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Moon Wood Dialy

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その名の通り、月曜日と木曜日に更新される約500文字の雑文。都内に住むある四十代会社員の虚実入り乱れた日常生活の記録。
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2024年2月の記事一覧

焼きそば調理概論(3)

考えうる全ての準備が整ったなら、漸くフライパンを火に掛けることができる。無論強火である。油、それもできればオリーブ油かごま油をフライパンに敷き即座に具材を投入。キャベツの芯や人参など、固い野菜が少し透き通ってきたら麺とソースを同時に投入し、激しく混合する。周囲が汚れることを憂いて手加減してはいけない。腹を括って、激しく狂おしく猛烈にかき混ぜることが肝要だ。するといつしか、焼きそば全体が高級漆器の如

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焼きそば調理概論(1)

「ソース焼きそば」とは何か。
「ソース」とは、我が国庶民が手軽に西洋料理を味わえるよう発明された調味料である。いわば和魂洋才の結実である。
「焼きそば」とは、医食同源を旨とし四千年に渡り進化を続ける中華料理の極致である。よって「ソース焼きそば」とは人類文明の精華である。

考えてほしい。クフ王のピラミッドが今何の役に立っているか。現地のガイドと一握りの学者の生活を支えているだけである。一方、焼きそ

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【映画感想文】君たちはどう生きるか:宮崎駿

【映画感想文】君たちはどう生きるか:宮崎駿

「どう生きるか」

これは「進路」の話ではない。
昔、進路は重要だと思っていた。でも今考えるとそれは意外に後でどうにでもなることだった。それよりも若い頃に身についた考え方や価値観の影響は今も大きい。良くも悪くも。

宮崎監督は前作に続き戦時中の日本を舞台に選んだ。矛盾を暴力で正す試みが戦争だとすれば、想像力で整合を図る試みがファンタジーかもしれない。本作中ではその両方が並行している。しかし、大人達

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【読書感想文】餓鬼道巡行:町田康

【読書感想文】餓鬼道巡行:町田康

駆け出しのアイドルや新人アナウンサーの食レポは見ていていたたまれなくなる。

「すごいー!おいしー!」

凄いのは見れば分かるし「おいしい」にも色々な要素がある。そこを知りたいのだ。だいたい目に生気がない。では、圧倒的な語彙力を持つ作家が目をギラつかせて食レポをしたらどうなるか。その顛末を本書で見届けられたい。

家のリフォームのため外食をすることになった「私」が3つの店を訪れる。そこまでにも紆余

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日常という茶室

日常という茶室

茶室には「にじり口」という狭い入り口があって、誰もがひざまずかないと入れない。茶席では皆が対等な関係であることを表しているそうだ。

一方、社会ではあらゆる場面で上下関係を意識させられる。会議、宴会からエレベーターや車の乗り方まで。しかし、そんなしがらみから開放され自由になれる空間、つまり「茶室」が日常の中に確かに存在する。

ある日曜の夕方。スーパーマーケットの煎餅コーナーで谷村専務に会った。私

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