![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/144261773/rectangle_large_type_2_24554c89a1e1a7fafc073211bc2c8bb1.png?width=1200)
4話【舞いの家元、山桜流】『樹々は唄い、風に舞う』第一部~樹々の恵み編~
4話【舞いの家元、山桜流】
「……栃実が そう思うなら、その通り実行に移しなさいな。
私も皆も、栃実の能力や情熱を信頼してるからこそ、安心して あなたに総て託しているのですから。」
「さくらを、栃実の処に預けたのも、同じ。
和服のモデル、えらく人気だそうじゃない。
お唄も上達したみたいだし、私の指導だけでは、こうは成って無かったと思うわ。」
「ありがとうございます。
山桜師匠がいつも仰っていた『好きこそ ものの 上手なれ』を、私も実践してきた結果だと思います。」
「さくらさん、まさに それを体現してますよね。
和服モデルも お唄のレッスンも、本当に楽しそうにしてますもの。
舞いの お稽古でも、そうなんでしょう?
今日の披露稽古も、観に おいでる皆よりも、舞い手の さくらさんの方が楽しみにしてるくらいだって、評判ですよ?」
「ふふっ、そうね。 その通りよ。
好きで、楽しんで取り組むからこそ、上達も早いし 人気も出る。
その結果、今じゃあ『伝説の舞姫 舞の再来』とまで言われて。
家元としても、母親としても、鼻が高いわ!
……って、親バカなのかしらね?」
「でも、さくらにはね。
巫女を目指して一直線に突っ走ってた舞とは違って、山桜流に とらわれ過ぎずに、伸び伸びと成長してもらいたいのよ。
『色んな事に興味を持って、色んな可能性にチャレンジして、色んな事を楽しんで。』
栃実…… いえ、とっち。
あなたにも同じ事を言って指導してきたけど、それは、あなたが今のような指導が出来る事を見越して、なのよ。」
「……いつも、有難うございます。」
「私の師匠の、受け売りなんだけどね。
『その道の先駆者と成ったなら、それを託せる後進を育て、その意思を継承すべし!』
ってね。
栃実には、次の世代のトップランナーに成ってもらって、山桜流の意志を継承して行って欲しいのよ。」
「そこまでのお考えがあって、私を見て下さっておられたとは……。
頭が下がります。 有難うございます、お師匠様!」
「あっはっは! そういう所、栃実も瑞貴も、相変わらずね。
でも、いい加減 お師匠様は、止めて下さいな。」
「山桜流は、アバンギャルドと言われ続けてきた、私流。
栃実も、もう とっち流の家元みたいなモンなんだから。
瑞貴だって、古流の師範代みたいなモンだし。
二人とも、今ではそれぞれの流派のトップの立場にいると、私は認識しているのですよ?」
「……歳のせいかしらね、つい話し込んでしまったわ。
この話は、ここでお終い。 それより、早く本題の事を決めてしまいましょ。
今日の お稽古、瑞貴もおいでるから、私も早く入らなきゃ。」
「いつも瑞貴は、一番乗りですからね。
では、桜の舞いでは、舞い手の一番乗りは……。」
誰より早く山桜流の稽古場を訪れていた とっちは、目前に迫った春の宴『桜の舞い』の、プロデュース面の打合せを、山桜と行っていた。
とっちプロデュースによる、舞い手の披露の順番が決まった頃。
舞い専用の巫女装束に身を包んだ瑞貴の
「お早うございます。 本日も宜しくお願い致します。」
という、いつも通りの丁寧な挨拶の声が聞こえた。
「おはよ、瑞貴…… って、アンタまたその格好で、ウチからココまで来たの!?
