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通知表を見た保護者によるクレーム②〈出席日数が足りない生徒の成績〉




前回は、通知表を見た保護者から、稀に受けるクレームについて書いた。

ようやく成績処理を終えた教員からするとげんなりするかもしれないが、疑問を持たれた以上は慢心せず、しっかりと確認し、真摯に対応しなければならないだろう。



ただ、これはあくまでも「出席日数を満たしている生徒」の場合である。



成績は授業に出席しなければつけられない。



必要な出席日数は授業総数の3分の2だ。

つまり授業を3分の1以上欠席した生徒の成績は「1」となる。

たとえば2単位の授業(週2時間の授業)があったとして、1学期の授業総数が24回だとすると、8回以上欠席したら成績は「1」なのだ。



書くまでもなく当たり前のことだと思うが、稀に出席日数が足りず「1」となった生徒の保護者から、以下のようなクレームを受けることがある。



▶︎学校へ通わなくても提出物を提出し、定期試験の点数も高かったため、学習内容は理解している。それなのになぜ「1」がつくのか?

この疑問はすこし共感できる。
たしかに学習内容の理解度という点はおいては満たしているといえるかもしれない。

しかし出席日数は成績をつけるための前提条件だ。

そもそも出席日数が足りなければ提出物も定期試験も意味を成さない。

反対に、出席日数を満たしているうえで提出物や定期試験の点数が足りない場合は、補習や課題などにより、対処することができる。

いわば成績は花のようなものだ。
出席日数という土がない場所に提出物や定期試験などの種を蒔いたとしても、成績という花は育たない。
しかし出席日数という土さえあれば、提出物や定期試験などの種が軟弱でも、補習や課題などの肥料を与え、花を育てることができるというわけだ。



▶︎学校へ通わない代わりに、フリースクールや塾へ通ったり家庭教師を雇ったりして勉強した。それなのになぜ「1」がつくのか?

これはもはや学校という組織自体をわかっていないと言わざるを得ない。

フリースクールも塾も家庭教師も、学校とは無関係の私的な組織であり、それらと学校が連携を取って出席代わりにするという制度はない。

教育を担う組織が学校と同等の扱いになるわけではないのだ。

念のため書いておくが、フリースクールや塾や家庭教師を否定する気は毛頭ない。
生徒の努力も保護者の努力も尊重する。
でも学校の成績とは無関係である。



▶︎不登校の子どもがオール「1」の通知表を見たらショックを受ける。それなのになぜ「1」をつけるのか?

これはもはや成績という存在自体をわかっていないと言わざるを得ない。

出席していないのに「2」がつくのであれば、そもそも成績とは一体何なのだろうか。何を基準とし、何をあらわすものなのだろうか。

成績をつける際に不登校という特別な下駄を穿かせることはできない。



ここまで書くと冷たく感じるかもしれない。
不登校の生徒を突き放すように感じるかもしれない。

でもそんなつもりはない。

わたしはあくまでも成績という事務的な処理に関する事実を書いているに過ぎない。

成績は客観的な根拠に基づいて厳密につけられるものだ。

前回の記事でも書いたように、成績は主観的且つ感覚的につけることがご法度とされているし、保護者から求められれば内訳を開示する必要もある。

だからこそ客観的な根拠として、出席日数が足りなければ成績は「1」となるのだ。



それに、不登校の生徒だけを特別扱いすることは、やはりどうしてもできない。

板書の文字を長時間かけてノートに写し、音読しながら暗記して試験に臨む生徒。
衝動的に教室を飛び出し、トイレの個室で落ち着きを取り戻して出席する生徒。
3分の2という出席日数を図に描き、目に見えるかたちで把握しながら、最低限の日数のみ出席する生徒。
頓服薬を常備し、具合が悪くなるたびに飲みながら出席する生徒。
無職の親と家計を支えるためにアルバイトを詰め込み、眠気に耐えながら出席する生徒。

ほかにもたくさんの生徒がいる。

出席日数を満たしているからといって、皆が心身共に健康で、何の弊害もなく登校しているわけでは決してない。

もがきながら必死で出席日数を満たしている生徒も確実にいる。そのくらい出席することは大変で、努力を伴うものかもしれないのだ。

だからこそ出席日数を満たしている生徒もそうでない生徒も、成績という点においては同等の立場から評価されなければならないだろう。



とはいえ、実は、例外もある。

出席日数が足りなくても成績を取れるかもしれない唯一の方法……

それは診断書だ。

なんらかの診断書があればどうにかなるというわけではもちろんない。

それなりの経緯と診断名が必要になる。



たとえば、ある生徒は高校2年次に統合失調症を発症し、入退院を繰り返して出席日数が足りなくなった。

その生徒は1年次にきちんと出席して成績も取れていたため、統合失調症を発症しなければ、そのまま2年次も問題なく出席して成績を取れていただろうと推測できる。

こういったケースは、担任や学年主任などの申し出を受け、最終的に校長が特別考慮の対象と判断すれば、例外となることもある。

特別考慮の対象生徒は、出席日数が足りなくても特別な補習や課題などをおこなうことで、オール「2」となって進級できるのだ。

このように毎年数名の生徒が特別考慮の対象となり、出席日数が足りなくても成績がついている。

特別考慮の内訳は精神疾患が最も多く、ほかには身体の疾患や怪我や障害など様々である。



ただ、これはあくまでも例外だ。

やはり基本的には出席日数を満たしている生徒に成績がつくこととなっている。

出席日数が足りない状態で「2」以上をつけてほしい、特別考慮の対象にしてほしいなどとどんなに頼み込まれても、応じることはできないのだ。



※通信制高校は制度が異なる。通信制は授業の代わりにレポートを提出し、出席は年数回のスクーリングと定期試験のみとされている。そのため今回の内容は、全日制など、授業の出席が求められる高校の話に限られている。

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