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4話【舞いの家元、山桜流】『樹々は唄い、風に舞う』第一部~樹々の恵み編~


 4話【舞いの家元、山桜流やまざくらりゅう

「……栃実とちみが そう思うなら、その通り実行に移しなさいな。
 わたくしみなも、栃実とちみの能力や情熱を信頼してるからこそ、安心して あなたにすべて託しているのですから。」

「さくらを、栃実とちみところに預けたのも、同じ。
 和服のモデル、えらく人気だそうじゃない。
 おうたも上達したみたいだし、わたくしの指導だけでは、こうはって無かったと思うわ。」

「ありがとうございます。
 山桜やまざくら師匠がいつもおっしゃっていた『好きこそ ものの 上手なれ』を、私も実践してきた結果だと思います。」

「さくらさん、まさに それを体現してますよね。
 和服モデルも おうたのレッスンも、本当に楽しそうにしてますもの。
 舞いの お稽古けいこでも、そうなんでしょう?
 今日の披露稽古ひろうげいこも、に おいでるみんなよりも、舞い手の さくらさんの方が楽しみにしてるくらいだって、評判ですよ?」

「ふふっ、そうね。 その通りよ。
 好きで、楽しんで取り組むからこそ、上達も早いし 人気も出る。
 その結果、今じゃあ『伝説の舞姫 まいの再来』とまで言われて。
 家元としても、母親としても、鼻が高いわ!
 ……って、親バカなのかしらね?」

「でも、さくらにはね。
 巫女を目指して一直線に突っ走ってたまいとは違って、山桜流やまざくらりゅうに とらわれ過ぎずに、伸び伸びと成長してもらいたいのよ。
 『色んな事に興味を持って、色んな可能性にチャレンジして、色んな事を楽しんで。』
 栃実とちみ…… いえ、とっち。
 あなたにも同じ事を言って指導してきたけど、それは、あなたが今のような指導が出来る事を見越して、なのよ。」

「……いつも、有難うございます。」

わたくしの師匠の、受け売りなんだけどね。
 『その道の先駆者とったなら、それを託せる後進を育て、その意思を継承すべし!』
 ってね。
 栃実には、次の世代のトップランナーにってもらって、山桜流やまざくらりゅうの意志を継承して行って欲しいのよ。」

「そこまでのお考えがあって、私を見て下さっておられたとは……。
 頭が下がります。 有難うございます、お師匠様!」

「あっはっは! そういう所、栃実とちみ瑞貴みずきも、相変わらずね。
 でも、いい加減 お師匠様は、めて下さいな。」

山桜流やまざくらりゅうは、アバンギャルドと言われ続けてきた、わたくし流。
 栃実とちみも、もう とっち流の家元みたいなモンなんだから。
 瑞貴みずきだって、古流の師範代みたいなモンだし。
 二人とも、今ではそれぞれの流派のトップの立場にいると、わたくしは認識しているのですよ?」

「……歳のせいかしらね、つい話し込んでしまったわ。
 この話は、ここでお終い。 それより、早く本題の事を決めてしまいましょ。
 今日の お稽古けいこ瑞貴みずきもおいでるから、わたくしも早く入らなきゃ。」

「いつも瑞貴みずきは、一番乗りですからね。
 では、桜の舞いでは、舞い手の一番乗りは……。」


 誰より早く山桜流やまざくらりゅう稽古場けいこばを訪れていた とっちは、目前に迫った春のうたげ『桜の舞い』の、プロデュース面の打合せを、山桜やまざくらと行っていた。

 とっちプロデュースによる、舞い手の披露の順番が決まった頃。

 舞い専用の巫女装束みこしょうぞくに身を包んだ瑞貴みずき
「お早うございます。 本日もよろしくお願い致します。」
という、いつも通りの丁寧な挨拶の声が聞こえた。

「おはよ、瑞貴みずき…… って、アンタまたその格好で、ウチからココまで来たの!?
 みんなが びっくりするじゃない!!」

「あら、そうかしら。
 私にとっては、もう普段着みたいに馴染んでいるのだけれど。
 それに、街道でお会いした方からも、
 『今日も、お稽古けいこ? 桜の舞いは、楽しみにしてる』
と、おっしゃって頂いたわ。」

