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2024年6月16日 「ナイフをひねれば」感想 ネタバレあり


Audibleで、アンソニー・ホロヴィッツのホーソーン&ホロヴィッツシリーズの第4作「ナイフをひねれば」を聞き終えましたので、その感想です。
気をつけて書いてはみますが、今回はどう書いてもネタバレしてしまいそうですから、ネタバレが嫌な方はここでブラウザバックし、読むのをやめてください。
何と言っても、今回はシリーズの中でも、屈指の傑作ですので、ぜひこんな感想を読まずに、本編を読むか、聞くことをおすすめします。
本当に面白い作品ですので、ぜひ!!


読み手の岩田光央さんがとても良い


最初の作品、「メインテーマは殺人」の時には、掠れた声で聞き取りにくいなぁ…などという感想を書いてしまったのですが、
今となっては、ホーソーン&ホロヴィッツシリーズの読み手はこの方でなくてはなりません!!
ホーソンのとぼけたような、それでいて真実を見つけ出す声、
ホロヴィッツのどこかお人よしかつ少しばかり抜けている声、
すっかり、板についておられ、
そこに、ホーソーンやホロヴィッツが立っているような気さえします。
ホロヴィッツのぼやきも岩田光央さんの声だと、何だか愛嬌があって、聞かせる感じです。
今回は沢山いる登場人物、老若男女それぞれを完璧に演じ分けており、本当に素晴らしかったです!
前作までに出てきた、カーラとその部下もちゃんと引き続いた声の演技で、唸りました。
声の演技がしっかりしているからこそ、登場人物がごちゃごちゃになりません。
これからもぜひ、読み手を続けていただきたいです。

ホロヴィッツの受難は続く


このシリーズは作家であるホロヴィッツが、警察の顧問という形で探偵業をしているホーソーンに同行して取材した事件をそのまま本にした…という設定で書いてあります。
あまり乗り気でなかったホロヴィッツがホーソーンにほだされ、ロンドン、イギリス中を駆けずり回り、見当違いの推理をしたうえで、結末では大変な目にあうのがお決まりのパターンです。
ホロヴィッツが、アレックス・ライダーという児童文学の作家であり、かつ有名なドラマの脚本家であることを散々書き連ねつつも、結末では、彼がひどい目にあうところが、何ともイギリスのミステリらしい皮肉です。
今回は、とうとうホロヴィッツは冒頭でホーソーンとのパートナー解消を宣言します。
でもまあ、これまでのひどい体験(肉体的にも精神的にも結構な目に遭う)を知っている読者からすると、ホロヴィッツがそれを選ぶのは当然というか、むしろ自然な心の動きです。
しかし、ホロヴィッツはその後、さらに酷い目に遭うことになり、ホーソーンに助けを求めることになります。
ホロヴィッツという作家の凄さはこういう、「自分」をもとにしたとはいえ、キャラクターの心の動きを矛盾なく書けるところです。
読者が「そうはならんやろ…」という展開を用意しているのですが、読んでいくとちゃんと「そうなるよねぇ…」という納得に変わるのです。
これがすごい!
今回もホロヴィッツが散々な目にあっていて、心の底からニヤニヤしてしまいました。

ホーソーンの過去がまたほんの少しあきらかに!


ホーソーン&ホロヴィッツの名探偵、元刑事のホーソンは謎多き男です。
事件に同行し、ホーソーンから「相棒」と呼ばれているホロヴィッツでも、つかみどころのない男として描かれています。
どうして警察をやめたのか、
どこに住んでいるのか、
どうやって暮らしているのか、
家族はいるのか、
友達はいるのか、
どこ出身なのか、
どうして離婚したのか、
どうして頑なに食事を口にしないのか、
どうしていつもスーツなのか、
とある地域はどう関係するのか、
そこの知人に呼ばれた名前は?
など、様々な謎があります。
シリーズを通して、少しずつ人となりが見えてきたホーソーン。
今回は、ホーソーンの生い立ち、
少年時代のことが少しわかります!
「ホーソーンは少年時代に何か困難な過去があったのだろう」と予想しているので今後のシリーズでそれがさらに明らかになっていくのだろうと思うと大変楽しみです。
ホーソーンは、偏屈そうでありながら人心掌握が非常にうまい人間でもあり、極めて普通のおじさんであるホロヴィッツはいつもホーソーンにしてやられてしまいます。
でも、読者としては、ホーソーンはホロヴィッツのことが特別好きなんじゃないか、
ホロヴィッツの作品のファンなんじゃないかと
思ってもいるのです。
本当はホーソーンのある時期をホロヴィッツの作品が救っているのではないか、と思っているのです。
考えすぎでしょうか。
シリーズ最終巻ではそれが明らかになると予想しています。

今回は劇場が舞台!


