見出し画像

9話【夏祭り】『樹々は唄い、風に舞う』第一部~樹々の恵み編~


9話【夏祭り】

「……うん、決めました! 私、この浴衣ゆかたにします!!」

「そっかぁ―― やっぱ、コレだよね。
 黄葉おうようのイチョウの葉をメインに、ちょうちょの帯。
 一葉いちようちゃんのイメージに ぴったりだと思って、つくったのよ。」

「いつも、ありがとうございます! かつらさん。
 『夏祭り』 ●8 が、もっともっと楽しみになります♪」

「うんうん。 よく似合ってるわよ、一葉いちよう
 あなた、いっつも夏祭りを楽しみにしてたもんね。
 『銀杏屋ぎんなんや ひがしたに』の おかみさんも、夏祭りの前だけは ずっとお休みくれるくらいだし。」

「ですよね、とっち社長。
 一葉いちよう、私も…… ほんとに良く似合ってると思うわ。」

「えへへ……。 めりあさんに そう言ってもらえると、すごく嬉しいです!」

「……私は、どうかな?
 正直、和服系のモデルやるのは、初めてなんだけど……。」

「さすが、めりあさん。 ほんとに、何を着ても似合っちゃう!
 みどり浴衣ゆかた、大人っぽくて とっても素敵!
 『きれいな お姉さん』に、ますます磨きが かかった感じです。
 ……さくらちゃんは、どう思う?」

「はい、わたくしも、大変良くお似合いだと思いますわ。
 めりあさん みたいに、わたくしも いつか『きれいな お姉さん』になれたらなぁーって、いつも憧れているのですよ。」

「あ…… ありがと。 ……やっぱ、照れるね。 こーいうの。
 そ…… そーいう さくらだって、葉桜の その浴衣ゆかた、オーソドックスだけど…… だから、かな? すごく似合ってる!
 ちょっと私には、その感じは出せないかなー。
 さすが、和服専門のモデルよね。
 ……とっち社長は、どうですか?」

「もちろん! みんな、サイコーに似合ってるわよ!!!
 何より、かつらさんに お願いしたのが 良かったんじゃない?
 みんなの個性とかイメージに合わせて、これだけ似合うものをつくっちゃうなんて、そうそう出来るコトじゃないわよ!」

かつらさん、ありがとうございました!!!」

「う…… うん、こちらこそ、ありがとね!
 ……なんか、改まって褒められると、照れるわね。
 でも、気に入ってくれたみたいで、ほんとつくって良かったわ!
 じゃ、栃実とちみ。 発表会で着るのは、コレで良いわね!?」

かつらさーん、『とっち』だってばぁ~。。。
 ……ま、いっか。
 みんな! いま着てるコレで、行きましょ!」

「はい!!!」

かつらさん、じゃあ そーいうコトで!
 みんな、着替えて。
 おうたの練習に合流するわよ!」

「ふふ。。。 相変わらず、アクティブね。
 じゃ、私も 夏祭り、楽しみにしてるから!」

「はい! みんなに楽しんでもらえるよう、頑張ります!
 夏祭りでも、よろしくお願いしますね、かつらさん!」

 そう言い残して、とっちは 浴衣ゆかたから普段着に着替えの済んだ三人を連れて、東谷街道へと。


 一方、カフェ『noliaノリア』のオープンテラスでは、間近に迫った『うたの祭典 夏祭り』に向けて、紅葉もみじかえでを はじめとするうたい手たちが、最後の合同練習をしていた。

「……それにしても、こならちゃん…… ほんとに上手になったよね、おねぇちゃん。。。
 私も…… 夏祭りで一緒にうたうのが、楽しみだよぅ。。。」

「うんうん! 初めてうたい手になるとは、思えないくらいだよね。
 ソロパートの歌詞も、なんだかんだで すんなりできちゃったし。。。」

 紅葉もみじは、こなたが初めての歌詞づくりにチャレンジしたときのことを、思い返す。


「~私の歌詞は、『風に舞う 枝葉えだはの美』への想いを ぎゅっと詰め込んで、歌詞に落とし込んでみたの。
 ♪ モミジ枝葉えだはは、風舞かざまいの美。 紅葉こうよう~ ♪
 あとでコレに、私のたねが風に舞うのを、表現するつもり。」