 稽古用けいこようとはいえ、舞い専用の巫女装束みこしょうぞくは、舞台を離れた街道や山中さんちゅうでは、やはり目立つに違いない。
 ましてや、他の誰より完璧に着付けられ、また着る機会が最も多く、あまりに似合い過ぎている瑞貴みずき巫女装束みこしょうぞくならば、見る者の目をとらえて離さないだろう。

「あぁ、瑞貴みずき。 おはよう。
 今日はわたくしも、早く入るから。
 先に お稽古場けいこばの方、お願いして良いかしら?」

「はい、お師匠様。」

「はぁ…… あなたまで。。。」

「???」

「この際、栃実とちみにも ハッキリ言っておくけど。
 そーいう昔気質むかしかたぎの、固っ苦しいのが嫌でおこした『山桜流やまざくらりゅう』なんだから!
 古流で慣れてる瑞貴みずきは仕方無いにしても、もう お師匠様は、めて下さいな。
 そういう所に使う気苦労や労力は、新しい発想や舞いの質の向上に回す。
 そして、より良いパフォーマンスを、より多くのお客さんたちにて頂くのが、山桜流やまざくらりゅうなのですよ!」

 愛弟子まなでしに師匠と呼ばれた気恥ずかしさを誤魔化しながら、そう言い放って、山桜やまざくらは普段の和服から稽古用けいこよう巫女装束みこしょうぞくに着替えるため、逃げるように別室へとこもってしまった。


 瑞貴みずきは、桜吹雪の障子しょうじを開け放ち、普段の稽古場けいこばを、街道から見える舞台へと。
 とっちは、観客に振舞ふるまう桜茶の準備と、街道に出て披露稽古ひろうげいこの告知を。
 どちらも、とても手慣れた様子で準備を進めているうちに、さくらが こなたを連れて戻ってきた。

「とっち社長、瑞貴みずきさん、遅れてすみません!
 わたくしもすぐに……。」

「いーの いーの、これくらい。
 こっちは やっとくから、さくらは着付けを手早くキッチリと、ね!」

「そうそう。 今日は、披露稽古ひろうげいこ
 いて ざわついた心では、優雅には舞えませんよ?」

「はい、すみません。 それと、こなたさんが…… あれ?」

 ついさっきまで、さくらと手をつないで歩いていたはずの こなたは、今は とっちの豊か過ぎる胸に抱きしめられ、少し息苦しそうにモガモガ言っている。

「ん~、こなちゃぁ~ん♪♪ 今日もカワイィ~♡♡♡
 披露稽古ひろうげいこに来たんでしょ?
 こっちで一緒にましょー!!」


 さくらは、こなたに描いてもらった絵が完成したので、それを受け取りに。
 カフェ『noliaノリア』で展示して、そのまま披露稽古ひろうげいこを こなたにせるために連れてきたのだけど、一瞬にして とっちに奪われてしまった。

 そんな とっちの行動の速さに呆気あっけに取られる間も無く、さくらは巫女装束みこしょうぞくの着付けへ向かい、代わりに披露稽古ひろうげいこの準備が整いつつあるのを確認しながら出て来た山桜やまざくらが、ザワザワと集まり始めた観客に、桜の舞いに向けての 舞いの仕上がり具合の説明を。
 とっちは、隣に座らせた こなたに、桜の舞いについての説明を、それぞれ始めていた。


「今のところは…… わたくしの開花と同じく7分咲きと言ったところでしょうか。
 わたくしが満開になる頃には、さくらたちの舞いも仕上がる事でしょう。
 皆様、此度こたび披露稽古ひろうげいこ、どうぞたのしんで ご観覧かんらん下さいな。」

「……んで、桜の舞いってのはね。
 桜の花が散る頃に行われる、春の訪れをみんなで祝ううたげでね。」

「舞い散る桜吹雪をバックに、さくらや瑞貴みずきたちが 舞い手になって、お稽古けいこしてきた舞いを披露するの。
 それはそれは、優雅で綺麗なものよ!
 今日は、それが少しでもられるんだから、こなちゃんも来られて良かったわ!
 みんなも、本当に楽しみにしてるのよ!」

