皆の質問に お答えしましょうか。
のりあさん お薦めの、ハチミツ入り お花のハーブティーで、よろしいかしら?」
「はい! だいすきれす! ご注文は、それで おねがいします。」
「はい、かしこまりました。 少々お待ち下さいね?」
「めりあさんは…… 何て言うのかしら、いつもクールで こんな感じですけど、根は優しくて面倒見の良い娘ですから。
こなたさん、そんなには遠慮しなくても結構ですよ。」
「はい! こならにも、分かるのれす!
やさしい おねえさんだってことは、伝わってくるのれす。」
めりあは、こなたの明るい笑顔に思わず緩んでしまった表情を元に戻し、口角が上がった口元を そっと手で隠しながら、
「あ…… ありがと。」
と、いつもの照れ隠し。
「めりあさん、モデルのお仕事をしているのよ。
今日は、そちらの紅葉さんと楓さんとも ご一緒に……。
……あら? とっち、まだ出発しなくても大丈夫かしら?」
「んー。 壱乃峰の森の端っこにある高台まで結構あるから…… あんまりのんびりは、出来ないわねー。
こなたちゃん、さっき こちらの紅葉が言ったように、紅葉と楓は双子のアイドルで、今日は これからミニライブがあってね。
そこに、めりあも一緒に行って、別会場でモデルのお仕事なのよ。
……でも もうすぐお出かけしなきゃだから、詳しくは また今度じっくりとね。
私も こなたちゃんと、もっとお話ししたいし。」
「んじゃ、瑞貴。 本題に入っちゃって。」
「はい。 こなたさん、初結実を迎えたので、こうして皆に ご紹介しているの。
そして皆も、何となく分かってるかもしれないけど、私達で こなたさんがもっと大きく育つことができる場所を、ご用意したのよ。」
「わぁ~い! みなさん、ほんとうに ありがとぉございます!
こならは、はやく大っきくなって、ドングリをいっぱい つけるのれす!!」
「こならちゃん、初結実おめでとう!!!」
「私からも、おめでとう!
今日は ご挨拶だけになってしまって申し訳ないけど、また皆で楽しく お話ししましょ?
それじゃ…… めりあ、紅葉、楓! そろそろ行くわよ!?」
「はい!!! こならちゃん、またね!!!」
「はい! また お話ししたいのれす!」
「じゃ、瑞貴。 またね。」
「はい、とっち。 またね。」
とっちは瑞貴に軽く目配せすると、めりあ・紅葉・楓を連れて、今日の お仕事へ。
大風が止んだ後の森の中のように、普段の静けさに戻った店内では、瑞貴が とっちから託された〝もうひとつの本題〟に移ろうとしていた。
「のりあさん、このハーブティー、とっても おいしいのれす!」
「まぁ!良かった! 他にもいろいろと お出ししてるから、また試してみてね?
……ところで、瑞貴さん。 今日は本を お持ちじゃないんですね?
それは…… スケッチブックかしら?」
のりあが淹れてくれた野草茶を味わいながら、瑞貴は、こなたに
「お見せしても良いかしら?」
と、確認を。
こなたは、モジモジと恥ずかしそうにしながら「……うん。」と、うなづいた。
「のりあさん。 実は、今日の〝もうひとつの本題〟なのですけれど。
こなたさんの、特技を ご披露しようと思いまして。
とっちは もう気付いていた様子でしたが、貴女は?」
「うふふ。 何となくですけれど。
もしかして、ベレー帽ですか?」
「さすが、のりあさんね。
では、問題。 ベレー帽の こなたさんと、スケッチブック、そして、特技。
これから導き出される、答えは……?」
「お絵描きが、上手! ……かしら?」
「大正解!!
私も大変驚いたのですけど、こなたさんは本当に お絵描きが上手で。
今の壱乃峰には あまり無い才能だと思ったから、お試しに、私を描いてもらったのですよ。」
ゆっくりとスケッチブックを開くと、そこには、森の中で切り株に腰掛けて花を愛でている、瑞貴のイラスト。
![](https://assets.st-note.com/img/1718009865043-sFA2d37zqE.jpg)
「まぁ! 本当に素敵!!」
「でしょう? そこで、のりあさんに、お願いが。
新しい才能の誕生! ということで、この店内に こなたさんが描いた絵を、飾らせては頂けないでしょうか?」
「もちろん、大歓迎ですよ?