「わ…… 私は、『風に揺れる 葉音はおとの美』を…… 表現したつもりです。。。
 こならちゃん…… 少しのことに、想いを込めるのが、おうたつくる要点…… かと思います。。。
 わ…… 私の歌詞は、♪ カエデ枝葉えだはは、葉音はおとの美~ ♪
 こんなふうに…… してみました。。。」

「コレをうたうんだよ、夏祭りで!
 自分がうたうパートは、自分で歌詞をつけて、ね。」

「すてき なのれす!
 いっしょに おうたうたうのが、すんごく楽しみなのれす!」

「……でも。。。 こぉゆうの初めてなので、どんな歌詞にしたらいいか――。
 ことも、ぜんぜん思いつかないのれす。。。
 とっちさん、夏祭りって…… 何をお祝いする お祭りなのれすか?」

「んー。 一言でいえば、『私達が健全に成長できたことへの、感謝』かしらね。
 ほら、巫女修養みこしゅうようでも お話ししてたでしょ?
 『太陽の恵み』とか、『恵みの雨』とか……。」

「そうれすか……。
 なら、わたしが いたいのは、ひとつしかないのれす!
 それを、おうたに するのれす!」

「うん! すっごく良いと思う!
 今の こなちゃんみたいに、元気に成長できたこととかを お祝いして、うたい手が その感謝をことに乗せて、『樹々きぎうた』としてうたうの。」

「それなら! わたしが おうたにしたいのは、『はぐくみのへの感謝』なのれす!!
 それに、『初結実はつけつじつで、ドングリをいっぱい つけたい!』とゆう想いを込めて…… これで、良いれすか?」

「……こならちゃんのおうた、できちゃったみたいだね…… おねぇちゃん。。。」

「だね! こなちゃん、ちょっとうたってみてくれる?」

「♪ コナラ どんぐり~ ♪」

「いい! 私、コレ好き!! かえでは、どう?」

「私も…… 好きです。。。
 こならちゃん、もぅこれで完成で、良いかと思います。。。
 あの…… とっち社長は、どうでしょうか……?」

「良いじゃない!
 シンプルに ぎゅっと、こなちゃんの想いが詰まってる!
 と思うわよ。」

「やったね、こなちゃん! おめでとう!!」

「えへへ。。。 ありがと なのれす!!」

「んじゃ、こなちゃん。 ちょっと説明しとくわね。
 こなちゃんの、サラサラ音の葉音はおと ★7 なら―― 高音パートを お願いしよーかな。
 ちなみに、紅葉もみじかえでも、同じ高音パートよ。」

「あと、夏祭りでのソロパートの披露は、峰乃 赤松みねの あかまつ様が お聴きになって、秋の『山祭り』でのうたい手が選抜される事になるから、しっかりね!」

「うぅ~。 『うたい手になる』って ゆわれると、キンチョーしちゃうのれす。。。
 ……でもでも、こならは、おうたを楽しくうたえたらって、思うのれす!!」

「うん…… そうだよね!
 ちょっと忘れかけてたかも、この気持ち。
 ……お祭りだもん! 楽しまなくちゃ、ね!!」

「そう! その意気よ、紅葉もみじ
 かえでもね!
 じゃあ、それぞれのパート練習を、しっかりと…… 楽しんで♪
 始めましょっか!!」


「~ずっと、うたい手になる練習してたんだろーね。
 ソロパートの唄練うたれんも、やれば やるほど こなちゃんは……。
 あ、来た来た! ねぇねぇー! はやく みんなでうたいたいよー!!」

