うえなし

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空きコマ

高校教師というのは、平均的に週16回の授業を任されている。 本校の場合、生徒は1日に6つの授業、つまり一週間で30コマの授業を受けることになっている。 教師の目線で一週間を見ると、だいたい14コマの「空きコマ」が発生することになる。時間にしておよそ14時間である。 この14時間を使って16回分の授業の準備を行うのが理想的な形なのだが、現代日本においてそのようなシステムは構築されていない。 あまりにも余裕がない。 その理由をここに記そう。 まず、学校運営は教師が担っ

    • 不眠の夜に思うことなど①

      妻や子供2人の寝息を愛おしく感じるのは普通の夫の感覚なのだろう。 しかし、いまの私には、どうしようもない殺意を増幅させる。突然湧いてくる、首を捻じ切って殺してやりたいとか、包丁を腹に突き刺してやったら即死ではないだろうなとか、そういった負の強い衝動が襲ってくる。 いつか自分が妻を殺し、我が子を簡単にこの世から葬る未来があるのではないかと思ってしまう。 実家の両親のこと、実の兄のことでトラブルがあり、特に今年の5月ごろからひどく悩まされることになった。以前から同じようなこ

      • 時間屋 〜急場を逃すな〜

        暑い日照りの中、水いっぱいが欲しいと寄ったのが薄暗い喫茶店だった。 ドアを開けて店内に入ると、カウンターに初老の男性客が一人みえた。奥にいた店主らしき人物は、こちらを確めたあと「入んなよ」と席へ案内した。 「今日はマンデリンだけなんだ。」 とにかく水が欲しかった。ブラジルでもベトナムでも、喉を潤したあとなら何でも楽しめると思った。「じゃぁそれを」と飲む意思を伝えると、店主はおしぼりと氷水で満たされたグラスを一杯、私の前に置いた。 一息に飲むと、カウンターに座っていた男

        • 時間屋 〜音のない時間〜

           カウンターに座ってコーヒーを待っていると、隣の席から男が声をかけてきた。男は禿げていて、ヒゲを生やしている。白いワイシャツに黒いジーパンの、身なりにはあまり気を使っていないタイプのようだった。  「今日は曇っていますね。歩いてこられたようで、家は近い人ですか?」  突然、他人の懐に飛び込んでくるやつだと思った。眉毛は少し上がっていて、悪意はないらしい。口元は笑っているが、目は真っ直ぐにこちらに向けていて、いつでも素性を暴いてやろうというような鋭い雰囲気だ。  「いえ、だいぶ

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        空きコマ

          半死人の奏上

          ふざけるな、と申し上げたい。 というのも、「チョッカン」と聞いてすぐに「直感」を思い起こす方の多いことに問題があると思っているからであります。 数年ではあるけれども、教員をやってきて最も大事にしなければならないと感じているものがいわゆる経験であって、世間で「こうこうこういう事例があったから、次はこのように云々」とやるような世界はもうすでに終わっていると感じるわけです。 事例研究はそれとして、やっていただければよろしい。 それで、さらに話を進めて、では生徒の指導にあたっ

          半死人の奏上

          半死人の自慰行為

          学校は教員のエゴイズムで成り立っている。 常に誰かに認められたいという気持ちが、彼らを突き動かしている。どうしても自分が注目されたくて仕方がないのだ。 学校とは、「生徒のため」と魔法の言葉を後生大事に、大人が自分の承認欲を満たそうと一致団結した姿とも言える。 決して、生徒のための機関ではない。 同僚Tは言う。 「所詮、オレらは駒なんだよ。」 新米教師Aは、その言葉に敏感に反応した。 Tには家族があった。配偶者もまた教師であり、出産を控えている。多忙の日々が祟り、

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          半死人の面談学入門①

          理科準備室の外が騒がしい。 昼食を済ませた生徒が身体を動かしに体育館に向かっていくようだ。 机を挟んで向こう側に、笑顔の女生徒が一人座っている。 「進路に関する自分の考えを10点満点で評価すると、何点だと思いますか?」 「7点だと思います。」 彼女は力強い声とピンと張った背筋で自信を示した。 「どうして7点だと思うのですか?」 「なりたい職業を見つけて大学に入ろうと思っているし、入るべき大学もいくつか探して目星がついているからです。あと、高2の、それも3学期です

          半死人の面談学入門①

          半死人にできる教育学入門

          2児を育てる高校教師の1日に、勉強時間はない。 2才になったばかりの長女は、超朝型だ。 5時に目が覚めると、少なくとも二度寝をするという消極的な手段は取らない。 黙って絵本を読むか、親を叩き起こすかの二択だ。 たいていは親の首元目掛けて身体ごとダイブしてくる。 こういう事情で、少なくとも5時半には起きて行動を開始しなければならない。 一度起きれば、出勤準備と朝食の支度が同時に進む。食事中は娘につきっきりになるため、目が離せない。最近生まれたばかりの長男が、いつ母乳