皆が びっくりするじゃない!!」
「あら、そうかしら。
私にとっては、もう普段着みたいに馴染んでいるのだけれど。
それに、街道でお会いした方からも、
『今日も、お稽古? 桜の舞いは、楽しみにしてる』
と、仰って頂いたわ。」
稽古用とはいえ、舞い専用の巫女装束は、舞台を離れた街道や山中では、やはり目立つに違いない。
ましてや、他の誰より完璧に着付けられ、また着る機会が最も多く、あまりに似合い過ぎている瑞貴の巫女装束ならば、見る者の目を捉えて離さないだろう。
「あぁ、瑞貴。 おはよう。
今日は私も、早く入るから。
先に お稽古場の方、お願いして良いかしら?」
「はい、お師匠様。」
「はぁ…… あなたまで。。。」
「???」
「この際、栃実にも ハッキリ言っておくけど。
そーいう昔気質の、固っ苦しいのが嫌で興した『山桜流』なんだから!
古流で慣れてる瑞貴は仕方無いにしても、もう お師匠様は、止めて下さいな。
そういう所に使う気苦労や労力は、新しい発想や舞いの質の向上に回す。
そして、より良いパフォーマンスを、より多くのお客さんたちに観て頂くのが、山桜流なのですよ!」
愛弟子に師匠と呼ばれた気恥ずかしさを誤魔化しながら、そう言い放って、山桜は普段の和服から稽古用の巫女装束に着替えるため、逃げるように別室へと籠ってしまった。
瑞貴は、桜吹雪の障子を開け放ち、普段の稽古場を、街道から見える舞台へと。
とっちは、観客に振舞う桜茶の準備と、街道に出て披露稽古の告知を。
どちらも、とても手慣れた様子で準備を進めているうちに、さくらが こなたを連れて戻ってきた。
「とっち社長、瑞貴さん、遅れてすみません!
私もすぐに……。」
「いーの いーの、これくらい。
こっちは やっとくから、さくらは着付けを手早くキッチリと、ね!」
「そうそう。 今日は、披露稽古。
急いて ざわついた心では、優雅には舞えませんよ?」
「はい、すみません。 それと、こなたさんが…… あれ?」
ついさっきまで、さくらと手をつないで歩いていたはずの こなたは、今は とっちの豊か過ぎる胸に抱きしめられ、少し息苦しそうにモガモガ言っている。
「ん~、こなちゃぁ~ん♪♪ 今日もカワイィ~♡♡♡
披露稽古、観に来たんでしょ?
こっちで一緒に観ましょー!!」
さくらは、こなたに描いてもらった絵が完成したので、それを受け取りに。
カフェ『nolia』で展示して、そのまま披露稽古を こなたに観せるために連れてきたのだけど、一瞬にして とっちに奪われてしまった。
そんな とっちの行動の速さに呆気に取られる間も無く、さくらは巫女装束の着付けへ向かい、代わりに披露稽古の準備が整いつつあるのを確認しながら出て来た山桜が、ザワザワと集まり始めた観客に、桜の舞いに向けての 舞いの仕上がり具合の説明を。
とっちは、隣に座らせた こなたに、桜の舞いについての説明を、それぞれ始めていた。
「今の処は…… 私の開花と同じく7分咲きと言ったところでしょうか。
私が満開になる頃には、さくらたちの舞いも仕上がる事でしょう。
皆様、此度の披露稽古、どうぞ愉しんで ご観覧下さいな。」
「……んで、桜の舞いってのはね。
桜の花が散る頃に行われる、春の訪れを皆で祝う宴でね。」
「舞い散る桜吹雪をバックに、さくらや瑞貴たちが 舞い手になって、お稽古してきた舞いを披露するの。
それはそれは、優雅で綺麗なものよ!
今日は、それが少しでも観られるんだから、こなちゃんも来られて良かったわ!
皆も、本当に楽しみにしてるのよ!」
「わたしも、とっても楽しみなのれす!」
「それと…… 秋の一大イベント『山祭り』については、誰かにお話ししてもらった?」
「だいたいのことは、聞いてるのれす。」
「じゃ、話は早いわね。
詳しくは また今度お話しするけど、この桜の舞いは、山祭りでの舞い手を選ぶのも兼ねててね。
前にお話しした、樹の巫女 峰乃 赤松が、舞いの優雅さとかを審査して、舞い手の一次選考をするのよ。」
「皆様、大変お待たせ致しました。
準備が整いましたので、披露稽古を始めさせて頂きます!
