2024年2月11日「ヨルガオ殺人事件 下」ネタバレあり
Audibleで「ヨルガオ殺人事件 下」を聴き終えたので、そのネタバレあり感想です。
毎度のことですが、今回は特にネタバレしそうですので、ネタバレが嫌な方、新鮮な気持ちで読みたい方は、どうぞここでブラウザバックしてください。
上巻の感想はこちらです。
まごうことなきホロヴィッツの傑作
アンソニー・ホロヴィッツが、伏線をおろそかにしない作家であることは、ホーソーン&ホロヴィッツシリーズはもちろん、前作の「カササギ殺人事件 上下」でも感じていましたが、今作は本当に素晴らしいです。
伏線回収で言えば、1番の出来だと思います。
お笑いに例えるのも変ですが、ヤーレンズのボケぐらい伏線が貼ってあるんです…。
次々に繰り出される伏線がありまくりなのですが、それが最終章にはほぼ回収されると言う凄まじさです。
伏線と書きましたが、謎解きに本当に必要なことしか描写されていないとも言えます。
丁寧に描写するなぁとな、聞いていて(読んでいて)違和感があるなぁと感じたところは、最終章で、ほぼ真実が明かされるという、この気持ちよさ、病みつきになります。
その一方で、この小説、一体どうやって書いているのだろう…と言う素朴な疑問も湧いてきます。
書いたことは全部、
エクセルの表にしてあるのでしょうか。
それとも、ホロヴィッツともなれば敏腕編集者が数名ついていて、人海戦術で書いたこと、書いていないこと、明かされてないこと、明かしたことなどを把握しているのでしょうか。
おそらく、犯罪が起きた時のそれぞれの登場人物の行動表、
登場人物のキャラクター表は当然、作っていると思いますが、
小説内での表現のリストも作っている可能性は高そうな気がします。
そうじゃないとあれだけ、完璧に謎が解き明かされるのは難しいと思います。
ホロヴィッツがいかに優れた作家でも、1人であの情報量を管理するのは難しいと思うのですが、
いかがなものでしょう。
何はともあれ、今作で、ミステリ作家としてのホロヴィッツの偉大さを思い知らされました。
ホロヴィッツ、本当に素晴らしい作家です。
犯人当て①アティカス・ピュントシリーズ「愚行の代償」
さて、上巻の感想で書いた通り、今回も、現代の事件と性格のひん曲がったミステリ作家、アラン・コンウェイのアティカス・ピュントシリーズの作品が交錯すると言う構成です。
今回のアティカス・ピュントシリーズ、「愚行の代償」、これがまず非常に面白かったです。
前作でも書きましたが、
普通に一冊を通してアティカス・ピュントシリーズを読みたい、と強く思います。
ホロヴィッツと出版社は、本当に出す気はないのでしょうか。
ファンは、普通にこれはこれで喜んで購入する作品だと思います。
アティカス・ピュントシリーズは、第二次世界大戦の10年後が舞台ということで、日本で言えば、京極夏彦先生の京極堂シリーズのような味わいがあります。
戦争の傷や影、そして復興、今ほど通信や犯罪捜査技術が進歩していないからこその趣といったものです。
イギリスは戦勝国側だったわけですが、それでも戦争が登場人物に落としている影は確かに描かれていて勝っても無傷というわけにはいかないという当たり前の事実を突きつけられます。
さて、「愚行の代償」の犯人、
読みながら、ぐるぐると考えましたところ、
一応、当たりました。
ものすごく嬉しかったです。
ただ、怪しいなぁと思っていた人物が、犯人ではあったのですが、
動機や証拠のあたり全てを理解できていたわけではないので、
最後の登場人物を集めた、推理のお披露目は では、かなり衝撃を受けました。
「そういうことか…確かにそれなら辻褄が合う…あの描写は…」のような感じでひたすら走馬灯のように様々な描写が浮かんでは消えました。
英語から日本語に翻訳されても、
読むのではなく Audibleで聞いても、
この体験ができるというのは本当にすごいことだと思います。
ホロヴィッツはもちろん、日本語への翻訳者(山田蘭さん)そして読み手のかたたち(佐々木望さん、山口由里子さん)の力ですね。
