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before the sunset【滲み】1300字

「君は君で、その見つめ方、悪い癖。」

2年生の12月に下の名前からオレに変えたし、 4年生の7月にママからおかあさんに変えたし、6年生の8月にこおろぎを共食いするまで飼うのやめたし、15歳の3月にお風呂でおしっこするのやめたし、17歳の2月に部活の外ランニングでコンビニでサボるのやめたし、18歳の11月に無理だと言われ続けてきた第一志望を受験するのをやめたし、21歳の5月に仕送りで服買うのやめたし、良くない習慣は全てやめたのに、久しぶりすぎる君を想うのはやめられない。3年生の笑顔のままなんて卑怯。「タッパーのぬるぬる油は、ちぎったキッチンペーパーと洗剤2滴と水を入れて蓋をしてシャカシャカ振ると、取れやすくなるよ。あ、ちなみにちぎるって漢字で書くと千に切るで千切り(せんぎり)と同じなんだよ。」今すべき会話は絶対これじゃないのに何を言ってるんだか、これも僕の悪い癖。あ、ちなみに23歳で就職してからオレから僕に変えました。「変わってないね」小さい頃から同じ学区内で育ってきた君がこっちを見ながらほほ笑むから、僕は赤くなった耳を誤魔化すために何を話そうか必死で考えた。

田町の17時は夕暮れになる前の青空の余韻で、港からの風がTシャツと胸の間を涼しくしてくれる。どの居酒屋に入るかを決定するなんて高等なコミュ能力がない僕には、お兄さんホッケ美味いですよ!のおそらく年下だろう筋肉質なねじりハチマキの声に従って入店するしかなかった。窓全開の2階席でゴザの上にあぐらをかいてのハイボールに君と楽しくなっても、君はずっと笑顔のまま。

酒に弱いのに良く飲んだ、ほんとはハイボールって初めて頼んだし、会社の人以外と居酒屋に入るって初めてだし、僕は今、いわゆる酔っている状態なのかもしれない。段々とオレンジと紫の様な空に変わって、涼しさが少しの寒さに変わったら、実は君のこと3年生の時から好きだったんだよ、って言おうかと思ったけどやめた。そんな勇気はないし、そういうことを酔った勢いで言うものじゃない、ということも僕は知っている、酔っていてもよく言わなかった偉い。僕は偉い。偉いから「かんぱーい」何度目かはわからないけど、君はほっぺだけ赤くてやっぱりずるい。

滲み_before the sunset

「伝票でーす」楽しい時間と紫は過ぎ、群青の空と星と寒さが僕らを取り巻いた、立とうとするとおっとっと、、緊張すると飲みすぎる悪い癖も直そう。本当は、ごめんなさい、友達で、みたいな事を言われて諦めるつもりだったのに、この習慣は治せなそうだ。

駅までの道ではあんまり会話が見つからなかったけど、君は両手を後ろに小さなカバンを持って少し大股で歩きながらゆっくり空を見上げていて、その横顔はにこやか。なんだか、酔っ払っているのに、ゆったりと、健やかな気持ちと時間。
「星がキレイだね」あ、またどうでもいいありきたりな話をしてしまった!
「またどうでもいいありきたりな話しちゃったね、ごめん」
「ねぇ。3年生って小学生の?」

星と京浜東北線の光が、短い髪を耳にかけながらこちらを振り向く君の頬を照らした。群青を超えた空に、微かに潮の香りが混じっている気がした。

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