 紅葉もみじたちがソロパートの練習をしているところへ、浴衣ゆかたの最終決定に行っていた とっちとうたい手たちが、戻ってきた。
 これで、夏祭りのうたい手が全員そろい、いよいよ最後の合同練習『合わせ』へと。

「もぅ、紅葉もみじったら。
 楽しみなのは分かるけど、かさないでー!
 ……さて、みんな。 調子は、どうかな?」

 のりあは、のんびりした口調で。「うふふ。 準備は出来てますわ。」
 ふたばは、強がってる様子で。「……大丈夫っす!」
 めりあは、自信たっぷりに。「いつでもOKよ!」
 寿美ことみは、緊張しながら。「が…… 頑張ります!」
 一葉いちようは、満面の笑みで。「はいっ! 楽しみです♪♪」
 さくらは、可憐に。「すぐにでもうたえるくらいに、お稽古けいこしてきましたわ。」
 紅葉もみじは、元気に。「バッチリです! みんなでうたうの、楽しみだなぁ~♪」
 かえでは、引き締まった表情で。「……はい! 私も、楽しみです。。。」
 こなたは、楽しげに。「みんなで楽しく、おうたうたうのれす!!」
 瑞貴みずきは、優しく微笑みながら。「ふふっ。 みな、調子は良さそうですよ。」

「……そうね、こなちゃんの言う通り!!
 みんな、『楽しむことを、忘れずに!』。
 じゃ、最終本番リハ『合わせ』、行ってみよっか!!」

 楽しんで取り組んできたソロパートの練習も相まって、『合わせ』でうた最終唄練さいしゅう うたれんも、とっち的には十分すぎるクオリティに。

「……うん! もう、私が とやかく言う必要はない程の、仕上がりね!
 あとは各自、ソロパートに磨きを かけましょう!」

 楽しげに ざわめく樹々きぎ葉音はおとに誘われて、ホオノキ巨樹きょじゅの周囲の そこかしこからはセミが鳴き始め、他の夏の虫達も、鳴く練習を。
 やがて虫達の鳴声と、樹々きぎ葉音はおとは一体となって、森の大合唱のような心地良い音を、かなでていた。。。


 夏祭り、当日。

 舞台脇の紅白の垂れ幕の中は、夏祭りらしく、オープンで くだけた雰囲気。
 このひかじょには、すでに峰乃 赤松みねの あかまつが到着していた。

 とっちや山桜やまざくらとの打合せも終えた今では、うたの祭典の開始を待ちながら、
浴衣ゆかたの発表会は、好評だったら今後も続けましょうか……。」
などと話したり、常連のうたい手たちとも、うたの仕上がりなどについて、談笑している。
 うたい手のみなが宿る樹々きぎも健在で、葉音はおとの調子も良さそうだ。

「……そろそろ、頃合いですね。
 では、峰乃 赤松みねの あかまつ様、よろしいでしょうか?」

「うむ。」

 山桜やまざくらの問いに、峰乃 赤松みねの あかまつが簡潔にこたえるのを見ると、とっちは、大平岩おおひらいわの舞台へと上がった。


「さぁ、皆様! 今夏こんかもやって参りました、うたの祭典 夏祭り!!
 進行はわたくし、皆様お馴染みの とっちが務めさせて頂きます。」

「それでは!
 早速ですが、夏祭りの開始に あたりまして、主賓しゅひん峰乃 赤松みねの あかまつ様より、ご挨拶をたまわりたいと思います。
 峰乃 赤松みねの あかまつ様には、すでにお越し頂いておりますので、お呼びいたしましょう。
 皆様、一礼と盛大な拍手で、お迎え下さい!」

 みなの拍手に迎えられた峰乃 赤松みねの あかまつは、とっちの隣席となる主賓しゅひん席へ。
 観客席に向き直り、みなの健在ぶりを確認し、りんとした声で祭典の開始を告げる。

