焼きそば調理概論(3)
考えうる全ての準備が整ったなら、漸くフライパンを火に掛けることができる。無論強火である。油、それもできればオリーブ油かごま油をフライパンに敷き即座に具材を投入。キャベツの芯や人参など、固い野菜が少し透き通ってきたら麺とソースを同時に投入し、激しく混合する。周囲が汚れることを憂いて手加減してはいけない。腹を括って、激しく狂おしく猛烈にかき混ぜることが肝要だ。するといつしか、焼きそば全体が高級漆器の如き艶やかな光沢を放ち始める。それを見たなら火を止め器に盛る。もしこれを後で食べる場合は、少しほぐして蒸気を抜いておくとよい。
熱狂が冷め、ふと我に帰ると台所周りが随分散らかっていることに気づく。フライパンも焦げついているだろう。うんざりして全て後回しにしたくなる。だがここで「冷めないうちに食べよう」などともっともらしい言い訳をしてはいけない。己の怠惰な心に打ち勝ち、片付け・清掃までを完全に終えて辿り着く一皿こそ我々の目指す頂点だ。その高みに立った時、調理者は腹だけでなく心も満たされている自分に気づく。この積み重ねこそが人格研鑽、家庭円満、引いては人類文明の進歩と発展に資するものなのである。