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11話【山祭り】『樹々は唄い、風に舞う』第一部~樹々の恵み編~


11話【山祭り】

 壱乃峰いちのみねの森に吹く木枯こがらしや舞い散る落ち葉が、もうすぐ冬が訪れることを告げると、樹々きぎは、実りも樹体じゅたいの成長も ほぼ終えて、冬支度を進めていた。
 落葉樹らくようじゅは、すでに光合成をし終えた、その葉の ほぼ全てを落葉させて。
 常緑樹じょうりょくじゅは、根から吸い上げた恵みの雨を葉から放出する蒸散じょうさんを、ゆるやかにして。
 やがて、地表ちひょう紅葉こうよう黄葉おうよういろどられ、虫のうたうたい終えた虫達の鳴声も聞こえなくなる頃には、森の中は静寂に包まれて、ときおり吹く風の音と樹々きぎ枝葉えだはの ざわめき以外は、何も聞こえない。


 一段と冷え込んだ早朝に初霜が降りたのを合図に、樹々きぎは、冬支度を終えて。

 山祭りの、前日。
 静かで殺風景な大平岩おおひらいわの広場に集まった樹々きぎは、〝山祭り〟 ●10 で披露される、『木の葉の舞い』の舞い手と『樹々きぎうた』のうたい手の発表を、心待ちにしている。

「~それでは、の巫女 峰乃 赤松みねの あかまつ様。
 舞い手とうたい手の発表を、お願い致します。」

「うむ。 舞い手は―― 葉もく茂り、枝振えだぶりも優雅であったことから…… 瑞貴みずき!」

うたい手は―― 葉音はおとの美しさ、かなう者なし。 紅葉もみじかえで!」

「……なお、他の候補者も、舞いが優雅かつ、葉音はおとも美し。
 此度こたびの舞い手とうたい手を、き手本とし、みな 精進せよ。」

 舞い手に選ばれた瑞貴みずきと、うたい手に選ばれた紅葉もみじかえでに、みなから惜しみない拍手が送られた。

「この度は、舞い手にお選び頂き、光栄です。
 皆様のご期待に沿えられるよう、この大役を、精一杯 務めさせて頂きます。」

「私たちも、がんばってうたいますっ!」

「わ…… 私も がんばりますので…… みなさん、よろしくお願いします。。。」

 みな賛辞さんじこたえるとすぐに、瑞貴みずき紅葉もみじかえでは、それぞれの舞いやうたの最終調整と、山祭り祭典で着用する巫女装束みこしょうぞくの着付けのため、広場を後にした。

 引き続き 広場に残ったみなもまた、山祭りの準備を。

 山祭り祭典で共にうたう、『森のうた』の、歌詞カード完全版。
 山桜やまざくらが取りまとめた、黄色いユズリハの葉裏はうらに書かれた歌詞カードの配布を、めりあが かいがいしく手伝う。

「はい これ、こならちゃんの分ね。
 それと、冬支度は もう済んだの?」

「だいじょぶ なのれす!
 葉っぱは ほとんど落としたし、発芽はつが用のドングリも、種子貯蔵庫シードバンクまで ころころ転がして持っていったのれす!」

「こなちゃぁ~ん!! えらい えらい♡
 初結実はつけつじつの秋とは思えないほど、実りから冬支度まで、上手に出来たわね。」

「……んじゃ、歌詞カードも配り終わったみたいだし、そろそろ解散にしましょ。
 もう、明日の日没には山祭りが始まっちゃうから、私も いろいろ準備しなきゃだし。。。」


 翌、日没。

 夕日は、壱乃峰いちのみね山影やまかげに落ち、最後の光を放つ。
 みなで それを見届けた後、とっちの開始アナウンスで、山祭り祭典は始まった。

「~皆様。
 山の神様に、みなの健在ぶりや森の調和をお伝えし、今季こんきも無事に生命活動を終えられた事に感謝し、私達を冬の眠りへといざなう、山祭り。」

「まずは祭典としまして、樹々きぎうた と 木の葉の舞いの披露から、始めさせて頂きます。
 それでは、うたい手の紅葉もみじかえで、舞い手の瑞貴みずきは、舞台に お上がりください!」

 みなの拍手に迎えられ、紅葉もみじかえで瑞貴みずきは、大平岩おおひらいわの舞台上へ。
 紅葉もみじかえでは、普段のライブステージでのパフォーマンスとは違った雰囲気で、しとやかに、しなやかに。
 うたい手の大役を果たそうと、真剣な面持おももち。
 瑞貴みずき一挙手いちきょしゅ 一投足いちとうそくは、桜の舞いと同様に、すでに舞いを始めているかのように、優雅で美しく。
 峰乃 赤松みねの あかまつみなに、深々と一礼をし、拍手がむと…… 訪れる、静寂。