このお店、木漏れ日や森の景色は綺麗だけど、絵などは無かったから、少し淋しいな…… と思っていたの。
きっと みんなも、気に入ってくれるわ!」
「のりあさん……。 あ…… ありがとぉございます、なのれす。。。」
「こなたさん、貴女の才能が、認められたのですよ?
もっと自信持って。 そして、壱乃峰の皆を、どんどん描いてね?」
「……はい! ありがとぉございます!!」
「さて。 今日は この辺りで、失礼させて頂こうと思います。
こなたさんの ご紹介だけと思っていましたけど…… とっちが絡むと、いつも大騒ぎになってしまいますね。」
「うふふ。 全く同感です。
まぁ、これが楽しいんですけどね。」
「本当に、その通りね。
では、こなたさんも。 ご一緒に、次の所へ ご挨拶に、まいりましょう。」
「初結実についてや、森の詳しい お話は、また今度。
皆と一緒に、ゆっくりと お話しすると致しましょう。。。」
【1話 注釈】
★1 〝スギの樹に宿る精霊めりあ〟の髪色:
スギの葉は、冬に茶色になることがあります。
冷気による葉の中の水分の凍結を防ぐため、凍りにくい物質を葉の中に蓄えるので、緑色の葉が茶色に見えるそうです。
もし凍結してしまったら、細胞や葉緑体が損傷して光合成がしづらくなるため、このような防御方法をとっていると言われています。
●1 〝初結実〟
樹々に宿る精霊が、初めて木の実をつけること。
樹種によっては、結実した木の実を振舞い、森の恵みに大きく関わることになります。
【特典 未公開画像『舞台設定・第一部の壱乃峰MAP』】
『樹々は唄い、風に舞う』第一部 ~樹々の恵み編~
1話【早春の壱乃峰で】
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
特典としまして、これまで未公開だった『舞台設定のために作者が描いた、手描きの壱乃峰MAP』を、ここで大公開っ!
文章表現だけでは分かりづらい、地形や配置、樹々に宿る精霊たちの居所など、この物語を読み進めて頂く際の、参考となれば幸いです。
![](https://assets.st-note.com/img/1718010127440-wj1XS2x81g.jpg?width=800)
【追加特典 これまで字数制限などで公開できなかった、『あらすじ完全版』を、ご覧下さいっ!】
実り豊かな天然林となった、壱乃峰の森の樹々に宿る、樹の精霊たち。
彼女たちは、この森や樹々からの恵みを愉しみ、振舞い、健全で より豊かな森になることを目標に森の調和を保ちながら、仲良く活きている。
春には季節の花を愛で、樹々の恵みを味わい、春の宴〝桜の舞い〟では、風に揺れる枝葉での舞いを披露して、春の訪れを祝う。
夏には〝唄の祭典 夏祭り〟で、葉音で奏でる『樹々の唄』に乗せて、森や樹々からの恵みや、樹々が健全に成長できたことへの、感謝を表す。
秋の実りでは、動物たちへの木の実の振舞いで賑わう中、この森で唯一の〝人間によって植えられた〟スギに宿る精霊の、樹々の恵みへの葛藤が解消される。
晩秋の〝山祭り祭典〟では、選抜された唄い手と舞い手による『樹々の唄』と『木の葉の舞い』が披露され、樹の巫女による奉納舞いと 皆で唄う『森の唄』によって、山の神様へ今季も無事に生命活動を終えられた感謝の想いが伝えられる。
続く〝山祭り神事〟では、樹の巫女を介して、山の神様から『森の調和を乱す存在の出現を防いだ、ねぎらいの言の葉』が、樹々に宿る精霊たちへと伝えられる。
やがて初雪が舞う中、樹の巫女に誘われた樹の精霊たちは冬の眠りに就いて、暖かな春を待つ。
『樹々は唄い、風に舞う。』
それは、四季の移ろいとともに 樹々が織りなす、1年間の生命活動と優しい世界を描いた、物語。
2話【春の芽吹きと、森の恵みと……】に、続きます。。。
【URL 2~12話】
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