今夏こんかみな、葉もく茂り、健在であることがわかります。
 これらを祝う、此度こたびうたの祭典、夏祭り。
 桜の舞い同様、みなと共に、心行こころゆくまで楽しみたいと存じます。」

「また、今夏こんかより、趣向を変えたもよおしを試行すると、うかがっております。
 こちらも、楽しみにしております。」

峰乃 赤松みねの あかまつ様、ありがとうございました!」


「……それでは、早速!
 今夏こんかから、趣向を変えて!
 『新作浴衣ゆかたの発表会』に、移りたいと思います!!
 新作浴衣ゆかたを制作して頂いたのは、ここ壱乃峰いちのみねで、物創ものづくりといえば……!?
 そうです! 皆様ご存知の、かつらさん!!」

 みなの拍手に迎えられ、ひかじょから、少し気恥しそうな様子で、かつらさんが登場。

「モデルの お三方さんかたの、キャラクターやイメージに合わせつつ。。。
 より 可愛らしく、美しく、見映みばえするよう、新作の浴衣ゆかたを制作させて頂きました。」

 とのコメントに続いて、発表会がスタート。

 大平岩おおひらいわを背景に、まずは 一葉いちようが、大きなイチョウの黄葉おうようを大胆に あしらった浴衣ゆかたで、登場。
 ちょうちょの帯も相まって、その可愛らしさを引き出している。

一葉いちようちゃん、可愛い!
 夏は それ着て、お店に出てよ!」

「イチョウの団扇うちわ、私も欲しい!
 ぎんなんの夏メニューと一緒に―― って、どうかな?」

 予想以上の大反響となった、銀杏屋ぎんなんやの看板娘に続いて、めりあが、シンプルなみどりを基調とした配色の浴衣ゆかたを着こなし、登場。
 持ち前の美しさに さらに磨きがかかり、大人の女性の魅力を存分に発揮する。

「まぁ、綺麗!
 私も これ着たら、めりあさんみたいに なれるかな?」

 最後は さくらが、和服専門のモデルとして、桜の舞い同様に、大トリを務める。
 落ち着いた濃淡の配色に、葉桜をあしらった その浴衣ゆかたは、さくらの可憐な美しさを際立たせていた。

浴衣ゆかたモデルのみんな、ありがとうございました!
 制作して頂いた、かつらさんにも、いま一度 大きな拍手を!!」

「新作浴衣ゆかたのご依頼は、かつらさんに どうぞ。
 『オーダーメイドもうけたまわりますが、試作した浴衣ゆかたも いっぱいあるので、その中から お選び頂くこともできます。』とのコメントを、頂いております。」

「では最後に、峰乃 赤松みねの あかまつ様より、ご感想をたまわりたいと思います。」

みな、大変く似合っておりました。
 わたくしも、夏季かきは、御務おつとめ以外では浴衣ゆかたで過ごしたい、と思うほどに。」

「『みな 違って、みな い。』
 壱乃峰いちのみねの森の、樹々きぎの魅力を新たに引き出した趣向とった、此度こたびの新作浴衣ゆかたの発表会。
 今後とも継続して開催し、また新たな魅力をつくり、生み出して頂きたく存じます。」


 浴衣ゆかたモデルたちが、ひかじょ巫女装束みこしょうぞくに着替えて 祭典のうたい手となる準備をしている間に、とっちは観客に、夏祭りの開始挨拶と その説明を。

「太陽の恵みや、恵みの雨に感謝し、樹々きぎが健全に成長できた事を祝う、うたの祭典。
 そのうたい手たちがうたうは、『樹々きぎうた』。
 独唱どくしょうの披露では、うたい手たちの想いをつむいだことを、各々おのおのが その葉音はおとに乗せて、うたい上げます。」

