DSC_1107_変なカフェロボット

共生(ショート小説)

ぼくは未来新聞の記者である。
32歳で社会部に所属し、働き方改革をメインに取材中だ。
最近書いたぼくの記事『ロボットやAI(人工知能)は人間から仕事を奪うのか?』が世間の反響を呼んでいた。今さらながら、この問題が労働者の関心を集めていることを再認識した。ぼくはさまざまな業界の労働者にインタビューしまくった。その結果、ロボットやAIは労働者から仕事を奪うだろうという意見がほとんどだった。
「仕事がなくなったら、どうやってごはんを食べていけばいいのかわからない」、「われわれの働きがいを奪うな」といった意見に対し、ぼくは厚生労働大臣に取材をおこなった。
すると、大臣はネクタイを手で引き締めて「日本の労働者の皆さん、ご安心ください。私の目が黒いうちは雇用を守ってみせましょう。ロボットなんかに負けてられません」とコメントをくださったが、その具体的な根拠は示されなかった。
ぼくは懐疑的だった。
新聞の記事だって、いまやAIで作成できる時代だ。
ただ、ぼくにはタイムトラベラーという超人的な能力があった。1年に1度、5年先までの未来を訪問できる。AIでは未来を予測できてもそれは過去のデータから導き出された想定の範囲内のものだ。事実は小説より奇なりというが、未来は想定外のことだらけだ。ぼくの救いはその能力だけだった。
今年は『ロボットやAI(人工知能)は人間から仕事を奪うのか?』の実態を取材しに5年後の日本にタイムトラベルすることになった。

2024年10月、ぼくは取材のため居酒屋「オールカマー」の掘りごたつに座っている。
人間の仕事が奪われているのか、奪われたとしたらロボットやAIと共生できているのか、現状を語ってもらうために目の前の3人に集まってもらった。一番左に佐藤さんという人間。残りふたりはロボット労働者。真ん中にカフェで勤務するバリバリスター3号さん。赤色の胴体に腕が太くとてもたくましい。右に半導体製造装置を作る、いかつい銀色の身体をしたワンレンセミコン2023号さんが座る。いまのロボットは人間のような意思を持っているようだ。
そして、もうひとり。なんと、あとから現在の厚生労働大臣が特別ゲストとして店の壁に掛けてあるインターネット電話のスピーカーとマイクで参加していただけることになった。
さっそく、ぼくは佐藤さんに質問する。
「お仕事は何ですか」
「仕事はしていません。3年前にサービス業の経理を退職しました。今は趣味で漫画を描いたり、鉄オタのYouTuberとして活動しています」
「仕事はロボットやAIに奪われたんですか」
「はい、もうどの会社でも経理は人間がやっていません。すべてAIです。あと、仕事を奪われたんじゃなくて、AIがやってくれているんです。彼らに感謝しています」
「感謝・・・ですか。では、バリバリスター3号さんにお聞きします。カフェでは人間と一緒に働いているのですか。失礼ですが、お給料は?」
「カフェデハ、ワタシ・ヒトリデス。キュウリョウハ・ツキ・ニヒャクマンエンデス」
「200万円ですか。それはすごい。でもお一人でコーヒーを淹れているならそれくらいもらわなくては。つぎにワンレンセミコン2023号さんですが、ずいぶん高価な製品をつくっていらっしゃるんですね。お給料もたくさんもらわれていらっしゃるのですか」
「ワタシハ、ツキ・イチオクエンデス」
「おお、すごいですね」
お店の壁に掛かっているスピーカーがざわざわ言っている。何か擦れる音がする。女性の声がした。
「こんばんは。お待たせしました。厚生労働大臣のはなぶさあいと申します」
「あっ、こんばんは。はなぶさ大臣、きょうはよろしくお願いします。さっそくですが、5年前の大臣がおっしゃっていますが、現在も人間の雇用は守られているのですか」
「5年前? その時からみれば、人間はもうあまり仕事していません。みなさん、趣味や実益を兼ねた創作活動など日々を送られています」
「えっ、人間が仕事をしないで生活できるんですか」
「もちろんです。ベーシック・インカム制度を取って3年になりますが、現在成人した国民ひとりにつき月20万円を分配しています。そのなかで、働きたい人は働いています。しかし、それはほんの一部です。現在は国民一億総クリエイターのような状態です」
ぼくは目を丸くした。
「えっ、その財源はどこから出ているのですか」
「財源はありますよ。5年前に比べると、公務員の数が100分の1に減り、すべてAIがまかなっています。その分のコストが浮いているんです。さらに人間に取って代わって労働するロボットさんやAIさんから賃金の90%を納税してもらっています。これがロボット税です。人間からはベーシック・インカムによる分配だけでもう税金は徴収していません」
ぼくはベーシック・インカムだけでも画期的な政策だと思ったが、働くロボットたちから人間の代わりに税金を徴収する、しかも90%も徴収するという前代未聞のロボット税に感心した。
「はなぶさ大臣、すばらしい政策ですね。よくわかりました。それで人間は創作活動などに励むことができるんですね。ロボットやAIさまさまですね」
「はい、ロボットさんはそちらにいらしているんですよね。しっかり納税していただいているので人間との共生が保たれているんです」
ぼくは目の前のひとたちにインタビューを続けた。
「佐藤さん、幸せですか」
「はい、とても。最初は仕事が奪われることに不安を感じていたのですが、ロボットやAIのおかげで好きなことをやらせてもらっています」
「バリバリスター3号さんは幸せですか」
「ハイ。サイショハ・ニンゲンニ・イシヲ・ナゲラレタコトモ・アリマシタ。イマデハ・オキャクサマノ・エガオガ・ナニヨリデス」
「ワンレンセミコン2023号さん、納税はたいへんですね」
「ハイ。デモ、ソモソモ・ワタシタチ・ロボットハ・ニンゲンガ・ラクニナルタメニ・ツクラレタ・イキモノデスカラ」
居酒屋の店員が飲み物を運んできた。
「お待ちどうさまです。生ビール2個とガソリンと軽油になりまーす」
ぼくは店員の顔をまじまじと見た。どこかで見覚えのある顔だ。思い出した。あの5年前の厚生労働大臣だった。彼は飲み物をテーブルに置くと、たのしそうに店の奥に引き返していった。
ぼくは壁にあるマイクに向かって言った。
「はなぶさ大臣、ありがとうございます。最後に、大臣のお顔が見えませんので、せめてパソコン上で名刺交換でもしていただけませんか」
「承知しました。それでは名刺データを秘書から送らせますね」
「ありがとうございます」
「今、送信シ・タ・ヨ・・ウ・・デ・・・・・・Zzzz……」
「はなぶさ大臣、どうしましたか」
スピーカーからバタバタと足音らしき音がする。秘書なのか、かすかに男性の声が聞こえた。
≪タッタッタッタ。おい、停電だ! はやく非常用電源装置を持ってこい! なに! 暗くて見えない? あっ、それならその机の引き出し開けて、電池をくれ! 大臣の背中の緊急電池ボックスに入れるから≫
ぼくは何が起きているのかわからなかった。はなぶさ大臣が心配だった。
ポロン♪
パソコンに電子メールが届いた。はなぶさ大臣からだ。開いてみると、そこにはこう書かれてあった。

『厚生労働大臣
 英 愛(はなぶさあい)』




(写真は内容とは無関係です)

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