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2024年3月21日 「ミステリの女王の名作入門講座 クリスティを読む」感想

大矢博子「ミステリの女王の名作入門講座 クリスティを読む」東京創元社
を読みましたので、その感想です。

久しぶりに紙の本です!
大人になって再び出会うミステリの女王

最近、Audibleでクリスティーの作品を書いているのですが、
改めてすごい作家だなぁとしみじみ思っています。
小学生の頃、ひと通り読んだと思うのですが、その頃はミステリ、推理小説として読んでいて、クリスティーの文章力、描写力までわかっていなかったのです。
大人になって読んでみると、全く別の味わいがあります。
「クリスティーの持ち味は、人間描写、そしてそれを描く文章力にこそ、ある!」と感じるようになりました。
最近ではクリスティーそのものにも興味が出てきますし、小説の時代背景も気になってきました。


出会ったのはSNS


さて、クリスティーに再び出会い、楽しんでいる人間のSNSには、ちゃんとアガサ・クリスティー関連の情報が上がってくるわけです。
そこで見つけたのが、大矢博子「ミステリの女王の名作入門講座 クリスティを読む」東京創元社
です。
とにかく表紙が素敵でした。
タイプライターを前に執筆中のクリスティー、背景には彼女の小説と関連する絵や置物などが可愛らしく描かれています。
おしゃれでセンスがいい表紙です。
その上、タイトルがわかりやすくて良かったのです。
まさしく今読みたい本だと思い、即e-honで注文しました。
おそらくここまでで、15分かかっていないと思います。
電子書籍、kindleなどで読む方も多いとは思いますし、SNSでの宣伝はやはり効果があると思います。
書影が心惹かれるものの場合、タイトルや著者名でさっと検索することができますし、すぐ購入に至ることができるからです。

読みやすい語り口の文章と充実の専門性

 
最近読んだ本の中でも、かなり読みやすい文体です。考え込まずとも、頭の中に入ってきます。疲れた時の読書には最適です。
あっという間に最終章まで読んでしまいました。
時々入る、著者のツッコミも気取りがなく、いち読者として納得できる内容です。
ミステリ好きな親しい仲間としゃべっているような気分になれます。
リラックした服装に着替えて、寝る前に読むのは、こう言う文体が良いですね…。
こう書くと、軽い読物のように思われるかもしれませんが、裏付けはしっかりしているのがこの本のすごいところです。
口当たりは軽く、食べ歩きができるが、
プロのシェフが作った料理と言ったところでしょうか。
膨大な文献や資料が網羅されていて、作品名索引と人名索引、著作一覧までついています。
これは、クリスティーを深掘りしたい人にとっては、素晴らしい付録だと思います。
また、欄外の注釈、トリビアを読むのがまた楽しいのです。クリスティー作品の書影がたくさん載っているのも良いですね。
次にあれを読もう、これを読もうと言う気持ちにさせてくれます。

様々な切り口で読む

この本では大きく4つの点から、クリスティーの作品を論じていきます。
本のカバー、そのそでに書いてある言葉を引用すると、
<探偵><舞台と時代><人間関係><騙しのテクニック>に焦点を当てて、論じていきます。
探偵といえば、ポアロとミス・マープルのことかなと思っていたのですが、まだ読んだことのない探偵がたくさん出てきました。さすが作家歴が長く、著作の多いアガサ・クリスティー、あの偉大な2人の探偵以外にも、まだ探偵を創造していたのですね。
個人的には、トミーアンドタペンスという男女2人組探偵のシリーズに興味を惹かれました。
ぜひ読んでみたい!と思っています。
男女の2人組ものにめっぽう弱い人間としては、きっとハマる気がします。
この2人が年齢を重ねていくシリーズになっていると言うことが、本作では指摘されているので、そこを味わいたいと思っています。
また、<舞台と時代>の章もとても興味深かったです。
アガサ・クリスティーは2つの大戦を経験して、作品を発表し続けた作家です。
ある時期の英国の移り変わりを体験し、それをその時々で作品に落とし込んでいると言うことが、本書を読めばわかります。
「郊外のお屋敷で殺人事件が…」などと聞くと、時代と関係ないように思いますが、
筆力のあるクリスティーのこと、きっちり、時代が反映されているようなのです。
今の英国に、彼女がいたら、どんなミステリを書いたでしょうね。
多文化のイギリス、電子化されたイギリスをどんな風に書いただろうと想像するだけでもしばらく遊べます。
きっと彼女は複雑な文化衝突についても書いたのではないかとか、
新型コロナが広がったこともきっとトリックや動悸に落とし込んだのではなきか、と想像が広がります。
クリスティーがミステリの女王と呼ばれるのは、トリックだけでなく、人間や時代をしっかり書いているからだろう、と改めて思いました。

この本は(基本的には)ネタバレなし

最後は、この本のすごい点について言及しましょう。
こちらの本、これだけ縦横無尽にクリスティーの著作を解説してくれるのに、
基本的にはネタバレなしです。
第5章で言及される2作品以外は、結末、犯人、トリックのネタバレに最大限に配慮した上で、解説されています。
これって簡単そうで、非常に難しいことだと思います。ネタバレに配慮しながら、言いたいこと、伝えたいことを説明する技術に感服しました。
しかも、どれもとてもうまくぼかされているので、作品をちゃんと読みたくなるのです。
クリスティーはどう書いているのだろう?、この著者の指摘通りなんだろうか?と気になってしまうように書かれています。
次はaudibleで、ミス・マープルの長編を聞こうと心に決めました。
でも、先にあげたトミーアンドタペンスも気になるので、こちらは購入予定です。

ということで、この本は、
クリスティーをすでに読んでいる人じゃないと楽しめない本ではありません。
むしろ、「読んだことない作品もあるけど、クリスティー好きかも」と思っている人間にピッタリな本です。
自伝や伝記も気になるなぁ…と思っています。
クリスティーは三角関係を書くことが多いというのは、彼女の人生とかなら大きく関係しそうですから。



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