「続いて、『合わせ』ともわれる合唱では、峰乃 赤松みねの あかまつ様が おうたいになる副旋律ふくせんりつに乗せて、うたい手たちが順に、主旋律しゅせんりつとなる独唱どくしょううたを、うたい継ぎます。
 最後はみなで合唱し、私達が健在であることや、太陽の恵みや 恵みの雨への感謝を樹々きぎうたに乗せて、山の神様に お伝えします。。。」

 とっちが、祭典の開始前のアナウンスを終えようとする頃。
 紅白の垂れ幕の隙間から、めりあが ひょこっと顔を出して、『いつでもOK』のサインを。
 それを受けて とっちは、祭典の開始を、樹々きぎうた 独唱どくしょうの始まりを 告げた。

 うたい出しは、のりあが担当。 ホオノキのの恵みを、優しく落ち着いた葉音はおとうたう。
 続いて ふたばが、低く力強い葉音はおとでアカマツのについてうたい、同じく針葉しんようを持つ めりあにつなげる。
 めりあは、スギのの 立ち姿の美をうたい、序盤の低音パートは ここまで。
 中高音となる、葉音はおと分枝ぶんしの打音を合わせた歌声で、寿美ことみは、ケヤキの枝葉えだはうたを。
 一葉いちようは、大好きな ぎんなんへの想いを込めた、イチョウのの恵みを、楽しさあふれる歌声でうたう。
 さくらは、花と葉、そして実りの美をシンプルに詰め込んだ桜のうたを、その美しい葉音はおとで可憐にうたい上げ、うたの中盤にいろどりを。
 そこに、紅葉もみじのサラサラとした高音の葉音はおとが カットインするかたちで、うたの調子を、高く 高く。
 紅葉もみじは モミジの風舞かざまいの美を、かえでは カエデの葉音はおとの美を。
 一段と高い葉音はおとで、こなたは、コナラの実りと その感謝を、楽しげにうたう。
 最後にみなが、中高音の葉音はおとと落ち着いた曲調で、ブナのの恵みと森の調和をうたい、独唱どくしょうを締めくくった。

 観客席から湧き起こる喝采や、鳴りまない拍手を受けながら、峰乃 赤松みねの あかまつは、うたい手たちが待つ舞台上へ。

く、精進なされておりますね。
 合わせの歌唱も、期待しましょう。」

 と告げると、うたの祭典 夏祭りは、本番となる合唱へ。


 ひとときの静寂の後。
 峰乃 赤松みねの あかまつの、優雅な枝先えださきに開く艶やかな針葉しんようは 風にざわめき、副旋律ふくせんりつとなる 優しく美しい葉音はおとかなでる。

樹々きぎうた
 大きく包む、ホオノキの葉。 花も実りも、の恵み。
 大地に根を張るアカマツの、針葉しんよう開く、力枝ちからえだ
 スギは真っ直ぐ、立ち姿の美。 実り無くとも、森に恵みを。

 天をあおぐ、ケヤキの枝葉えだは。 風に舞うは、枝先えださきたね
 イチョウの実りは、美味しい ぎんなん。 黄葉おうようひらり、扇子せんすの舞い。
 風に舞い散る、桜吹雪。 みどりの葉桜、あかの実り。

 モミジ枝葉えだはは、風舞かざまいの美。 紅葉こうようひらひら たねはくるくる、そよ風に舞う。
 カエデ枝葉えだはは、葉音はおとの美。 青葉さらさら、そよ風にうたう。
 コナラどんぐり、いっぱい実る。 はぐくみのを、ありがとう。

 豊かな森のブナのは、木の実も水も、はぐくんで。 樹々きぎの恵みは、森に調和を。

 共に分かち合おう。 太陽の恵みと、恵みの雨。
 健やかにはぐくもう、樹々きぎの恵み。
 共にうたおう、樹々きぎうた


「……峰乃 赤松みねの あかまつ様、うたい手のみんな、ありがとうございました!
 ここで、峰乃 赤松みねの あかまつ様より、おうたの ご感想をたまわりたいと思います。」