 山祭り祭典用の、紅白の巫女装束みこしょうぞくまとったうたい手と舞い手は、装飾もなく簡素な舞台の大平岩おおひらいわの上に立ち、祭典の開始を告げる この冬最初の大風おおかぜを待つ。

 やがて、参乃峰さんのみね弐乃峰にのみねを経て、壱乃峰いちのみねに到達した一陣いちじん大風おおかぜは、地表ちひょうの木の葉をも巻き上げて舞い散らせ、大平岩おおひらいわの広場に、その舞台上に、まるで春の桜吹雪のような光景をもたらした。


 ごうごうと吹きすさぶ大風おおかぜが、すぐに落ち着くとともに始まった、樹々きぎうたの披露。
 はらはらと舞い散る木の葉の音とともに聞こえてきたのは、風に揺られた紅葉もみじかえでの、美しい葉音はおと
 みなの想いが詰まった おうたを、たった二人でうたい上げるのに合わせて、瑞貴みずきは、優雅に大枝を振りながら、残りわずかとなったブナの葉をも舞い踊らせる、木の葉の舞いを披露する。
 樹々きぎうたと木の葉の舞いは、二度 繰り返され、みなは そのうたと舞いを共有し、峰乃 赤松みねの あかまつは、自らの奉納舞ほうのうまいの舞踊ぶようを、その場で確立させた。

 披露を終えて舞台を降りたうたい手と舞い手に代わって、もの鏑鈴かぶらすずを右手に持った峰乃 赤松みねの あかまつが、舞台上へ。
 シャン…… と、ひときわ大きく鳴らされた鏑鈴かぶらすずで、山祭り祭典の奉納舞ほうのうまいは、始まった。
 すでにが落ちた森の中は、静寂と漆黒しっこくの闇に包まれて、大平岩おおひらいわの舞台上で舞う峰乃 赤松みねの あかまつを、月明かりが照らしている。

 はじまりは、ゆるやかに、優雅に。
 しっかりとした歩調は、大地への根張りを表現し、しなやかに広げられた両の腕とてのひらは、力枝ちからえだを表す。

 風に身を任せて優雅に枝葉えだはを振る、古流の峰乃派みねのはを踏襲した舞踊ぶようから一転して、峰乃 赤松みねの あかまつは、壱乃峰いちのみね樹々きぎが活き活きと生命活動を行う様を、山桜流やまざくらりゅう舞踊ぶように似せた舞いで、表現する。

 鏑鈴かぶらすずを水平に持ち替え、踏み出した右脚を軸に、右へと回転。
 それに追随ついずいしてなびく、長い黒髪と純白の千早ちはや、朱色の胸紐むなひも緋袴ひばかま

 月夜にきらめく木の葉とも同調して舞い踊ると、峰乃 赤松みねの あかまつは天をあおぎ、両手を天にかざして 山の神への感謝を表した。

 もう一度、シャン…… と、鏑鈴かぶらすずが響く。
 それを合図に、壱乃峰いちのみねで共に生きるみなも一緒になって、森のうたうたいだし、木の葉の舞いを、舞い始める。
 うたう者は、葉音はおとや枝の打音で、それをかなでる。
 舞う者は、枝葉えだはを揺らし、木の葉を舞い散らせる。

 うたい手さんほど上手じゃないけれど、ねむ と あやかつらさんは、ゆりはの歌詞カードを見ながら、懸命にうたう。

 山桜やまざくら師匠のご指導で、ふたばは空飛ぶアカマツのたねをも舞い踊らせ、寿美ことみはケヤキの小枝ごと風に乗せてたねを飛ばし、一葉いちようは舞い散るイチョウの黄葉おうようを表現した、扇子せんすの舞いを。

