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気温零度 立春大吉 摩訶吉祥 “継ぐ” 祝いの日

立春 気温は零度

その日は 突然やって来た


祝いの日

ギランバレーになり 
骨と皮のだけの手足を摩りながら
想った

“これでは もう 大きなバイクは
乗れないな”

日に日に窶れて行く身体

その想いは 自転車も 乗れないなに
変わっていた。

“退院したら 何したい?”

“自転車に乗りたい”

リハビリの目的は 自転車に乗れる事だった

一年前 雪原に 横たわり 大泣きしていた。

秋のある日 坊がバイクの免許を取ると
言い出した。

“ならベスパ乗れよ”

その日から レストアは始まり 
坊の手足になった。

今の世の中 

苦労して何年もかかり
取ったバイクの免許
大型限定解除

たった数万円で 取れるらしい

“どうせなら大型バイク免許取って 
BMW乗れよ”
坊に 言った。

とても とても 悲しかった….

その日から BMWのレストアが
始まった。
バイクを 極めたからと
自転車に 転向して バイクの部屋で
ずっと 眠っていた....BM

レストアが終わり その日はやって来た。

立春大吉 摩訶吉祥

“いきなりベスパから
極めのバイク BMWかよ”と揶揄う

バイクは危ない
その中で選んだ一番安全なバイクBM

“気温 零度”

“おい 走って来るから BM出してくれ”

”大丈夫か?“坊は 呟く

長い長い間眠っていたバイク
いきなり 全くの初心者に
継ぐ訳には....

こんな日が 再び来るなんて

セルを回し 鼓動が始まる
アクセルを煽ると
生き物のように 左右に震える
ボクサーツインは 心地よい

また BMに乗れるなんて 夢にも
思っていなかった。
クラッチを繋ぎ 走り出す

漁場を巡る
止めては 細かい調整を繰り返す

気温零度

“こりゃあかん 道 凍ってる”
転ける訳にも いかない
この体力では 起こせない

引き返し 日向の道を選ぶ

心地よい速度域がある
全てが重なるその速度で走ると
バイクなのに レシプロの飛行機に
乗っているかのような 感覚になる

身体は バイクと 共鳴を始める

日本中を 共に走り
一日1000キロ走り 
バイクの部屋に帰り着くと
また直ぐに走りたくなるバイク

”これよ これ“

ヘルメットのシールドを開け

おもいっきり 大きな大きな声で
叫んでみた
そしたら
思いっきり 大粒の涙が降って来た

大丈夫 

バイクの上では 誰にも聞こえないから....

南に 向かって走る
なんやら 空に漂っている

”あ 気球だ“

だんだんと高度を下げている
吸い寄せられて行く

目の前に でっかい気球が降りてくる

出来過ぎだな....

こんな日が来るなんて
夢にも 思って無かった
寝たきりで 歩け無い
箸も持てなかったんだから

”なかなか やるやん“って

ほんの 一時間ほどのツーリング

まだ 体力気力が持たない


BMと 自分自身の埃を祓い

鍵を坊に 渡す…..

身体も 心も 魂も ポカポカである

気温零度

今から 暖かくなるだろう


”どないしてん これ“

猫師匠まで….

BMに シンプソンのヘルメットとは…

親も親なら….


初めてのバイクが BMW….

“北には 行くなよ”

ドイツ人くらいガタイが良くないと似合わない

継ぐと 言うこと

立春大吉 摩訶吉祥

後ろ姿は 楽しげだった

二人のバイクデビューの日となった

“どないやった?”

“走り出したら 扱いやすい”

“あたりまえやんけ BMやぞ”

さあ 祝いの日

“おい 寿司喰いに 行くぞ”

ギランバレーに恋をして
回復期リハビリテーション
気温零度


平安な暮らしをする縄文人
浦島太郎な浮世雲

埃払いを 済ませ
長い長い眠りから 目覚めたBMは
キラキラと 輝いていた

続く…,

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