          半死人にできる教育学入門

          ありし栄光

          「この模試は全員受験ですから。」 「どうしてなのか、その理由を教えてください。」 ベテラン教師Hに飛ばした質問で場が凍った。進路指導室のテーブルを囲う10名は、それぞれに硬い表情をしている。数秒だが、完全に沈黙した。曇った表情を見せたのちに頭を下げ、この空気をどのように収めるべきか考え始める中堅教師もいる。 「なぜ、この模試が全員受験でなければならないのか、その根拠を示していただきたい。」 勤めはじめて3年目の新米教師Aは身を引かない。 学習に意欲的でない生徒にとっ

          ありし栄光

          馴染みの店

          師走の、忙殺される毎日。 最後のチャンスと向かった先は、馴染みの店だった。 そこは寿司屋で、入れば右手にカウンター、左手には小上がりの4人席がみっつほど並んでいて、大きい店ではない。 扉を開けると、誰が入ってきたかと伺う顔をした大将が、こちらを認めて「いらっしゃい」と笑顔で出迎えてくれる。 女将はまだ、奥でお茶を飲んでいるようだ。 店には誰もいない。 カウンターに腰掛けた。 「今年最後になりそうだから来ました」 「そうかい」 「しめもの、いくつか握ってもらえ

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          環境を変えるのは難しい

          時期は冬。 タイヤ交換を終えた次の日は大寒波がやってきて、道路のコンディションがひどい一日だった。 勤務を終えて車を走らせると、路面は凍っていて、ちょっとでも速度を出そうものなら滑ってしまう状態だった。 「今晩は冷凍の唐揚げパックを解凍して、鍋も作ってうどんでしめようかな。」 「今日もきつい一日だったけれど、明日が終われば週末だ。」 早く帰ろう。 速度制限時速40kmの田舎道をいつものように帰ると、途中、田んぼ道から本線へ進行する車両があった。 軽トラックで、車

          環境を変えるのは難しい

          ふと気づくこと

          今まで経験したからこそ気づくことがある。 それは、意図してそうあるのではなくて、本当に偶然に、不意にやってくる。 例えば、小さい頃からピアノを弾いていて、道半ばで諦めることになった。 そうして手に入れた演奏技術は、どこかで発揮されるものではなくて、日常に埋もれてしまう程度の、プロから言わせれば遊びのようなもの。 でも、求められるわけでもなく、それを表現する瞬間はやってくる。 ピアノの演奏という形をとらないだけで。 積み重ねた想いや、痛みを伴う良い出会い、分かち合え

          ふと気づくこと

          自分にできること

          時間がない人には、時間を。 知識がない人には、知識を。 その人にとって、自分がいてよかったと思ってもらうこと。 これが、自分にできることであり、自分にしかできないことなのだと思う。 きっと、他にも色々な人が、色々な形でそれを達成することができると思うけれど、時間と場所がうまく一致した時に、それをなし得るのは自分だけだという瞬間がやってくる。 だから、同じことを別の人がやったら、その時の仕事の精度は高いとか低いとか、信用度が高いとか低いとか、そういうことはあまり関係が

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          わたくし、関数式の定義を教わりましたの

          みなさん、ごきげんよう。 わたくし、今年で30になった既婚のヒゲオヤジで、これまでプログラミングに関心を持たずに過ごしてきたのだけれど、それでもどうしても技術系の記事を綴ってみたくて、このような形でプライベートなことをお伝えすることにしましたの。 先日、ドットインストールの詳解JavaScriptのレッスンを受けましたの。 それまで足し算や掛け算の仕方を教わっていて、わたくし、これなら続けられると思っていましたわ。 けれど、ドットインストールの動画の先生が「かんすうし

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          寿司屋の気まぐれ

          入店するのは20時を過ぎてから。日本酒二合とヒカリものを4貫だけ注文して、あとはちびちびやる。お通しがあるから、会計すれば1600円。これが俺の流儀。 店の扉を開けると酢飯の匂いがする。入ってすぐにカウンターが6席あり、ネタが収められたケースとサザエやなんかが入った大きめの水槽が目を引く。 向かって左側を見れば小上がりが3つ。どれも4人の大人が座れば、脚を崩したときに右か左か悩むくらいに狭い。最近流行の個室にもなっていない。 天井を見れば蜘蛛の巣がかかっている。70を過

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          また今度ね

          明日から家族とも離れてしまう。実感は伴わない。別れとはそういうものなのか。 出産のため、妻が里帰りすることになった。2歳の娘もついていって、家には私一人が残されることになる。義理の実家には父母と祖母の3人が住んでいて、若い衆が増えるのはありがたいことだと言って歓迎してくれている。 海を隔て、家族と離れて生活をするというのは、どういうものなのだろうか。 想像がつかない。それでも生活に変化は訪れる。やってくれば、嫌でも受け容れなければならない。今までだって、そうやって変化に

          また今度ね