 楽しげにうたう、こなたと手をつないだ めりあは、のりあと肩を並べて、合唱する。

 さくらは、可憐な歌声とともに、優雅に舞う。

 紅葉こうようと、翼の付いたたねを、ひらひら くるくると風に舞い踊らせながら、澄んだ美しい歌声でうたう、紅葉もみじかえで

 みなの手本とも なりながら、息の合ったうたと舞いを魅せる、とっちと瑞貴みずき

 すでにゆるやかとなった、森に吹く風とも一体となった葉音はおとや枝の打音で〝樹々きぎうたい 、風に舞う〟かのように、樹々きぎは、その枝葉えだはこずえを揺らせる。


 シャン、シャン…… と、二度目の、鏑鈴かぶらすず

 樹々きぎの恵みと森の調和をうたい上げたところで それは鳴らされ、森のうたと木の葉の舞いとが繰り返し、うたわれ舞われる。

 樹々きぎに宿る精霊せいれいたちは、その健在ぶりや森の調和を 、森のうたに込めてうたい、木の葉の舞いを舞う。
 月明かりは その輝きを増し、それに照らされた峰乃 赤松みねの あかまつは ぼぅっと光を放ちながら、山の神へと捧げることつむぎ、奉納舞ほうのうまいを舞う。
 峰乃 赤松みねの あかまつは その奉納舞ほうのうまいをって、今季こんきの この森の様子や樹々きぎざまを、山の神へと伝達した。

「山の神様。 壱乃峰いちのみねの森の樹々きぎみな、このように健在でございます。
 森の調和も保たれ、さらに より豊かな森とるよう、みない方へと歩んでおります。」


 そして 三度目の鏑鈴かぶらすずが、シャン シャン…… シャンッ! と鳴らされると、樹々きぎみな 山の神に、今季こんきも無事に生命活動を終えられた感謝の想いを込めて、森のうたうたいだした。

『森のうた
 大きく包む、ホオノキの葉。 花も実りも、の恵み。
 大地に根を張るアカマツの、針葉しんよう開く、力枝ちからえだ
 スギは真っ直ぐ、立ち姿の美。 実り無くとも、森に恵みを。

 天をあおぐ、ケヤキの枝葉えだは。 風に舞うは、枝先えださきたね
 イチョウの実りは、美味しい ぎんなん。 黄葉おうようひらり、扇子せんすの舞い。
 風に舞い散る、桜吹雪。 みどりの葉桜、あかの実り。

 モミジ枝葉えだはは、風舞かざまいの美。 紅葉こうようひらひら たねはくるくる、そよ風に舞う。
 カエデ枝葉えだはは、葉音はおとの美。 青葉さらさら、そよ風にうたう。
 コナラどんぐり、いっぱい実る。 はぐくみのを、ありがとう。

 豊かな森のブナのは、木の実も水も、はぐくんで。 樹々きぎの恵みは、森に調和を。

 共に分かち合おう。 太陽の恵みと、恵みの雨。
 健やかにはぐくもう、樹々きぎの恵み。
 共にうたおう、樹々きぎうた

 共に分かち合おう。 太陽の恵みと、恵みの雨。
 健やかにはぐくもう、森の恵み。

 共に うたおう、 森の  うー た~ ♪


 森のうたが高らかにうたい上げられると、樹々きぎに宿る精霊せいれいたちの感謝の想いを山の神へと伝達するための、奉納舞ほうのうまいを舞い終えた峰乃 赤松みねの あかまつは、また ひときわ大きく鏑鈴かぶらすずを鳴らす。
 すると、風は はたとみ、はらはらと舞い落ちる木の葉にいろどられながら、峰乃 赤松みねの あかまつは、山の神への感謝のことを発する。

壱乃峰いちのみね樹々きぎが、その生命活動を今季こんきも無事に終えられた事に、感謝いたします。
 また、みなの冬支度も済み、こうして山祭りの祭典も、滞りなくり行う事が出来ました。
 山の神様。 どうか私達わたくしたちに、安らかな冬の眠りを お与え下さい。」

 峰乃 赤松みねの あかまつは、みなの方へと向き直ると、山祭り祭典の終了を告げた。

 すでに舞い落ちた木の葉は、地表ちひょうに びっしりと降り積もり ★10 、一段と輝きを増した月明かりは、しんと静まり返った壱乃峰いちのみねの森の中と、舞台にりんと立つ峰乃 赤松みねの あかまつを、美しく照らしていた。


【5話 注釈】

●10 〝山祭り〟
 実際は、林業などの業界では、山の神様に感謝して『人が山に立ち入らない日』とされています。
 諸説あるようですが、本作では、
『この日に、山の神様は、 の本数を数える。
 立っているモノは全て〝〟と見なすため、この日に山に立ち入った人間は、にされてしまう。』
というエピソードを元に、樹々きぎに宿る精霊せいれいたちが山の神様に感謝し、この1年の状況を伝達し、冬眠にいざなわれるという、フィクションの山祭りとして描いています。

