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2024年4月9日 「牧師館の殺人」感想 ネタバレなし

Audibleで聴いたアガサ・クリスティ「牧師館の殺人」の感想です。
セント・メリー・ミード村が舞台で、ミス・マープルが登場した最初の長編です。
有名な作品なので読んだことがある人も多いと思いますが、
ネタバレなし感想です。


主人公も怪しい


英国ミステリのお約束、登場人物が全員、癖があり、殺人の動機を持っています。
主人公である牧師ですら、
被害者の死を願ったことがある始末です。
というか、この主人公、あんまり好感が持てない人物でした。
令和の時代を生きている女性からすると、許し難いタイプの男性です。
自分の歳の半分ほどの美女と結婚したくせに、
「牧師は独身であるべきだと思う」とか考えちゃう
生臭野郎です。
アガサ・クリスティがわかってて造形したと思うのですが、
どことなく胡散臭い牧師なのです。
とはいえ、完璧な悪人ではなさそうなのが、アガサ・クリスティのうまいところです。
最後の章を読むと、いやはや何とも、主人公の印象も変わります。
きっと、田舎町にはこういう牧師さんが結構、いたんでしょうね…。

英国ミステリ≒因習村


改めて聴いて(読んで)みて、日本のミステリは英国ミステリの構造を割と忠実に継承しているのだなぁと感じました。
閉鎖的な村に、怪しい村人は、当然です。
英国の貴族やお金持ちは日本でいうところの地主です。大体地主は偏屈で皆に嫌われているという設定もよく見られます。
牧師は村の坊主、閉鎖的な村では唯一の文化的な存在ですが、あまり高潔ではないように描写されています。
出てくる若い女性たちはどこか、妖艶なキャラクターで謎めいています。
そして、噂好きのおばさんたちがいます。

読んだことあるような設定だなぁと感じたのですが、おそらくこれは逆なのでしょうね。
アガサ・クリスティの作品を読んだ日本の作家が、この設定は本邦でも十分やれる!と思って輸入したものなのでしょう。
当時の作家は遠い異国の地の設定がそのまま使えることに衝撃を受けただろうなぁと思います。

ミス・マープル顔を赤らめすぎ問題


ミス・マープルがこの作品の中で、顔を赤らめるたびに、ひどく困惑してしまいました。
はっきりいうと、気持ちが悪く感じました。
「あなた、そんなタイプでしたっけ?」と思ってしまって…。
でも、ミス・マープルが刊行された1930年代、女性、しかも、未婚で、歳を重ねた女性な、顔色変えずに活躍する作品は受け入れられなかったのかもしれません。
「あらまあ、私としたことが!」というように、少し出過ぎると顔を赤らめて見せるのは、この時代の女性のたしなみでもあり、処世術であったのかも…。

日本人として生きてきた自分は、何かにつけて、愛想笑いをしてしまう癖があります。
一度、ドイツ人の教授の前で発表をしたら、「面白くもないのにニヤニヤしない!」って叱られてひどく落ち込んだことを思い出します。
小馬鹿にして笑っていると思われてしまったようでした。
最近は無駄に笑わない、笑って誤魔化さないことを気をつけているのですが、これが結構、難しいです。
困ったような時、少し腹が立った時、誤魔化したい時、笑う癖がついてしまっています。
思ったまま、感情を出せない時の、ひとつの、処世術なのです。
ミス・マープルの歳に至るまでには、誤魔化し笑いをしない人になりたいと思っています。

もちろん、本作でのミス・マープルの顔の紅潮は素直な感情の現れなのかもしれません。
しかし、彼女が登場した時代には、彼女の賢さ、大胆さを大っぴらにすることがまだ、あまり褒められたことではなかったのが確かだと思うのです。
今作以降は、顔を赤らめるミス・マープルでなく、にやりと不敵に笑うミス・マープルをたくさん見られると良いなぁと思います。

アガサ・クリスティの筆力

今作を読んで、改めて、アガサ・クリスティは、すごいと思ってしまいました。
書くべきことはきちんと、書いてあるのです。
「当たり前のことでは?」と思われるかもしれませんが、本当にさりげなく、登場人物の行動や表情、感情が書いてあるだけのように見えて、後に、重要な事実への鍵となるというのが、アガサ・クリスティはとてもうまいのです。
アガサ・クリスティは人間の心理的な部分に強く興味を持っていたのだろうなぁと思います。
例えば、医師のヘイドックが、独特の犯罪観(この犯罪観は一周回って、とても最近っぽい考え方かもしれません)を持っていることを滔々と語らせます。
その上で、そういうタイプの人をどのように説得すれば良いかをミス・マープルがちゃんとわかっているところを描写するのです。
ミス・マープルには、シャーロック・ホームズが持っている推理力とは異なるけれども、確かな推理力があることがこれでよくわかります、
やっぱり、ミステリの女王と呼ばれただけはあります。

殺人は拍子抜け

殺人事件そのものについては、あんなにスムーズに可能かしら…と思います。
もっとためらったりうまくいかなかったりするものではないでしょうか。
でも、アガサ・クリスティは犯人の状況を考慮に入れて、あの犯人なら、腹を決めて実行するはずと考えたのかもしれません。
まあ、ああいう状況の人は、とんでもないことをやらかすものではありますし、おそらくアガサ・クリスティはそれをよく知っていたのでしょう。

さて、次もアガサ・クリスティを…と思ったのですが、次は自己啓発系の本にしました。
仕事が立て込んできたらまた、ミス・マープルに戻ることになると思いますが、
一度現代に戻ります。

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