此度のお題目は、『桜開花と若葉の舞い』。
舞い手は、さくらと瑞貴が、務めさせて頂きます。
それでは舞い手の登場です!
皆様、どうぞ拍手でお迎え下さい!!」
観客の盛大な拍手に迎えられ、美しく着付けられた巫女装束姿のさくらと瑞貴が、舞台に姿を現した。
「おぉ~っ! 待ってました!!」
「さくらちゃぁ~ん! 可愛い~!
さ・く・ら! さ・く・ら!」
「瑞貴さんも、お美しぃぃ。。。
今日も楽しみにしてますー!」
「あ! さくらが出てきた。
……いつもながら、大人気ね。
こなちゃん、いよいよ始まるわよ!」
「さくらと瑞貴。
『壱乃峰の 舞いのツートップ』って呼ばれてる二人がコンビで舞うなんて、そうそう見られないんだから!
とにかく今は、舞いの優雅さとか美しさを、しっかりと観ておいてね。」
「はいなのれす!」
春の少し強めの風に吹かれて、開花途中の花や 若葉の枝葉を揺らせる、さくらと瑞貴の優雅で美しい舞いは、未だ7割の仕上がりとは思えない程に素晴らしく、その場に居る者すべてを魅了した。
初めて舞台上での舞いを観た こなたに至っては、感動のあまりに言葉を忘れて、ボーッとしてしまっている。
突如として湧き上がった観客の喝采に、ハッと我に返った こなたに、とっちが感想を求めた。
「こなちゃん、こなちゃん! どうだった!?」
「すごかったのれす……。」
「あらあら、もう言葉にも出来ない ご様子ね。
この頃合いでアレなんだけど、桜の舞いも、夏祭りも、自己申告でエントリーするの。
こなちゃんも、エントリーすれば、舞い手や 唄い手になれるんだけど…… 桜の舞い、出てみる?」
「えぇー? 自信、まったくないのれす。
でも、すごくすてきな舞いれしたし、桜の舞いのことも もっと知りたくなったのれす!」
「……じゃぁさ。 私、桜の舞いのイベントプロデュースとか進行役とかやってんだけどさ。
独りじゃ なかなか手が回らないトコとか、目が届かないトコとかあってね。
こなちゃんが もし良かったら、私のお手伝いしてもらいながら、桜の舞いの事を もっと知ってもらうってのは、どう?」
「はい! ぜひやってみたいのれす!!
……でもそれって、わたしにもできること なんれすか?」
「だいじょぶ だいじょぶ!!
メインにやってもらうのは、めりあと一緒に準備段階から宴を楽しみながら、観客目線での感想やアイデアを その都度もらう事なんだから。」
「それなら、できそうなのれす!
じゃあ、とっちさん。 よろしくおねがいしますなのれす。」
「決まりね! じゃぁこれから、ウチの事務所で詳しいお話し、出来るかしら?
ウチでもダンススクールやっててね、これから桜の舞いに向けてのレッスンなの。
山桜流とはまた違った舞いを観ながら、今後のお仕事のお話しするっての、どう?
紅葉と楓にも会えるわよ?」
「行くのれす!」
「OK! じゃぁ、行きましょっか。
皆、お先に!