「うむ。 うたい手のみな、合わせの歌唱もし、各々おのおの葉音はおとし。
 より一層の精進を、期待しております。。。」


「……ただいま、山の神様より ことが下されましたので、みなに お伝え致します。」

壱乃峰いちのみねの森に、きる樹々きぎよ。
 其方そなた達が健在であること、く伝わった。
 これから実りの季節となるが、みなき実りを。
 の身をはぐくみし、陽光と雨の恵みを、樹々きぎの そして 森の恵みと、いたせ。』

 山の神からのことたまわり、みなは ひときわ大きな拍手でこたえる。
 夏祭りは神事も終え、祭典の締めくくりへと。

「実りの季節のあとには、山祭り。
 本日の おうたの披露と、山祭りまでの葉音はおとの美しさを、峰乃 赤松みねの あかまつ様が審査され、山祭りの前日に そのうたい手が発表されます。」

「皆様! 山祭りを、お楽しみに♪」


 夕暮れ迫る、壱乃峰いちのみねの森。
 人気ひとけも まばらになった舞台の辺りでは、普段の姿に戻ったうたい手たちも手伝って、祭典の撤収作業が続いていた。

「……終わっちゃったね、夏祭り。
 楽しかったけど、終わっちゃうと…… 少し、さみしいな。。。」

 み~ん、みんみん…… じわじわじぃ~ かなかなかな。。。

 祭りのあとをさみしがる、一葉いちようたち うたい手のみなを元気づけるかのように、セミの声が。

 瑞貴みずきと とっちは 楽しげな口調で、こなたに こう説明して、沈んだ雰囲気をやわらげようと試みる。

「セミさんたちがうたってくれているのは、『虫のうた』。
 それは、私達 樹々きぎへの、食べ物や住処すみかを分け与えてくれた、感謝のうたなのです。」

「例えば、ちょうちょは 葉を、カブトムシさんは 腐葉土を、クワガタムシさんは 朽ち木を食べて大きくなり、成長して羽化うかまで出来た事への、感謝を。
 トンボさんなど、水の中にむ昆虫たちは、豊かな水をはぐくんでくれた感謝を。
 言葉を持たない これらの昆虫たちは、セミさんたちを代弁者として、その感謝を虫のうたに乗せて、伝えてくれているのですよ。」

「すてき!」

「……でしょ? こなちゃん。
 そして、『良いうたを聞かせてくれて、ありがとう。』っていう、夏祭りの ねぎらいも。 
 虫のうたは、樹々きぎうたの、アンサーソングでも あるわね。」

「そっかぁ……。 私達の おうた、昆虫たちにも届いてたんですね。
 ……うん! もう、さみしくない!
 来季らいきの夏祭りが楽しみです、とっち社長!」

「その意気よ、一葉いちよう
 そして、私達の夏は、まだまだ これから!
 そのあとには…… 実りの秋も、控えてる。」

「じゃ、片付けは この辺で…… 今日は もう、解散にしましょ。
 ……最後に、一言。 『楽しむことを、忘れずに!』
 みんな、またね!!」

「はい、またね!」

 夏祭りの舞台だった、大平岩おおひらいわを後にしたうたい手たちを見送るかのように、虫のうたは、祭りのあとの壱乃峰いちのみねの森に、陽が沈んでも木霊こだましていた。


【9話 注釈】

★7 こなちゃんの、サラサラ音の葉音はおと~:
 実際の樹々きぎ葉音はおとは、さらに多くの樹種じゅしゅ葉音はおとや、枝の打音なども同時に聞こえているため、特定の樹種じゅしゅ葉音はおとだけが聞こえているわけではありません。
 また、聞く人々の感性によっても様々に聞こえるため、作中では、葉の厚みや その形状などからイメージして、樹種じゅしゅごとの葉音はおとや、ソロパートの割り振りをしています。