★10 舞い落ちた木の葉は、地表ちひょうに びっしりと降り積もり:
 作者が、晩秋に森を歩いた時に見た光景を元に、描写したものです。
 木枯こがらしが吹き、森がざわめいた翌朝。
 森の地表ちひょうには、様々な樹種じゅしゅの落ち葉が びっしりと降り積もっていました。
 また この日をさかいに、森の中は、まるで あらゆる生物が生命活動を停止したかのように、静かになってしまうのです。
 不思議なことに、この光景は、毎年この時期に見られます。
 しかも、〝ある日、突然〟に。
 なお、『山祭り』(12月10日頃)と、次話で描かれる『雪起ゆきおこしの雷』(12月中旬)、『初冠雪』(年によって まちまち)のように、実際の正確な日付はズレていますが、本作では、全て同日に起こる事としています。


【キャラクター紹介】ウリカエデのに宿る精霊せいれいかえで

樹々きぎうたい、風に舞う』第一部 ~樹々きぎの恵み編~
11話【山祭り】

 最後までお読み頂き、ありがとうございました!
 特典としまして、各話の末尾にて【キャラクター紹介】を掲載しますので、合わせてお読み頂ければ幸いです。
 ここでは、これらのキャラ設定で出てきたアイデアを簡潔にまとめて、キャラ名と由来、モデルとした樹種じゅしゅ、木彫り彫刻キャラ作品画像、作中でのキャラ紹介の順に、掲載してあります。
 それでは、作者が頭を痛めて生み出したキャラ達と、魂を削って彫り上げた彫刻作品を ご覧くださいっ!

かえで
 キャラ名そのまま。

・モデル樹種じゅしゅ: ウリカエデ(瓜楓)Acer crataegifolium
 多種ある中から、『〝双子の姉〟紅葉もみじのモデル樹種じゅしゅとした、ヤマモミジ』に合わせた樹高じゅこうや、翼果よくかのサイズ、見つけやすさ、葉がカエデの仲間では最も小さいことから、『ウリカエデ』を、かえでのモデル樹種じゅしゅとしました。
 親しみやすくて人気が高いアイドルとし、モミジやカエデ類は樹高じゅこうが低めなので、低身長だがあまり気にしていないというキャラ付けを。
 一般的には、モミジよりも少しマイナーな樹種じゅしゅかと思われますが、カエデ類は樹種じゅしゅのバリエーションが豊富なため、器用なフォロー役としました。
 また、モミジ・カエデ類の葉は対生たいせい(2枚の葉がついに生える)のため、髪型をツインテールに。
 かえでのツインテールは、木彫り彫刻キャラ作品では、モデル樹種じゅしゅの『ウリカエデの葉の形』をイメージして、制作しました。

木彫り彫刻キャラ作品『かえで

・キャラクター紹介:
 双子のアイドル『紅葉もみじかえで』。
 日々の芸能活動のかたわら、桜の舞い・夏祭り・山祭りに向けて、レッスンちう!!

木彫り彫刻コンビキャラ作品『紅葉もみじかえで

〝歌唱力のかえで〟(妹 立ち位置は向かって右側)
 健気な性格。。。 引っ込み思案なので…… 発言はいつも〝おねぇちゃん〟をかいしてだけど・・・。
 実は物知りで…… 持ち前の器用さで〝おねぇちゃん〟の紅葉もみじをフォローする、縁の下の力持ちです。。。

・衣装やルックス:
 控え目な、美少女。 普段着も、真面目な性格を表すような、シンプルなデザインのシャツとかが、好みです。
 アイドル衣装は、リボンやフリルの付いた長袖ながそでの上着に、フリフリのミニスカート。
 〝おねぇちゃん〟の紅葉もみじと同じく、髪型はツインテールで、足元はロングブーツ。
 かえでは、髪型もスカートのフリフリ具合も、控えめ。
 アイドル衣装の背中には、天使の羽のような、モミジ・カエデ類の翼果よくかを模したギミックを。
 モデル樹種じゅしゅ『ウリカエデ』のように、かえでの方が大きいものが付いています。

 ちなみに、この翼果よくかの、のエピソードとしまして。

ヤマモミジの翼果よくか

 『モミジ・カエデ類の翼果よくかは、熟すと風に乗ってプロペラのように くるくると飛んで』行き、その生息範囲を拡大させています。
 さらに、9話【夏祭り】 と 11話【山祭り】では、この翼果よくかが風に舞う様子を、〝おねぇちゃん〟の紅葉もみじが自作したうたとして。
 11話【山祭り】祭典での『木の葉の舞い』では、紅葉もみじかえでの舞いの振り付けとして、作中で表現されています。
 16歳 身長147cm


 12話 最終話【眠りのうた】に、続きます。。。


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