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「我が子は注意すべき点がある」と自覚する保護者による特別な要求




保護者から特別な要求をされることがしばしばある。



はっきりと言葉で伝えられることもあるし、直球ではなくとも我が子の事情を細かく説明されて無言の了解を求められることもある。

また、そのどちらでもなく、やんわりと濁しながらそれとなく察してほしいという態度を示されることもある。

たとえば上の記事にも書いたとおり、教員に対する労いの言葉などをつらつらと述べて、媚を売られることも多い。



では、特別な要求とは何か。



答えは簡単だ。

「我が子を特別に手厚く見てほしい」

ただそれだけである。



そしてこれは大抵「我が子は他の子に比べて特別に注意すべき点がある」という理由による。

注意すべき点の内容は、勉強だったり運動だったり、はたまた集中力だったりコミュニケーション力だったりと、生徒によって様々である。

もちろん何らかの診断が下っている場合もある。



たしかに「他の子に比べて特別に注意すべき点があるから特別に手厚く見てほしい」という理屈は筋が通っているだろう。ただし「それが成立するならば」である。



さて、ここではっきり言っておく。



特定の生徒を特別に手厚く見ることはしない。



理由は「他の子に比べて特別に注意すべき点がある生徒」など存在しないからだ。



さらに言うと「他の子に比べて」がポイントである。

「他の子」って一体誰なのだろうか。

生徒たちの何を知って「他の子は特別に注意すべき点がない」「他の子は普通」などと言えるのだろうか。


あまりにも独りよがりな発想である。



わたしは以前、学習障害の子どもを持つ保護者から「うちの子と違ってクラスメイトの〇〇さんは勉強が得意で問題がないから羨ましい」と言われたことがある。



たしかに〇〇さんにあたる女子生徒の成績はクラストップだった。

でもその女子生徒はある日、いつも通りに下校したあと、18時頃に突然来校した。
彼女は入学当初からじわじわと母親による虐待を受けていた。
ずっと話を聞いていたが、最近急にエスカレートし、このまま家にはいられないと感じて学校へ逃げてきてくれたのだ。
事情を聞いて身体的な痕跡も確認し、さすがに心身が危険だと判断したため、本人を説得して児相へ繋ぎ、保護してもらった。

翌日から彼女は長期欠席し、何も知らないクラスメイトたちはあれこれと憶測を重ねながらずいぶんと心配したものだ。

ちなみに保護されると担任にも所在地は教えられず、当然連絡も取れないので、わたしも彼女がどうしているか心配でたまらなかった。



あのときの保護者に言いたい。

あなたの子どもは学習障害かもしれないが、虐待をしない親のもとで、愛情をたっぷり受けながら安心して暮らせているではないか。

「うちの子と違ってクラスメイトの〇〇さんは勉強が得意で問題がないから羨ましい」

この言葉がいかに浅はかなものなのか。
 


他にも事例はたくさんある。

サッカー部のエースだった男子生徒は、無遅刻無欠席で成績も優秀だったが、幼いころ両親を失くし、児童養護施設に暮らしていた。
いくつかの大学からサッカー推薦の話が来たもののすべて断り、卒業後は寮のある会社へ就職した。

いつも明るくて穏やかな女子生徒は、精神疾患により無職になった両親と、後天性の障害により寝たきりになった弟と暮らし、生活保護を受けながら、毎日アルバイトをしていた。
彼女は授業中に過労で倒れたことがある。
そのときもクラスメイトには「昨日遅くまでゲームしたから寝不足だった」と笑いながら言っていた。実際はゲームなどしていないのに。

聡明でサッパリとした女子生徒は、小学校低学年のころから性自認について悩んでいた。
きっかけは当時の担任による性的虐待だった。
そのため自分の悩みは生まれつきのものなのか、それとも虐待の後遺症なのかわからず、かといって親に相談もできず、クラスメイトにも家族にも内緒でスクールカウンセリングを受けていた。
彼女はカウンセリング中に頭を抱え、過呼吸を起こすことも少なくなかった。

まじめで誠実な男子生徒は、両親が離婚して父親に引き取られ、新たな母親とその子どもたちと暮らし始めた。
新たな母親と合わず、子どもたちからも嫌がらせを受け、家に居場所がなくなった。
しかし本人の希望により、高校では以前の名字を名乗り続けて離婚したことを隠していたため、クラスメイトは何も知らないままだった。

これらはあくまでも一例である。



もう一度書く。

「他の子に比べて特別に注意すべき点がある生徒」など存在しない。

ひとりの我が子を見ている保護者からしたら「うちの子だけ特別に手がかかる」「うちの子だけ特別に支援が必要」「うちの子だけ特別に」と思うのかもしれないが、広い視野で全体を見れば、そんなことは決してないのだ。

たとえ我が子に複雑な事情があったとしても、保護者の知らないところで、また別の複雑な事情を抱えた生徒はたくさんいる。



何もなさそうに見える生徒でも、いや、むしろそういう生徒こそ、人には言えない何かを抱えていることがあるものだ。



そもそも「我が子は他の子に比べて注意すべき点があるから特別に手厚く見てほしい」と要求する保護者は、もし「じゃあもっと注意すべき点がある子もいるのでその子を特別に手厚く見ますね」と言われたらどうするのだろうか。

快く納得するだろうか。
きっと憤慨するのではないだろうか。

でも自分が要求している内容もそれと同じことである。



わたしは特定の生徒を特別に手厚く見ることは絶対にしない。



それはできれば保護者の役目だ。
我が子に対して、特別に手厚く見ることのできる保護者がいるだけで、生徒にとってはまず、幸せなことなのだから。



もちろん生徒や保護者の話はいくらでも聞く。
そのうえで教員は全員に対して注意を払い、日々の様子を確認し、中立的な立場を取るべきである。

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