今回はホロヴィッツが描いた脚本を上演する中で、その劇評を書いた毒舌劇評家が殺されるお話でした。
英国の劇場事情を知らなかったので、その部分もとても面白かったです。
夜遅くから上演されるとか、休憩の時間にはバーでお酒を飲むものだとか、打ち上げのパーティには劇評家は来ないものだとか、初演時には記念品を渡すものだとか、楽屋に入るにはそれ用の裏口があり、担当の受付がいるとか、
何より、脚本家が上演時にどれほど緊張しながら、劇場にいるかなど、
知らない世界でわくわくしました。
ちょうど、これを聞いている頃に、本格的な劇場に、劇を見に行ったのでなお一層面白かったです。
日本の演劇は午前遅くから始まって、休憩にお弁当を食べる昼型でしたが、ヨーロッパは違うのだなぁと感慨深くなりました。
やはり、本を読んだ上で、実体験をすると、世界が広がります。
おそらく、ホロヴィッツが実際に劇場で体験したことが練り込まれているので、この面白さなんでしょう。
被害者は1人だけ、しかも特別変わった殺され方でもないのですが、全く飽きることはありませんでした。
ミステリだからと言って、殺人や殺人方法だけが面白ければいいというものではありませんね。
殺人が起きる舞台を魅力的に書くことでこれほど読ませるのか、と驚きました。
人が死ぬまでも大変面白いです。
ホロヴィッツは本当に上手い作家です。

テネットとソメイヨシノが出てくる

作品の中に、自分が知っている土地やもの、名前が出てくると、何だか嬉しくなりますよね。
クリストファー・ノーラン監督の作品が好きなので、
今作で、「TENET」と監督の名前が何度も出てきたのには驚きました。
こういう所に、名前を出すということは、
好きなのか、それとも嫌いなのか…。
ホロヴィッツの性格からすると後者のような気もします。
どっちでしょう。
また、ホロヴィッツのシリーズには、日本人作家が容疑者として出てきたこともあります。その時は、俳句も取り上げられていました。
今回もソメイヨシノが証拠として出てきて、何度も「日本の」と書いてくれていました。
日本に興味を持ってくれているのでしょうか。
たまたまでしょうか。

ミスディレクションに完全に引っかかる


今回は、犯人当てに失敗しました!
完全に、ホロヴィッツの用意したミスディレクションに引っかかった形です。
「悪い子ら」が関係しているのは予想していたのですが、それが誰なのかを大きく外しました。
ホロヴィッツの仕掛けた罠に引っかかったのです。作中の主人公は「ホロヴィッツ」なので、どうしても「ホロヴィッツ」が感じた、疑問や感情が影響して、本文を理解してしまいます。
書いているホロヴィッツは非常にきちんとした伏線を張っているので、その「主人公ホロヴィッツ眼鏡」を外せば、ちゃんと犯人を当てることはできるようになっているのですが、今回は犯人を当てることができませんでした。
ホロヴィッツの仕掛けが本当にうまかったので、
悔しいというより、素直に、感心してしまいました。
本当に素晴らしい作家です。
次回は犯人を当てたいものです。

今回の犯人

今回の犯人は、ひどくかわいそうでした。
シリーズを重ねていくうちに、事件もどんどん重く、社会的な要素が強くなってきている気がします。
お気楽にミステリを楽しんでいるつもりでいると、ホロヴィッツが仕込んだ、そういう部分に、はっとさせられます。
ホロヴィッツはそういうところもうまいのです。

次作も楽しみ!!


大体年に一回刊行されているので、今年も、そのうち新作が出版されるはずです。
Audibleになるのはそれから、半年以上はかかるので、来年の春くらいには新作が聴けるのではないかと考えています。
どうか、そうなりますように。
次作は待ちきれずに、本を購入してしまう可能性もかなり高いです。
実は、Audibleから入って、紙の本を買ってしまう…ということが結構あります。
ワシントン・ポー シリーズもそのひとつです。
多分、あちらのシリーズも新刊が出ると購入してしまいます。
相乗効果で、作家さんや翻訳家さんにも正当なお金が支払われることを祈っています。
どうか、面白い海外小説が今後もコンスタントに日本で翻訳され、Audibleになりますように。
そのためにも、今後も、紙の本も購入していくつもりです。


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