「わたしも、とっても楽しみなのれす!」

「それと…… 秋の一大イベント『山祭り』については、誰かにお話ししてもらった?」

「だいたいのことは、聞いてるのれす。」

「じゃ、話は早いわね。
 詳しくは また今度お話しするけど、この桜の舞いは、山祭りでの舞い手を選ぶのも兼ねててね。
 前にお話しした、の巫女 峰乃 赤松みねの あかまつが、舞いの優雅さとかを審査して、舞い手の一次選考をするのよ。」


「皆様、大変お待たせ致しました。
 準備が整いましたので、披露稽古ひろうげいこを始めさせて頂きます!
 此度こたびのお題目は、『桜開花と若葉の舞い』。
 舞い手は、さくらと瑞貴みずきが、務めさせて頂きます。
 それでは舞い手の登場です!
 皆様、どうぞ拍手でお迎え下さい!!」

 観客の盛大な拍手に迎えられ、美しく着付けられた巫女装束みこしょうぞく姿のさくらと瑞貴みずきが、舞台に姿を現した。

「おぉ~っ! 待ってました!!」

「さくらちゃぁ~ん! 可愛い~!
 さ・く・ら! さ・く・ら!」

瑞貴みずきさんも、お美しぃぃ。。。
 今日も楽しみにしてますー!」


「あ! さくらが出てきた。
 ……いつもながら、大人気ね。
 こなちゃん、いよいよ始まるわよ!」

「さくらと瑞貴みずき
 『壱乃峰いちのみねの 舞いのツートップ』って呼ばれてる二人がコンビで舞うなんて、そうそう見られないんだから!
 とにかく今は、舞いの優雅さとか美しさを、しっかりとておいてね。」

「はいなのれす!」

 春の少し強めの風に吹かれて、開花途中の花や 若葉の枝葉えだはを揺らせる、さくらと瑞貴みずきの優雅で美しい舞いは、だ7割の仕上がりとは思えない程に素晴らしく、その場に居る者すべてを魅了した。

 初めて舞台上での舞いをた こなたに至っては、感動のあまりに言葉を忘れて、ボーッとしてしまっている。
 突如として湧き上がった観客の喝采に、ハッと我に返った こなたに、とっちが感想を求めた。

「こなちゃん、こなちゃん! どうだった!?」

「すごかったのれす……。」

「あらあら、もう言葉にも出来ない ご様子ね。
 この頃合いでアレなんだけど、桜の舞いも、夏祭りも、自己申告でエントリーするの。
 こなちゃんも、エントリーすれば、舞い手や うたい手になれるんだけど…… 桜の舞い、出てみる?」

「えぇー? 自信、まったくないのれす。
 でも、すごくすてきな舞いれしたし、桜の舞いのことも もっと知りたくなったのれす!」

「……じゃぁさ。 私、桜の舞いのイベントプロデュースとか進行役とかやってんだけどさ。
 ひとりじゃ なかなか手が回らないトコとか、目が届かないトコとかあってね。
 こなちゃんが もし良かったら、私のお手伝いしてもらいながら、桜の舞いの事を もっと知ってもらうってのは、どう?」

「はい! ぜひやってみたいのれす!!
 ……でもそれって、わたしにもできること なんれすか?」

「だいじょぶ だいじょぶ!!
 メインにやってもらうのは、めりあと一緒に準備段階からうたげを楽しみながら、観客目線での感想やアイデアを その都度もらう事なんだから。」

「それなら、できそうなのれす!
 じゃあ、とっちさん。 よろしくおねがいしますなのれす。」

「決まりね! じゃぁこれから、ウチの事務所で詳しいお話し、出来るかしら?
 ウチでもダンススクールやっててね、これから桜の舞いに向けてのレッスンなの。
 山桜流やまざくらりゅうとはまた違った舞いをながら、今後のお仕事のお話しするっての、どう?
 紅葉もみじかえでにも会えるわよ?」

「行くのれす!」

「OK! じゃぁ、行きましょっか。
 みんな、お先に!
 さくら、瑞貴みずき、今日もサイコーだったわよ!!」

「あ! とっちさん、今日は ありがとうございました!」

「ありがとう、とっち! またね。」


 観客に囲まれて、舞いの賛辞さんじや感想を受けている さくらと瑞貴みずきに、遠巻きにそう言い残すと、とっちは こなたと手をつなぎ、壱乃峰いちのみね中腹ちゅうふく緩斜面かんしゃめんにある、大きなホオノキに向かって歩き出した。

