マガジンのカバー画像

創作小説

3
運営しているクリエイター

記事一覧

カサブランカ

カサブランカ

君と別れたあの日、僕は何も出来なかった。
とある企業に新卒で入った僕は現実を目の当たりにした。入社時の契約とまるで違う実態、上司や社長対応の違い、残業のオンパレード。同じくして入社の人達は、始め10人いただろうか。始めの1人は、急に連絡がつかなくなり、その次は体調不良で辞めていった。それから半年が過ぎ、1年が過ぎ、後輩が出来る頃には、気が付く頃には同期と呼ばれるものは、君と僕の2人だけだった。辞め

もっとみる
あいとは

あいとは

「なぜ人を愛さなきゃいけないんだろうね」
君の問いに僕は答えられなかった。
ふと思い出した。思い出してしまった。
やっと忘れていたのに。忘れたはずなのに。
僕も同じことを聞いた人がいた。
でもあの人は教えてくれた。
「人は愛そうとするのではなく自然と愛しているもの」なのだと。
あの人はいつも明るかった。
表情、行動、言葉までもが、輝いて見えた。
僕には眩し過ぎて、でもその明るさが心地良くもあった。

もっとみる
待ち時間

待ち時間

きっと到着する便を僕は待っていた。
左手の薬指を見ながら

あの日、僕は遅刻をした。
いつもの寝坊。それを君はいつも笑って許してくれた。今思えば、守っておけば君とあんな喧嘩はしないで済んだんだと後悔している。
きっかけは、あの時の僕からすれば些細な事だった。いつも通りの寝坊。でもその日は特別だった。2人が出会った日であり、2人が惹かれあった日。そして僕らの大切な記念日だった。
それをわかっていたの

もっとみる