●8 『夏祭り』
 盛夏せいかに吹く大風おおかぜに乗せて、樹々きぎが ざわめく様を、『うたの祭典 夏祭り』として作中では描写しました。
 夏祭りに意味を持たせるため、『太陽の恵みや 恵みの雨に感謝し、樹々きぎが健全に成長できた事を祝う、うたの祭典。』とし、山祭りでのうたい手の審査や選抜も兼ねるものとしました。
 実際の夏祭りは、先祖供養や豊作祈願、虫送り…… など、その夏祭りによって様々な意味合いがあるようですが、作中の夏祭りは、これらとは違ったフィクションのものであることに、ご注意願いたいと思います。


【キャラクター紹介】イチョウのに宿る精霊せいれい一葉いちよう

樹々きぎうたい、風に舞う』第一部 ~樹々きぎの恵み編~
9話【夏祭り】

 最後までお読み頂き、ありがとうございました!
 特典としまして、各話の末尾にて【キャラクター紹介】を掲載しますので、合わせてお読み頂ければ幸いです。
 ここでは、これらのキャラ設定で出てきたアイデアを簡潔にまとめて、キャラ名と由来、モデルとした樹種じゅしゅ、木彫り彫刻キャラ作品画像、作中でのキャラ紹介の順に、掲載してあります。
 それでは、作者が頭を痛めて生み出したキャラ達と、魂を削って彫り上げた彫刻作品を ご覧くださいっ!

一葉いちよう
 『イチョウ』の日本人的なキャラクター名を考えていたところ、実は針葉樹しんようじゅの仲間であり、1つの葉 = 一葉いちようがイチョウの名の由来のひとつという説から、命名しました。
 なお、初期設定段階の、木彫り彫刻キャラ作品の制作と同時進行で、キャラクター名や性格などが、ほぼ出来上がってしまったキャラです。

・モデル樹種じゅしゅ: イチョウ(銀杏いちょう)Ginkgo biloba
 『里山の馴染み深い樹種じゅしゅ』から、イチョウ(=銀杏いちょう)は外せないと思い、また、樹形じゅけい枝葉えだは黄葉おうようも美しく、栄養豊富な木の実の『銀杏ぎんなん』を多く振舞ふるまってくれることから、チョイスしました。

木彫り彫刻キャラ作品『一葉いちよう

・キャラクター紹介:
 この木彫り彫刻キャラ作品は真夏に制作したこともあり、『浴衣ゆかた姿の女の子が、楽しみにしている夏祭りへ行く高揚感』を表現しました。
 これが、そのままキャラの基本設定となりました。
 実家の、ぎんなん栽培や商品提供で いつも忙しい、働き者の看板娘です。
 実りの秋はもちろん、機会があれば『自慢の ぎんなん』を振舞ふるまってくれます。
 『うたの祭典 夏祭り』を楽しみにしていて、そのうたい手として『ぎんなんとイチョウのうた』を、毎回うたってます。
 舞いの お稽古けいこもしていて、とっちダンススクールの門下生で、春の『桜の舞い』では その葉を模した扇子せんすを使った『扇子せんすの舞い』を披露してます。

・衣装やルックス:
 普通に可愛い系の顔立ちで、表情は看板娘だけあって、常に愛想あいその良い笑顔を絶やさずに。
 夏祭りの直前は、ワクワク感があふれ出てる感じです。
 お気に入りの『イチョウの黄葉おうようを あしらった浴衣ゆかた』を着るのも楽しみのひとつで、い上げた髪に、ちょうちょの形にむすんだ帯をして、イチョウの葉が描かれた うちわを持つのが、彼女の定番です。
 17歳 身長158cm


 10話【秋の実り、の恵み。】に、続きます。。。


#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門
#ファンタジー小説
#異世界ファンタジー
#樹木擬人化の物語
#note創作大賞2024
#イチョウ樹木擬人化


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?