 その後ろ姿は、まるで年の離れた姉妹のように、仲良く。
 壱乃峰いちのみねの桜は、もうすぐ満開。
 じきに訪れる春のうたげを、みなが心待ちにしているのでした。


【キャラクター紹介】トチノキのに宿る精霊せいれい『とっち』

樹々きぎうたい、風に舞う』第一部 ~樹々きぎの恵み編~
4話【舞いの家元、山桜流やまざくらりゅう

 最後までお読み頂き、ありがとうございました!
 特典としまして、各話の末尾にて【キャラクター紹介】を掲載しますので、合わせてお読み頂ければ幸いです。
 ここでは、これらのキャラ設定で出てきたアイデアを簡潔にまとめて、キャラ名と由来、モデルとした樹種じゅしゅ、木彫り彫刻キャラ作品画像、作中でのキャラ紹介の順に、掲載してあります。
 それでは、作者が頭を痛めて生み出したキャラ達と、魂を削って彫り上げた彫刻作品を ご覧くださいっ!

『とっち』
 キャラ名は、『とちの木』の、アイドルらしい呼び名から命名。
 本名は『栃実とちみ』だけど、本人はアイドルらしくないと思っているので、現役引退した今でも いつも芸名の『とっち』で通している。

・モデル樹種じゅしゅ: トチノキ(栃の木) Aesculus turbinata
 大木になり、また大きな実(可食)をつけることから、リーダーシップのある大人の女性で、さらに〝実り〟にも関するキャラをイメージ。

木彫り彫刻キャラ作品『とっち』

・キャラクター紹介:
 大人気のアイドル『とっち』として、うたや舞いなどのライブパフォーマンスをメインに、グラビアやモデルなど幅広く芸能活動をしていたところ、〝ある出来事〟をきっかけに、現役を引退。
 現在は、紅葉もみじかえで・めりあ・さくらが所属する芸能事務所の社長として、マネジメントやトレーナーを行うかたわら、一般向けのうたと舞いのレッスンや、〝うたの祭典 夏祭り〟などのイベントプロデュースにも携わるなど、現役時代以上に幅広く活動している。
 また、現役引退してから得た豊富な知識のおかげで、今では森林についても博識となっている。
 その広く深い森林知識は、〝森のかた瑞貴みずきと同等で、さらには人間ニンゲンが植えて育てているスギ人工林じんこうりんの施業についての知識をも持っている。
 プライベートでは対照的に、近しい間柄の美少女をでることが大好きで、ことあるごとに抱きしめたりして可愛がっている。
 とっちが可愛がるターゲットは、以前は〝まだ あどけなさが残る頃〟の瑞貴みずき→ 最近は〝お稽古けいこやレッスン以外での〟さくら→ 今季こんきからは こなたへと、移り変わっている。
 何かを思い返したり、ちょっとした考え事をする際は、いつものくせで 「んー。」 と、小首をかしげて左ほおに人差し指を当てる仕草をする。

・衣装やルックス:
 いつも自信に満ちあふれた表情で、笑顔が素敵。
 強い目力めぢからで、キリッと上がった眉からは、意志の強さが感じ取れる。
 口角が上がった可愛いアヒルくちは、彼女のチャームポイント。
 基本的にスーツを着用していて、アクティブに活動する機会が多いため、パンツスタイルを好んでいる。
 いつもシャツの胸元を開けているのは、〝たわわに実った、丸くて大きなとちの実〟のようなバストが大きすぎて、ボタンが留められないため。
 かつらさんに衣服を修正してもらわずに着続けているのは、本人曰く「サービスの一環♡」だそう。
 髪型は、ゆるいウェーブの 肩までのセミロングを、後ろでたばねている。
 後ろ髪は、アカマツとブナの葉を模した、2つのヘアクリップで留めている。
 このヘアクリップを宝物のように大切にしていて、特にアカマツの葉のものは、峰乃 赤松みねの あかまつ前天冠まえてんかんの装飾と、同じものである。
 31歳 身長163cm


 5話【桜の舞い】に、続きます。。。


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