さくら、瑞貴、今日もサイコーだったわよ!!」
「あ! とっちさん、今日は ありがとうございました!」
「ありがとう、とっち! またね。」
観客に囲まれて、舞いの賛辞や感想を受けている さくらと瑞貴に、遠巻きにそう言い残すと、とっちは こなたと手をつなぎ、壱乃峰中腹の緩斜面にある、大きなホオノキに向かって歩き出した。
その後ろ姿は、まるで年の離れた姉妹のように、仲良く。
壱乃峰の桜は、もうすぐ満開。
じきに訪れる春の宴を、皆が心待ちにしているのでした。
【キャラクター紹介】トチノキの樹に宿る精霊『とっち』
『樹々は唄い、風に舞う』第一部 ~樹々の恵み編~
4話【舞いの家元、山桜流】
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
特典としまして、各話の末尾にて【キャラクター紹介】を掲載しますので、合わせてお読み頂ければ幸いです。
ここでは、これらのキャラ設定で出てきたアイデアを簡潔にまとめて、キャラ名と由来、モデルとした樹種、木彫り彫刻キャラ作品画像、作中でのキャラ紹介の順に、掲載してあります。
それでは、作者が頭を痛めて生み出したキャラ達と、魂を削って彫り上げた彫刻作品を ご覧くださいっ!
『とっち』
キャラ名は、『栃の木』の、アイドルらしい呼び名から命名。
本名は『栃実』だけど、本人はアイドルらしくないと思っているので、現役引退した今でも いつも芸名の『とっち』で通している。
・モデル樹種: トチノキ(栃の木) Aesculus turbinata
大木になり、また大きな実(可食)をつけることから、リーダーシップのある大人の女性で、さらに〝実り〟にも関するキャラをイメージ。
![](https://assets.st-note.com/img/1718539080425-AEw5Mwzjv0.jpg)
・キャラクター紹介:
大人気のアイドル『とっち』として、唄や舞いなどのライブパフォーマンスをメインに、グラビアやモデルなど幅広く芸能活動をしていたところ、〝ある出来事〟をきっかけに、現役を引退。
現在は、紅葉・楓・めりあ・さくらが所属する芸能事務所の社長として、マネジメントやトレーナーを行うかたわら、一般向けの唄と舞いのレッスンや、〝唄の祭典 夏祭り〟などのイベントプロデュースにも携わるなど、現役時代以上に幅広く活動している。
また、現役引退してから得た豊富な知識のおかげで、今では森林についても博識となっている。
その広く深い森林知識は、〝森の語り部〟 瑞貴と同等で、さらには人間が植えて育てているスギ人工林の施業についての知識をも持っている。
プライベートでは対照的に、近しい間柄の美少女を愛でることが大好きで、ことあるごとに抱きしめたりして可愛がっている。
とっちが可愛がるターゲットは、以前は〝まだ あどけなさが残る頃〟の瑞貴→ 最近は〝お稽古やレッスン以外での〟さくら→ 今季からは こなたへと、移り変わっている。
何かを思い返したり、ちょっとした考え事をする際は、いつもの癖で 「んー。」 と、小首を傾げて左頬に人差し指を当てる仕草をする。
・衣装やルックス:
いつも自信に満ちあふれた表情で、笑顔が素敵。
強い目力で、キリッと上がった眉からは、意志の強さが感じ取れる。
口角が上がった可愛いアヒルくちは、彼女のチャームポイント。
基本的にスーツを着用していて、アクティブに活動する機会が多いため、パンツスタイルを好んでいる。
いつもシャツの胸元を開けているのは、〝たわわに実った、丸くて大きな栃の実〟のようなバストが大きすぎて、ボタンが留められないため。
桂さんに衣服を修正してもらわずに着続けているのは、本人曰く「サービスの一環♡」だそう。
髪型は、ゆるいウェーブの 肩までのセミロングを、後ろで束ねている。
後ろ髪は、アカマツとブナの葉を模した、2つのヘアクリップで留めている。
このヘアクリップを宝物のように大切にしていて、特にアカマツの葉のものは、峰乃 赤松の前天冠の装飾と、同じものである。
31歳 身長163cm
5話【桜の舞い】に、続きます。。。
#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門
#ファンタジー小説
#異世界ファンタジー
#樹木擬人化の物語
#note創作大賞2024
#トチノキ樹木擬人化
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?