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9月18日の手紙 プロジェクト・ヘイル・メアリー上 ネタバレ有り感想


拝啓

生きていくのに、本だけあれば良いと思っていた時期がありました。
日がな1日中、本だけ読んで暮らし嫌な誰とも関わることがなく、面倒な生活のあれこれもやらずに済めば、何の素晴らしいことだろうと思っていました。
本を朝から晩まで読みふけっている間に、家の維持や家事は誰かにやってくれる、万が一、旅行や役所の手続きが必要な時も、自らせずとも誰かがやってくれる…素晴らしい生活です。
やんごとなき方で、財産はあるが、公務はない貴族、公家などに、本当にそういう人生の方かいらしたかもしれません。心底羨ましいことです。
しかし、大人になるということは、それは自らの人生ではなく夢であると認めること、そして、そういう夢はそっと生活の傍に置くことであり、そういう夢を笑わず、怒らず思い出せるということです。
いまだに、そういう生活をしたいなぁと思いますが、ゴミ袋にゴミをまとめ、ゴミ出しの準備ができます。
明日飲むための麦茶を冷やし、麦茶パックの残りを数え、麦茶パックのストックを確かめます。本当はこの間も、読書をしていたいのですが、読書をしても麦茶は準備されません。
買い物に行く時も、料理をする時も、ジムに行く時も、本当は本を読みたいのにな…と思いつつ活動しています。
とはいえ、Audible(オーディブル)のおかげで、その夢も半分叶えられるようになったかもしれません。
家事をしながらでも、本を読めるようになったからです。

さて今回は、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」の上巻を聴き終わったので、ネタバレありの感想をお伝えしようと思います。
ネタバレのお嫌いな方はここで読むのをやめていただいたほうがよいです。
この本の最も面白いところを先に知ってしまうのは、全くお勧めしません。
実際の本でも、Audible(オーディブル)でもよいので、ご自身で体験されることを心からお勧めします。

繰り返しになりますが、ネタバレをしますのでまだ読了(聴了)されていない方は、ここでブラウザバックを推奨します。






上巻終わっての感想

主人公 いいやつ!!!!


6章まで読んだ時点でも、これは主人公が魅力的な作品だなと書いたのですが、
上巻が終わっても、主人公が魅力的なままでした。心の底から安心しました。
記憶が段々と明らかになっていって、暗い過去が思い出されたらどうしようと考えていましたが、上巻が終わるまでは大丈夫でした。
ライランド・グレースという日本人からするとどっちが名前で名字だがわからない彼は、白人の30代男性。しかし、その属性が持つ、いやらしさのようなものが限りなく薄いやつです。
うん、やつと呼ぶのがしっくりきます。
彼は気のいいやつという感じなのです。
80年代のアメリカ映画に確かにあった、希望、明るさ、健全さ、素直さみたいなものがライランド・グレースにはあります。
好奇心の強い科学オタクで、お調子者、けれど決してへこたれないし、人にも未知の存在にも基本的に誠実です。裏表も今のところは描写されません。
ちょっと懐かしくなるようなキャラクター造形です。
個人的には「アメリカが元気だった頃のアメリカ人青年」のように感じます。
前の感想にも書きましたが、これは作者の影響が大きいのではないかと思っています。アンディ・ウィアーがこういう人なのか、もしくは、こういう人に希望を持っているのかのどちらかだと思います。
SFなのに、変に斜に構えた主人公ではないというのが、妙に新しく感じます。ライランド・グレースは確実に、科学オタクですが、それでいじめられたり、友達がいなかったりするタイプではないのです。
これが良い!元気をもらえます。
たまにギャグや台詞がうっとうしいこともあるものの、基本的に「グレース頑張れ!」という応援の気持ちで読むことができます。

記憶喪失と職業設定が上手い!


前回も書きましたが、記憶喪失と職業設定はこの作品を面白くしているギミックだと思います。
記憶喪失だから、過去と現在を行き来する構成に無理がありません。また、読者がわからない知識(科学知識やこれまでの経緯)は、主人公も忘れているので、思い出した時に説明するという展開の繰り返しがあるのですが、これが先を読み進める動機になります。痒いところに手が届くというか、わからない…と思ったことは、回想で少しずつ説明されるので読んでいてストレスがありません。
そしてグレースは中学校の先生、日本で言うと理科の先生という設定です。ですから、子供にも分かるような説明をしてくれます。
グレースは研究者でしたが、研究を捨てて教師になっているのです。
その後の活躍を考えると、ただの研究者よりも、教師という経験があった方が説得力があります。専門だけでなく、該博な理科的知識があり、どんなことにも柔軟なのですが、「だって子供相手の理科の先生だもんなぁ」と感じます。この、設定に矛盾がないところが、心憎いのです。

恋愛要素がない!!


魅力的な女性キャラクターは複数出てきますが、上巻では今のところは恋愛要素はありません。また、女性が女性という性別ありきで仕事をしているわけではないのもホッとします。純粋に仕事ができる女性が男性同様に出てくるだけです。
恋愛要素があって欲しいという読者もいると思うのですが、この作品では、必要性を感じません。ここで恋愛を絡められても「地球の存亡かけた計画」をものすごいスピードで実行している時に、そうはならんよな…と思ってしまうのです。グレースがこの計画に参加するのは、グレースの性格の良さ、「教え子に未来を残したい」であって、それで十分だと思います。

ロッキーが魅力的


一巻中盤から登場する、ロッキーが素晴らしく魅力的です。
外観は虫嫌いの人には嫌われそうですが、科学の徒であるグレースはわくわくしただけで、フラットにその存在をとらえます。
そして、ロッキーの性格!
ファーストコンタクトはこれくらい性格のいい存在としたいものです。
「三体」で暗黒森林理論に毒されたものとしては心があらわれるような思いがしました。
「三体」の三体人は姿を描写されることはありませんでしたが、その精神の狡猾さ、ソフォン(智子)を通じて描写されていました。
「三体」を読んだ後は、ファーストコンタクトに希望を持てなくなっていましたし、宇宙開発なんてするもんじゃないと思い込んでしまうほど、暗黒森林理論には、説得力がありました。
ところがどうでしょう。「プロジェクト・ヘイル・メアリー」のロッキーは、やるか、やられるかではなく、自分以外の命に出会って純粋に喜び、好奇心を持つ存在です。
そういう宇宙人がいて欲しいという気持ちになります。
ロッキーの母星についてもよく考えられていて、とても面白いです。
また、Audible(オーディブル)だからこそ、ロッキーのセリフが、和音の素敵なメロディーになっています。あの音を聞いた時、グレースの驚きと喜びを我がことのように感じられました。
素晴らしい演出だと思います。
実際の本ではどう記載されているのでしょう?
謎の記号が書いてあるのでしょうか??

ナレーターの演じ分けがすごい


かなりキッチリ演じ分けをなさっているので、セリフを誰が言った言葉かで混乱することがありません。少しずつ特徴をつけて読んでおり、聞き取りやすいです。キャラクターの性格をイメージして、細かに読みわけをなさっているようです。
グレースは明るく、能天気に、ストラッドは重々しくやや気怠くなどが聞き取れます。プロのお仕事ですね。
ストレスがなく、聞けてとてもよいです。


というわけで、上巻が無事に終わりましたので
明日からの通勤のお供は下巻です。
ああ、楽しみ。
また聴き切ったら、お手紙にしますね。
よければ、手に取ってみてください。
「プロジェクト・ヘイル・メアリー」
面白いですよ。

では。

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