犯人当て②スーザン・ライランドシリーズ「ヨルガオ殺人事件」
現代の事件の犯人、
こちらの方が、なかなかわかりませんでした。
ただ、殺された人物の過去と深い関わりがある人物がいるといういうことは、
ある程度推理できていました。
また、アート系のアメリカ映画や小説などをそれなりに見たり、読んできていたりしたため、
どういう性格のキャラクターであれば、その過去がありそうかということもわかっていました。
なので、下巻の途中から、犯人は薄々この人かなぁとあたりをつけており、それは、正解でした。
しかし、こちらの事件は、8年前に殺害された人間が、救いようがなく非道な人間であり、犯人が当たったからと言って、「やったー!すっきりした!」とはなりませんでした。
犯人に同情するつもりはありませんが、
あれは被害者の性格が悪すぎます。
本当に醜悪な被害者でした。
ホロヴィッツって性格の悪い人を描くのがとても上手なんです。
絶対ああいう人、本当にいます。
アンドレアスが格好良かった
前作から、
スーザンの恋人・婚約者のアンドレアスが怪しい怪しいと思っていたのですが、
ここに来てアンドレアスが予想を超えてきてくれました。
ちょっとロマンス小説みたいな展開だったのは、編集からお願いされたのかしら…と思ってしまうくらいにはホロヴィッツを信用していません。
アンドレアスの活躍は嬉しいけれど、本当に大丈夫かと最後まで気が抜けませんでした。
アンドレアス、今後もずっと信頼できる人だといいのですが…。
スーザンの妹、ケイティも同様です。
「大好き」と書いてある割に、スーザンと生き方が異なり、あんまり気はあってそうにない妹、ケイティがいつ疑惑の人になるのがハラハラしました。
ケイティの家庭のことは、もしこのシリーズが続くのなら、事件になりそうだなぁと思います。
スーザンは今作の最後で、もう2度とアラン・コンウェイの小説には関わらないと心に決めたようですが、
もし、妹のケイティが容疑者になったら?、もしくは被害者になったら?、どうでしょう。
おそらく、スーザンはまた探偵に戻るはずです。
ホロヴィッツはスーザンが探偵をする際にはのっぴきならない理由をつけるでしょうから、
それはケイティがらみかアンドレアスだろうなぁと思っています。
というか、このシリーズ、まだ先は予定されてますよね?
ここで終りなはずかない!とファンとしては期待しています。
占星術好きとして
今回、重要なモチーフとしてある星座や占星術のマークが取り上げられています。
これはもう…してやられました。
占星術好きだったのにも関わらず、最後の謎解きまで、それに気づかなかったのです。
ものすごく悔しかったです。
しかも、個人的にゆかりのある星座だったので悔しさもひとしおです。
あんなに作品の中に、そのモチーフが散りばめられているなんて…。
キャラクターの造形も占星術的にも納得がいくような部分もあり、ホロヴィッツは占星術についても少し勉強したのだろうか、と思います。
何と言っても、英国は占星術の本場ですからね。
ホロヴィッツくらいの有名作家であれば、それなりに有名な占星術師に取材をした可能性は十分ありうると感じます。
好きなものがミステリに組み込まれると面白さもひとしおですね。
次の作品は?
さて、Audibleになっているアンソニー・ホロヴィッツの著作はこれで全て聴き終えてしまいました。
とはいえ、
3月中旬にはホーソーン&ホロヴィッツの最新作が、Audibleになる予定なのでそれを待つことになります。
あと1ヶ月ほどですが、ひどく待ち遠しいです。
その間に、Audibleで聞けるミステリの良作を探さないといけません。
ワシントン・ポーシリーズも最新作まで聴き終えてしまったので、新しい作家に手を出すことになりそうです。
今度はアメリカの作家になるかなぁと思っています。
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