顎で渋滞する何か(超短編小説)
視界がぼやけるその先には、なぜかいつも呆れた顔をする両親の姿が浮かぶ。
その表情から読み取れる感情を想像して、俺の胸はいつも締め付けられていた。その記憶から逃れることはできず、大人だと言われる年齢になっても、その記憶は心の中でまだ幼いままだった。
強くなりたい。
そう常に思う。
弱かった自分を変えたいのもある。
自分を馬鹿にしてきた人たちを見返したい気持ちもある。
だけど多分一番は、あんな表情をさせた自分を、過去を無かったものとしたいんだ。
過去の経験があるから、今の自分がいる。
そんなもの認められない。
あれは、あの姿は、あの結果は、誰がどう見ても、ただの情けない姿でしかないし、あの記憶が、結果がこの先自分の何かを救うなんてことはあるわけがない。
ただの足枷。
そう、強く思えば思うほど、なぜか記憶は心にこべり付く。
強く擦れば擦るほど、痛々しく、ザラザラになって傷つける。
あの頃の自分が、邪魔だと感じる。
あの頃の自分さえいなければ、今は幸せなのかも知れないとさえ錯覚する。
全ての元凶は、あの頃の自分だと押し付ける。
わかっている。
一番嫌なのは、
あの頃の自分がまだ存在しているってことなんだ。
気を抜くと、目から頬を伝い、顎で渋滞していく。
最後は落下して、弾け飛ぶ。
それを受け入れられない。
それでも、受け入れられなくても、今の自分は生きている。
まるで、それなりに、立派に生きているみたいな顔をして、生きている。
それが良いことなのか、悪いことなのか……。
違うな。
全部ただの言い訳だ。
努力しているなんて嘘っぱち。
ただ、認めてほしい。
ただ、顎で渋滞する何かを、意味あるものだと、拭ってほしい。
ただそれだけなんだと、今日もまた理解する。
そしてまた、歯を食いしばって、生きていく。
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